特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
ボコボコ殴られる。
「……ほう。便利だな、これは」
腕を組みながら、敵の動きを見る。イバラの木による殴打を全て「加護」で受けている。なのでダメージはゼロだ。
最近習得した魔法だ。ダメージだけではなく毒などの状態異常から体を守ることができる。防御できるものは多いが、その代わり耐久性は単純な防御系魔法に劣る。
しかしワタシの魔力なら問題ない。トロールの一撃もこの通り。ひたすら殴られ続けているのにびくともしない。
奥ではトロールコナが魔法を準備している。さっきよりも詠唱が長い。大技になるのだろう。
「あのー!」
後ろから声をかけられる。振り返った。
「なんか魔法試してるとこ悪いんですけど、絵面最悪なのと、心臓に悪いんでやめてもらえません?」
ロマに抗議される。といっても欠片も加勢するつもりはなさそうだ。良い良い。しかし、あまり家臣を心配させる主人というのも良くないな。
「ロマ。剣を貸せ」
「はいよ」
剣を投げられる。半分に折ってしまった剣を掴み、鞘に納める。姿勢を低めて、剣に手を置く。
少しだけ鞘から出して、そのまま魔力を注ぎ込む。鞘と鍔の間の空間から火が漏れ出した。
「ちょっとエルゼ王女!」
「なんだ?」
「意味ないって話聞いてました?」
「対人の話だろう」
それに抜剣術をやるつもりはない。
魔法は概念事象。生み出す事象が具体的であれば具体的であるほどその効果を明確にし、高める。
詠唱、魔法名を告げる。これがポピュラーな手段ではあるが、その他にもいろいろある。
「――――」
トロールコナが火の大玉を飛ばしてくる。それに合わせて、ワタシは踏み込み、同時に剣を抜いた。
抜剣術の動きで放つ、炎剣の斬撃波。
炎剣による広範囲攻撃がワタシの主題であって、抜剣術ではない。あくまで魔法を発動するための動きだ。
火の聖女のセンスも、剣帝のセンスも活かされる。ファイアードレイク相手の大技でもない。コンパクトな技だ。
炎が一瞬にして広がるように、周りのトロールも、魔法も、トロールコナもまとめて斬る。
上下を真っ二つにされたトロールがバタバタと倒れていた。
「……ふむ、こんなものか」
断面が焦げている剣を鞘に入れる。腰に手を当て、再生を待つが、一向に復活しない。
まぁ、傷口が焼かれているから塞がれて再生できないのであろう。
「……エグ」
後ろで、随分呑気な感想が漏れた。
◯
昨日のやつがトロールの群れと戦っている。
そんなことを聞きつけて、ジンジャー・ロレイズは急いで現場に駆けつけた。
「……これは」
トロールが全滅していた。
体を両断されている。周りに敵の気配もなく、またスロウと子どもの姿もなかった。
「いったい、何者だったんだ」
その後、イバラの森で、スロウたちの姿を見る者はいなかった。
◯
「いいのか、このまま帰ってしまって」
「いいですよ」
イバラの森を抜けて、城の方向へ歩く。あの後、すぐに帰ることを提案した。
「お忍びできてるのに、冒険者の目に留まってどうすんですか。目的のトロール戦ができたんだから万々歳でしょ」
あそこに留まるとジンジャー・ロレイズが面倒くさそうだ。エルゼ王女みたいに戦闘好んでそうだし、冒険者の中で目立つのは厄介に繋がる可能性がある。
このまま真偽不明でいなくなる。これがベストだろう。
「まぁ、お主がいいならいいか」
「帰ってケーキでも食いましょう」
「お主のか?」
「……まだ食べてもらえるようなレベルではないので流行りの店のを買いましょう」
「お主がつくったものならレベルなぞどうでもいいのに」
「せめて見た目だけでも整えられるようになってからで」
絶対店のほうが美味いし。のんびりティータイムして、城に戻ろう。
「帰り道でなんか面白いことないかのう? 強いやつが道を塞いでるとか」
「あってもいいですけど戦うのはエルゼ王女ですからね」
名声だとか、どうでもいいし。苦労はしたくない。
オレの仕事は基本的に王女様の戦いを見ること。
特任騎士であること、だ。
これからも、変わらないだろう。というか、変わらないでくれ。
死にたくないから。
ここで終わりの予定でしたが、続きがかけたので続きます