特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです   作:月待 紫雲

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19話 お祭りへ

 ある日、エルゼ王女は大変目を輝かせて、オレのところに飛んできた。

 

「ロマ! 変装できるか!?」

「は? なんで」

「城下で祭りをやっておるのだ! 露店を見に行きたい」

 

 拳をキュッと握って訴えてくるエルゼ王女。

 

「できますけど、オレの見た目は知られてないんで。するとしたらエルゼ王女だけっすね」

「そうなのか? では準備をする。共をせよ」

 

 まだ休養期間中ではあるが、外出禁止ではない。のびのびと外を楽しめるのであればいいことだろう。貴族の社交場ではなく、民の開催する祭りだ。

 

「承知しました」

 

 

 

 

 

 

 竜狩り祭。

 と、告知されていたらしい。

 

 オレがファイアードレイクを倒した(体になっている)ことを記念した祭りだそうだ。

 

 来年は盛大にやるらしいが、熱の冷めぬうちに簡易的にでも祭りを開いて英雄を讃えよう的なやつらしい。

 

 こういうのは英雄の功績なんてどうでも良くて記念日を口実に盛り上がれればいいので、オレとは全く無関係の事柄になる。

 

 隣ではエルゼ王女が鼻歌交じりに歩いている。髪にはブローチがつけられていて、それが赤髪ではなく、明るい茶髪に見えるような魔法をかけてくれていた。

 

 隠蔽魔法とか認識阻害の魔法を使えなくはないけど、変な違和感が残ったりして、祭りを楽しむのには向いていない。なのでこういうときは安定して決められた効果を付与できる魔法道具の方が良い。

 というか役に立たないんだよなぁ、あれ系統の魔法。オレには意味ないし。気配消せるし。

 

 街の大通りには露店がこれでもかと並んでいる。食品や雑貨などが売られていた。

 

「おー串焼きがあるぞ」

 

 エルゼ王女が指をさした先には専用の器具を使って肉を焼いている店があった。薪台の上に串をさせるパーツがついていて、串を定期的に回している。焼くというよりは燻しているようだった。時折、肉汁が薪に落ちて音を立てて煙を出す。香辛料も相まって、肉の焼けるいい匂いがした。

 

 大人気なようで、結構な人が並んでいる。誰だって肉食べたいよな。

 

「食べたい。並ぼう」

「承知しました、王女サマ」

 

 オレの返事がまずかったらしく、太ももを殴られる。地味に痛い。

 

「おい、その呼び方はやめんか」

「ノリでつい。というかなんて呼べばいいんです?」

「そうだな」

 

 腕を組んで考え込むエルゼ王女。考えてなかったんかい。特に聞かなかったオレも同罪ではあるけど。

 

「リーナで良い」

 

 指を立てて安直な提案をしてくる。エルゼリーナからリーナを取っただけだ。

 とりあえず並ぶ。

 

「堅苦しい口調もいい。素の言葉遣いにしろ」

「いやアンタと過ごしてる時間が大半だからどっちも素だよ」

「そういえばそうだな。ほとんど一緒だ。というか、お主がひとりのときってだいたい本を読んでおらぬか」

「書庫があるから読むものに困らないし」

 

 政治には興味がないが、小説だの、料理本だの魔法書だの、無駄な広さに見合った種類の豊富さのおかげで学べるものも多い。王国騎士の剣術本なんかもあったな。おかげで把握できた。

 

 高価な本は持っていけないが、だいたいの本は借りていける。ちょこちょこ借りて読んでいた。

 

「もしや、本目当てでワタシに仕えてるのではないか?」

 

 じーっと横目で見られる。

 

「本がメインだったら菓子作りなんて学ばないんだけど」

 

 特任騎士だからね。

 ……あれ。菓子作りは騎士の仕事だったか?

 

「ケーキも楽しみにしておる」

「期待はしないでくれ」

 

 そんな会話をしていると、オレらの番が来た。

 

「串2本ください」

「あいよ!」

 

 提示された料金を財布から出し、店員に渡す。串は2本ともオレに渡された。

 

「まいどあり〜」

 

 店から離れながら軽く匂いを嗅ぐ。片方にかぶりついた。

 うん、ちゃんと火が通ってるな。エルゼ王女の分は、オレが今食ったやつより火に近かった串だから大丈夫だろ。

 

「どうぞ」

「ありがとう」

 

 エルゼ王女は串を受け取ると豪快にかぶりついた。笑顔で頬張る。

 

「んー美味い。食べ応えも抜群だ」

「これだけで満足するかもな」

 

 串は木を削ったもので、処分先も露店のゴミ箱に入れればいい。足を止めて肉を楽しむ。

 

「お主は祭り、好きか?」

「んー、いや。祭りをまともにまわるのが初めてだから知らないわ」

「ほぅ、良かったな。初めてがワタシとデートだぞ」

「そう言われると、そこはかとなく犯罪臭がするからあんま喜べねえ」

「あん?」

「いや、年齢」

 

 アンタ子どもでしょうが。

 エルゼ王女は俯いて、肉を眺める。

 

「……もう少し大人になったら喜ぶか?」

「成長してるんならもっといい男見つけてくれ」

 

 いつまでも王女サマが、元暗殺者をデート相手に選ばないでくれ。女性が付き合う相手として、お世辞にもいい男と言えないぞ。最悪の部類だ。

 

「難しいことを言うな。お主ほど都合の良い相手はおらん」

「んーまぁ、否定しづらい」

 

 都合良い相手としての特任騎士だからな。

 

「祭りが好きとかどうかまではよくわかんないけど、こうして外出する分には良いと思うわ。魔物いないし」

「そういえばそろそろ休養期間が終わるな。東のほうにトロールの集団の目撃情報がある。楽しみだな」

「おい今魔物いないしって言っただろ。次行く気満々じゃねえか」

「お主が良いと言ったんだ。いつまでも付き合え」

 

 食べ終わった串を振りながら、エルゼ王女は目を細めた。

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