ウホッ良いヴィラン。ヤらないか。 作:お前達も執筆をヤらないか
朝、絵筆がいつも通りの通学路を歩き、雄英高校の正門前が見えてくると、人山が築かれていることに気づいて足を止めた。
「オールマイトの授業はどんな感じですか!?」
「平和の象徴が教壇に立っている様子を聞かせてください!」
「教師としてのオールマイトをどう思っていますか!?」
押し寄せるマスコミ陣が、登校してくる生徒たちを片っ端から呼び止めている。
「最高峰の教育機関に自分が在籍しているという事実を殊更意識させられますね。威厳や風格はもちろんですが、他にもユーモラスな部分など、我々学生は常にそのお姿を拝見できるわけですから、トップヒーローとは何をもってしてトップヒーローなのかを直に学べるまたとない——」
各生徒が手短に答えて立ち去る中、A組の飯田だけが真摯かつ過剰に熱弁を振るい、インタビューしていた記者とアナウンサーを困惑させていた。
『オールマイトが雄英の教師に就任した』という一大ニュースを聞きつけたマスコミたちが、正門前に押し寄せていたのだ。
「絵筆は少し待つザコよ」
「阿部さん、お願いするザコ」
どこからか取り出したのか。ザコソルジャー達はロードコーン・コーンバー・工事ロープ・誘導灯を持つとさも当然のように歩き始め、阿部さんも無記名の腕章と工事ヘルメットをつけるとザコソルジャー達と一緒にマスコミの前に入っていく。
「はいはい、危ないから下がってくだされーザコよ」
「足元にご注意くださいザコ」
「下がった下がった。作業中だから危ないぞ」
誘導灯でマスコミをゆるやかに後退させつつ、ロードコーンを設置してバーを繋ぎ、正門前から報道陣を自然に締め出していく。あまりにも堂々とした職人然の振る舞いに、マスコミ側も思わず指示に従って下がってしまう。
「ほら、学生さんは早く通りな。授業に遅れちまうぜ」
阿部はさも今から本格的な現場作業が始まるかのように振る舞い、生徒たちだけを素早く通過させていく。その中には当然絵筆も含まれており、ザコソルジャーの一体がしっかりと側に寄り添って護衛していた。
「マスコミさんは学校側に問い合わせてくれよな。ここから正門のペンキ塗り直しをしなきゃならんのだ」
ごく当たり前に歩道の一部を封鎖し、立ち入り禁止エリアを構築。ザコソルジャーがどこからか『工事中につきご協力をお願いします』の看板を取り出し、正門横に立てかけた。
「正門の再塗装工事か……」
「あ~、じゃあ仕方ないな」
「下校時間を狙ってみるか?」
単なる生徒への声掛けと違い、進行中の工事を妨害すれば法的な対処をされかねない。渋々と引き上げていくマスコミを確認すると、ザコソルジャーは水溶性ペンキで正門の足元をちょんちょんと少しだけ塗り、手早く看板と器具を片付けた。
そのまま足早に門をくぐり、阿部とザコソルジャーは絵筆の護衛へと合流する。
朝のHR
「昨日の戦闘訓練お疲れ。映像と成績はこちらで把握している。爆豪、お前はもうガキみてえなマネすんな。能力はあるんだからな」
「……わかってる」
爆豪も昨日のような猛々しさは潜め、苦い表情で言葉を噛み締めていた。
「で、緑谷はまた腕ブッ壊して一件落着か。“個性の制御ができませんでした”じゃあいつまでも通させねえぞ。俺は同じことを何度も言うのが嫌いだ。それさえクリアすればやれることは多い。焦れよ」
「はい!」
「さて、HRの本題だ。急で悪いが、今日は君らに学級委員長を決めてもらう」
「「「学校っぽいのきたーーー!!!」」」
クラスが沸き立ち、ほぼ全員が「やりたい」と熱望して立候補の挙手を始める。しかし、絵筆だけは自分には到底向かない役目だと理解しており、静かに様子を見守っていた。
そんな中、自らも挙手しながら「民主主義に則り、投票で決めるべきだ」と飯田が学級委員長を決める手続きを提案。相澤は興味なさそうに寝袋へと潜り込んでいく。
「時間内に決めりゃ何でもいいよ。早くしてくれ」
「では、投票用紙を創りましたので、一枚ずつ回してくださいませ」
八百万が個性で用意してくれた用紙が配られ、絵筆も少し迷った末に一票を投じて小さく折りたたんだ。
八百万は回収用の箱までサッと作り上げ、回収した票を仕分けつつ、黒板に名前の横に正の字で集計を行っていく。
「これが結果ですわ」
緑谷と八百万にそれぞれ3票。その他の生徒の多くは1票ずつという結果になった。各自が自分に投じ、数名が緑谷と八百万に投じた形だ。
「僕が三票!?」
「わたくしも三票ですのね。投票してくださった方、ありがとうございます」
「しかし、こうなると決選投票になりますわね」
「そんな時間はない。じゃんけんでもして勝った方が委員長でいいだろ」
