特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
繰り返すが、ワタシは戦いたいという欲求をあまり快く思っていない。
力を振るうことが好きだ。相手を徹底的に叩きのめすのも、強敵を見つけたいいようのない高揚感も好きだ。
ファイアードレイクの一件はまさに僥倖と言えただろう。
己の火属性魔法で、火を扱う竜を倒す。たまらない優越感ではあった。いつまでも興奮が冷めなくて、新聞を何度も確認してしまう始末である。
捏造されたこととはいえ、事件を思い出されるには十分すぎる。
それがまとめて――嫌でもあった。
矛盾した感情。
半端な前世の記憶と、王女としての今の自分。どちらかに振り切れたら楽だったのかもしれない。
欲望を押し込んで、おしとやかに演技する毎日。
欲望に素直になって、快感に身を任せる毎日。
どちらも望んでいて、どちらも嫌だった。
「なぁ、ロマ」
「なんです」
相変わらず読書をしているロマを見る。本にはケーキ作りのことが書いてあるようだった。
「……ケーキにまで手を出すのか?」
「お嬢様と言ったらケーキでは」
「何だその偏見は」
「お嫌いですか」
「大好きだが」
確かに菓子をつくれるようになれと冗談で言ったが本気にするとは。このクッキーも美味いし。
こういうのも、攻略者の攻略の範囲内だったりするのか? 謎のセンスだ。
得体の知れない自分が気持ち悪いと思うときもあるが、こいつも大概得体が知れない。
「お主、ワタシが前世の記憶があると言っていたのを覚えておるか」
「覚えてなくても身にしみてますよ。ファイアードレイク相手に火属性魔法使って討伐なんて見せられちゃあね」
「お主はワタシを戦闘狂というが、その記憶由来で欲求があるだけで、そんなに好んでいない……といったらどう思う」
ロマはこちらを見た。本を閉じる。
「つまり?」
「生きるために食事はせねばならぬだろ? で、好みがあるから美味いと感じることもある。が、食事が嫌い。そんな感じだ」
内心の話をロマにするのは初めてだった。
「ま、難儀だなと思いますね。ちなみになんで好きじゃないんです?」
「快楽に溺れるのは、卑しいと思わないか」
「はー、ノブレス・オブリージュとか気にしてるんですね」
「気にしてるというわけではないが、いや、気にしているのか、これは」
王女としてあるまじき姿。周りの期待とは違う、己の本性。
「ってことは、ときどき民がどうのって言ってたのも本心ってわけですか」
「当たり前だ」
この国の人間がどうでもいいわけではない。強さを隠すのも恐れられたり、そういうものが怖いと感じるからだ。
「力は振るうべきときに正しく振るわれるべき、本来であればそうではないか?」
「は?」
何言ってるかわからないと言わんばかりに、声を発される。
「なんだ、違うのか」
「使えるんなら好きに使えばいいんですよ。オレは死にたくないから使ってるし。そんな大層な理想主義みたいな理由で使ってないですわ」
「獣と変わらなくなるぞ」
「別に戦うことだけが好きってわけじゃないでしょ。甘い物とかしっかり好きだし。子どもっぽいところはわりとあるんですから。普通にお子様ですよ」
「……へ?」
今度はワタシが驚かされた。
子ども……? ワタシが?
確かに成人はまだだが。しかし、前世の知識はあるし、こんな口調であるのに?
「ちょっと待て。お主、ワタシを化け物とかそういう風に思ってるわけではないのか?」
「いや化け物ですよ。戦いのときは化け物、今は子ども、王女やってるときもあるエルゼ王女。そんだけの話じゃないですか」
「今は子ども……?」
「ほら、口に食べかす」
言われて、口元を親指で拭い、舐める。クッキーの食べかすだった。
「文句は言いますけど好きにはやらせてるでしょう? 適当に魔法ぶちまけてすっきりできるならすればいいんですよ。正しさだの、高潔さだのは猫かぶってるときに気にすりゃいいんです。遊ぶなら気にせず遊んでください」
「遊ぶ……?」
今こやつ、ワタシの欲求解消を遊びと言ったのか?
「ゲイル級を斬り刻むのが?」
「エルゼ王女からしたら遊びでしょ」
「ファイアードレイクも?」
「新しい試みってやつです。ま、もう勘弁してほしいですけど」
言葉が全く出なくなる。
遊び。
考えたことなかった。欲求が強くあって、解消されたときの快感に溺れて、それがなんであるか考えたことが、全くなかった。
ストレス発散、欲求解消。説明するのに、それが適切だったというだけだ。
それをこやつ、遊びだと……?
ワタシが悩んでるのがバカらしいではないか。遊ぶことを卑しいだの、正しさがどうだの言うなんて。
「どうぞ暴れてください、オレの苦労しない範囲で。死にたくないので」
ロマは本を開いて読書に戻る。
…………なんだこいつ。
ワタシは開いた口が塞がらなかった。
人生で初めてかもしれない。