特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
もし、相手が火の耐性がないストーム級であれば、もっと簡単に倒せる。ワタシの魔法はファイアードレイクにすら通じている。
だが、相性最悪だった。通じるが、決定打にならない。決定打にするには高い集中と、精密な魔力操作が必要だ。
祈るように両手を合わせ、そこに魔力を集める。
魔力総量は余裕だ。ただ、あまり強引な魔法発動であったり、無茶な連発を続けると体が崩壊する。中身に体が見合っていない。歯がゆいことだ。
『服越しでも熱いですよ、アンタの体』
珍しく、刺々しい言い方をされた。もしかして怒られたのか?
ロマを見る。
剣ではないのは、「斬れない」からだろう。打撃で衝撃を与える方向に舵を切ったのだ。
ファイアードレイクの懐に潜り込み、攻撃を見事に避けている。爪の付け根や目など、攻撃が通りそうな場所を選んで攻撃している。
されど傷はつかず。目はまぶたに遮られている。
ロマは気にしない。淡々と続けている。
トドメはワタシに任せるからだろう。
両手に隙間をつくり、炎を固めていく。
魔力の高まりにファイアードレイクが気づく。
火球を放ってきた。
ワタシに真っ直ぐ飛んでくるが、ロマがすでに割り込んでいる。戦鎚を変化させ、剣に変える。
そして斬った。
ファイアードレイクが吠える。空気が悲鳴を上げ、大地が揺れる。
ロマはそれを気にせず突っ込んでいった。咆哮によって衝撃波が出ているが、剣で斬って進んでいく。
そうして戦鎚に切り替え、時間稼ぎを続行する。
不思議だ。
心が穏やかでいられる。
ストーム級との戦いであるのに。高揚感も、ロマへの不安もない。ただ、魔法を編み上げることだけに集中できている。
手から炎が噴き上がる。
ただの炎ではない。剣だ。
魔法による概念事象は実際の自然現象とは異なる。炎は炎だが、対象以外を燃やさなかったり、だ。無論、炎というものの特性はある程度備えているが、炎の特性に縛られる必要はない。
炎を高密度に編み上げて巨大な剣とする。そして熱で切断する。耐熱だろうが関係ないレベルにしてな。
本当にこちらの魔法が効かないのであれば、ワタシの炎の杭にブレスを放ったりはしない。つまりファイアードレイクにとって、あの大技は危ない攻撃だった、ということだ。
威力を殺させずに、または殺されても無意味なほどの高火力攻撃で仕留める。
剣帝のセンスもある。どちらのセンスも活かす形にすれば魔法は強力にしやすい。
だからこその剣だ。
◯
あとどのくらい時間稼げば良いんだ?
熱くてそろそろキツいんだけど。
あづぅ……。脚痛くなってきたし。頭もぼーっとしてきた。魔力防護で熱を遮断してるっても限度がある。
気分的には山を相手にしてるような途方のなさだぞ。攻撃何度入れたかわからなくなってきた。
まぶたすらくそかてえよ。
魔法の形成維持も怪しくなってきた。やっぱ慣れない武器生成するもんじゃないな。
しっかし、ストーム級かぁ。近接戦闘で討伐なんかしたくねえな。というか無理だな、ファイアードレイク。
外殻の隙間から高熱の蒸気が漏れて蒸されるし、さっきは意図的に噴射して攻撃に使われたし。外殻は高温だろうから、通常の武器じゃ溶かされるだろう。
ブレスはチャージ時間があるものの、広範囲で理不尽。同じような見た目で即時火球を放ってくることもある。
翼を振るえば足が止まるほどの強風。爪は言わずもがな凶器。
飛ばれないのはありがたいが、きっとオレらがちっぽけだから地上で戦ったほうが確実という判断だろう。頭も回る。
動きは単純なのに全身兵器だ。
これは遠くから大砲やらバリスタやら魔法やらで攻撃しまくってくれたほうがいい。伝説で単独討伐してた英雄どのはいくら伝説の武器持ちだからって何をトチ狂って接近戦で勝ちに行ってんだ?
「ロマ! 大義であった!」
大声が響く。
後ろに目を向けると、剣を持ったエルゼ王女がいた。
激しく髪が吹き乱れている。その顔には凶悪な笑みがあった。
ファイアードレイクすら両断できそうな、天に伸びた炎剣。いつも形成する雑なファイアーソードじゃない。
あれで斬れなかったら、絶望しかない。
武器化を解除し、逃げの体勢に入る。時間稼ぎは終わりだ。魔力も残しておきたい分しか残ってない。
「死にたくなければ、退けよ!?」
特大の炎剣を構える。全く、無茶を言うな。
ファイアードレイクの方はというと翼を広げた。さすがに不味いと思ったのか、空に逃げるつもりか。
今までのように遠距離魔法じゃない。空に逃げられれば有効範囲を脱されるだろう。
魔力を右手に集中させ、身体強化は脚力を重視する。
「逃がすかよ!」
魔法形成。
右手に短剣が出現する。それを逆手持ちし、突貫した。
狙うは、翼膜。
はばたく前に――潰す。
身体強化はスピード重視。魔法は威力重視。
今までの戦いで十分動きが遅めなことは確認した。と、いっても常人ではばたきを阻止できるほどお気楽な遅さではないが。
向けた刃が翼膜に直撃する。
魔法が炸裂した。
――魔法の威力が最も高くなる瞬間というのがある。
魔力を解放し、発動した直後がそのひとつ。
あらゆる防御を
――
何倍にも延長された刃が翼膜を貫く。刃が維持できる時間は1秒にも満たず、それはもはや維持できていると言えないものだ。
それでも刃が消える前に、翼膜を斬り割き、ちっぽけな穴をつくる。突撃の勢いが死ぬ前に、開けた穴を通り抜けて落ちる。
ファイアードレイクは魔物としての強さは最強格であろう。堅牢すぎる外殻。国を滅ぼすほどの多種多様な攻撃。要塞と変わらない巨体。
しかし、その強さゆえにダメージを知らない。
痛みを知らないということは慣れていない。
翼膜の小さな穴であれば、致命的な一撃によって起こる痛覚麻痺はありえない。よってファイアードレイクはいきなり針を刺されたような鋭い痛みを感じるはずだ。
実際今、ファイアードレイクは思いっきり怯んでいる。
じゃ、あとよろしく。
――そこに炎剣が振り下ろされた。