「おはよう、シエル」
【ホテプ、おはよう】
シエルと暮らし始めてから数日が経った。
とはいえ、特に習慣が変わるといったこともなく、普通に仕事(フルリモートの成果給)して3時か夕方に散歩をする。それにシエルがついて来たりPCの画面を覗き込んでくるだけである。
悩みと言っても特に無く、強いて言えば極稀にWeb会議中に顔を青くして早退する人が出るくらいだ。
【見えてない。感じて、逃げた】
「へぇ」
僕の思考を読んだ彼女が言うには偶に波長が合うと感じれてしまうらしい。俗に言う霊感はこれの一種なのだとか。
「僕は?」
【ホテプには霊感無い。私と相性が良いだけ。良い】
「成程。それは少し嬉しいね。悪く無い特別だ」
【うん。良い。とても良い】
シエルは上機嫌だと良い、とても良いって繰り返す癖がある。僕はそれが好きだった。
「あ、そう言えば話は変わるんだけどさ。定期的にこの家を見てきてるのって知り合い?」
【一部肯定。知り合い、▓▓▓▓の眷属】
「眷属?召使い的な感じ?」
【肯定】
「じゃあ何で?」
【私が一箇所に留まってるから。▓▓▓▓は私を殺せない。だから警戒する】
「なんか急に物騒になったね」
【ん、ホテプに影響無い。出さない】
「それ僕の真似?」
【肯定。嫌いだった?】
「いいや?」
【なら良い。だから安心】
「そっか。じゃあ、そうだね。散歩でも行く?」
【行く。散歩、良い。とても良い】
シエルは散歩――とりわけ僕と河川敷を歩くのが好きらしい。嬉しいことだ。僕の健康にも良いしね。
【健康。良い。とても良い。ホテプ長生きする。ずっとずっと】
「そう言えばシエルに親って居るの?」
【部分的肯定】
「どういう?」
【我々、親の概念薄い。親が居るのも居ないのも必要無いのも居る。私には人間でいう母親は居るけど、父親は居ない】
「へぇ」
【ホテプは?】
「僕かぁ。居たけど今は居ないね。ちょっと前に交通事故で死んでしまったんだ」
【死んだ】
「そう。別に悲しいとかは特に無いんだけどさ、現代社会で親無しってのは面倒なんだよね」
【人間、脆い】
「まあね。シエルみたいに頑丈では無いかなぁ」
数日前にガス爆発で家が吹っ飛んだんだけどシエルが守ってくれたお陰で無傷だったんだけども、
【時間戻す、楽。人間治す、苦手】
「極端だねぇ」
【▓▓▓▓許さない。ホテプ巻き込んだ】
「おお、シエルよ静まり給えってね。もう済んだことだしさ。ほら、今は散歩中だろ?」
【うん。静まった。もう済んだこと】
「よろしい」
前みたいに無かったことになったけど河川敷が吹っ飛ぶのは嫌だからね。
うーん。何かここ数日の密度が可笑しいなぁ。まあ良いけどさ。
【ホテプ、なにか話して。気分転換】
「唐突だねぇ。あ、そうだ。最近日記を書き始めたんだけどさ」
【日記?】
「うん、その日あった事とかを書き記すんだけど。シエルってどんな文字使うの?」
【文字、言語、色々使う。20種類ぐらい】
「へぇ。シエルは物知りなんだね」
【肯定。シエル物知り】
「凄いね」
【凄い。もっと褒めるべき】
「僕そんなボキャブラリー多くないんだけど・・・」
【良い。とても良い。伝わったから問題無い。とても嬉しい】
「そっか。なら良かった」
▶Tips:会話について
ホテプくんはシエルちゃんとの会話を楽しんでいるが、それが当たり前になってきたせいで仕事で「あれ、会話のテンポ遅いな」と思うことが増えてきた模様。