相澤の適当な鶴の一声によりじゃんけんが行われ、緑谷が委員長、八百万が副委員長に決まった。
「決まったなら早速仕事だ。前回の戦闘記録とオールマイトからの講評プリントだ。配れ」
八百万と緑谷が手分けして配り終え、それぞれの席に着く。
「それぞれの良かった点と反省点が書かれている。どうやったら改善できるのか、記録を見てしっかり考えろ。何も考えずにただこなすのはナシだ。どうしても分からないことだけ、放課後に聞きに来い。じゃ、HRは終わりだ」
相澤はそのまま流れるように教室を後にした。
昼休みになり、多くの生徒が賑やかな食堂へと向かう中、絵筆は人が密集する場所を避け、教室で持参したお弁当を食べながらスマホで動画を眺めていた。何か刺激になるデザインやキャラクターを見つけ、描くことで新たな『個性』の対象として登録できないかを日々模索しているのだ。
その時、唐突に館内に甲高いサイレンが鳴り響いた。ザコソルジャーたちが即座にヒートホークやマシンガンを構え、警戒態勢に入る。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください。繰り返します——』
教室に残っていた芦戸と八百万も椅子から跳ね起きる。
「屋外へ避難!? どういうこと!?」
「いけませんわ! すぐに避難行動をとりませんと!」
「避難経路について続報があるはずザコ」
「教室内にいるなら、まずは待機が鉄則ザコよ」
「慌てない。状況を分析して動くザコ」
ザコソルジャーたちは冷静に周囲を警戒し、一体は廊下に身を乗り出して外の様子を探り始めた。阿部も窓の外をじっと見つめるが、特に混乱が起きている様子はない。
「ヴィランの侵入なら、何らかの破壊音や振動があるはずだが静かなものだな。ここからは離れた場所か……?」
場慣れした彼らの落ち着きにより、芦戸と八百万も冷静さを取り戻す。絵筆が追加で個性を呼び出そうか迷っていたその時——
『……警戒態勢を解除します。繰り返します。警戒態勢を解除します』
アナウンスが切り替わり、校内放送で「危険性はないため屋外避難は不要、食堂や教室に戻ってよい」との指示が流れた。
帰りのHR。壇上に立った緑谷が、思い切った様子で切り出した。
「委員長は……やっぱり、飯田くんが良いと思います!」
食堂でのパニック時、飯田が見事なリーダーシップを発揮して場を収めた姿を見た緑谷からの推薦だった。周りの生徒たちも納得したように頷いている。
だが、絵筆はどこか引っかかるものを感じて躊躇していた。すると、隣にいたザコソルジャーが優しく背中を押してくれた。絵筆はおずおずと手を挙げる。
「あの、2人は同一票だったから。 それと民主主義だったし、委員長が次の委員長を指名するのは、民主主義の逸脱だと、思います。 副委員長の権利とかなくなるし、委員長は代表で次代指名権限とか、ないはず・・・・・・です」
緑谷はハッと固まり、慌てて八百万と絵筆、そして飯田を見比べて頭を下げた。
「あっ、そうか! ごめん! それなら、委員長は八百万さんに譲ります! そして、飯田くんを副委員長に推薦したいんだけど……!」
寝袋の中から相澤がめんどくさそうに口を挟む。
「何でもいいから早く進めろ。飯田を推薦するなら、クラス全体で可否の確認をとれ。時間がもったいない」
「じゃあ、反対の人が過半数を超えたら、もう一度副委員長の投票をやり直します! みんな、どうでしょうか!」
緑谷がクラスに問いかけると、反対する者は誰もおらず、そのまま八百万が委員長、飯田が副委員長として正式に決定した。
数日後。『USJ(ウソの災害や事故に対応するための演習場)』での本格的なレスキュー訓練の日がやってきた。生徒たちは各自のヒーローコスチュームに着替え、移動用のバスに乗るため集合場所に集まっていた。
「バスはこちらですわ!」
「全員、出席番号順に整列し、整然と乗車するんだ!」
張り切る八百万と飯田の先導でバスに向かったものの、準備されていたのは一般的な路線バスタイプの大型車両で、飯田の想定していた配列計画は一瞬で崩れ去った。
「こういうタイプだったかーーー!!!」
落胆する飯田を後目に生徒たちが順に乗り込み、バスは雄英の広大な敷地内を走り始めた。道中、蛙吹梅雨がふと緑谷に声をかける。
「私、思ったことを何でも言っちゃうの。緑谷ちゃん」
「あっ、は、はい!? 蛙吹さん!」
「梅雨ちゃんと呼んで。『個性』、オールマイトに似てるわね」
「そ、そそそそうかな!? いや、でも僕はその、えーっと……!」
「待てよ梅雨ちゃん、オールマイトはケガしねえぞ。似て非なるアレだろ。でも、単純な身体増強型はいいよな! 派手でやれることが多くて!」
切島が笑顔でフォローを入れ、自身の腕を硬化させて見せる。
