新エリー都 ヤヌス区
六分街『Random Play』
「アキラさん! これはここでいいですか?」
「ああ、ありがとう、○○。そこに置いてもらえるかい」
手に持ったビデオを、○○は丁寧に並べていく。
「すまない、○○。わざわざ手伝ってもらって」
「全然大丈夫ですよ! ただでさえ色々と面倒を見てもらってるのに、住まわせてもらってるんで! 少しくらい手伝わせてください!」
「そう言ってもらえると、僕もリンも助かるよ」
この人はアキラさん。
妹のリンさんと一緒に『Random Play』を経営している、しっかり者の店長さんだ。
僕は今、アキラさんとリンさんのご厚意で、この『Random Play』に居候させてもらっている。
どうやら、記憶をなくす前の僕は、二人と家族同然の付き合いをしていたらしい。
「そういえば、○○。君さえよければ、その敬語はやめにしないかい? 僕たちは家族みたいなものなんだし、なんだか距離を感じてしまうな」
「うっ……。何度も言ってるんですけど、お二人は恩人なので、そんな気安くは……」
「無理にとは言わないさ。でも、もう少しフランクに接してくれると、僕もリンも嬉しくてね」
「ぜ、善処します……!」
そんな話をしている途中、勢いよくドアが開いた。
「○○! お兄ちゃん! たっだいまー!!」
「あ! リンさん、おかえりなさい!」
「やぁ、おかえり、リン。買い物は終わったのかい?」
「うん! 目当てのものはしっかり買えたよ! それに――」
リンはガサゴソと袋の中を探っている。
「じゃーん! くじ引きで当たったんだ!!」
そう言って高く掲げた手には、二枚のチケットが握られていた。
「――えっと、『グラビティ・シアター』先行上映ペアチケット?」
「そうなの! 人数限定で先行上映するんだって! 私、このシリーズの新作を楽しみにしてたから、すごい嬉しくて!」
「良かったじゃないですか! 僕はお留守番してるんで、ぜひアキラさんと楽しんできてください!」
「「……えっ?」」
リンとアキラの声が重なる。
「ンナワタ……」
近くにいたイアスが、呆れたような目で僕を見ている。
「あれ……? ペアチケットだから、てっきり二人で行くのかと思ってたんですけど……」
「……わ、私は、○○と行くつもりだったんだけど……」
「……○○、昔から君はこういう時の雰囲気には、本当に鈍感だね」
「で、でも、せっかく当たったものですし、二人で行ったほうが――」
「――○○は、私と二人で映画を見に行くのは嫌?」
リンは少し悲しそうな顔をしながら、僕を見つめている。
その隣では、アキラとイアスがじーっと僕に視線を向けていた。
「そ、そんなわけないじゃないですか! 僕でよければ、ぜひ!」
そう言うと、さっきまで悲しそうだったリンの顔が、一気に笑顔に変わった。
「本当!? やった~! 映画楽しみだね!」
「うん、僕も楽しみです」
「じゃあ、私、荷物置いてくる!」
そう言いながら、リンは笑顔で階段を駆け上がっていった。
僕の後ろでは、アキラとイアスが腕を組みながら、うんうんと頷いていた。
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新エリー都 ヤヌス区
ルミナスクエア
「○○! こっちこっち!」
「ごめんなさい、リンさん……! ちょっと迷っちゃって……。待たせちゃいましたよね?」
「気にしないで、○○。私が張り切っちゃっただけだから!」
「ありがとうございます! ……でも、なんで現地集合なんですか? 一緒に行ったほうが、待ち合わせの時間とか気にしなくてよかったんじゃ――」
「だ、だって……そっちのほうが雰囲気出るし……! ほ、ほら! そんなことより行こ! 映画始まっちゃう!」
そう言って、リンは僕の腕を引っ張りながら『グラビティ・シアター』へ向かった。
映画館に着き、受付を済ませて席に着く。
「そういえば、今日見る映画って、どんな映画なんですか?」
「よくぞ聞いてくれました!」
リンは待ってましたと言わんばかりに身を乗り出す。
「この映画はね! 恋愛映画の大人気シリーズで――」
そう言ってリンは、今回の映画について色々と教えてくれた。
「そうなんですね! おかげですごい楽しみになってきました!」
「そうでしょ! クライマックスが毎回すごく良くて! それに何より……」
リンはそう言うと、少し俯いた。
「……この映画はね。記憶がなくなっちゃう前の○○と、初めて見た映画なんだ……」
そう言ったリンの表情は、懐かしむような、どこか悲しそうなものだった。
僕は何も言えなかった。
「――ごめん! なんだか湿っぽくなっちゃったね。ほら! そろそろ映画始まるよ!」
そう言って、二人はスクリーンへ向き直った。
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リンはスクリーンから目を離し、隣に座る○○を見ていた。
○○はスクリーンに夢中になっている。
(すごい真剣に見てる……。そういえば、初めて一緒に見た時もこんな感じだったかな?)
