特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
前言撤回。
穏やかだと思っていたのは魔法が完成するまで集中していたかららしい。
炎剣を構える。
こんな高威力の魔法。放ったことがない。当てたらどうなるか
しかも、魔法が完成してから振り下ろすまでに、ロマのやつが翼膜を貫通して離脱していった。
逃げろといったのに、しっかり当てる隙をつくる大サービスだ。あの日、強引にでも殺し合おうとしなくて良かった。
おかげで楽しみがなくならない。
「――フレイズスルト」
記憶にある魔法名を口にする。概念事象は言霊によってより強固に現れる。ゆえに詠唱や魔法名の宣言は有用だ。
せっかくだ。少しでも火力を上げたいではないか。
ファイアードレイクに迫りながら、大振りで剣を振る。相手は魔物だ。剣術がどうなど考えなくていい。隙もある。
振り下ろすだけ――。
一瞬だった。
あんなにも有効打を与えられなかったファイアードレイクの体に刃が通る。
そして地面に当たった剣がその形を解き、炎上する。
ファイアードレイクの叫び声が、響き渡る。身体の穴や隙間から、炎が漏れ出していた。
目から炎が出て、燃え盛る。
そしてしばらくしないうちに――爆発した。特大の火柱が発生し、周囲を燃やし尽くす。
視界が真っ白になった。
「あちあちっ!」
ロマがワタシのそばまで駆け寄ってきて抱き上げてくれる。そしてそのまま爆発から逃げ出した。
「防御系の魔法使わないでくださいね!」
広がっていく爆発から必死に逃げながら、ロマが叫ぶ。
「なぜだ」
「あんな超大魔法のあとに爆発なんて防いだら体が保たないでしょうが!」
「……ではこれでどうだ?」
ロマにエンチャントをかける。といっても、無理がない程度のわずかなものだが。
「最高です!」
そうして、爆発から逃げ切った。
周囲に何もない場所まで連れてきてもらって良かった。あの爆発規模だと村の近くでは甚大な被害が出ていただろう。
爆発が広がらずに煙だけとなったのを確認し、戦場を眺める。
何も、残っていなかった。
文字通りの焦土だ。
ロマを見上げる。安心したのか、ため息を吐いた。
「……その、ロマ」
今回は好奇心などで済む案件ではなかった。体が育ちきっていないというのに相性の悪いストーム級はさすがに無茶だったというわけだ。
こいつがいなければ、良くて相打ちだったろう。
「ありが――」
だからお礼を言おうとした。
だが、言葉が続かなかった。
ロマはワタシを抱えたまま、後ろに倒れたからである。
「……ロマ?」
体が熱い。ワタシも、平熱よりは発熱をしてしまっている。魔法使用による体のオーバーヒートだ。
だが、ロマはそれ以上だった。
汗まみれで、顔を確認しようと拭うと、汗が出ない。
汗が出ないということは、体の水分が……。
「……おい、ロマ。しっかりしろ」
「あい……」
手が上がる。
「……逃げ遅れたな?」
ワタシの魔法か、それともさっきの爆発か。
「普通に逃げれば良かっただろう! 死にたくないのではなかったのか」
周りを見ながら叱責する。する立場ではないのはわかっている。わかっているが、言わずにはいられなかった。
「あ、いや……さすがにアンタひとりにするのはなって……」
「……あほうが」
後方……距離があるが、幸いなことに川が見えた。事前に確認していた地図を思い返すと戦っていた場所から結構離れていたはずだが、それほど爆発の規模が大きかった、ということである。
身体強化をかける。
ぐったりとしたロマの体を抱え上げる。
「川が近い。しばしこらえろ」
「いや嘘はいいっすよ」
「あほ。本当だ」
「……マジなら、川の横の地面掘れます?」
「掘ってどうする」
「地面に水分が染みてるんで、掘ったら水が出ます。最初は濁ってますが、そのうち落ち着くんで、川の水直飲みよりはマシ……」
「よしもう喋るな」
なんでそんな知識あるのかは知らんが、四の五の言ってる暇はないし、言わせるわけにはいかん。
ワタシは川へ急いだ。