特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
王都の中でも人の行き交いが激しい建物――冒険者ギルドの前で、オレは立ち尽くした。
いやでっけえ。城ほどじゃないけど、中に酒場もあることが関係しているかもしれないが、それでも見上げるほどだ。
大扉にはさっきから人が出入りしている。
オレの片手には推薦状があった。エルゼ王女と、オーレリア王のものだ。
扉を開く。
中の受付には多くの人が並んでいた。依頼の受付窓口、報酬のやり取りをするための決済窓口、など様々だ。
その中に唯一、誰も並んでいない場所があった。オレはそちらに向かう。
「冒険者登録に来たんだけど」
受付の人と目が合う。ぱちくりとオレの容姿が確認され、その後軽いお辞儀をされた。
「登録予約の方ですね。推薦状、もしくは予約票の提示をお願いします」
ぽんと、推薦状を置く。
「確認いたしします」
丁寧に封を剥がし、中身を確認する。そして固まった。
「……えっとロマ様でお間違いないですか」
小声でそっと尋ねられる。
「ロマですが」
「ぎっ、ギルマスを呼んで参ります、少々お待ちください」
推薦状を綺麗に畳みなおして、ぴゅんとどこかへ走っていく受付嬢。
え? オレ、このままで待つの?
少しして、受付嬢が戻ってきた。受付の外側でぶんぶんと手を振られる。
「こちらです」
言われるがままついていく。階段登ったり、通路を過ぎていったり、やがて、ひとつの部屋にたどり着いた。
「どうぞ。私の案内はここまでになるので、中にいるお方とお話し合いください」
扉を開かれて中に案内される。
「ありがとう」
オレが礼を言うと、慌てるように頭を下げてから、静かに扉を閉めた。
「――さて」
飛んできた魔弾を斬る。
「失礼――いや、王女様じゃあるまいし、いいか。どういうつもりか聞いていいか、アンタ」
攻撃の主にオレは声をかける。目の前の席に、ふんぞり返るように座っていた。
やけに装備の整った男だった。
胸元がやけに空いたジャケット。首元にはファーがある。その片手には今さっき撃ちましたよと言わんばかりの銃があった。
いわゆるラッパ銃というやつだ。火器としての役割ではなく、杖としての銃だろう。今、魔力弾撃たれたし、高価そうな装飾が施されており、目の前の人物が只者でないことをそれだけで十分知らしめてくれる。
存在感抜群の銃であった。
「ほぉ、よく斬るじゃないか」
「いい剣もらってるので」
この間はファイアードレイクに黒焦げにされて、最近はエルゼ王女にへし折られただけど。
「良いだけ、だな。とても特任騎士サマの武器とは思えない、が」
手でくるくると銃を回す。
飄々とした態度のまま、オレを睨む。その左目には縦に一筋の傷があった。
「特任騎士のロマ。かの騎士サマとこうして出会えること、光栄に思うぜ。俺の名はダーディ・ハイル。ここのギルドマスターだ。ま、座れ」
オレは、ダーディと向かい合うように座る。作業テーブルを挟むような形になった。そして、床に鞘ごと剣を置く。
ダーディはオレの様子を見ると鼻で笑いつつ、テーブルの上に銃を置いた。
「用件を聞こうか? 冒険者としての推薦状、莫大な支援金をこちらは受け取っている。だいたいの要望は通せるぞ」
両手を組んで、試すように聞いてきた。
「つうか、金もらって試し撃ちしたのかよ」
いわば重客だろ?
