特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです   作:月待 紫雲

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30話 一等聖女

 1ヶ月後。

 オレは馬車と共に教会の入り口で、エルゼ王女を待っていた。

 

 しばらく待っているとかなり上機嫌のエルゼ王女がやってくる。

 

 両手に荷物を持っていた。

 

「ただいま」

「おかえりなさいませ。荷物多いっすね。持ちますよ」

「あぁ。もう終わったからな。帰るぞ」

 

 ……終わった?

 

「えっと何が」

「聖女修行」

「何やらかしたんです」

 

 エルゼ王女は腰に手を当てた。

 

「何も。レベルが低すぎるから試験を試しに受けさせろと言った。ちゃんと一等聖女認定を受けたぞ?」

 

 荷物の中から紙を1枚出す。額に収められたそれは教会の印が押され、一等聖女であることを認定する証書であった。

 

「…………は?」

 

 待て。三等ですら3年かかるんだったよな? そんなすっ飛ばせるもん?

 

「ところでお主はどこまで行った? 1ヶ月あったのだ、ゲイル(暴風)は行かずとも、その下のガスト(突風)くらいには」

「いやブリーズ(そよ風)ですけど」

「…………は?」

 

 顎が外れた猫みたいな顔で呆れられた。

 

「なぜだ!」

「なぜだも何もないですよ! そんなポンポン昇級できたら世の冒険者は苦労しません!」

「ワタシは一等聖女になったんだぞ」

「己の規格外さを恥じてください」

「恥じるわけ無いじゃろ!? アホか!」

 

 フン、と鼻を鳴らしながら腕を組むエルゼ王女。

 

「だいたい規格外はお主もじゃろうが。何がどうなれば未だにブリーズでいられるのだ」

「薬草(おハーブ)採取に勤しんでおりました!」

「アホか魔物討伐をしろ!」

 

 えー……理不尽な。

 

「まぁいい。一等聖女の資格をぶらさげれば年齢制限なぞ取り払えるじゃろ。共に昇格するぞ、ストーム級に」

「いやストーム級は無茶ですって」

「挑んでから言え。というか荷物を入れろ早く」

「はいはい」

 

 馬車の中に荷物を運んでから、王女サマを入れてやる。

 オレ? オレは御者やんなきゃだから外。

 

 オレ以外に護衛はいない。馬車もない。王女殿下のお迎えとしては貧相極まりないが、エルゼ王女の希望だし、たぶんトラブル招いて暴れたいだろうからこうなってる。

 

 オレはごめんなんだけどなぁ。

 

 空を見上げながら、馬を走らせる。

 

 快晴だった。

 

 

 

○

 

 

 

 しばらく馬車を進めていると、通行止めにあった。

 

 2人の黒ローブの女性が、道の真ん中に立っている。オレは十分に距離がある状態で馬車を止めた。御者台から降りる。

 

 馬車の扉が開き、エルゼ王女が顔を覗かせる。

 

「どうした」

「人の通せんぼです」

「ほぉ」

 

 ぴょん、と馬車から降りてくる。オレはその体を受け止めて、着地させた。

 

「何人いる?」

 

 今は森の公道を通過中だ。教会から王都へ行くには必須の道。

 で、通行止めしているのは2人。森の中に潜んでるやつは――

 

「うーん、潜んでるのが8人。あいつらで10人ですね」

「ふむ探知に引っかかる人数と同じだな」

「探知の魔法使えるんですか」

「うん覚えた。お主は」

「気配でわかりますよ」

「気配を消してもか」

「基本わかりますね。気配を消すだなんて、企んでますよって言ってるようなもんですよ」

 

 2人で歩きながら道を塞いでいるやつに歩み寄っていく。さっきから全員静かに傍観状態だ。話し合いはできなくもなさそうだ。

 

「ちょっとアンタら。道を塞がれると馬車が通れないんだけど」

 

 オレから声をかけると、2人ともフードを取った。

 

 2人とも女性だった。

 姉妹みたいだな、と思った。といっても雰囲気で、でしかないんだけど。

 1人は金髪で目を閉じている。顔立ちはやけに整っていて、綺麗だった。もう1人は青髪で、金髪の方と長さを揃えているようだった。かばうように立ち、腰の剣に腕を乗せている。顔は仮面で見えない。

 

「一等聖女、エルゼリーナ王女。迎えに参りました」

「ほう、で。誰だ」

「ウラリア。一等聖(・)女(・)です。こちらは、盲目であるわたくしの目であり、守り手の――」

「ニエベ、です」

 

 特に敵対する理由はなさそうだった。

 

「迎えとはなんでしょうか」

 

 笑顔を貼り付けて王女サマモードで対応するエルゼ王女。

 

「本部に来て頂きます。我らと同じ、致命者となっていただきたく」

「お断りします。ワタシは王女であって、神に命を捧げる身ではありません」

 

 致命者。

 魔物の討伐など、命を賭して神の教えを広める者たち。実際に命を落とした場合は真の致命者として称えられる。

 

「一等聖女はわたくしを含めても数える程度。それにあなたはなったのです。力には責任が伴う。ましてや、あなたは十分な教育を受けていない。であれば、教育を受けるというのも筋でしょう? 守り手もおりません」

「それはお断りしたはずです。私(わたくし)は勇者サマがいれば十分ですわ。全ての免除のため、持参金をお渡ししたはずですが」

「えぇ。ですが、あなたほどの才となると話は別です」

 

 オレに手を添えて、エルゼ王女はキッパリ断る。守り手のニエベとやらがオレを見(・)てきた。

 

「勇者サマ……? こんなのが……?」

 

 おい、聞こえてるぞ。つうか――。

 

「監視下に入るか、監視役をつけろ、と。随分乱暴な聖職者どもだな」

 

 周りに潜んでいたやつらの動きを見ながら、オレは話に割り込む。

 

 空間に歪な光の反射がある。おそらく結界を張られた。

 

 結界は一定の領域を外部の攻撃から遮断する魔法だ。そして方向性を変えれば、内から出られない牢獄にすることもできる。

 

「子どもは物事がわからないものです。教え導くのが、教会の使命でもあります。結果的にはきっと王家にとっても益になるでしょう」

「私は十分存じております。大事にするつもりはありませんわ。ですので、素直に帰って頂けると」

 

 王家と教会は別に上下関係にあるわけではない。政治と宗教は分けられている。国は政治的権力であり、教会は宗教権力だ。

 

 つまり、この場で成立するのは「一等聖女」という互いに持つ資格(ちから)のみが意味を為す。

 

 というか王家側、オレとエルゼ王女しかいないし、数じゃこっちが負けてるし。

 

「では、こうしましょう」

 

 一等聖女であるウラリアが手を叩く。

 

「互いに力を示し、問題ないことを示す。勝ったほうの要求を通す、というのは」

「具体的にお願いします」

「2対2での勝負です」

 

 つまり。

 周りの戦力を使わないでやるからこっちの要求に応じろ。ま、こっちが勝つから結果変わんないけどな、というやつだ。

 

「ロマ」

「はい」

「お願いします」

「……ハイ」

 

 王女サマモードのエルゼ王女にあれこれ文句を言っても仕方ない。やるしかない。

 

「では私(わたくし)は御者台で馬を守っていますのでお任せしますね」

「はい、承知……ハァア!?」

 

 今日1でかい声をだしてしまった。

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