特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
休養期間が終わって。
オレとエルゼ王女は酒場に来ていた。オレたちの周りは誰も彼もが武器を持っている。
冒険者のための総合施設。
危険地帯に用意される、冒険者向けの簡易ギルドという施設だ。ダンジョンだの、危険区域の定期的な魔物討伐を行うため、入口と呼べる場所に設営される。
人食いの森なんかはかわいいほうで、各地に魔物のはびこる危険地帯というのは多く存在する。
魔物たちが人里に降りてこないよう、その場で数を減らしたり、人の脅威を思い知らせることで学習させ、人里に降りないようにするのが目的だ。
迷い込んだり、通りがかった人にも酒場や宿は利用できる。
「トロール、楽しみじゃの」
エルゼ王女は肉をパンで挟んだものを頬張りながら言う。楽しみなのはエルゼ王女だけなんだが。
「戦ったことあるかの? お主は」
「冒険者じゃないんでないっすよ」
トロール。
全身毛むくじゃらの凶暴な魔物だ。大木を武器に担いでいることもあるらしい。驚異的な傷の再生速度と、そもそもタフなので、1匹だけでも骨が折れる相手だという。
弱点は首……いやだいたいの生物そうだろ。
それが近頃、この辺でよく見かけるらしい。
「――おい」
いきなり声をかけられる。オレが目を向けると、冒険者らしき人物が4人並んでいた。全員フル装備である。
「今トロールがどうとか言ってたけど、まさかイバラの森に入るつもりじゃないだろうな」
「そのつもりじゃぞ」
冒険者のリーダーらしき男の言葉に、エルゼ王女は即答する。ちなみにエルゼ王女はフードを被っているし、髪色を変えるブローチがあるので外見で王女とバレる心配はない。
「あのね、お嬢ちゃん。どんな理由があってきたのかわからないけど、イバラの森は危険なの。君みたいな子が入ったら死んじゃうよ」
弓を背負った女性が、優しくエルゼ王女に話しかける。
「アンタ、この子の親か」
「いや、保護者ではあるけど」
「何しに来たんだ、ここに」
エルゼ王女を見る。ニッコリしているだけだった。
「トロール見たいらしいから、見せに」
だって戦うのオレじゃないし、建前上は視察の意味も兼ねてる。
「ふざけてんのか」
リーダーが眉間にシワを刻んで言う。
「子ども連れ込んで、トロール見せたいだぁ? 魔物を舐めるのも大概にしろよ」
冒険者からすれば命がけの相手を「遊びに来ました〜」と軽いノリで来たらそりゃキレるだろう。
オレは腰からショートソードを抜いてリーダーの首筋に当てた。
「なっ……」
周りが一斉に臨戦体勢に入る。オレは立ち上がって、周りを確認する。
「今のが見えてたなら合格にしてやるよ。見えてないなら口出ししてくるな」
こういう場は実力主義だ。あれこれ理屈をこねるよりオレのほうが強いと思わせたほうが変にあれこれ言われなくて済む。
「でも、この子はアナタほど強くないでしょう?」
いやオレよりめっっっちゃ強いです。
「アンタらの許可なんて必要ない。死ぬときは死ぬときだ」
オレは死にたくないけどな。
「世間知らずに子どもを連れてるわけじゃない。アンタらの心配は最もだ。その上でオレらは問題ない。ご忠告どうも」
剣を納める。
冒険者たちはオレらを一瞥すると、全員顔を見合わせて頷き、そこから離れようとした。
「まぁ待て」
割り込む声があった。
そちらに目を向ける。割り込んできたとあれば当然冒険者だろう。
片刃の剣を腰に下げた女性だった。明るい茶髪に、軽装。布製の服の上から革鎧を、急所だけ守るように装着している。
立ち上がった彼女に、ざわめきが起こる。
「ジンジャーだ……」
「ゲイル級の、ジンジャー・ロレイズ」
へぇ。有名人ってわけね。
「イバラの森は我々の仕事場だ。そこへピクニック気分で子連れの旅人が入りこまれても困る。理屈はわかるか」
「とてもよく」
「であれば、我々の仕事場に入り込んでも問題ないという実力を示す必要がある。抜剣速度は中々のものだが、曲芸の範囲だ」
「……アンタ、あれ曲芸だと思ってんの?」
「そう思われても仕方がない、という話だ。アタシは興味が湧いたのさ」
好奇心に満ちた瞳が、オレに向けられる。
「少し遊ぼうじゃないか。なぁに、本気というわけではない。要はトロール相手でも対応できる実力を示せればいいんだ。いいだろ?」
ジンジャーはウィンクする。
オレはエルゼ王女に目を向けた。キラキラした目の王女が、うんうんと頷いている。
「軽く、ね」
露払いとか前座はオレってことですか。
ま、楽な相手だからいいけど。