特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
魔物に、故郷を燃やされた。
痛くて、熱くて、怖くて、泣き叫んでいたのを覚えている。炎に包まれる中で、じりじりと焼かれていく己の命。
『もう大丈夫ですよ』
そんな中、優しく声をかけてくれた。
傷を治療してくれて、保護をしてくれた。
教会に所属している彼女は、三等聖女らしい。自分は彼女の付き人として雇われることになった。命を救われて、住む場所まで用意してくれた。
自分にはひどいやけどが残ったが、彼女は態度を変えなかった。
『わたくしは目が見えないのです。だから気にしませんよ』
そう、優しく微笑んでくれた。
教会に所属するにはいくつか道があった。
修道女に、聖女に、守り手。
聖女である彼女を守りたいと思った。あの炎から救ってくれた彼女を、今度は自分が救いたいと。目となり、剣となり、助けになりたいと。
だから守り手になった。厳しい修練も乗り越えて、幾度も怪我をしたけれど。
その度に、ウラリアは自分を癒してくれた。そして「無理をしないでください」と気遣ってくれた。
そうしてやっと強くなれた。だが、目の前のやつは平気な顔をして立っている。
なんだか気に入らなかった。
自分には覚悟がある。だが、やつにはそれがない。
ヘラヘラしている。自分を否定されているみたいで腹が立った。
「アンタが死んだら次はウラリア様だぞ? 死んでいいわけあるか」
そう、言われるまでは。
◯
呼吸が落ち着いてきた。
ニエベは自分の仮面に手をかけると、乱暴に外して投げ捨てる。呼吸の妨げになるだとか、実利的な理由で外したわけじゃないだろう。邪魔くさいから外した、だけのように見えた。
その顔は、左半分がやけど痕で赤くなっている。
「なんだ、可愛い顔してるじゃん」
「……うるさい」
突っ返すように言われるが、先程までの乱れは感じない。両手で剣を握り締め、そしてこちらを真っ直ぐ見る。
「――すぅ」
ゆっくり息を吸う。
オレは、対称的に息を潜めて、腰を落とす。
風が吹いた。
真っ直ぐな剣だった。
今までと比べ物にならない、迷いのない剣。
オレはさっと動いて剣を弾きあげる。
そして首元に刃を当てた。
「――いい剣筋だった」
「届かなかったがな」
自嘲気味に息を吐くニエベ。そうして仮面まで歩み寄ると付け直す。
「いいじゃん別に」
「良くはない。が、今は良しとしておく」
「敵にしっかり届きゃいいのさ。今そんな時間じゃないだろ?」
「……そうだな。オマエの剣、覚えておく」
うーん、できればあまり覚えてほしくないけど、これくらいならいいか。
◯
「先ほどは、ありがとうございました」
解散して、焚き火を再び眺めていると、ウラリアから声をかけられた。
「何が」
「見せてくださったでしょう? あなたの剣」
「少しだけね」
ウラリアは微笑みを浮かべる。
「――ずっと、無茶をさせていたのかもしれません」
「まぁ本人が望んでるからいいんじゃないですか?」
「わたくしはあまり、望んでいるわけではありませんわ」
「忠義もほどほどにって? 難しい注文ですね」
忠義がプラスに働くなら、主としてはこの上なく良いことはないんじゃないか、と思う。逆らう可能性が低い方が良いし。ニエベが強くなれたのは、忠義あってこそだろう。
「あなたが咎めてくださったおかげで、あの子も少し意識を変えてくれるかもしれません」
「咎める? 何を?」
オレが問うと、ウラリアは意外そうに眉を上げた。
「ニエベが死んだらわたくしの番になるから、死んでいいわけあるか、と。そのようなことを」
「別に咎めてないっすよ?」
事実を言っただけだし。
「ぶっ!」
近くで寝ていたエルゼ王女が跳ねた。
「説教はしてない、と言うわけか?」
声を震わせながらエルゼ王女が顔をこちらに向けてくる。
「当たり前のことでしょうが。戦いと私情は分けろって話でしかないですよ」
「無理があります」
「へ?」
「そうそう無理があるぞ、お主」
え。
なんかオレがニエベを心配して言ったような空気になってる?
いや別に心配してないって。
「剣の考え方を言っただけですよ。他意はないです」
「ニエベを口説いたのは?」
「は?」
「可愛いって言ってたじゃろ」
「そりゃ、仮面で隠すほどのもんじゃないなと思ったから言っただけで、その場のノリですよ。ノリ」
「ワタシは言われたことはないが?」
「可愛いこと大前提だろ、アンタ」
「当たり前だ、あほう」
エルゼ王女とそんなやり取りをしていると、ウラリアが笑った。口元に手を当てて、肩を震わせる。
「良いですね。お友達のようで」
それから顔を上に向けた。
「わたくしもそういう風に、気軽に話したいものですわ」
そう言い残して、ウラリアは去っていく。その先には、ニエベが待機していた。
視線をエルゼ王女に戻す。
「……そろそろ寝ないと明日に響きますよ」
「わかっておる。明日は頼むぞー」
「ほどほどに働きます」
魔物相手だろうし、そんなマジにならなくてもいいだろ。もし魔女を相手にするとなっても、エルゼ王女のデタラメ魔法で解決だ。
オレが苦労することはないでしょ。
…………うん、たぶん。
昨日から他サイトで投稿していた作品をこちらに転載を始めたので、よろしければそちらも読んでくださると嬉しいです。