「……ふむ? 剣の修行?」
雅さんは僕の話を聞き、わずかに首を傾げる。
僕は自分の考えを話し始めた。
「最低限、自分の身だけでも守れるようになりたいんです」
「誰かが戦ってるのに、自分は隠れているだけなんて僕は嫌だ」
雅さんは僕の話を聞いた後、真剣な顔でこちらを見た。
「わかった。だが、教えるのは身を守るための剣だ」
「それ以上は教えない」
「ありがとうございます!!」
そう言って、僕は雅さんに頭を下げる。
雅さんは立ち上がると、そのまま外へ向かって歩き出した。
「行くぞ」
「どこにですか?」
僕が不思議そうに尋ねると、雅さんはフッ……と笑って言った。
「無論、修行だ」
僕は慌てて雅さんの後を追った。
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新エリー都 ヤヌス区
ルミナスクエア
僕と雅さんはルミナスクエアに着き、スクランブル交差点に立っていた。
「○○、ここを白線だけ踏んで渡る修行だ」
「……えっ?」
まさかのデジャブ。
雅さんは『何かおかしなことを言ったか?』とでも言いたげな顔をしている。
無表情だけど。
「剣の修行をつけてくれるんじゃなかったんですか……?」
「剣の道も奥が深い。一つずつ積み重ねていくことが大切だ」
「私もやるとしよう」
そう言って、雅さんは白線だけを踏みながら向こう側へ渡っていく。
「わ、わかりましたよ! やりますよ!!」
僕も少し恥ずかしく思いつつ、白線だけを踏んで渡る修行を始めた。
僕たち二人が並んで修行をしていると、周囲からコソコソと声が聞こえてくる。
「ねぇ、あれって虚狩りの雅様と付き合ってるって噂の……!」
周りからそんな声が聞こえてくる。
僕は何を言っているんだと思ったが、どうやら雅さんには心当たりがあるらしい。
「ふむ……そういえば、あの時の写真が出回っていたな……」
あの時?
どんな写真なんだ?
「雅さん? その写真って?」
「む……以前、私と○○がカフェで食べさせ合っていた時の写真だ」
「ん? ……ん? あ、あー……あの時の」
そう言って、僕はかろうじて頭の中の引き出しを開け、その時のことを思い出した。
「このままでは騒ぎになってしまうな……」
「○○、この修行は中止だ。こっちに来い」
そう言って、僕は雅さんに手を引かれ、HIAへと連れていかれた。
受付に声をかけた後、僕たちは仮想空間へと入る。
「ここならば、先ほどのような邪魔が入ることもないだろう」
そう言うと、雅さんはどこからか竹刀を取り出した。
「○○、これを受け取れ」
「竹刀ですか?」
「うむ。今から私がお前に打ち込む。お前は受けるか、避けてみろ」
「僕、剣なんて使えませんけど?」
「大丈夫だ、○○」
「何が……!?」
「何とかなる」
「根拠薄すぎませんかね!?」
「そうだ。緊張感を出すために痛覚をオンにした」
「そ、それってつまり……」
「大丈夫だ。死にはしない」
雅さんがわずかに笑う。
「ただ――死ぬほど痛いぞ」
そう言って雅さんが竹刀を構えた瞬間、凄まじい威圧感が僕を襲った。
「――行くぞ」
その瞬間。
雅さんが消えた。
「……え?」
次の瞬間には、雅さんの竹刀が僕の顔のすぐ横にあった。
「これで一回死んだぞ」
そう言って、雅さんは軽く竹刀で僕の頬を叩く。
「次からは当てる」
雅さんはもう一度距離を取る。
そして――踏み込んできた。
「……っ!」
何とか動きを追い、初撃をかわす。
だが、態勢を戻そうとした時には、すでに雅さんが僕の懐へ入り込んでいた。
「遅い」
脇腹を竹刀で叩かれる。
「いっっ!!」
軽く振っているんだろうが、かなり痛い。
「一回躱したら、そこで終わりではない」
「二手、三手先まで考えなければ死ぬだけだ」
再び飛んできた竹刀を、自分の竹刀で何とか受け流す。
「む? 受けるか。ならば――」
雅さんはすでに次の動きに移っていた。
僕はその動きを見ながら次にどうするか考える。
その瞬間――また脇腹に痛みが走った。
「いったい!!」
「相手の動きを見てから考えていては間に合わない」
「じゃあどうすればいいんですか!」
「考えるな」
一拍置いて。
「感じろ」
「こいつ感覚で人に教えるタイプだ!!!」
それから僕は身体に何度も竹刀をもらいながら、少しずつ雅さんの動きに慣れていった。
飛んでくる竹刀を何とか弾き、反撃の機会をうかがう。
そして――
「ここ!!」
雅さんに一瞬、隙ができた。
作ってくれたのか、本当にできたのかはわからない。
それでも僕は、その隙へ向かって竹刀を振る。
一撃が入った。
「よしっ!」
思わず声を上げる。
「見事だ」
雅さんも満足そうに笑った。
「これで少しは戦え――」
少しは戦えるようになった。
そう言おうとした。
だが、言えなかった。
雅さんの雰囲気が変わったからだ。
「では、修行のレベルを上げる」
そう言って、雅さんが再び竹刀を構える。
これが虚狩り……。
人類の最高戦力……!
僕も竹刀を構え直す。
「○○」
雅さんが僕の名前を呼んだ。
「……? なんですか?」
「死ぬなよ……?」
「はっ……?」
その刹那。
背筋に寒気が走った。
本能的に頭を下げ、身体を沈める。
ブンッ――!
