特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
エルゼ王女と祭りをまわる。
フルーツジュースを飲んだり、チーズパンを食べたり。
今己を振り返ってみると、こうやって生きていることが不思議に思える。
暗殺者時代は死にたくないだけだった。必死に技術を貪って、必死に知識を貪って、気がついたらお頭より強くなっていた。
暗殺稼業から解放されるのならお頭を殺して逃げても良かった気もする。だけど長年暗殺者の生き方しか知らなかったし仕事は勝手に入ってくる。
メインを味方に任せて適度に働けば、とりあえず生活には困らない。
慣れた生き方。
殺した人数を考えれば……というか人を殺してる時点で超大罪人だ。毛ほども罪悪感はないけど。
だって生きていく上で必要だったし。
殺した中には命を賭して仲間や主人を守ろうとした人間もいた。
どうしてそんなに必死に守ろうとするのか意味不明なほどに。
理屈はわかっても感情では理解できなかった。大事なものがなかったから。
「お主は食べたいものとかないのか」
聞かれて、エルゼ王女の顔を見る。
──そういや命がけでやったこと、最近あったな。
食べたいものなんて言われても出てこない。適当にブラブラして、楽しげにしているエルゼ王女を見て、特任騎士として仕事ができているなと思う。
それで十分というか。
「こうしてまわれれば満足ってやつだよ、リーナ」
「なんだそれは」
「いや本当に。というかもう十分食べたでしょ」
「ワタシはあそこの蒸しパンを食べたい。甘くておいしそうだ」
「話聞いてた? いいけど」
まぁ、感謝してるよ。
誰かとこうして祭りをまわることなんてないし、どうでもいい会話をいつまでも続けてもいい相手ができるとは思わなかった。
淡々と人を殺して、殺し続けて、最期に報いを受ける。なんとなくそんなつまらない人生だと思ってた。
オレが暗殺者だったことを感謝するとしたらアンタとこうしていられるようになったことと、アンタ以外なら気にせず殺せることだ。邪魔者は暗殺者として排除できる。簡単なことだ。
王女サマは大変そうだからな。敵も多そうだし。いざってときに殺しに行けるのはでかい。
特任騎士の地位のおかげでみんな剣士だと思ってるだろうし。不意もつける。
祭りの賑わいに、オレらの会話は残らない。だから気にせず会話した。
「お主も少しは無理を言ってきてもいいんだぞ」
「王族に無理という概念があるので?」
「当たり前だ」
何言ってるんだ、といった風にこちらを見て、蒸しパンを頬張るエルゼ王女。
「希望があるなら言え。お主も民なのだからな」
真っ直ぐに言われる。
「全く、祭りに来たというのに付き添うだけではないか」
「いや付き添いだから」
アンタは子どもで王女。オレは特任騎士。
「贅沢できてるよ。だから満足」
「そうか? ならいいが。お主そんな笑わないからな」
「感情出したら仕事にならない身だったもんでね」
「その割には文句ばかり」
「今はもう違う仕事なんでね」
「無敵か?」
「だいたいアンタだってあんま笑わなかったらしいじゃないか。猫かぶり」
「今は笑っておるじゃろ」
「よく笑ってる」
戦うときとか甘いもん食べたときとか、今とか。
「だからお主もそうなれ」
「……前向きに検討します」
「しないやつじゃなそれは」
ジトっと睨まれる。
「試しに今笑ってみようか?」
「そうだな。してみろ」
ニコッとしてみる。
エルゼ王女はこっちに近づいてのぞき込んできた。マジマジとオレの顔を観察し、勝ち誇った顔をする。
「下手くそ」
「……そっすか」
その日はヤケに、時間が過ぎるのが早かった、気がする。