特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
教壇に立ち、聖女候補や修道女に奇跡を教える。
教師は黒板に文字や図を書きながら話をする。
「この世には身を守らなければならないことが多くあります。暴行はもちろんですが、毒、魔法による呪いなどもです。汚染された地域では毒で命を落とすこともあります。そういったものから身を守るために加護魔法があります」
教師の視線がある一点に向く。ニコニコと授業を聞いているエルゼリーナ王女だ。見るからに幼く、こちらの話を理解できているかもわからない。
「魔法というのはどれだけ具体的に表出させられるかが大事です。己の適性がある属性や才、人の持つ印象、己のイメージ。魔力はもちろんですが、中でも特にイメージが大事なのです」
こくこくと頷くエルゼリーナ王女。見た目は熱心に聞いている風を装っているが、他の生徒ほど真剣に聞いているわけではなさそうだった。
「火であれば熱して滅す。風であれば通さない。水であれば飲み込む。土であれば塞き止める。有害なものだけを、です。加護魔法であればそれができます。祈りを捧げるのです、神が悪しきものを退けてくださいます。それを信じるのです。では皆さんやってみましょう」
教師は教壇に置いていた霧吹きを取る。
「皆さんには加護魔法に挑戦していただきます。配布した教本に詠唱が書かれていますのでそれを使っても構いません。前に1人ずつ出ていただきます。私がこの霧吹きをかけるので防いでください。加護が完璧であれば防げるはずです。できなければ──」
教師は自分に霧吹きをかける。鼻がむずむずした。
「はくちゅっ」
そうしてくしゃみが出る。
「このようになるだけなのでご安心を」
安堵の息が漏れる。
流石に教えの場で命がけになるようなことはしない。
「ではそちらから前へ」
授業は順調に進んだ。加護を形成できずくしゃみをしてしまうもの。加護を維持するのが難しく、魔法はできたものの、霧吹きを防げないもの。詠唱を行い、加護を安定させて防ぐ者──当たり前だが、様々であった。
そして。
エルゼリーナ王女の番が来た。
にこやかに前に立つ。
詠唱もしない。教本を持ってきてすらいない。
「こほん。エルゼリーナ王女殿下。加護を」
何もする気のないエルゼリーナ王女を見かねて教師は言うが、当の本人は首を傾げるだけだ。
「加護?」
「他の者もおりますので発動して頂けると。教本も取って来て構いません」
しばらく無言だった。目が一瞬鋭くなり、周りを見る。
「可視化しろということでしょうか?」
「加護は発動していると」
「はい。ずぅっと。お気づきになりませんでしたか?」
プシュ、と。
霧吹きを使ってみる。全くの無反応だった。他の者は薄いオーラを出していたが、王女は完全に無である。
「疑わしいなら何か攻撃魔法でも構いませんわ。防げますもの」
両手を広げてそんなことを言い出すエルゼリーナ王女。その身には赤い光の膜が張られていた。
可視化した、ということだろう。
「いえ十分です、王女殿下」
王女は頭を下げる。
「失礼いたします」
王女は静かに、自分の席に戻っていった。
ずぅっと。
彼女はそう言っていた。であればいつから発動していたのか。教師にさえわからないレベルだった。
火の聖女。
末恐ろしい生徒を持ってしまったと教師は思った。
○
丸一日ずぅううっと張ってるに決まっておろうがアホウめ。
これだけで毒殺も避けられる。不意打ちは気にしなくていい。ロマに斬りかかれたとしても、魔法剣でなければ無傷だ。
回復魔法も浄化魔法もだいたい仕組みはわかった。大抵のものはどうにかできるだろう。
結界さえできれば聖女として必要な魔法は習得できたことになる。
全くつまらん。
笑顔でご機嫌麗しゅうだのなんだの。姿勢正しく清らかに、信心深く。
素直にやるわけなかろう。
あぁ、早く帰りたい。帰ってロマの淹れるミルクティーを飲みたい。
なぜミルクティーがだめなのだ。砂糖か? 砂糖がだめなのか?
王女だぞワタシは。
あー、さっさと帰りたい。もう飽きたぞ。