特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
簡易ギルドの前で、向かい合う。
酒場にいた冒険者は全員観客として出てきていた。エルゼ王女はさっき忠告してきた冒険者に預ける体でそばにいさせた。
襲われてもどうせ返り討ちだし。最初にエルゼ王女を心配して声かけてきた奴らだから平気だろう。
「で、オレはこの剣で戦っていいのか」
「あぁ、構わない。アタシも真剣で行くからな」
模擬剣は都合よくあるわけないし、魔力防護でどうにかする方向だろう。さっきエルゼ王女に実験と称して火の加護魔法を付与された。まぁ、致命傷を肩代わりする防壁みたいなもんだ。
なのでオレは安心安全だ。どうせこっちも寸止めするし、命の危険はないだろう。
「ゲイル級冒険者、ジンジャー・ロレイズだ」
「ロ……スロウだ」
ロマだと特任騎士を怪しまれたり騒ぎになる可能性があるから、と。エルゼ王女から仮の名前を考えておけと言われていた。ノロマじゃなくてスローのスロウだ。うん、安直。
「じゃ、いつでもどうぞ」
「では遠慮なく」
何の気構えもなしに、ジンジャーはすらりと片刃の剣を抜くと、オレに迫ってきた。
踏み込みと同時に剣を振り下ろす。
それは抜剣ついでにそれを受けた。受け流す。
「抜剣術。興味深いな」
剣を絡め、左に移動する。右へ振り下ろすような動作で、相手の剣を巻き込みつつ下へ誘導。そこから身を翻して縦斬りをお見舞いする。
ジンジャーは半身になってそれを躱す。そのまま、反撃してきた。
……ふぅん。
受ける。反撃する。返される。返す。
ぶっちゃけどっちも勝とうなんて思ってない。ただ、剣速を競わせているだけだ。
「す、すげえ」
誰かの呟きが聞こえる。
「殺気がないまま振るう剣というのはどういう理屈だ」
「別に。斬れるもんを斬るって決心する必要ないでしょ」
「……面白いやつだな。どれ、これはどうだ」
速度が上がる。やることは変わらない。
「ふふ、顔色ひとつ変えないか」
囁きに近い、甘い響き。高揚を感じさせるその瞳と声。
やべ。こいつエルゼ王女と同類じゃん。
「ただの小手調べだろ。ここらで終わらせておこう」
「……そうだな」
1、2……ここらだな。
互いに剣を首筋へ向けて放つ。攻めに切り替わる瞬間も全く同じ。互いに首に剣の刃を当てている状態だ。
同時に剣を引く。
「もう終わりってことで」
「いや、これを受けきってもらわないとな!」
――風を纏った剣が唸りを上げる。
「技術は十分。が、魔物に刃を通せなければ意味がない」
高く振り上げたその剣は縮小された嵐のようであった。
「受けてみろ、スロウ!」
魔法を上乗せした攻撃ねぇ。避けてもいいんだが、魔物に対抗できるパワーを見せろって話だから避けたら意味がない。
オレは剣に魔力を纏わせた。
火属性だ。
火って証拠隠滅に便利だからね。オレも使える。当然、エルゼ王女みたいなアホバカ火力は無理だ。ま、純粋に魔力で切れ味強化したほうが強いんだが、わざわざ派手な技を相手が用意してくれたので、ほどよく派手にしようというわけだ。
魔力がぶつかり合い、魔力の火花を散らす。
しばらく力を拮抗させて、互いの魔法を消し合う。そうして、魔法を完全消失させ、互いに刃を当てあった。
沈黙が訪れる。
「……まだ何か必要?」
「いや、十分だ」
剣を引き、納めるジンジャー。それに倣って、オレも剣を鞘に入れる。
「惜しいな。冒険者ならパーティーに誘うのだが」
「悪いが、諦めてくれ」
親指でエルゼ王女をさす。
こちとら王女サマの面倒を見るので手一杯だ。
◯
宿の一室で、エルゼ王女は不満げにしていた。
「もっと派手に戦うかと思っておったのに……」
「あんなん周りが納得できる力量を示せばいいんですよ。ジンジャーとかいう冒険者も変にトラブルになるより、ちょっとしたイベントに見せかけたほうがいいと思ったんでしょ」
実際かなり丸く収まった。
「本気で戦ったらどっちが勝ちそうだ」
「知りません。斬れたらオレの勝ちです」
人間同士の戦いなんてどっちが斬るかでしかない。刃が届いたら勝ちだ。技量が高ければパワーの差は覆せるし、技量が足りなくとも、パワーがあれば覆せる。
なんでもありうるってことだ。
「それより明日はトロール見に行くんでしょう? もう遅いんですから寝ますよ」
「む。そうだな、早く寝よう」
ベッドに潜り込むエルゼ王女を確認して、自分もベッドに入る。そしてランタンの火を消した。
まぁ王女と騎士じゃなく、保護者と子どもなので、部屋は一緒だ。
エルゼ王女は気にしてないし、自分のことは自分でできる。着替えのときにはオレが外へ出るくらいだ。
さて、明日はエルゼ王女に戦ってもらいましょうかね。だってオレの仕事は暴れる王女サマを見守る仕事だから。
「おやすみ、ロマ」
「えぇ。おやすみなさいませ、エルゼ王女」
そうして夜は過ぎていく。