「俺の『硬化』は対人じゃ強いけど、いかんせん地味なんだよな〜」
「僕はすごくカッコいいと思うよ! プロでも十分通用する個性だ!」
緑谷が目を輝かせて分析を始めると、青山も自慢げにアピールする。
「僕の『ネビルレーザー』は、派手さも強さもプロ級さ」
「派手だけど、撃ちすぎるとお腹壊しちゃうのはカッコ悪いよね」
芦戸がポンと青山の肩を叩く。クラスメイトそれぞれが、自分の個性に対して愛着と悩みを抱えているのだ。
「派手で強えっつったら、やっぱり轟と爆豪だな。あとは舘紙のもインパクト抜群だぜ」
「ケッ」
「爆豪ちゃんはいつもキレてるから、人気出なさそうね」
「んだとコラァ!! 人気出すわ!!」
「ほらね」
「付き合いが浅いのに、もう『クソをドブで煮込んだ性格』って認識されてるのすげぇな」
「てめぇのボキャブラリーどうなってんだ殺すぞ!!」
「品のない会話ですこと……」
爆豪を臆さず弄るクラスメイトたちの度胸に緑谷が冷や汗をかく中、絵筆は関わりを持たないよう、バスの最後尾で静かに身を縮めていた。
「もう着くぞ。いい加減にしとけ」
相澤の声で車内が静まり返る。
到着した訓練場。大きな扉の反対側にある訓練場を三粟田わせる場所に移動し、13号先生による個性の危険性や、最悪簡単に個性によって人命が失われてしまう可能性の説明が行われ、これから救助授業に移ろうとした所、相澤先生がゴーグルを降ろし身構えた。
「全員一塊になって動くな! 13号は生徒を守れ!!」
相澤の怒声が響き、13号が生徒たちを庇うように立ちふさがる。視線の先——広場の中央に黒いモヤが渦を巻き、そこからゾロゾロと怪しい人影が現れ始めていた。
「何だアリャ!? 入試の時みたいに、もう始まってるパターン?」
「あの黒いモヤ……本物のヴィラン……!?」
動揺する生徒たち。絵筆が恐怖で硬直する中、ザコソルジャーたちは即座にマシンガンを構え、阿部は絵筆の前に立って静かに群れを見下ろした。
「動くな! あれは本物の敵(ヴィラン)だ!!」
相澤が断言した瞬間、黒いモヤの一部がすり抜けるように高台の近くへと出現し、ふたつの黄色い眼光を光らせた。
「13号に、イレイザーヘッドですか。先日いただいたカリキュラムでは、ここにオールマイトがいらっしゃるはずなのですが……」
「やはり先日のマスコミ騒ぎは、クソ共の仕業だったか」
相澤が吐き捨て、捕縛布を繰り出すがモヤをすり抜け、再び広場へと消えていく。
「どこにいるんだ……? せっかくこんなに大勢引き連れてきたのにさ。オールマイト……平和の象徴が、いないなんて」
手のアクセサリーを全身につけた男の不気味な声が、広場から響いてくる。
「子どもを殺せば、来るのかな?」
「敵ヴィラン!? バカだろ! ヒーローの学校に入り込んでくるなんて正気じゃないぞ!」
「13号先生! 侵入者用センサーは!?」
「もちろん作動しているはずですが……!」
「現れたのがここだけか、学校全体か……いずれにせよセンサーが反応しないなら、電波系か妨害系の個性を持ち込んでいるってことだ」
轟が冷徹に状況を分析する。そしてそれは最悪な物だ。
「隔離された施設に、クラスが入る時間割。バカだが愚かじゃない。明確な意図を持って計画された奇襲だ」
「13号、避難を開始しろ。学校への連絡を試みろ。電波妨害の個性の可能性もある。上鳴、お前も個性で外部通信を試せ」
「うっス!」
「先生は!? 一人で戦う気ですか!? あの数じゃいくら個性を消せても、イレイザーヘッドの戦術は個性を消してからの捕縛だ、正面からの乱戦は——」
緑谷の悲痛な叫びに、相澤の髪がフワリと逆立った。
「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号、頼んだぞ」
相澤は迷いなく高台から飛び降り、群がるヴィランの真っ只中へと飛び込んでいった。群がる敵の個性を一瞬で消し、捕縛布と洗練された体術で次々と無力化していく相澤。
「通信ダメです! ジャミングされてます!」
「とにかく全員、出口へ走って!」
生徒たちが逃げ出そうとしたその時——正面の空間が大きく歪み、黒いモヤが立ちはだかった。
「させませんよ」
相澤の視界から外れた隙を突き、ワープの個性が出口を塞ぐ。
「初めまして、我々は敵ヴィラン連合。僭越ながら、ヒーローの巣窟・雄英高校に入らせていただいたのは、平和の象徴・オールマイトに息絶えていただくためでして」
恭しい口調で恐ろしい目的を告げる黒霧。
その時、抑えきれなくなった爆豪と切島が飛び出し、黒霧の中心へ強烈な一撃を叩き込んだ。だが攻撃は空を切る。
「しまっ……下がりなさい、二人とも!」
13号が制止する間もなく、莫大な黒いモヤが生徒たちを飲み込んでいった。