特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
ニエベと対峙する。観戦しているのは、寝てるフリをしてたが起きたエルゼ王女と、ウラリア。あと冒険者の野次馬。
ニエベが剣を抜く。
「オマエはなんで強い」
「死にたくないからだけど」
「ボクはウラリア様を守るために戦っている。ボクの命を救ってくださった、ウラリア様のためなら命だって惜しくない。オマエは違うんだな」
ゆっくりと、刀身が姿を現す。改めてみると、鞘とかちょっと豪華だなと思った。あからさまに装飾過多だとそれはそれで儀式用にしか役に立たないのでそこまで派手というわけではないが。
「オマエに負けられない」
「あーその、何ていうか、ご立派で」
こちとらエルゼ王女に振り回される身なもので。
「いつでもどうぞ」
「剣を抜かないのか」
「変わらないからね」
ニエベが間合いを詰めてきた。
剣が、振り下ろされる。オレは半身になって避けた。ちなみに真剣同士だが、互いに加護をかけてもらっている。当たっても問題ない。
剣の斬り返しを鞘で受け、逆手持ちで剣を抜くが、半ばで止めた。危険を察知したニエベが下がったからだ。
「ちっ」
「少し落ち着いたほうがいいと思うぞ」
鞘に剣を納め、ゆっくり歩み寄る。
そして、抜剣術の体勢に入った。
「っ!」
迎え撃とうと剣を振るおうとするニエベだが、そもそも剣で打ち合う気はない。抜剣の体勢のまま、姿勢を低くして、タックルをかました。
ニエベの体が浮き、数歩後ろに下がる。
そこへ抜剣し振り下ろす。
ニエベはすぐ防御の体勢に入るが、影抜きをして鼻先に刃を添える。
「……あんま変わらないじゃないか」
剣を引く。
「このぉ」
突っ込んでこようとするニエベの膝を蹴って止める。バランスを崩したところに回り込んで背中へ剣を振る。
で、直前で止めて、また引く。
「おちょくってるのか……!?」
「まさか。ウラリア様が言ってたろ。剣を見て、見せろって」
肩を上げる。
「見せてるんだよ。ちゃんと見ろ」
「見ている」
「そ。じゃ、待ってやるから一呼吸置け」
ため息を吐く。
「意思が明確すぎだ。斬る意図も丸わかり。剣にスピードも力もいらない。何のための剣だと思ってるんだ」
「斬るためだろう」
「正解。じゃ、斬れりゃいい。相手の防御を突破だとか、体勢を崩すだとか七面倒なことは考えるべきじゃない」
「なら、何を考える」
「考えない。視ろ。視て、確実に斬れる瞬間だけ斬れ」
受けるだのなんだのは状況に合わせてやるだけだ。剣はトドメを刺す手段。蹴りが有効ならそっちを使うし、殴ったほうが早いならそうする。
剣で打ち勝つ? ご冗談を。剣は殺すために使うんだ。消耗させないに越したことはない。
「敵視するな。相手を確認しろ。どう処理するか、だ。心意気だけじゃ守れないぞ」
「オマエに何がわかる」
「わかるさ。少なくとも斬り合いはな。今アンタは太刀打ちできてない。これが答えだ」
「このぉ!」
剣が振られる。
上段。横薙ぎ。突き。
突きのタイミングでスティレットを引き抜き、鍔で弾き上げる。
「意思が前に出てるって」
拳を鳩尾に当てる。
「早くやろうとして動きが雑」
「う、ぐ。ハァ……ハァ……」
肩で息をするニエベ。疲れたわけではない。冷静でいられないのだろう。
「意思が崩れれば何をやるべきかわからなくなる。戦闘を志の証明に使うな。戦いは生きるか死ぬかだ。誉だなんだのは関係ない。さっき命は惜しまないと言ったが、アンタが死んだら次はウラリア様だぞ? 死んでいいわけあるか」
オレの言葉に、ニエベは反応する。ウラリアのほうに顔を向ける。
「ウラリア様……」
ウラリアは無言だった。ただ、手を合わせて祈るようにしている。
「もう一度待ってやる。頭ん中整理しろ」
スティレットをくるくる回し、鞘に納めた。
◯
全員黙り込んでいた。
ロマの技量に黙るしかなかったのだろう。ニエベだって弱くはないはずだ。少なくとも、今のワタシが剣技だけで挑んで勝てるかはわからない。しかしそのニエベ相手に、軽くあしらいながら説教まがいのことを言う。レベルが違うと肌で感じたのだろう。
相変わらずロマのアドバイスは役に立たない。斬れりゃいいって、それが一番難しいから打ち合いだのなんだのがあるのだろうが。
こやつの場合、実際に斬ればいいをやるからたちが悪い。斬れないときは斬らないからな、こやつ。ファイアードレイクとの戦いがわかりやすい。ワタシがいなければ逃げていたし、逃げなくとも相手の機動力だけ割いてどうにかできただろう。
意思。
ロマは確かに散々言っていた。食い気だの、なんだの。
言いたいことはなんとなくわかった。ニエベの踏み込みが早すぎる。ロマの剣は剣が先に飛んでいくが、ニエベは逆だ。足から剣。威力はニエベの方がある。受けようとしても受け切るのは難しいだろう。だが、ロマの剣のほうが対処が難しい。
斬れれば良い。全てが表に出ている。だから文句が言えない。
死にたくないから。楽をしたいから。
それで、ここまでなれるか、と思ったが。
暗殺者だから命を軽く見ていると思った。だが、こやつは命を最も重く見ている。重く見ているから、簡単になくなるものだと知っているから、唐突に終わるものだと、幾千回も体験しているから。
だから死にたくないだけで行けたのだと、最近そう思うようになった。
七影の書のやつらに負けるということは擬似的にとはいえ、死ぬということだ。それをワタシの何十倍もの回数こなしている。五影を倒したら、六影が出てくる。五影を倒した達成感を、帳消しにするほどの一瞬で、理不尽な敗北。
そして六影を倒した後の七影。
『七影は100回中、勝てたのは8回です』
諦めるまでに、どれほどやったのか。諦めがどれほどの失意のものだったのか。本人はもしかしたら気にしていないし、あっさり決めたのかもしれないが――己の限界というのを悟るというのはワタシが思っているより、そして、もしかすればあやつ自身が自覚できていない可能性もあるが、ずっと――重いのかもしれない。
「意思が崩されれば何をやるべきかわからなくなる。戦闘を志の証明に使うな。戦いは生きるか死ぬかだ。誉だなんだのは関係ない。さっき命は惜しまないと言ったが、アンタが死んだら次はウラリア様だぞ? 死んでいいわけあるか」
でないと、こんな説教はしないだろうから。