特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
焦土と化した大地。
近衛騎士団長マイロスは迫り上がった地面に足を乗せ、下を見る。眼下には巨大なクレーターができていた。先日まではなかったものである。
「これは……とんでもないことになったな」
この壮絶な光景の元凶。それをマイロスは調査していた。
クレーターの中心では、部下たちが必死にソレを掘り起こしている。
――その巨体を両断された、ファイアードレイクの遺骸を。
◯
いろいろあったが……ファイアードレイクとの戦闘から1ヶ月が過ぎた。
帰って王にこっぴどく怒られた。
一国の王女を連れてファイアードレイクと戦ったのだ。不敬罪とか問われても仕方がないレベルであった。いやメインで戦ったのはエルゼ王女だし、トドメ刺したのもエルゼ王女なのだけれど。
それでもオーレリア王が個人的にお怒りになるだけでお許しになったのは、ひとえにファイアードレイクという、国が滅んでもおかしくない脅威の討伐あってこそだろう。
焦土になった土地には今でもファイアードレイクの遺骸がある。肉は燃え尽き、外殻と骨が残るような形だ。あの爆発でのこる外殻と骨ってなんだよ。
その土地は「竜の
被害のほどはゼロではないもののかなり抑えられたこともあり、サディエル卿にはいたく感謝された。今後何かあれば必ず協力するとのことだった。何かあるか知らんけど。
罪が許されるどころかアホみたいな褒賞が与えられそうになったが、全部断って、戦闘した周辺地域の復興にまわしてくれと頼んだ。貴族の位とかいらないし、特任騎士で十分だ。
金もエルゼ王女からもらえるし。
褒賞の代わりに特任騎士を続けること、今後もエルゼ王女の好き勝手は通してほしいことをお願いした。だってエルゼ王女が暴れる機会ないとストレス溜まるだろうし。
「……あのエルゼ王女」
「なんだ?」
「いつまで持ってるんですかその新聞」
オレのつくったクッキーを頬張りながら、エルゼ王女は新聞を眺めている。
見出しにはこう書かれていた。
『王女の祈り、騎士を勝利に導く――今世の伝説、竜退治――』
全く、大げさに書いてくれたもんだ。
「いいじゃろ、何回読んでも。おとぎ話のようでいいではないか」
笑みを浮かべながらエルゼ王女が言う。
ファイアードレイクの遺骸は地中に埋まっていたものの、調査で掘り起こされ、解体しようにも解体できないため放置となった。
ということは、完全にファイアードレイクが倒されたという証拠が残ってしまっているわけである。
で、戦場にいたのはオレとエルゼ王女だけ。
詰んだと思ったね。
なにせオレの功績にしたら問題あるレベルの強敵を、オレが倒したなんて事実が広まったらシャレにならない。今まではまぁオレもそこそこやれるし功績になっても口止め料だよね程度で良かったのだが。
ファイアードレイクとの一戦を振り返る。
オレ、翼膜にちっぽけな穴。
エルゼ王女、両断して討伐。途中まで火力勝負。
もう力の差が明らかだよね。これでオレの功績になって、今後ストーム級の討伐に駆り出される口実にされたらオレは死ぬ。
基本エルゼ王女がいるだろうから、エルゼ王女に任せればいいんだが……まずエルゼ王女が戦っても問題ない状況に持ち込むのが難しいだろう。ストーム級相手なら大規模作戦になる。
終わったと思った。
しかしエルゼ王女はこうしたのだ。
『ロマのために祈っていたら、強力なエンチャントをかけることができたのです。きっと火の聖女のセンスが引き出した技でしょう。もう一度やろうとしても、全然できないのですが――』
そう。
ファイアードレイクをオレの自力じゃ倒せなかったことにしたのだ。そして、奇跡と呼べる「たまたまできたエンチャント」をでっちあげ、超絶パワーアップを遂げたオレが一刀両断し、ファイアードレイクの内燃器官が暴走して爆発した――ということになった。
ふたりで戦ったことは嘘じゃないし、再現性のない手段であれば、今後オレができない理由になるし、エルゼ王女が強力な魔法を使える可能性がある、と周囲に知らしめることもできる。
これによってオレは実力に見合わなすぎる功績を、かなり低リスクで得ることができた。あ、低リスクってのは将来的な、だからね。当時はほぼ死んだようなもんなんだから。
というわけで、オレの心持ちはかなり軽い。
エルゼ王女は、ミルクティーとクッキーを楽しみ、オレは読書。平和である。
オレらには今、長い休養期間が与えられている。人の噂もなんとやら。ファイアードレイク周りの騒ぎや興奮が落ち着くまで、というものだ。よってすることも特にない。
休養期間中に暴れてまた騒ぎになっても困ると思っているのか、エルゼ王女はおとなしい。
面会や交渉は希望が来るが、王が間に入ってくるのでどういうものかこちらで確認し、断れば許されないことになる。
エルゼ王女は右足を椅子に乗せて、自由気ままな姿勢でいた。右足だけ靴を脱いでいる。
「座り方、はしたないのでは」
「今まで上品に王女でいたのだ。戦えもしないし、しばらくは目を瞑れ」
様々な調査や評価が落ち着き、猫を被り続けなくてよくなったからか、非常に機嫌がよろしそうだ。
「お主はほしいもの、ないのか?」
「なんです、突然」
「いや、今回お主は何も得てないと、改めて思ってな」
「断りましたからね」
国からの褒賞なんて面倒しかなさそうだし。
「莫大な資金を受け取って雲隠れとかできたのではないか。ワタシの特任騎士でいなくとも良くなるぞ」
「いや別に嫌々特任騎士になったわけじゃありませんし、良いですよ」
エルゼ王女は目を見開く。
「嫌ではなかったのか?」
「そりゃ嫌ならもっと全力で逃げたりしますよ。こんなくっちゃべりませんって」
「そ、そうか。安心安全が手に入るのであればそれでいいとばかり」
「十分安心安全っすよ。王女サマが暴れなければ」
実際ファイアードレイクの一件から平和だし。
「なるべく楽にやりたいとやりたくないは別なんです。まともな親善試合とかなら全然やりますよ」
この間のはまともじゃなかったからね。
「よくわからんことをいう」
エルゼ王女には伝わらなかったのか、ムスッとされた。
「しかしまぁ――お主が地位や立場に固執せずワタシに従うのであれば、それでいい」
「いや特任騎士には固執してます」
「……は?」
「特任騎士しかやりませんよ。王女サマについていくだけでいいんでね」
考えなくていい。楽である。ちょっと考えない代わりに任される仕事が重たすぎる感はあるが。やれなくないし、ファイアードレイク以外。
「今更違う環境に慣れろっていうほうが手間で面倒くさいですよ。多少の無礼も許されるし、貴族うんぬんも気にしなくていいし」
オレの言葉に、エルゼ王女は唖然とした。それからクスリと微笑む。
「変なやつだ」
エルゼ王女に言われたくはない。