「推薦状にはこうあるぜ? 納得いかないなら不意打ちでも仕掛けてみろってな。王女サマお墨付きだ。おっかないね、12とは思えん」
テーブルの上にあった推薦状を持ち上げ、叩く。おい、推薦状で不意打ちの免罪符を書くやつがどこにいるんだ。
うちの王女サマか。
「はしゃいでるだけでしょ」
「ちなみにウソだ。どうやらあんたも苦労してるようだな」
「……おい」
こいつウソつき慣れてやがるな。顔が全く変わらねえ。追い詰められてもこのなんでもねー顔のウソが続けられるんなら相当やる。
「ウチは実力主義だ。いくら王族に縁のあるやつが入るからって特別扱いとはいかねえ。功績があろうが、それは冒険者としての活動とは違う。ゲイル級になりたいなら実力を示す必要がある。わかるな?」
「いや、一番下でいいっす」
「推薦状はゲイル級にしろ、だが?」
相手は片眉を下げてくる。
「王族の面子ってやつじゃないのか? いいよ、下からで」
やること変わらねえし。ゲイル級の実力を示せっつって面倒なテストさせられるのもあれだ。地道にやったほうがいい。
「というかそれもウソだろ」
直近のエルゼ王女とのやり取りはこうだ。
『まぁやるだけやりますけど、あんま期待しないでください。ゲイル級行けるかなんてわからないんですから』
『うむ。期待はしない。行けて当たり前だからな』
行けて当たり前のものに推薦する意味がない。オーレリア王も同様だ。王女が推薦しないのに余計なもんは付け足さない。
「王女サマから持ち上げられて気に入られている騎士サマ。どうせ鼻につく嫌なヤロウだろうと勝手に思っていたが、どうもそうじゃねえらしいな」
顎に手を当てて、興味深かげに言われる。
「それにその剣の使い方。知ってるぞ」
口角を上げて、ダーディが言ってくる。
見せたのは抜剣術で他人のやつなんだが。なんの剣術か知らねえのよな。
「……ナンノコトカナ。コレハ、タダノ騎士剣術ダヨ」
「ウソつけ。あんな真っ当な剣であるもんか。そいつは、もう見なくなって久しい、『ダインスレイヴ教団』のモンだ」
「いや、抜剣術はあそこのもんじゃない」
「剣技そのものなんざどうでもいいのよ。問題はタダの剣で魔法ごと斬ったソレだ」
オレの手を指さしながら、ダーディは言う。心なしか、部屋の温度が下がった気がした。
「……いい目になったな。いいぜ、その方が俺の好みだ。王女誘拐事件は共食いだったってぇわけだ」
「……それを知ってどうする?」
「手に蜘蛛の入れ墨の入った男がいたはずだ。そいつはどうなった?」
蜘蛛の入れ墨……? それならお頭がつけてたな。他は知らん。
「お頭のことなら、死んだよ」
「頭、ねぇ。隠しはしない、と」
「隠してアンタとの関係がややこしくなるなら、そっちのほうが面倒だ」
そもそもダインスレイヴ教団の剣技そのものは見て生き残ったやつが少ない。知ってるやつも数えるくらいだろう。騎士団長は知らないみたいだったからな。
こいつにバレてるくらいはいいだろう。ヘマをしたお頭が悪い。
「で。確認したいことは終わったか?」
「いやまだあんた自身を確認できてない」
顎に手を当てて、ダーディが考える素振りを見せる。
「……そうだな、あんたが敵か味方か、だな」
「知らないね。王女サマ次第だ」
エルゼ王女の敵になるなら斬るだけだし、そうじゃなければ斬る意味もない。こっちが殺されそうになるならともかく、現状敵対する意味はない。
「オーケー。変に味方ヅラされるよりシンプルで信頼できる返しだ」
ひょいと、何かが投げられる。
受け取るとカードだった。
ロマ。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。苦難と栄光の日々があんたを待ってるだろう。挑め、勝ち取れ。それが英雄への道だ」
「いや、そういうのどうでもいいわ。こちとら王女サマがストーム級に駆け足でいきたーいって言うからできるようにするだけなんだし」
「……ただの謳い文句だ。真に受けなくていい」
オレは立ち上がって、剣を装備し直す。
「じゃ、ありがたく頂戴して。失礼させてもらうわ」
「待て」
背を向けるオレを、呼び止めてくる。
「何」
「やつの死に際、どんな顔だった?」
やつってお頭だよな。
「うーん──鳩が豆鉄砲を食ったような顔、だったかな」
そう返すと、ダーディは満足そうにした。
「そうか。間抜け面晒して死んだのなら、ま、いいか」
「なんか因縁でも」
「聞くか?」
「長くなるなら遠慮しとくわ」
「なら行け。もう用はない」
銃を持って振るな。
完全に出てけと態度に示されてもいるのでこれで終わりだろう。
オレはその場を後にした。