特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
「近くの村にファイアードレイクが出ました!」
エルゼ王女が声を張り上げる。
ファイアードレイク? ドレイクってことはドラゴンだよな? 英雄譚に出てくるやつ。
緊急事態っていうか、この世の終わりじゃね?
「ファイアードレイク!? そんな……
青ざめた女性騎士が震えた声で言う。
「我らではどうすることもできん」
……あー。
周りを見る。
疲弊しきった騎士たち。そして全リソースを注いで強化された女性騎士。
村がどのくらい近いかわからないが、着くころにはエンチャントが切れてるだろうし、そもそも騎士団でゲイル級討伐がやっとというか、ベストだろうからストーム級だなんてとても……。
「ロマ!」
勢いよく走ってきたエルゼ王女がオレの腕を掴んだ。
「行きましょう! 民の危機です!」
「ハァ?」
腕を引っ張られる。
「ここから北西に真っ直ぐ向かえ。もちろん、ワタシを抱えてだ」
そんなふうに耳打ちされた。
「騎士殿。試合中ではあるが、失礼させていただく」
「ロマ殿!? いったいどこへ」
言いたくねー。こんなアホみたいな現実受け入れたくねー。
でも、エルゼ王女の目はキラッキラだし、何をしようとしてるかは明白だし。
「……その、ファイアードレイク? をどうにかしに」
オレはエルゼ王女を片手で抱え上げると、言われた方角へ走り出した。
景色がどんどん変わっていく。
「……で、ファイアードレイクをどうするつもりで」
「倒すぞ」
マジで何言っちゃってんのこの人。知ってたけどさ。本当は違う目的があるんじゃないかなーって、ありえない希望を抱いて聞くんじゃなかった。
「ストーム級と聞きましたが」
「炎を操るドラゴンだからな」
ドラゴン。魔物と呼ばれる中でも頂点にいる種族。
「被害が広がるのはまずい。さっさと引き寄せる」
そう言うと、エルゼ王女から赤いオーラが溢れ出した。
魔力を放出しているのだろう。膨大な魔力をファイアードレイクに感知させて「排除すべき障害」と認識させるつもりか。
「戦う魔力は残しておいてくださいよ。オレ絶対勝てないんで」
「当たり前だ! せっかくドラゴンとの火力勝負ができるのだぞ」
あっ……。「この人、民の心配しっかりするんだな」だなんて思ったオレが間違いだったかもしれない。
ウキウキで戦うつもりだ。
◯
しばらく走っていると、空気を裂く音がした。
見上げると赤い塊がこっちに飛来してくる。それが翼を振るい、急停止し滞空した。翼の動きで強風が吹き荒れる。
巨大な赤い鱗のドラゴンがこちらを睨みつけていた。口元がなんかヤバい感じに発火しまくっている。
あれ……? 思いっきり攻撃してくるつもりじゃね?
そして案の定、咆哮と共に火球が吐き出される。
「来たな、ファイアードレイク!」
興奮気味に叫んだエルゼ王女は片手を火球に向ける。虚空に魔法陣が描き出され、そこから同じような火球が射出された。
空中でぶつかり、爆発する。耳を塞ぎたくなるような轟音と、爆風が広がった。
その爆発を突っ切ってファイアードレイクがこちらに迫ってくる。後ろ足をこちらに向けてきていた。
「シャレにならないんですけどぉ!」
急停止して、足の間に留まって抜けていくのを待つ。一瞬ファイアードレイクの影で日が落ちたのではないかと思うほどの暗さが訪れたが、すぐに終わった。
ファイアードレイクは飛び上がることはせずに、着地し、振り返る。明らかにこっちを敵視していた。
で、でけえ。距離がかなりあるはずなのに、とんでもない威圧感がある。
オレは周りを確認する。
ただの草原だ。演習場と同じで障害物が少ない。
「よしご苦労。降ろせ」
指示に従う。
「あれが、ファイアードレイクか。かっこいいのう」
「呑気なこと言ってる場合じゃないでしょうあれ」
「じっくり楽しみたいが、あまり長すぎると迎撃部隊が来てしまうだろうしな」
