特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
あれから1ヶ月ほど。オレは剣に魔力を馴染ませることに、エルゼ王女は打倒六影を目指して剣縛りで魔物を倒し続けた。
そして今。
ギルドでは多数の実力者が集まっていた。
理由というのが、酒場の一角を占領した2人にある。
「――皆さん」
静かな、それでいて鈴のように響く声。その声は知っていた。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。光の聖女、ウラリアと申します。こちらは守り手のニエべ」
ウラリアに紹介され、頭を下げるニエベ。
そう。
以前対峙した一等聖女サマことウラリアと、守り手のニエベだ。今回の
「今回の依頼は大規模攻略となります。目的は魔女の討伐」
誰しもが真剣な顔でウラリアの言葉に耳を傾ける。
魔女。
悪魔を崇拝し、サバトを行う異端の者。ただの異端者で終われば、問題ないのだが、魔女には笑えない事情がある。
――魔物や人間を食べる。
力を得るため、ということらしいが、実際強い。一回だけ魔女が暗殺対象だったことがあった。本当、偶然。ひどい目にあった。
魔物を食べるのは別にオレらでもそうなんだが、適切な処理というものがされる。やつらは生食も平気でする。色々な条件が重なって、やつらは人間から「魔女」になる。
「先日、ソームの街が壊滅しました。そこには魔物がはびこっています。その中心に魔女はいるでしょう」
ウラリアは両手を合わせる。
「魔女の討伐はわたくしたちで行いますが、皆様には魔物を引き受けていただきたいのです。どうかよろしくお願いします」
ウラリアの説明がされる中、ひとりの冒険者が手を挙げる。
「魔物を引き受けるっつうのはいいんだけどよ」
視線がこっちに向いた。
「大事な大規模攻略にガキがいるってのはどういう了見だ……!?」
ギロリとエルゼ王女が睨まれる。ちなみにエルゼ王女は冒険者時はブローチをつけているので赤髪ではない。登録名はエルゼと露骨だが、外見上の特徴は一致していないので王女と思われていない。
となると、舐められる。だって12歳の子どもだから。
「こやつの補助担当だ。何か文句でも?」
「オレに振らんでください、面倒なので」
「面倒だからお主に振っておるのだろう」
軽く言い合いをすると、冒険者の額に青筋が立つ。
「ままごとじゃねえんだ! よそに行け!」
大声が響き、オレは肩をすくめる。
「……オレもこの子もガスト級だ。実力的に問題ない」
エルゼ王女の胸元にある札を持ち上げる。特例のやつは勘違いされないように冒険者の名札を下げるように決まっている。
「どうだか」
「――2人の実力はアタシが保証するよ。ヴライク」
オレらの前に立つ女性剣士。その姿には見覚えがあった。
「ジンジャー・ロレイズ……」
忌々しげに名前を呟く男。
「ゲイル級のアタシに意見があるなら聞くけど?」
ジンジャーは腕を組む。ヴライクと呼ばれた男は、ジンジャーを睨むが、何も言えなくなったらしい。
「チッ。なら責任持てよ」
と、吐き捨てるように顔を背けた。
ジンジャーはこちらに振り返る。
「久しぶりだな、スロウ」
にこやかに挨拶をしてくるジンジャー。ジンジャーはエルゼ王女がトロールを討伐したいと行ったイバラの森で出会った冒険者だ。軽くオレと手合わせした。
「あー、あんときは冒険者じゃなかったから適当に名前をでっち上げたんだ。今はロマで」
お忍びで行ったのであのときは本名を使ってなかった。今はもうその必要はないので訂正する。
「なるほど。そっちが本当の名か」
オレの説明に察してくれたらしい。ジンジャーは頷いてくれた。飲み込みが早くて助かる。
「お嬢ちゃんも、頼りにしていいかい?」
「エルゼだ。良い良い。こやつに剣も教わっておる」
腰の剣に手を当てながら、エルゼ王女が言う。
「ほぉ……それは楽しみだ」
オレに視線が向く。いやそんな期待した目を向けないでくれ。エルゼ王女にオレ教えてないから。
ほぼエルゼ王女の独学だから。
「それでは皆様、出発いたしましょう。互いを知らぬ憂いは道中で解消していきましょう」
ウラリアの宣言で、冒険者は散らばり出す。前を歩くニエベと後に続くウラリア。
しばしオレらと目が合う。ニエベは恨めしそうにオレを睨んでから目を背け、ウラリアはオレの剣に手を添えた。
「使ってくださっているのですね、嬉しいです」
すれ違いざまにそっと囁かれた。接触も一瞬で、ギルドから出ていく。オレらも行かないとな。
「お主、ウラリアに何を言われた」
ジロリと、エルゼ王女に見上げられる。
「剣を使ってくれていて嬉しい、って言われました」
「それだけか?」
「あの一瞬でそれ以上あったら怖いでしょ」
「ふむ。ならいい。行くぞ」
椅子から飛び降りて、外を目指すエルゼ王女。その後をオレと、なぜか隣にいるジンジャーがついていった。なんか共に行動する雰囲気出てるんですけど? 途中までだよな?
…………。
「なんだい、アタシの顔になんかついてるかい?」
「……いいや」
突っ込まないでおこう。
◯
――暗殺というのは、仕事だ。
相手に恨みがあるのは依頼主で、殺さなきゃならないと思うのも依頼主で、仕事を請け負った暗殺者自身に、相手への恨み辛みは一切ない。
そんなものは冷静さを失わせる足かせでしかないから、なくていい。
相手がただの少女だろうと。こっちには関係ないのだ。
『おにいさん』
だが、コイツは殺さなければならない、と。
『おにいさんは、おいしそう』
野放しにはできないと、そう思わせた。
『食べたい、な?』
血まみれの口元に、死体の山。
そして、正気の残っていない瞳。
オレが人生で初めて、損得勘定やら仕事やら全て忘れて、生存本能だけで「殺し」をやったあの日のことは。
今でもよく、覚えている。