特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです   作:月待 紫雲

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16話 星空の下

 目が覚めると満天の星と、オレをジトっと見ているエルゼ王女の顔があった。

 

「起きたか。どうだ、調子は」

 

 喉は渇いていない。体の熱も引いている。手を上げてみると、何ら問題なく動いた。脚の感覚もしっかりある。

 

 夜風が気持ちいい。疲労のせいか体がひどく重く、このまま横になっていたいが。

 

「……あの」

「なんだ」

「頭の柔らかいのはなんです? 布?」

「ワタシの膝枕だ」

 

 ニッコリと返された。

 

「……恋愛小説の影響でも受けました?」

 

 王に見つかったら死刑ものでは。

 オレの問いに、エルゼ王女はニッコリとしたまま、思いっきり頬を叩いてきた。

 パチンという音の後、細い指が頬にめり込む。

 

「キサマが、いつまで経っても起きぬし!」

 

 ぐっと顔を近づけられる。

 

「ずっと近くで顔を見てないと生きてるかすらわからなかったからだ!」

 

 唾が飛ぶ。

 

 きたねぇ……。

 

「それはまぁ……サーセン」

「今は褒美だと思っておけ。こんなキレイな星空の下で王女の膝枕を堪能できるんだぞ」

「いやぁエルゼ王女の年齢と地位的に喜べないというか」

「あん?」

「……大変光栄にございます」

 

 ふん、と鼻を鳴らされる。

 怖い。

 

「……今回の働き、見事であったぞ」

「そりゃどーも」

「お主がいなければ死んでいたやもしれん。だから――」

 

 エルゼ王女は頬に手を添えたまま、濡れた瞳を向けてくる。

 

「ありがとう」

 

 心の底から、といった感じだった。普段からは到底想像できない姿に、言葉を失う。

 

「……しかし、どうしてファイアードレイクなんか出てきたんでしょうね」

「巣が近かったのか、通りすがったのかわからんが、襲ってきた理由は――ワタシだろう」

 

 その呟きは、悲しげだった。

 

「魔物が魔物と呼ばれる最たる所以はわかるか」

「知りません」

「魔物はある程度魔力を知覚できる。そして――魔力を()う」

「つまり、王女サマというごちそうを食いに来たと」

「そうだ」

 

 え、じゃあ魔力に釣られるのって脅威判定じゃなくて、獲物喰いに来てるってこと?

 

 やば。

 

「運が悪かったのはそうだが、ワタシが引き寄せた結果だ。だからワタシの責だ」

「願ったり叶ったりじゃないですか」

「そうだな。しかし、都合のいいことばかりではないのは今日、身にしみてわかったのではないか?」

 

 死ぬほどわかりました。

 

 普段は血に飢えた戦闘狂に見えてるけど、本当は結構苦労抱えてるのかもな、この王女サマ。

 

「あれ……じゃあオレは?」

 

 オレも魔力量はある方だろうから同罪では?

 

「徐々に体を慣らしていって魔力量が上がっていくのと、最初から膨大な魔力を有しているのでは魔力の見え方が違うのだろう。お主は前者で隠すのも上手い。だから別だろう」

 

 うーん、デカくて狩りやすそうなやつが狙われるってことか?

 

 まぁオレも魔力を持て余してるやつと制御できてるやつどっちか選べって言われたら前者選ぶけど。

 

「……なぁ」

「なんです」

「お願いがあるのだ」

 

 真剣な眼差しで、言われる。

 

「この状況で叶えられる望みですか」

 

 体動かないぞ。

 

「――七影の書。どこまで行ったのか、教えてほしい」

「…………」

 

 黙り込む。

 理由は2つあった。

 

 ひとつは、ストーム級を相手にしておいてお頭が四影だったんですよとは、もうどう考えても言えないこと。

 

 もうひとつは、好奇心に満ちた問いではなく、年相応の少女の顔で、教えてほしいと願っているような、そんなエルゼ王女の姿だった。

 

 ――ため息を吐く。

 

「七影まで倒しましたよ。一応、当てにならないレベルで」

「なんだその胡乱な言い方は」

「七影の書の進行具合って自己申告制なんすよ」

「外部からの確認手段がないからか」

「はい。で、オレが三影を倒せたと自己申告するまでの期間が他のやつより断トツで長かったんです」

 

 ノロマのロマ。それがオレだ。

 

「なぜだ」

「そりゃ、100回やって100回勝てるようにしたからですよ」

 

 エルゼ王女はぽかんと口を開けた。

 

「あれは連戦方式だろう」

「そうです、一影から七影まで。勝てるとこまでやる」

「100回やって100回勝てるのは何影までだ」

「六影です」

 

 まぐれで負ける。そんなことがありえないようにした。徹底的にやった。途中から楽しくなっていたのかもしれない。相手を見て、対策を考えて、通じた瞬間というのは達成感はあった。

 

 七影の書の戦闘時間は現実には影響しない。だからやりこんだ。

 

 エルゼ王女はじーっとオレを見たあと、盛大に息を吐いた。

 

「なんです?」

「いや……そばに置いた特任騎士が思ったよりもアホだったというか……異常者というか……戦闘狂はお主もではないか」

「失礼な。命のやり取りなんてまっぴらですよ。死にたくないから、楽に殺せるようにしたんです」

「アホすぎる……」

 

 仕方ないだろ。暗殺者になれっていうんだから。命のリスク無限大じゃん。殺し合いはありうるし、恨まれる可能性も大だし。

 五影倒したのバレたら頭にされるか、お頭に寝込みを襲われそうだから黙ってたし。いやだよ自分で手一杯なのに。

 

「いらないといったのは七影に勝てたからか」

「いえ。無理だから諦めたんです」

「無理?」

「七影は100回中、勝てたのは8回です」

 

 超絶まぐれ。

 マジ無理。コツとか対処がどうとかのレベルじゃない。頭でわかっても体が追いつかない。理解しても反応できない。そのレベルがずっと。

 

 だから限界だと悟った。それだけだ。

 

 エルゼ王女はオレを睨んだあと、また額を叩いてきた。

 

「いたっ。なんで?」

「なんとなくだ」

 

 ふい、とそっぽを向かれる。

 

「お主の、ファイアードレイクに使った魔法は?」

「七影の魔法の見様見真似っすね」

「通りで知らんわけだ」

 

 ぺちぺちと頭を叩かれ続ける。

 

 痛くないからまぁいいか。

 

 今は生きてるってだけで満足だ。

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