特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
『エルゼリーナ王女殿下の特任騎士、ロマ。アイアタルを単独討伐』
エルゼ王女に渡された新聞。その紙面を眺めながら、オレはため息を吐いた。
「さすが平民の希望。
気色の悪い営業スマイルで言われる。
というのも今は王女教育の最中。エルゼ王女もオレも住んでいる城。つまり日常生活の中では、エルゼ王女は猫をめちゃくちゃ被っている。
今は帝王学を学んでいる。まぁ、礼節、歴史、倫理観などをまとめてそう呼んでいる。総合的に座学で学んでいる状況になる。
今私語が始まったのは休憩時間だからだ。
オレは護衛兼不当な教育またはサボりがないか確認するための監視役でほとんどエルゼ王女についている。
なんでかオレ単独の付き添いが許されている。正気かここの王族は。
まぁ、あの事件のせいではあるのだが。
「あの恐ろしいアイアタルを単独で、とは。さすが英雄ですね」
エルゼ王女の教育係にはうっとりした目で言われる。
いやそんな大層なもんじゃない。だってこいつの欲求不満に付き合わされてるだけだし。
まぁ王女がやらかしたことはほぼオレのやらかしたことにしているので、否定を口には出せないのだが。
「私の勇者サマですから」
エルゼ王女が「私」を強調しながら言う。
特任騎士になってからというもの、やたらとこの私だけの勇者サマを強調する。今じゃすっかり姫と勇者のセット扱いだ。
「アイアタルは強敵でしたか」
「いえ。まー……そこそこですよ」
オレは無惨に切断されるアイアタルを見てただけだし。なんだよあの高熱ファイアーソード。火の魔法として野蛮すぎるだろ。
「明日は王女殿下の才定の儀ですね」
あまりこの新聞を話の種にされても困るので話題を変える。
「どうですね。どんな
「エルゼリーナ王女殿下のその髪は火のセンスによるものでしょうから、その系統なのは間違いないでしょう」
人間には
王族、貴族が一定の教育を修了し、12歳になったタイミングで受ける。
そう。
第三王女であるエルゼ王女はあんなに凶暴なのにまだ12歳。将来が恐ろしい限りである。癇癪で国を滅ぼさないよう祈っておこう。
「今失礼なことを考えませんでした?」
「いえ」
ちなみにオレは貴族じゃないので自分のセンスを知らない。当たり前だけど王族でもない。
とにかく、この儀式によってセンスの特徴・強さを示す概念言語が抽出され、センスの明確化がなされる。エルゼ王女の場合は火の魔法をよく使うし、「火の魔法使い」だとかそんな感じだろう。
強いセンスは性質の一部が容姿に反映されることもある。エルゼ王女の赤い髪と瞳がそれだ。
だから「炎帝」だとかもっと強いセンスになる可能性はある。だいたい強そうな言葉が並んだら強いセンスだ。
「私もそうですが、ロマのセンスも楽しみですね」
「そうそう――オレのセン――なに?」
「ロマは貴族出身でもないので、受けたことがないでしょう? なので申請しておきました。私のついでです」
ワタシが気になるから受けとけ、と言いたいのだろう。ニコリと言われた。
「いや、そんな……才定の儀を受けるなんて恐れ多い」
しかも王女と一緒だぞ。貴族でもねえやつが。いや特任騎士という位はもらったけどさ!? 血統がないじゃん。
そんなオレの気持ちなど知らずに、教育係は強く頷く。
「特任騎士のロマ様のことです。きっと剣士系……剣帝……もしや剣聖誕生ということもありえるかもしれません」
ありえません。
「センスがどうであれ、すでにロマは私の勇者サマであることに変わりはありません。重要なのはセンスよりも今の強さですわ」
センスは無限にある。
オレのセンスが「パン職人」である可能性だってある。センスとは習得せずとも発揮できる能力であり、その能力の幅も結局大小様々だ。
期待されることはあれど、オレそのものの評価が落ちることはないだろう。
ま、今のオレの評価はエルゼ王女が暴れたことを隠した結果なので、落ちて構わないのだが。
◯
城の才定の間と呼ばれる場で、二人並ぶ。完全に並んでいるわけではなく、ちょっとだけオレが後方にいる。
本日はエルゼ王女の大事な才定の儀の日……とおまけでオレも才定される日。
