特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
紙の束を叩きつけて、エルゼ王女は座り込む。足を組んで、頬杖を付き、オレを睨んだ。
「――面倒だ」
「いや、無茶言わないでください」
机の上に山積みになった書類は、全てエルゼ王女の教育方針に関するものだ。魔法と、剣術の指南役を誰に任命するかとかいろいろだ。
ちなみにまだ城の者に知れ渡っているわけではないので、指南役は国の重鎮たちの推薦だ。
国としては「火の聖女」としての名目を押し出したいらしかった。そりゃね、第三王女は聖女です、と言えるんだから品行方正っぽい雰囲気も出るし、イメージも良くなるわな。実際治療をすれば慈悲深い王女様として慕われるだろう。
もうひとつのセンスである「剣帝」を無視できるものではない。並みの剣士が人生捧げても手に入らない「称号」というやつを簡単に手にできるほどの才があるのだ。
オレが真っ当な剣士だったら泣くね。特任騎士をやめたくなるかも……いやそれはないな。だって安定した生活は約束されてるわけだし、料理はうまいし、戦争とかそういう面倒なのに参加せずともいいわけだし。
「魔法の指南役はわかる。治癒だの、浄化だのは学んだほうが良さそうだしな。いいのだ、まだ。だが、剣術を学ぶとしたら十中八九退屈だ。いや苦痛だ。なので全て却下したい」
本当に嫌なのか、眉間にシワを寄せる始末である。
「騎士団長自ら指南役の候補者に立候補している。あの場にいたからな。あとは推薦されている者の中にストーム級の冒険者がいる。決定したら大金を注ぎ込んで雇う予定だろう」
ストーム級というのはゲイル級の上。嵐……つまり災害を退けられるレベルのことを言う。国単位で考えても上から数えたほうが早い。
「教わればいいじゃないですか」
「本を読んで終わりというわけではないだろう。子犬のフリも疲れる。ニコニコと基礎から教わるなぞ耐えられん。指南役はお主を通す」
「教えられませんって」
「こうやって気ままに話せるのはお主だけなのだぞ。サボらせろ」
堂々とサボり宣言すな。王女だろ。
「それに……もしお主が真面目に教えるというのなら興味はあるぞ?」
「じゃ、騎士団長様でも、ストーム級の冒険者でも変わらないでしょ。望んでた強者ですよ」
「戦いたいが、ままごとをするつもりはない」
「わがままめ」
「だいたい候補者が思ったより多い。やはりあれか、お主のセンスが攻略者だったからか?」
「でしょうね」
オレの功績は問題ない。評価が落ちたわけでもない。だが、「剣術」を指導する立場として、しかも「剣帝」のセンスを持つ者を相手にする人間としてふさわしいのか。
これが疑問視されたわけだ。
「父上からの手紙にも書いておる。何もなしにお主を指南役にはできんとな」
騎士団長も剣帝の称号に近い存在だろうし、冒険者なんて剣帝レベルだろうしね。そりゃ、「ワタシの勇者サマ(キラキラ)」じゃ断れないでしょう。攻略者っていったいなんの攻略だよって感じだし。
それに。
「オレの実戦見てるやついないですからね」
全部エルゼ王女のお忍び中での活躍(オレは戦ってない)だからね。というか、こんなオレを大金で黙らせて特任騎士にした王族がヤバい。エルゼ王女がヤバい。
「理屈を並べてダメならジョストで勝ち取ってもらう他ないな」
「えぇ……」
ジョストは一騎打ちの競技だ。つまり決闘をさせられるわけだ。
まだエルゼ王女のセンスは公表されていないし、内々でやるだろうから騎士団長と戦うハメになるだろう。
「……勘弁してくれ」
「今まで楽して稼げてるのは誰のおかげだと思っている。たまには本気を出せ」
「先に屁理屈がんばってください」
オレはあんまがんばりたくないの。