特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
サディエル領、演習場にて。
その日、オレはエルゼ王女と共に騎士団と対峙していた。
晴れ渡る空の下。見晴らしのいい草原だ。
ざっと20人強か。
「それではこれより、サディエル騎士団と特任騎士ロマ殿との親善試合を行う」
サディエル卿がオレらの間に入り、大声を張り上げる。
簡易テントで日陰をつくってもらっている。
騎士団は全員、オレを睨んでいた。
うん。こわ。
「ルールだが、この気流の首飾りの効果が切れた場合を脱落とする。攻撃手段は自由。騎士団から戦士班と魔法班がお相手させていただく」
小さな丸い水晶がくっついたネックレスを全員つけている。それが気流の首飾りだ。魔法決闘用に作成された、自身の魔力を結界に変換するものだ。
相手の騎士団は一番魔力量の多いやつが、事前に魔力を注いでいるだろう。水晶を回すと密着している留め具との隙間が開き、魔法を発動する。
「さ、ロマ殿も」
女性の騎士がひとり、前に出て手渡してくれる。が、オレは手を挙げた。
「いりません」
「は?」
「勘違いしないでほしいのですが、ご厚意には感謝しております。ただ個人的に、気流の首飾りがいらないだけで」
「しかしそれではロマ殿が」
まぁ、そうなるよね。結界がないやつ相手にするのは気が引けるだろうし。
オレは遠くのテントで観戦モードに入っているエルゼ王女に顔を向ける。
「エルゼ王女ー!」
「なんですかー!」
優雅に座っていたのだが、立ち上がって大声を返してくれた。
「もしもオレがボコされたら、回復魔法! お願いします!」
エルゼ王女が頭上で丸をつくって了承してくれる。
ちなみにエルゼ王女はまだ回復魔法がまともに使えない。なのでハッタリだ。
「……ということなんで、適当にボコって大丈夫です」
「しかし勝敗の判定はどうするつもりで」
「痛いのは嫌なんで早めに降参しますよ。魔力防護はできるんで」
魔力で全身の皮膚強化や、魔力の膜で覆うことを魔力防護と呼ぶ。これで結界なしでも怪我は防げる。結界は感覚が鈍るから使いたくない、完全にこっちの都合だ。
舐めてるわけじゃない。
「で、よろしいですかサディエル卿」
眉間にシワを刻み、拳を震わせているサディエル卿に聞く。バカにされてると思っているんだろう。
「後で泣きを見ても知りませんぞ」
「構いません。サディエル卿の騎士団が優秀であることの証です」
「……では、私がテントに戻り次第、合図を打ち上げろ! それを開始の合図とする」
サディエル卿が背を向けて、エルゼ王女のいるテントへ歩いていく。
「本当によろしいので?」
「えぇ」
「せめて持っていてください。使うかは任せますので」
首飾りを渡そうとした騎士はオレの手を取り、首飾りを持たせてくれる。
「お心遣い、ありがとうございます」
「では、本日はよろしくお願いします」
背を向け、部隊に戻っていく。どうやら魔法班らしい。後ろの方で待機した。
首飾りをズボンのポケットに突っ込む。
騎士団の表情は様々だった。サディエル卿のように怒りをにじませているやつもいるが、オレをしっかり警戒してるやつや心配そうにしているやつもいる。
オレは腰の剣を抜いた。
一番後方のやつが杖を上に向ける。光弾が生成され、空に上っていった。
そして弾ける。
「行くぞ!」
陣営は三角形。
先頭のやつは……実力が高いやつだろう。そいつが凌いでいるうちに後方のやつらで囲み、さらに後ろの魔法班に魔法の準備をさせると見た。
「さて」
「覚悟ぉ!」
上段斬りか。
「まずひとり」
斬り抜ける。相手の首飾りが激しく光った。つまり相手の脱落である。
「何!?」
後ろに控えていた騎士へ、続けて一発、と。
「はァっ?」
これで2人目、と。
陣形を三角形をとし、突撃。先頭に引きつけ役をやらせ、三日月状に分散、敵を囲いに行く。
