特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
「ぐわあぁああああああー!」
「うわびっくりした」
剣術指南というおサボり時間。
テーブルに置かれた七影の書を叩きつけるように倒すエルゼ王女。
オレは読んでいた本を閉じる。
「どうしました?」
さっきまで寝ていたエルゼ王女が飛び起きて叫んだのだ。もしかしなくても七影の書関連だ。
「五影にやっと勝てたのに六影に瞬殺されたァー!」
「おめでとうございます」
「あほう、負けたんだぞ!?」
バン、とテーブルを叩きながらお怒りになられる我が王女サマ。
エルゼ王女。五影やれたら十分バケモンです。
「その歳で五影突破は異常ですよ。さすが剣帝のセンスでございます」
「ろ、六影が問題だ! 一撃! 一撃でやられた! 何もわからんかった!」
両手を握ったり開いたりしながら訴えられる。
「ま、わりとわかるようになりますよ。五影に100回勝てるようになれば」
「レベルが違いすぎる!」
ぐわーと頭をワシャワシャするエルゼ王女。本当に悔しかったらしい。さっきから動きが面白い。
「あれでは見て盗めどころではないではないか! 理不尽だ! 五影と六影の間に何人かいるべきだろ」
「六影と七影の差に比べれば鼻で笑える程度ですよ」
「この書を作ったやつはあほうじゃ!」
バランス悪いのは同意する。
「でもまぁ、たぶん実在のやつがモデルなんで、間のレベルのやつがいないんじゃないすかね。上位3人的な」
七影の書であからさまに難易度が跳ね上がるのは五、六、七影の3人だ。観察してると手癖とか性格が見えてくるから文字通り誰かの影なのだろう。
記録と勝負して記録更新を目指す。これが五影以降の目的ってやつ。
五影を倒せるレベルなら敵になるやつを探すのが難しくなる。ま、オレが暗殺者だったから相手のレベルが低かったというのもあるんだが。
「王国上位3人を思い浮かべてください」
「あー」
エルゼ王女は納得したらしい。
「ま、のんびりやればいいじゃないですか。どうせ魔法使えば瞬殺ですよ六影」
「お主はこう……アドバイスはないのか」
「言ったじゃないですか魔法ブッパ」
「攻・略・法!」
「見て盗む」
「攻略法じゃなあああい!」
勘弁してくれ。六影までさっさと攻略されたら自信なくすぞ。
「……じゃあひとつ」
「なんじゃ!」
目を輝かせてオレに迫ってくるエルゼ王女。オレは笑顔でこう提案した。
「ウラリア様のように目を閉じてください」
「……ん?」
素直に目を閉じるエルゼ王女。
「それで五影まで倒してください」
「………ん?」
エルゼ王女は固まったまましばらく動かなくなった。
◯
「できるかぁああああああ!」
「うわびっくりした」
七影の書を抱えて寝ていたエルゼ王女が飛び起きる。オレは驚きながら開いたばかりの本を閉じた。
「お、どこまで行けましたか」
「行けましたか? じゃないわ。一影でアウトだわ!」
お怒りになりながらこちらを睨むエルゼ王女。しかし、オレは動じずに続けた。
「ガイドは出たでしょう」
「は? ガイドが何の役に……あ」
気づいたようで、エルゼ王女は黙った。
七影の書は三影までは剣術の基本を叩き込んでくる。そして脳内に技術の情報が流れてきてサポートしてくれる。三影攻略で一人前とされるのは脳内に流れ込む基礎の情報が完結するからだ。そして三影を倒せる実力があれば、まず一般兵には負けないだろう。
暗殺者としては十分だ。
そしてサポートがなくなるのが四影。そこからは読者の挑戦の範囲になる。
で。
目を瞑ってる場合は、ソレ用のサポートが
盲目のやつでも戦えるように、というありがたい措置なのだろう。
「三影まで倒したら、四影からは片目で。安定してきたら両目瞑って五影を倒してください」
「無茶なこというのお主!」
「いや、オレはやりましたから」
六影相手に100回やって100回勝つために。
「魔法が禁止されてるわけじゃないんで、勝つだけなら魔法でゴリ押しをおすすめしますね」
「剣技で勝たなければ意味ないではないか」
エルゼ王女はむすっとしながら、七影の書を抱えて寝始める。
七影の書の戦闘時間は現実世界には影響しない……と言ったが、体力的な問題は出てくる。あまりやりすぎると1日で活動できる時間が減る。猛烈に疲れるからだ。
あとは数秒〜数分は現実時間で経過する。なので、正確には「あまり影響しない」といったところだ。
「受けられん!」
一影に負けて戻ってきたのだろう。すぐに飛び起きた。
「もう一回」
勢いよく寝る。
「わからん!」
すぐ起きる。
そして寝る。
「ぐえっ」
起きる。
「エルゼ王女」
「なんだ!?」
「落ち着いてください。受けられるもんも受けられません」
エルゼ王女は頬をふくらませた。
「しかしやらねば強くならぬ」
「十分強いっすよ。慌てず相手を視てください」
「目が見えんのに?」
「見えないからですよ」
これはしばらくかかりそうだな。
◯
ワタシは真っ暗闇の中で、ただ剣を構える。頭に浮かぶのは足音、そして呼吸音。それを頼りに剣を立てた。
受けられた。
「……これを、五影を倒せるまで?」
今相手にしているのは一影だ。正々堂々、正面から戦ってくれる。が、見えないので、正直どこから攻撃が飛んでくるのか全くわからない。
第三の目という考え方はわかる。
肉眼では確認できないものを直観や洞察で見抜き、一時的に目が視えない状態でも対応すべきというのはわかる。
人間はだいたいの情報を目で手に入れている。それをあえて捨てる選択肢を取る。ということはただ情報を失うだけに等しい。
「そこ!」
あ、受けそこねた。
首がはねられる。
転がる。目を閉じているので視界が動いているわけではない。感覚でわかった。
ぼんやりと視界が光の情報を受け取り、肌にいつもの感覚が戻る。それで体を起こした。
そばには本を片手にこちらを見るロマがいる。
「なぁ、なんで目を閉じてやろうなんて思ったのだ?」
ワタシの問いに、ロマはシンプルに答えた。
「視えないんだから、視えなくても対処できるようにするためです」
こやつ……。
改めて感じるこいつのでたらめさに、ため息しか出なかった。