何もない広場で、長身の女性と中背の男が剣を交えている。
戦いは終始、長身の女性が押しているように見えた。
男は女性の一瞬の隙を突き、その懐へと潜り込む。
「なかなかいい動きです! ですが――!」
女性は男の刃を防ぐと、そのまま蹴りを叩き込んだ。
「ぐっ……!」
後ろへと蹴り飛ばされた男は、すぐに体勢を立て直す。
そしてもう一度切り込もうとした――その瞬間。
「ま、まいりました……」
男の首筋には、すでに女性の刃が突きつけられていた。
悔しそうに顔をしかめながら、男は両手を上げる。
「あー! くそっ! 負けたー! もっかい! もっかいやろう!」
「今日はこのあたりにしておきましょう。あなたも病み上がりですし、あまり根を詰めすぎるのもおすすめしませんよ」
「でも、早く二人に追いつかないと!」
女性は不思議そうに首を傾げる。
「どうして、そんなに強くなりたいんですか?」
そう聞かれて、俺は少し照れながら口を開いた。
「だって、強くなれば二人を守れるじゃん?」
そう言うと、長身の女性は顔をぱぁっと明るくした。
そして俺の頬を両手で挟み、そのままもにゅもにゅとこねくり回す。
「ほんと、あなたはかわいいですね!」
「かわいくない!! かっこいいって言えよ!」
「ふふっ。でも……そう言ってくれるのは、とっても嬉しいですよ」
女性は手を離すと、少しだけ寂しそうに笑った。
「私たちにそう言ってくれる人は、もうあまりいませんから」
「…………」
俺たちはしばらくの間、互いの顔を見つめる。
すると――。
「ちょっとちょっと、お二人さん! いい雰囲気になっちゃってますよー!」
突然、頭上から声が聞こえてきた。
見上げると、ピンク色の髪をなびかせた女性が空からふわりと降りてくる。
「とっても嬉しいことを言われてしまったので」
「なになに? なんて言ったの?」
ピンク髪の女性が興味津々といった様子で近づいてくる。
「なんでも、私たち二人を守れるくらい強くなってくれるみたいですよ?」
「お、おい!」
それを聞いたピンク髪の女性は、楽しそうに笑った。
「このままだと、そんなに強くなれるのは百年とか先かもね!」
「すぐ追いつくから待っとけよ!!」
二人が笑う。
つられるように、俺も笑った。
三人の笑い声が、何もない広場に響いていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
僕は目を覚ます。
「……また変な夢見たな」
ベッドの上で身体を伸ばした、その瞬間――。
「いったぁぁぁぁい!!!!」
僕の叫び声が『Random Play』に響き渡った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「もぉ~! ○○、大丈夫? はい、湿布貼ったよ!」
リンが僕の背中に湿布を貼ってくれる。
「リン、ありがとう……!」
身体中が痛い。
昨日の修行のせいだ。
「それで○○、雅さんとの修行はどうだったんだい?」
アキラに聞かれ、僕は昨日のことを思い出す。
「ほんと聞いてよ! あの人、ニコニコしながら竹刀で殴ってくるのやばくない?」
「何とか避けられるようになったと思ったら、『修行のレベルを上げる』なんて言われてさ!」
僕は雅さんの真似をしながら、二人に説明する。
「あはは! 似てる~!」
「でも、それ以外にも収穫があってさ!」
「なになに?」
リンが興味津々といった様子で顔を近づけてくる。
「僕、昔から意外と戦えたっぽい!!」
そう言うと、二人は『何を言ってるんだこいつ』とでも言いたげな顔をした。
「……何その反応」
「いや、まぁ……だってねぇ」
「僕たちは君が戦えることは知っているからね」
「僕は知らないんだけど……!」
「仕方ないでしょ。覚えてないんだから」
「それはそうだけどさぁ……」
僕が肩を落とすと、リンがくすくすと笑う。
そんな話をしながら、僕は無意識に胸元へ手を伸ばしていた。
「……○○?」
「ん?」
「また胸触ってる」
リンに言われ、自分の手を見る。
「あ……」
昨日の修行が終わったあと。
一瞬だけ、胸の奥がズキッと痛んだ。
雅さんにも言われた。
今度は、一人で抱え込むなと。
それに――リンとも約束した。
「……そういえばさ」
「うん?」
「昨日、修行が終わったあとに……一瞬だけ胸が痛くなったんだ」
リンの表情が変わる。
「えっ?」
アキラも少し眉を寄せた。
「それ、本当かい?」
「うん。でも、すぐ治ったよ」
「すぐ治ったからって!」
「わ、分かってる! だから今ちゃんと話してるじゃん!」
「むぅ……」
リンが頬を膨らませる。
けれど、少しすると小さく息を吐いた。
「……うん。ちゃんと話してくれたのは偉い」
「子供扱いしてない?」
「してないしてない」
絶対してる。
「でも……胸が痛くなったのは、昨日だけなのかい?」
アキラに聞かれ、僕は考える。
「昨日だけ……」
昨日だけだよ、と言いかけて口を止めた。
「……そういえば、この前」
「この前?」
「妄想エンジェルのみんなと秘密基地に行くために、ホロウに入ったんだ」
二人が僕の話に耳を傾ける。
「その時、ちなっちゃんが怪我しちゃってさ。僕にもよく分からないんだけど……ちなっちゃんの傷を治せたんだ」
「傷を……?」
「うん。それで、そのあと胸がすごくバクバクして……」
「…………」
「ちょっと息苦しくもなった」
リンの顔から、さっきまでの軽い雰囲気が消えた。
「なんでそれ今まで言わなかったの!?」
「ご、ごめん!」
「この前約束したばっかりでしょ!」
「だから今言ってるんだって!」
「そういう問題じゃなーい!」
「ごめんなさい!」
反射的に頭を下げる。
そんな僕を見ながら、アキラは何かを考え込んでいた。
「回復の力を使った時と、雅さんとの修行のあと……」
「アキラ?」
「お兄ちゃん?」
僕とリンがアキラを見る。
「どちらも、身体に大きな負担がかかったあとだね」
「…………」
そう言われて、僕も黙り込む。
回復能力。
修行。
全然違うことだと思っていた。
でも、どちらも終わったあとに胸がおかしくなっている。
「……どうなんだろう?」
「まだ二回だけだからね。これだけで断定はできないよ」
アキラがそう言う。
リンは心配そうに僕を見つめていた。
僕は自分の胸元へ視線を落とす。
そして、今朝見た夢を思い出した。
剣を握っていた、昔の自分。
雅さんとの修行で、身体が勝手に動いたこと。
知らないはずなのに使えた、不思議な力。
もし、どちらも昔の僕が持っていたものなのだとしたら――。
「……昔の僕も」
「○○?」
僕はゆっくりと顔を上げた。
「ねぇ、二人とも。昔の僕も、この力を使ってた?」
部屋が静かになる。
「お兄ちゃん……」
「リン……」
二人は顔を見合わせる。
そして小さく頷くと、僕の方へ向き直った。
「……使っていたよ」
アキラが静かに答える。
「でも、それを使ったあとの○○は、いつも辛そうだった」
リンも不安そうに僕を見る。
「だからね、○○」
「その力は……無闇に使わないでほしいの」
アキラも続ける。
「君が苦しそうにしている姿は、もう見たくないから」
「…………」
二人の表情を見ていると、軽く返事をすることなんてできなかった。
僕はただ、静かに頷くことしかできなかった。
今回少し短いですすいません!
追記 1,2,3話のユーザー読了状況が悪すぎたので改稿してます!
感想等お待ちしてます!