そういうことじゃない。
エルゼ王女が手をかざす。さっきよりも巨大な、オレを轢き潰せそうなくらいの火球をつくり出すと、ファイアードレイクへ向けて放った。
ファイアードレイクは何もせずそれを喰らう。
爆発と黒煙に包まれた。
エルゼ王女は拳を握りしめる。
「やったか!?」
「わざと言ってますそれ!?」
――黒煙が晴れる。
ファイアードレイクが息を吸っていた。凄まじい勢いで煙と
「あのエルゼ王女サマ? あいつ……」
「ワタシの魔法、食べてるな」
口が開く。
倍返しとばかりに火球が飛んできた。
エルゼ王女がくいと指を上に向けると、炎の壁が発生し、火球を防ぐ。火球を耐えきった後に、炎の壁が消滅した。
……あのー、戦いが異次元すぎるんですけど。
「大技でも当てねばならぬか」
両手を上にかざし、炎を集め始める。
ファイアードレイクはそれを見て、再び深く息を吸い始めた。あっちも大技をやるようだ。
光と見まごうばかりの輝きを持つ紅い炎が噴き上がる。
「耐性ごと燃やし尽くしてやる……!」
腰を落とし、一気に振り下ろした。矢のごとく、炎の杭が飛んでいく。
それに合わせてファイアードレイクもブレスを吐いた。収束させた炎の奔流がぶつかり、互いを削り合う。
が、ブレスを押し切って炎の杭がファイアードレイクに直撃し、爆発する。
光で何も見えなくなる。
さすがに傷ぐらいは負ったんじゃないか?
「くっ……」
エルゼ王女のほうを見ると両手を震わせ、額から汗が流れていた。
「大丈夫です?」
「平気だ。体への負荷が、キツいだけで」
――と。
爆発による煙を食い破ってファイアードレイクが出てきた。今度はブレスなどではなく、噛みつきだ。食われれば、ぺちゃんこだろう。
オレはエルゼ王女を抱えるとその場から脱した。後ろでガキンと、生物から出たとは思えない音が響く。
振り返る。
「……エルゼ王女。逃げましょう」
「なぜだ」
「あいつ、無傷です」
鱗というか外殻というかとにかく無傷だ。
「……いやまだやれる。魔力はまだまだある」
「負荷に体が耐えられんでしょう。服越しでも熱いですよ、アンタの体」
息も絶え絶えだ。
「ならん」
「って言われても」
「逃げたければひとりで逃げることだな」
「今の状態なら連れて帰れますよ」
「自爆してでも拒否してやる」
胸にしがみついて、本気で言われる。
ファイアードレイクはどうやら接近戦が有効だと判断したらしい。爪や翼などでこちらに攻撃をしてくる。
オレはそれを避けながら会話を続けた。
「ワタシしかおらぬだろ。対抗できるのは」
「でしょうね」
「いらぬ犠牲は増やしたくない」
どうやら民を守りたいというのも完全な嘘ではないらしい。
「ひとりでもなんとかできる。だから逃げたければ逃げれば良い」
「今現在進行系で攻撃避けてるやつに言います?」
ちょこまかと避けられて、ファイアードレイクは鬱陶しかったのか、息を吸い始める。
ブレスだろう。
「ほいっ」
腰の剣を投げた。
吸い込もうとした空気に剣が入り込む。剣が口に入ったファイアードレイクは、むせこむようにブレスを吐いた。
恐らく失敗だろう。
地面に炎が広がるものの、それほどではない。回避可能なレベルであった。
ブレスが終わった地面を見ると、黒焦げになった剣が転がっていた。
十分に距離をとって保つ。
「……大丈夫だ。降ろせ」
再度、降ろす。オレはファイアードレイクを警戒しつつ、魔力を練った。
「ちなみに倒す方法は」
「さっきよりも強力な大技を当てる。時間はかかってしまうが」
「確認ですが、仕留められるんですね?」
「あぁ」
強く頷くエルゼ王女。
――仕方ないな。
「んじゃ、任せますよ」
オレはファイアードレイクに向かって歩き始める。
「いいのか」
「いいですよ。動きは大したことないんで」
手を左右に振りながら了承の意を示す。
デカイ図体は足場にできるし、攻撃も予兆はちゃんとある。適度に小突けばいいだろう。
オレは両手を合わせると、