特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです   作:月待 紫雲

36 / 47
36話 星幽銀

 静かな部屋で、白湯を口に含む。

 

 ウラリアは宿で休んでいた。聖女としての仕事で、各地を旅することも多い。今回もその道中であった。ベッドが2つ並ぶ、質素な2人部屋である。

 

「あの、ウラリア様」

「なんでしょう」

「アイツの剣。どうして星幽銀(アストラル)で依頼したんですか。その……」

「杖(・)の素材なのに?」

 

 ウラリアが続けた言葉に、守り手ニエベが頷く。

 

 星幽銀は持ち主の魔力に反応して変質していく。魔力を武器に通して使う時間が長ければ長いほど、持ち主のために最適化され、強くなる。

 

 が、これを近接武器に使用して役立った例はない。

 

 問題は簡単だ。

 

 耐久性である。

 

 剣での打ち合いに耐えきれない。打撃の強さに耐えきれない。通常仕様では鋼に劣(・)る。

 ゆえに魔法使いや聖女の武器に使われる。主に杖であり、ウラリアの場合は胸元に下がるロザリオだ。

 

「彼ならおそらく、問題ないと判断したからですよ」

 

 通常時にはウラリアではわからないほど周りに魔力を馴染ませる。そして的確にニエベの攻撃を避け、急所に当ててみせたあの技量であれば使いこなせる。

 

 耐久性の難は、おそらく彼の技量と、彼が使い込む中で成長した星幽銀そのものが解決するだろう。

 

「剣として完成する星幽銀というのも見たことありませんからね。見てみたいという興味本位もあります」

「はぁ」

 

 ニエベは戦闘に夢中であったから、彼の魔力の扱いについてはわからなかったのだろう。おそらくだが、王女は気づいている。

 

 無理に高級な剣を渡していなかったのは、武器の特性で彼の戦闘スタイルが崩されるから、だろう。癖のない鋼の武器が最も適していた。

 

 あるいは探していて見つかっていなかったか、だが。

 

 どちらにせよ、ニエベの剣のように、露骨に強力な武器を渡すのも教会的には望むところではないだろう。

 

 希少鉱物であるものの、使いこなせるとは思えない代物――それで教会を納得させる。彼らは工芸品としての剣と認識したかもしれない。星霊銀は「青銀」という言葉の語源になるほどに、青みがかった美しい銀色を持つ。観賞用で持ちたい者も少なくはない。

 

 彼自身は武器の価値に気づくだろう。そして、こちらに少なくとも恩義は抱くはずだ。王女でもいい。

 

 そうすれば、一度くらいは協力を仰げる。

 

 来たるべき脅威のために、準備をしておくに越したことはない。

 

 

 

◯

 

 

 

 森の中、茂みからゴブリンが襲ってきた。緑の肌に、尖った耳や鼻、裂けた口を持つ魔物だ。

 

 成長しきってもオレの半分ほどの背丈しかないそいつは、自身で作成した棍棒でオレを殴りに来る。

 

 その喉にスティレットを刺す。そして魔力を放出した。

 

 青い閃光と共に、ゴブリンの体が転がった。その首にはスティレットで空けたとは思えない大きさの穴が空いている。

 

 背後から気配がした。おそらくゴブリンがオレに攻撃してきているのだろう。

 半身になって避ける。相手からは突然消えたように見えるだろう。だが、オレには空振りしたゴブリンが正面にいる。

 

 鞘に納めていた剣を抜く。逆手持ちのまま、振り抜く。ゴブリンの腹は膨れていて分厚い。だからそこは避けて、脇を斬った。

 

 右サイドに回ったので、右脇だ。つまり武器を持つ側。

 

「グギャア!?」

 

 着地したゴブリンは石の斧を落とし、うずくまった。脇も立派な急所だ。多量に出血するし、何より皮が薄い。ゴブリンは血を止めようと脇に手を当てる。

 

 生存本能を優先するとそうなる。敵がいても、咄嗟に出る行動は保身、だ。オレは剣を返すと首を落とした。

 

「どうじゃ?」

「うーん、怖いくらい使いやすいっすね」

 

 横に薙ぐ。

 木の杖を持ったゴブリンマジシャンが魔力弾を撃ってきたところだった。魔力弾を剣で斬り抜き、スティレットを投げる。

 

「グゲッ!?」

 

 鳩尾に刺さったスティレットが、時間差で魔力を炸裂させる。オレの魔法だ。

 

 口から血を吐きながらゴブリンマジシャンは崩れ落ちた。

 

 仰向けになったゴブリンマジシャンからスティレットを抜く。血を払ってから鞘の中に入れた。

 

「武器の強さの差がわからん……」

「そりゃ武器変わってもオレは強くなりませんからね」

 

 エルゼ王女の呟きに返答する。

 

 雑魚相手に目に見えて強さが変わったなんてわかるような武器があったら怖いわ。英雄様だのが持ってたり、国宝として眠っているのかもしれないが、オレは持ちたくない。

 

 その点、この武器は好感触だった。なんか鋼より脆い気がするので思い切り振れないが、そもそもオレは思い切り振らないし。

 

「それは何よりだ。その調子でじゃんじゃん倒すぞ」

「ここらのゴブリン全滅させる気ですか」

「依頼を受けたからな。この先の洞窟に潜んでるレッドゴブリンが討伐対象だ」

 

 地図を片手に目的地を指し示す。やたらゴブリンに襲われるのは巣が近かったからか。

 

「洞窟はワタシが戦う」

「どうぞどうぞ」

 

 オレは別に戦いたいわけじゃないし。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。