特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
……で。
しばらく王女サマはウキウキで魔物討伐に行ったり、通りがかりに襲ってくる賊をしばいたりと、好き勝手やっていたわけだが――数ヶ月経って、問題が起きた。
目の前にはめちゃくちゃ不機嫌そうなエルゼ王女が座っている。テーブルの上には書類。そして後ろには荷物。
「聖女修行かぁ」
天井を見上げて、エルゼ王女は気だるげに呟く。
聖女。
エルゼ王女の持つ、2つのセンスのうちのひとつ「火の聖女」。無論、何の訓練もなしに聖女としての魔法を何でも扱えるわけではない。扱うだけの素質があるというだけだ。
となれば、術を習得しなければならないわけだ。
聖女は
つまり、今のエルゼ王女の扱いは「聖女の素質あるけど、本物になってないよね」状態なわけだ。
で、明日修道入りするってわけ。
「お主、女になれぬか」
「無理です」
聖女の扱う魔法は信心さや、祈る心が肝要であるとされる。それを学び、聖女に関係する結界術、浄化と回復の魔法を覚え、聖女認定を受ける。
これがエルゼ王女に課せられたものというわけ。
ちなみに適当に講師を呼ぶ予定だったのが、ファイアードレイク時の「奇跡のエンチャント(嘘)」のせいでもっと本格的に学ぶべきという意見が出てしまい、こうなった。
「面倒くさい。清く正しく生活なぞ」
「猫かぶってどうにか切り抜けてください」
オレも規律に則った生活なんてまっぴらごめんだ。同行しなくていいって素晴らしいね。
「お主もついてこい」
「無理ですって」
エルゼ王女の世話になる修道女教会の規模はほぼ町だ。女性だけの町に居座れるほど甘くない。
いや、本気出したら行けなくもないんだろうけどそこまでして入りたくない。
だって絶対贅沢のぜの字も許されないし。安全でも安心でもない。
エルゼ王女は立場が立場なのと、センスを理由に聖女認定を受けることが目的なので、修道女や聖女に課せられるものはエルゼ王女には適応されず、魔法の習得のみに集中できるらしいが……贅沢は厳禁。暴れるのはもってのほか。
だって信心がないと習得困難な魔法だし、修道女として生きなくていいというだけで生活の制限はかかる。
お可哀想に。
「おい、今笑っただろ」
「いえ。そんなことは」
コホン。
定期的に城に帰れはするものの、聖女認定の中で一番下の三等聖女になるのに3年かかるそうだ。それだけ我慢しなきゃいけないし、猫かぶりもしなきゃいけない。
おいたわしや、エルゼリーナ王女殿下。
何なら修道女生活で綺麗な王女サマになってもいいんですよ?
……いや、やっぱ実際に目にしたらきもそうだから変わらなくていいや。
「なんかムカつくな。お主、豚の丸焼きの気持ちを味わってみるのはどうだ」
「それ殺されてるのでは」
殺意剥き出しで手を向けられる。それから急にしゅんとして膝を抱えた。
お行儀が悪い。
「……お主は、なんかないのか」
「なんかって?」
「ほら……その……寂しい、とか」
視線をあちこちに移動させて、呟かれる。最後なんてもう聞こえないレベルだった。
「……いえ?」
首を傾げる。
特任騎士をクビになるならまだしも、そんな月1くらいで帰ってこれるんだから寂しいも何も――
「――死ね」
――部屋が爆発した。
「――失礼」
なんかいつもより火力高かったな。斬ったけど。
抜いた剣を回転させて、納める。部屋の中を確認するが、飛び火はなさそうだった。
まぁ、たぶんオレの上半身が吹き飛ぶくらいの火力調整でやったんだろう。
オレの上半身が吹き飛ぶ火力にするな。
「明日には修行に行くっていうのに、この王女サマは」
「ふん」
腕を組んでそっぽを向かれる。
なぜかお怒りになられているようだ。
「というか、人にバンバン魔法撃たないでもらえます?」
「お主以外にやるわけないじゃろ」
いや、オレにもやるなよ。
「だいたい、お主だってへーきな顔で防ぎおって」
「露骨ですからね」
「露骨ぅ? ワタシの魔法がか?」
アンタ以外に誰がいるんだよ。
「起こりがわかりやすい。出る魔法は火属性。来るとわかってれば斬れますよ」
「起こりってなんじゃ」
「魔法を撃つ気ってやつです。殺気、やる気、食う気、何でも良いです」
指先が向けられて殺気があるんだから魔法が来る。来るなら斬る、そんだけだ。
「思考を見せたら対処は簡単ですよ」
「思考なんて見せとらん。変態が」
「動きで意図なんてわかりますよ」
なんで変態になる。下心なんて欠片もないぞ。いや、楽したいってのはあるけど。
「乙女の心を読むな」
「読まないとオレは今頃下半身だけの化け物になってますよ」
「……変態」
「いや化け物だっつったよな!?」
なぜかため息を吐かれた。オレが吐く側だろこれ。
「魔法が万一命中しても、影響が出る前に消すわ。心配なぞせず受けろ」
「なるほどそりゃ安心――ってなるわけねーだろ」
「お主はいつもワタシの魔法を斬るが、どうやってるのだ」
「どうって……斬ってるんですよ?」
「……また見て盗んだとか言い出すやつではあるまいな」
「あるまいなっていうか、オレは基本それでやってきてるんですよ」
「もういい。わかったわかった」
呆れたように手を振られる。
いつにも増して理不尽だ。
「ところで、お主に仕事を言い渡したいと思う」
「なんです、菓子作りですか? 今、ちょっとぼそっとしたスポンジケーキが限界ですよ」
「じゃあ、ふんわりつくれるように――――いや、そうではない。というか特任騎士だろ、お主は」
「いやアンタが習得しろって言ったんだろ」
「うるさい黙れ。そうではなくてお主には冒険者になってもらう」
…………。
「それも特任騎士関係ねーじゃねーか」