つか、マジでセットなのかよ。
中央には水晶が乗る台と、それを操作する術師が立っている。
両サイドには席が設けられており、国の重鎮や、王が座っていた。王は鋭い鷹のような目をこちらに向けている。
やりづれぇ……。
「ではこれより第三王女エルゼリーナ様とその特任騎士ロマの才定の儀を行います。まず、特任騎士ロマ、前へ」
「はっ」
姿勢を正し、水晶へ向かう。
前座なのでしょぼくていいだろう。変に周りを期待させる
――いや手柄の方は本当は王女様のやつだけど。
「手をかざしていただけますかな」
言われた通りにする。
右手に何か吸い付くような感覚がした。手が水晶に張り付く。ちょっとくすぐったいな。
しばらくして水晶に黒い文字が浮かぶ。
「…………はい?」
術師が首を傾げる。オレも首を傾げた。
浮かび上がった文字に、困惑する。
剣士じゃない。魔法使いだとか、パン職人だとか、掃除屋だとか……暗殺者だとかでもなんでもない。
「何が出た?」
王が険しい顔で問うてくる。
「特任騎士様のことだ。きっと素晴らしいセンスをお持ちなのでしょう」
言い出したのは、確か……騎士団長のおじさんだったか。たまに睨まれるから覚えてる。
「いえ……」
術師が口ごもる。
「……あの、攻略者ってなんでしょうか?」
攻略者。策士だの軍師だの、そういったものではなく、攻略者。
さっぱり言葉が何を意味するのかわからない。攻略が得意ってこと? どういう風に?
「ロマにぴったりですね」
エルゼ王女の明るい声が響く。
「王女殿下。もしかしてこのセンスをご存知で」
「いいえ。さっぱり」
じゃあなんでぴったりとか言い出したんだよ。
「でもしっくり来ます。あなたは攻略者ですわ。まごうことなき、
「……ふむ、わしも長年他人のセンスを見てきたが、記録でも見かけた覚えはないな。ま、実績を上げているのは確かだ。センスの詳細が知れぬのは残念だが、我が娘にとって頼もしい存在であることに変わりはない」
「ソ、ソっすね」
王様のフォローが心に染みる。
オレは手を離し、エルゼ王女に道を空ける。
「では、話が主。王女殿下。余興は詰まらぬ結果となりましたが、メインは貴女様。才定をお受けになってください」
「はい」
エルゼ王女が水晶の前に出る。そしてオレと同じように手をかざした。水晶に手が張り付く。
そして水晶の中が燃えた。
燃え盛る水晶の中で文字が浮かび上がる。
センスは基本1つ。しかし例外もある。ダブルだのトリプルだの。天は、この王女サマに二物どころかいくらでも与えてやがる。
「失礼します。エルゼリーナ王女殿下のセンスは――2つあります!」
歓声が上がる。
「1つは火の聖女です!」
才定の間の騒がしさが一層強くなった。
火の聖女。男では聖人と呼ばれる。火という概念で呪いなどを浄化、傷の治癒、結界生成など何でもできる。
火の魔法に関係する才としては最もオールマイティーかつ強力なセンスだろう。
まさかアイアタルをファイアーソードで細切りにした王女サマのセンスが戦闘特化じゃなくて万能系のセンスだったとは……。
というかもう1つあるんだよな。もうもう1つがどんなにしょぼくてもお釣りが来るだろ。
「も、もう1つが……」
術師の声が震えていた。
「もう1つが、け、剣帝です!」
剣士のセンスの中でも上位のセンスだった。神に愛されすぎだろ。
剣士、上級剣士、剣帝、剣聖、剣神。並べると真ん中だが、ほとんどの剣士がよくて上級剣士のセンスだ。剣帝は名の通り、剣で「王」となれる才。そして剣帝以降はセンスではなく称号としても扱われるレベルだ。センスがなんであれば、ずば抜けて強い剣士になれれば剣帝などを称号として与えられる。
剣聖は世界にひとりいるかわからない。剣神は神話にしか出ない。
ということで最上位といってしまっていいのだ。
センスを確認して湧き上がる周りの人々。それらとは裏腹に、エルゼ王女はつまらなさそうだった。
しかし、そんな表情は一瞬で、エルゼ王女はオレを見る。
「剣帝のセンスがあるなら、ロマに教わらなくては、ですね」
エルゼがこちらにウィンクする。お嬢様っぽい仕草が実にわざとらしい。
――ていうか、オレが教えられることなんてなーんにもないぞ!?