特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです   作:月待 紫雲

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32話 独裁

 ロマに放たれようとしていた光の剣も、襲おうとしていたニエべもまとめて炎弾で吹き飛ばした。

 

 ウラリアたちの姿が炎弾で発生した白煙で見えなくなる。おそらく、直撃はしていないだろう。聖女の防御手段は豊富だ。

 

 それよりも。

 

「なるほど」

 

 裁定魔法というものの、感覚がわかってきた。

 

 ワタシはのんびりと、白煙が晴れるのを待つ。

 

「――なぜあなたが裁定魔法を」

 

 そんな言葉と共に、ニエべに守られるように立つウラリアが現れた。

 

「あなたはこの魔法を知(・)ら(・)な(・)い(・)はず!?」

 

 裁定魔法。

 確かに、ワタシの全く知らない魔法だった。知らないものは使えない。当たり前の話だ。

 

 そもそも、魔物討伐に行くこともあるわりには攻撃手段になる魔法を学べなかった。だから、ワタシは聖女の戦闘手段がなんなのか知るために、観察することにした。

 

 聖女に戦闘能力がないのであれば実質1対1。ロマが負けることはないだろう。

 

 実際は攻撃手段があったわけだが。

 

「えぇ。知りませんでしたよ、裁定魔法」

「ではなぜ……?」

「なぜって……理屈がわかれば真似はできるでしょう? 裁定魔法は信仰心の成せる技なのですから」

 

 見て盗め。よく言われた忌々しい言葉だ。

 

 ガバガバ判定。

 

 ロマはそう評しているが、あれを強力な攻撃魔法に押し上げているのは、おそらく信(・)仰(・)心(・)だ。魔法は具体的な要素が絡まれば絡まるほどより強固になる。

 

 本人の体質、魔法の詠唱、名を口にすること。そして環境。

 

 裁定魔法……いや聖女に関連する魔法全てに関係するのは信仰心。周りで逃げられないように結界を張っている者たちも、守り手も、聖(・)女(・)が奇(・)跡(・)を(・)起(・)こ(・)す(・)者だと信じている。そして聖女は神の教えを正しいと信じている。

 

 求めよ、さらば与えられん。だったか? よく言ったものだ。

 

 求め、信じ、それが当然起こるべきものとして認識されている。だからロマの言う「ガバガバ判定」でも通る。

 

 厳格な裁定が大事なのではない。信じることが大事なのだ。

 

「ですから、なぜ信仰心の薄いあなたが、わたくし以上の裁定を下せたのかと訊いているのです!?」

 

 大声を上げるウラリア。ふふ、焦っているな。

 

 裁定魔法を攻撃魔法に押し上げているのは結局魔法の理屈だ。であれば、裁定魔法を扱う場合には信仰対象はいてもいなくともいい。理屈としては威力を上げる要素として信仰心を使っているだけなのだ。

 

 所詮は概念事象の具現化。魔法は魔法だ。

 

「当然です。私(わたくし)は王女なのですから」

 

 胸に手を当てて、力説してやる。

 

「国には法(・)があるものでしょう?」

 

 歴史上の王には、こんなことを言うやつがいた。

 

『朕は国家なり』

 

 実にいい言葉だ。

 

「……独裁じゃねえか」

 

 当たり前だ。ワタシだぞ。

 

「――さて。どうしますか? ここは双方何もなかったことにして解散、が一番平和かと思いますが。私(わたくし)も手荒なことはしたくありませんので」

 

 何人群がろうが関係ない。神に縋る程度の輩で、ワタシに勝てると思い上がらないことだ。

 

「傲慢ですね」

「そうだとして、何か?」

 

 ウラリアは口の端をわずかに上げた。

 

「大罪(ギルティ)です。しかもとびきりの――」

 

 あぁ、7つの大罪というやつか。しかしただの難癖だな。本気で傲慢と思っているならもっと脅威となるだろうに。

 

 さっきロマに放とうとしていた裁定魔法より少し強力になっただけだ。

 

「正当防衛(ノット・ギルティ)」

 

 炎の剣と光の剣をぶつかり合わせて相殺する。

 

「――なっ?」

「裁定魔法ですから。当然、判定を覆(・)せますよね?」

 

 裁定魔法はこちらで威力の設定ができない。ただ、予見はできる。どの程度の威力になるか、裁定魔法の準備をした段階でわかる。

 

 有用なら裁定魔法。そうでなければ通常魔法にすればいい。

 

 今のは魔法の完全相殺にちょうど良かった。

 

「改めまして。どうしますか、聖女サマ(センパイ)?」

 

 沈黙が訪れた。

 眺めるだけだったロマはこちらに寄ってくる。

 

「とりあえず、そろそろ馬車から降りません? はしたないので」

「では受け止めてください」

 

 飛び降りる。

 ロマはワタシをさっと受け止めて、地面に下ろしてくれた。普段は渋々だが、今は猫をかぶっているので、それに合わせて従順だ。

 

 ……次から無茶振りをするときは全部こうしてしまおうか。

 

「…………わかりました。なかったことにしましょう」

「ありがとうございます」

 

 笑顔で返す。

 

「こちらこそ。寛大な心、感謝いたします。後日、お祝い品という形で、此度の無礼のお詫びを送らせていただきたいと思います」

 

 勝負という形式は取ったとはいえ、無礼であったという正常な判断はできるらしい。そんなことを言われる。

 まぁ、そのリスクを負っててでも、一等聖女を、我が物にしたいという教会の意図は汲んでやらんでもない。

 

「失礼します」

 

 2人がフードを被ってその場から消える。探知魔法をかけてみるが、周りに人はいないようだった。撤退したのは確実らしい。何も反応しない。

 

「ふぅ。面白いものを見れたな」

「おもしろかねーですよ。さっさと帰りますよ」

 

 げっそりとした顔で、ロマがそう言ってきた。

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