さっきまで僕の頭があった場所を、竹刀が通過した。
「ほう? 躱すか」
今の振り抜き……。
違う。
さっきまでとは明らかに違う。
雅さんから、殺意と錯覚するほどの圧が向けられている。
もちろん、ここは仮想空間だ。
本当に死ぬことはない。
それでも僕の本能は叫んでいた。
――ミスをしたら死ぬ。
頭の中にあるのは、それだけだった。
次々と迫ってくる竹刀を弾く。
弾く。
弾ききれないものは避ける。
躱す。
思考なんてまるで追いつかない。
文字通り、身体が勝手に動いていた。
そんな中、雅さんが楽しそうに笑う。
「久しいな、この感じ……」
そして――
「以前のお前と手合わせしているみたいだ」
僕は答えない。
いや。
答えられない、という方が正しい。
今、これ以上ほかのことへ意識を向けたら終わる。
そう思わせるほどの圧が、今の雅さんにはあった。
しばらく剣撃の嵐を捌いていると、雅さんが再び笑い、後ろへ下がった。
「すまない、○○」
「はぁ……はぁ……何がですか?」
僕がそう尋ねると、雅さんは楽しそうに答えた。
「そうだな。以前のお前風に言うなら……」
一度言葉を切る。
「ノッてきた」
そう言って、雅さんは居合の構えを取った。
多分この人、もう僕の修行のことなんて忘れているのかもしれない。
次の瞬間。
居合の構えから、雅さんが飛んできた。
神速の一太刀。
「――っ!!」
僕は咄嗟に竹刀を前へ出して防ぐことしかできなかった。
雅さんと僕の竹刀がぶつかり――
砕け散る。
僕の手はビリビリと痺れていた。
雅さんが静かに一言。
「ここまでだな」
その顔は、どこか満足そうだった。
「雅さん、途中から僕の修行のこと忘れてましたよね?」
「……そんなことは……ない……」
雅さんはそっぽを向いて答える。
「絶対嘘だ!! 途中から絶対楽しんでたでしょ!!!」
「む? だが、それでも三割も出していない」
僕は言葉を失った。
確かに本気じゃないことくらいはわかっていた。
でも三割も出てないのか……。
「へこむなぁ……」
「だが、○○。お前の動きもよかった」
「もちろん以前のお前の動きには遠く及ばないが、久々にお前と手合わせできて、とても良い時間だった」
そこで雅さんは一度言葉を切る。
「それに――」
僕を見る。
「身体は覚えているらしい」
ドクン。
その言葉を聞いた瞬間。
胸の奥が小さく跳ねた。
「……どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ」
「以前のお前も、同じような動きをしていた」
「以前の……僕」
「正確には完全に同じではない。今の方が鈍い」
「そこは言わなくてもよくないですか!?」
「事実だ」
容赦ない。
でも――
僕は自分の手を見る。
覚えていない。
雅さんとこんなふうに手合わせをした記憶なんてない。
それなのに。
身体は覚えている?
「……変な感じですね」
「何がだ?」
「僕は何も覚えてないのに」
僕は手の中に残った竹刀を見る。
「身体だけは、昔の僕を覚えてるなんて」
自分の身体なのに。
まるで知らない誰かの身体みたいだ。
「…………」
雅さんは何も言わない。
僕は小さく笑った。
「なんか、ちょっと気持ち悪いかも」
その瞬間。
「○○」
雅さんの声が少し低くなった。
「はい?」
「それは違う」
いつもと変わらない表情。
だけど、その声にはどこか強いものがあった。
「お前の身体だ」
「…………」
「記憶がなくても、覚えていなくても、お前が積み重ねてきたものまでなくなったわけではない」
雅さんが僕の持つ竹刀へ視線を向ける。
「身体に残っているなら、それもお前のものだ」
僕は何も言えなかった。
「それに」
雅さんが続ける。
「忘れたなら、また覚えればいい」
「……また?」
「ああ」
「もし、また忘れたら?」
「また教える」
「また忘れたら?」
「また教える」
「……何回でも?」
「何回でもだ」
雅さんは迷うことなく答えた。
その言葉を聞いていると。
胸の奥が少しだけ温かくなる。
「雅さんって、意外と面倒見いいですよね」
「意外とは余計だ」
僕と雅さんは顔を見合わせて笑った。
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私と○○は互いに笑い合った。
その時――
「いっ……!!」
突然、○○が胸を押さえた。
「○○!! 大丈夫か!?」
私は急いで○○のもとへ駆け寄る。
○○は私を見ると、安心させるように笑った。
「すぐ収まっちゃいました! 大丈夫です」
そう言って、○○は右手で胸元をぐりぐりとさすっている。
○○がホロウ帰りや疲れている時によくしていた、あの仕草。
昔は何気なく見ていたその仕草が、今はひどく私を不安にさせる。
「○○、お前は……」
私は一度言葉を詰まらせる。
そして――
「今度は一人で抱え込むな……!」
○○を見る。
「お前には私やプロキシ、それにみんながいる」
そう言うと、○○は笑った。
「はい!」
その返事を聞いて、私は小さくうなずく。
「それと」
「?」
「次は白線だけを踏んで渡る修行をやり遂げるからな」
「あれ絶対恥ずかしいですって!」
「私は普段からやっている」
「僕は違うんです!!」
そう言って○○は笑った。
私も、つられて笑った。
主人公記憶失う前は意外と強いのか?
感想等お待ちしてます!