特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
エルゼ王女のセンスは公表されたが、「火の聖女」のみとなった。ただでさえ強力なセンスを持っているのに、もうひとつが「剣帝」と知られれば、他国からいらぬ警戒を抱かれる可能性や引き込みに遭う可能性がある。
なるべく王女としての格を保ちつつ、いらぬトラブルは減らしたい、ということだ。オレも助かる。
城の客間で、エルゼ王女とオレは貴族と向かい合っていた。
広いテーブルに四脚の椅子。大人数の場合は会議室を使う。今回はサディエル卿がエルゼ王女を訪ねてきただけだ。
テーブルの上には紅茶が並べられている。ちなみにオレが淹れた。というか淹れろと言われた。普段淹れてるしな。
エルゼ王女とサディエル卿の分だけだ。オレはエルゼ王女の隣で立っている。
サディエル卿には好みの量、砂糖とミルクをいれられるようにしている。エルゼ王女の紅茶はオレが調整したのですでにミルクティーになっている。
「この度はこのような場を設けていただきありがとうございます」
「いえ。サディエル卿こそ遠くからお越しくださりありがとうございます。素敵な贈り物まで」
高級菓子を中心に宝石の使われたアクセサリー等々。今回、この話し合いの場を設けるための貢ぎ物だ。
もちろん、エルゼ王女は乗る気ではない。贈り物と手紙を見て、エルゼ王女がクソ面倒くさそうな顔をしていたのを覚えてる。
「話があるとのことでしたが、なんでしょうか」
「エルゼリーナ王女殿下。あなたさまはまだ近衛騎士団をお持ちでないと伺っております」
「……えぇ」
この国では王族個人が近衛騎士団を所有している。オーレリア王と王妃の近衛騎士団はマイロス騎士団、第一王女、第二王女にも近衛騎士団はいる。あとはこの国唯一の王子は自ら騎士団を率いている。
で、近衛でも己のものでも騎士団を持ってないのは、そんなのに頼らずに自分から突っ込んで暴れたいエルゼ王女ただひとりってわけ。
「わたくしの所持するサディエル騎士団を、近衛騎士団とするのはいかがでしょう?」
エルゼ王女の頬がピクリと動いた。
火の聖女だなんて大層なセンスだ。ただでさえ王女殿下の近衛となれるだけでも名誉ではあるが、持っているセンスも相まって栄誉は約束されているだろう。
だからアピールしに来た。
普通は王や王妃、頼れる部下などが間に入ったり、判断を代わるのだが、この王女サマは全部断っている。
メイドや執事、庭師など、日常生活に関わる者しか囲っていない。
「わが騎士団はつい近日もゲイル級の魔物討伐に成功しました。強さとしては申し分ないかと」
ふーん。
国において遭遇頻度、危険度を総合して考えればゲイル級が一番の敵であろう。ゲイルより上、ストーム級以上の魔物なんて滅多に出現しないし。
ゲイル級を相手にできるということは戦争でも上澄みの動きが期待できるということにはなる。
でもなぁ。ゲイル級なんてこの間、この王女サマ本人がフルボッコしたばっかだしなぁ。しかもひとりで。
ほら笑顔固まってるよ。
「ありがたい提案ではございますが……大変申し訳ありません。近衛騎士団を持つ予定はないのです」
両手を合わせて、断るエルゼ王女。今度はサディエル卿の笑顔が固まった。付け入る隙でも探って、近衛騎士団にしてもらえないまでも、何かしら繋がりを持ちたかったのだろう。
「それは、なぜですか」
明らかにサディエル卿の声のトーンが落ちていた。もうちょい隠したほうがいいと思うぞ。
「じゃ――こほん。必要性を感じないからです」
おい、この王女。今、「邪魔」っていいかけたぞ。
「
あ、ども。
手で示され、頭を下げる。
「彼は単独でゲイル級を討伐できる騎士。彼さえいれば問題ありません」
「しかし、彼だけでは限界がありますぞ」
「王女殿下に何があるくらいなら平気ですよ。国は別ですが」
だって本人がなんとかするし。というかしたがるし。暗殺が通じないってのはオレがよく知ってる。
「しかし戦争や、突如現れた魔物の対処などもあります」
「彼は
あのーもしかして戦争起きたら嬉々として向かうつもりだったりします? やめてね?
魔物もよく知らないからね? 元ではあるけど暗殺者だよオレ。魔物を暗殺する機会なんてないから、ほら。
サディエル卿は悔しげに歯噛みする。こっちを忌々しそうに睨むまであった。
エルゼ王女はミルクティーを口に含む。
「今日もおいしいわ、ロマ」
「それは何よりです」
淹れ方、教わったしな。最初はガミガミ文句言われたけど。もっと甘くしろとか。舌はちゃんと子どもっぽいんだよな。
「彼にも彼の都合というものがあるでしょう」
「ないです」
オレが即答した。
「彼の生活は全て私が保障しています。彼にとってここが家なのです。私のセンスもわかったことですし、国への貢献も問題なく行えるでしょうから路頭に迷わせることもありません」
なので、とエルゼ王女は続けた。
「彼がいれば十分です」