となれば動きが遅くなるのは角側ではなく、内側。
なので、陣形の中に突っ込む。
「うわっ」
「させるか!」
オレが狙いを定めた相手をかばうように横から割り込んでくるやつがいた。横から来た一撃を弾き上げ、跳ぶ。
予定通りのやつの頭を蹴って飛び越える。魔力で身体強化したからこれでも気流の首飾りの効果が発動した。
これで3人だ。
戦士班を抜けて、魔法班と向き合う。
つまり自分から挟み撃ちになるような動きになった。
◯
サディエル卿の顎が外れそうなくらい、口が開いている。
当然だろう。自慢の騎士団があっさり倒されていく姿を見るのは、悪夢でしかないだろうからな。
ワタシが逆の立場だったら、同じように驚く。
視覚強化でロマの動きを追っているが、イカれている。
対集団において囲まれることは最も避けるべき事態であろう。初手の安定策は「逃げる」だ。離れて陣形を崩す。狙うはこれだ。
ワタシが剣で戦うと仮定するのであれば、全力で戦士班から逃げつつ、魔法班で突っ込むだろう。
魔法? まとめて一撃だ。
ともあれ、相手も逃げを想定しているから逃さないように先行するやつがいる。実力がなければ、その場に留まらせるという役割がこなせない。
だから最初の男が戦士としては一番強いと思って良い。
それを引きつけ役をさせずにあっさり仕留めた。どころか陣形に突っ込んだ。
囲まれる形にはなる。
が。
相手側の作戦上にない動きだ。陣形の役割を崩したと言っていい。囲おうと動き出しているということは動きは外に向かっている。だからあえて内へ突っ込んだ。
ひとりだからできる方法だな。
その後に陣形を抜けきったのも効果的だ。戦士班は、想定と違う展開に混乱し、しかもそれが抜けきらないうちに魔法班の方の犠牲が増えるかもしれないという焦りも出てくる。
魔法班は魔法班で想定よりも早い襲撃に、魔法を急がなければならない。
戦術面を見たことがなかったから心配だったが、杞憂だったな。
そも、捏造が捏造とバレぬよう特任騎士をやらせているのだ。強さの方は問題ない。
よくあやつが暗殺者に無茶させるなというが、こんなもの見せられて、期待するなという方が無理であろう。
全滅するのも時間の問題だな。
やはりワタシの騎士はロマひとりがいい。余計ないざこざもない。働かせれば期待以上に動ける。
「サディエル卿」
指先を合わせながら、ワタシはサディエル卿に声をかける。サディエル卿は、目の前の異常さに顔を赤くし、拳を震わせていた。こちらに目を合わせるが、その目には恐怖が覗いている。
そういう目だ。得体の知れないものを見る目。それが嫌いだ。
「やはり
オブラートに包みながら戦力外通告をしてやる。
さて、あとは決着を待つのみ、だな。
◯
残りひとり。
オレに首飾りを渡してくれた女性騎士のみとなっていた。
「まさかこれほどとは。甘く見ていたのは私たちのほうだったか……」
「いや想定以上に粘られているので、こっちもそちらを甘く見てました。お互い様ってことで」
女性騎士が残っている理由。
オレが戦士班を全員脱落させるまでに、残った魔法班は攻撃を諦め、女性騎士へのエンチャントに全てを賭けた。
だからたぶん――この人が団長だ。
魔法班かと思ったら剣で粘られている。魔法剣士というやつだろう。
互いに剣を構えたまま、膠着状態だ。
どうすっかな。
まぁ、ここまでやれたんだし、相手さんの面目を少し残す意味で相打ちを狙っても……。
「手心を考えているならおやめください。そちらのほうが恥です」
あ、いや。完勝より相打ち狙うほうが簡単に終われそうだからよぎっただけで、そんなにそっちに花を持たせる気はないというか、持たせる気あったらもっと面倒くさいことしてるというか――
「――ロマ! 試合は終わりです!」
いきなり大声が響く。
顔を向けると、エルゼ王女が手を上げていた。なんか目がめっちゃキラキラしてる。
「緊急事態です!」
……ハァ?