特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
「いや、大いに関係あるぞ」
薄い胸を張って、エルゼ王女が言う。
「ワタシが冒険者になれば民の悩みを直接解決しに行ける。無論、お主は連れて行く」
「じゃあアンタが冒険者になるタイミングでいいじゃないですか」
「3年も後の話かもしれんのに?」
冒険者の仕事が許されるのは、15歳。オレら一般人においての成人だ。貴族らは18歳。請け負う仕事の責が違うからだろう。
つまり12歳のエルゼ王女は冒険者の仕事はできない。
冒険者そのものに登録はできるが、依頼は単独で受けられないし、誰かに付き添って薬草採取とかそんな程度だ。小遣い稼ぎだな。
「先にストーム級になっておけ。それでワタシを釣り上げろ。上位の冒険者の推薦があれば昇格は容易なはずだ」
「つまり、自分がさっさと上のランクになって凶暴な魔物と戦いたいから、ズルできるように先に上にあがっておけ、と」
「そうじゃ」
「めんどくせー」
「言うほど面倒ではなかろう? お主はファイアードレイクを倒した男だぞ」
「冗談キツいっす」
ファイアードレイクを倒したのは、ア・ン・タ。
「別に王族や騎士が冒険者になってはいけないなどという法律はない。依頼を受けて危険に飛び込む冒険者。名を上げられるし、王族のイメージアップにも繋がる」
「それはエルゼ王女が民にとって良い冒険者になれたらの話でしょ」
「なれるさ。この見た目だぞ」
髪をかき上げるエルゼ王女。見てくれの話をしてるんじゃねーよ。
「今回の聖女修行で回復魔法もしっかり覚えれば多くの民の悩みを解決できるじゃろう。魔力は心配なし。冒険者に舞い込む依頼は民が何に困っているか事情の把握もできるし、予兆も感じられるだろう。魔物討伐なぞ、お主とおれば負けるほうが難しい」
魔物に関しては、確かにエルゼ王女に任せておけば全部終わる。
「しかし民の悩みも魔物倒してハイ終わり、ばっかりじゃないですよ」
「わかっておる。が、この城で書類とにらめっこしたり、愛想振りまきながらあちこち視察に行くよりよっぽど良い。ワタシは好き勝手したい。常々思っていたが、冒険者はぴったりだ。ファイアードレイクの一件で騎士と姫みたいに扱われたし、いいじゃろ? 旅する騎士と姫」
この王女、欲望に忠実すぎるだろ。
「政治は姉上たちがおるのだ。任せれば良かろう」
この姿を他の誰かが見たらあまりに嘆かわしくて涙がでてくるかもしれない。オレは貴族でもなんでもないから気にしないが。
「ま、ストーム級は無理でもゲイル級までは余裕だろう? 用意しておけ、ワタシが冒険者として動きやすいように」
あと、と。
エルゼ王女はニッコニコでこう言ってきた。
「絶対にワタシ以外とパーティーを組むなよ?」
「なんで? 一時的にならいいんじゃないか?」
だって少なくとも修行に出てる間はいないんだろ?
「ダメだ、ソロでやれ」
「んな無茶な」
「無茶ではない。やれ」
ニッコリしたまま、強く言われる。
「理由は?」
「必要か」
「できれば」
エルゼ王女は立ち上がり、オレの腕を掴んできた。
「共犯以外、邪魔だろうが。強さ的にも、事情的にも。それとも何か? ワタシ以外と組みたいと?」
なんでこんな詰められてんのオレ。
「まぁやるだけやりますけど、あんま期待しないでください。ゲイル級行けるかなんてわからないんですから」
「うむ。期待はしない。行けて当たり前だからな」
ハードルを上げるな。
◯
翌日。
城の前で、オレたちは王女サマの見送りに出ていた。
早朝。教会への莫大な持参金などを乗せた馬車数台と共に、エルゼ王女は旅立つ。他の従者と共に、オレはお見送りだ。
今回教会までの護衛はオーレリア王の近衛騎士団が引き受けてくれる。つまりマイロス騎士団長。今、お見送りされているエルゼ王女の近くで控えている。
「この度はよろしくお願いします。マイロス騎士団長」
一応形式上頼んでおく。
たぶんエルゼ王女はこんな護衛いらないと思ってるかもしれないが。今回は金品もあるしな。
ちなみにエルゼ王女が城に戻るときはオレが送り迎えをする。王女の身一つ守るだけなので。いや、戦闘になったらオレは見てるだけなんだろうけどね。
「何。貴殿ほどの騎士と比べれば心許ないかもしれないが、命に替えてでもお守りしよう」
いや、そこまでしなくてもいいけど。オーレリア王が困るだろうから命賭けなくてもいい。
「頼もしいです」
本当。
王の近衛騎士団長だぞ。これ以上の護衛いないだろ。
オーレリア王が近衛を動かすほど、エルゼ王女のセンスは価値があるってわけだ。
「ところで、王女サマが戦いに参加できます?」
マイロスが眉を上げる。
「なぜだ」
「適当な魔物程度なら無効化できるでしょうから。本人のためにも戦わせてあげてほしいんです。もちろん、できればで」
本人暴れたいだろうから。
「ロマ」
名前を呼ばれ、振り向く。エルゼ王女だった。両手で手を握られる。上目遣いで、寂しげにこちらを見てきた。
「
「楽しみにしております」
跪く。
ほら、王女サマモード入ってるから付き合わないと。なんか他の従者が涙ぐんでて感動的なシーンっぽいから。うん。正解とか全く知らんけど。
「では、皆様。行ってまいります」
オレから離れて、エルゼ王女は優雅にお辞儀をする。
そうして、エルゼ王女は教会へ向けて出発した。