そう思った瞬間、リンの脳裏に、初めて○○と一緒に映画を見た日の記憶が蘇ってきた。
「あっ! このシリーズ入ってんの!!! 『リン』~! これ貸して~!」
「ちょっと○○! ビデオ借りていくなら、会員登録してって何回も言ってるじゃん~!」
「いいじゃん! もう家族みたいなもんでしょ! ちょっと裏のテレビ借りるね~!」
そう言って○○は、06号レムにドアを開けてもらい、奥へ入っていく。
「そもそも、それって恋愛ものでしょ? ○○ってば、そういうの興味あったの?」
部屋に入ると、ビデオデッキをいじっている○○の後ろから、リンが近づいていく。
「このシリーズ大好きなんだよね! 全部見てるから!」
「へぇ~、意外かも! ホロウ以外には興味ありません、みたいな感じなのに」
「……失礼すぎません?? 『俺』だって一般成人男性だから、こういうの見るよ」
「……それなら、もうちょっと周りの女の子にも興味持ってくれてもいいと思うんだけど……」
「ん? なんて言ったの?」
「私も一緒に見ようかなって言ったの!」
「そしたらほら! 横座って! 早く見ようぜ!」
そう言って○○はリンの手を握り、ソファーの隣に座らせる。
握られた手と、火照っていく顔を意識しながら、リンはテレビへ目を向けた。
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「……リンさん? 大丈夫ですか?」
名前を呼ばれ、リンの意識がすっと現実へ戻ってくる。
「……はっ! ごめん、○○。ぼーっとしてた……」
「映画、終わりましたよ? 体調が悪いなら帰りますか?」
そう言うと、リンは慌てたように首を横に振った。
「だ、大丈夫! 本当にぼーっとしてただけだから! ほら! 早く次のお店いこ!」
それから僕は、リンと一緒にルミナスクエアの色々なお店を巡り、楽しい時間を過ごした。
「――んーっ! 楽しかった~!」
「はい! 色んなところを回れて楽しかったですね!」
時間はあっという間に過ぎ、辺りはすっかり暗くなっていた。
「おいしい物も食べたし! そろそろ帰ろっか!」
「そうですね」
そう言って、二人で帰り道を歩いている。
ふと後ろに目をやると、車が猛スピードで近づいてくるのが見えた。
リンはニコニコしながら上を向いて歩いているため、気づいていない。
「『リン』、危ない!!!」
「えっ……?」
僕は無意識にリンの名前を呼びながら、リンを抱き寄せていた。
身体のすぐ横を、鉄の塊が通り過ぎていく。
「――はぁ、はぁ……っ。リ、リンさん、大丈夫ですか!? どこかケガしてないですか!?」
「う、ううん……! 大丈夫、大丈夫だから……!」
「なら、よかったです。すいません、いきなり抱きしめちゃって……」
そう言うと、リンの顔が一気に真っ赤になった。
「わ、私、先に帰ってるね!!」
「えっ?」
「それじゃ!」
そう言って、リンは足早に先へ行ってしまった。
「やっぱり、急に抱きしめちゃって怒ってるのかな……?」
○○は、遠ざかっていくリンの背中を見つめながら首を傾げた。
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「た、ただいまっ!!」
バンッ! と『Random Play』のドアが開き、リンが帰ってきた。
「やぁ、おかえり、リン。映画は楽しめたか?」
アキラがリンに声をかける。
「た、楽しめたけど……!」
「けど……?」
何かを言いかけたリンは、悶々とした表情を浮かべながら、バタバタと二階へ上がってしまった。
「……?」
遅れて、○○が店に入ってくる。
「戻りました……」
「おかえり、○○。どうしたんだい? 落ち込んでるみたいだけど」
「実は――」
○○は、今日あったことをアキラに伝えた。
「……やっぱり、怒ってますよね……」
「まずは○○、リンを守ってくれてありがとう。抱きしめてしまったことに関しても、怒っているわけじゃないと思うよ」
「そうですかね……?」
「もし不安なら、リンが笑顔になる秘密の魔法を教えるさ」
「そんなのあるんですか!」
「それは――」
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次の日の朝
「リンさん、昨日はすいませんでした」
「も、もう大丈夫だよ! 私、助けてもらえたんだし! 私の方こそ、先に帰っちゃってごめんなさい」
「あ、あと……」
「……?」
「お、おはよう! り、『リン』」
「――っ!」
一瞬、リンの目が大きく見開かれる。
「うん! おはよう、○○!」
そう言うと、リンの顔はとびっきりの笑顔に変わった。
「どうやら、うまくいったみたいだね」
少し離れたところで、アキラが腕を組みながら笑っている。
「ンナワタ」
イアスも嬉しそうに頷いた。
「よかった!」
その二人の様子を見ながら、○○は不思議そうに首を傾げていた。
――この日もまた、『Random Play』にはいつもの日常が戻ってきた。
ps,この後アキラのことも読んだらハグされた
可愛くするのってなかなか難しいですね
誤字、脱字あれば教えてもらえると嬉しいです