特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
――死臭がする。
足を進めていた冒険者集団が足を止める。オレらも、その中にいるので、足を止めるしかなかった。
視界の先には例の廃街がある。
「皆様。そろそろ魔女の領域です。加護をかけますので、並んでください」
ウラリアがそういうと冒険者が並びだす。オレとエルゼ王女はその列には並ばなかった。
オレはいらないし、エルゼ王女もずっと加護をかけている。
「並ばないのかい?」
それを見かねてか、ジンジャーが尋ねる。
「いらないからな」
「保護はあるに越したことはないはずなんだが……ま、ロマほどのヤツなら大丈夫か。お嬢ちゃんは」
「自分でかけておる」
「そういや聖女認定受けてるって言ってたな。じゃ、アタシは受けてくるよ」
ジンジャーが離れていく。
「ロマ」
「なんです」
「ウラリアのとこに行け」
「そりゃまたどうして」
「魔女に苦戦するやもしれんだろ。助けてやれ」
珍しいな、こういうことを言うの。
エルゼ王女は真剣な面持ちで正面を見ている。何か感じるものでもあったのか。
「いいっすけど、エルゼ王女は」
「平気なのはわかるじゃろ」
「まぁ」
「だったら行け」
顎で促される。
オレは渋々ながらもウラリアの方へ向かうことにした。
「じゃあ任せますけど」
オレは正面を指さす。
「気をつけてくださいよ」
「ふん、わかっておる。お主こそヘマするなよ」
「了解」
オレは列を無視して最前にいるウラリアに近づいた。
「オマエ、何しに来た」
ニエベがオレを睨んでくる。
「援護しろって」
オレはエルゼ王女を親指で示す。
「心強いですね。頼みます」
加護を冒険者にかけながらウラリアが言ってきた。オレはニエベを見る。
「……ウラリア様が言うならボクに異論はない」
「正直に言っても良いと思うぞ」
「気に入らないが、ボクより強い。いて頼もしいのは認める」
突き返されると思ったが、意外と受け入れる気でいたらしい。肯定的な言葉だった。実利をしっかり取ったというべきか。
「オマエの主人は平気なのか」
「本人が平気っていうから任せるわ」
エルゼ王女に勝てるやつなんて出てきたらオレの勝ち目なんてないようなもんだし。
「……では、行きましょうか。ここからは戦闘です。なるべく身軽になってください」
加護を全員にかけ終えたウラリアの言葉に、全員が体をこわばらせた。
街に近づいていく。全員武装を済ませている。
「オマエ、平気そうだな」
ニエベに声をかけられた。剣をいつでも抜けるように掴んでいる。オレはいつも通りに歩いている。
「鼻が曲がりそうだからつまみたいけどな」
そうして鼻をつまむ真似をする。さっきから死臭がひどい。
「おいおい」
街ももう間近というところで、冒険者の誰かが呟く。
「マジかよ。まだ入口だぞ」
街の入口と言える門。そこに魔物が数匹見えた。燃える盛る瞳に、黒く大きな体。狼のような姿のその魔物が問題であった。
ブラックドッグ。
1匹でガスト級の魔物だ。
魔女に近づけば近づくほど強力な魔物が現れる。一番外側であるところでガスト級。中心部は少なくともゲイル級はあるだろう。
そして魔女はそれ以上。
「冒険者各員! どこでもいい。とりあえず魔物が抑えられればいい。広い場所で騒げば魔物は釣られる! 命は投げ出すな! 深く踏み込むな! 行くぞ!」
ニエベがそう鼓舞し、全員で街へ突き進む。
こちらに気づいたブラックドッグが吠える。そしてこちらに飛んできた。驚異的な脚力で迫ってくる。
オレとニエベが前に出る。
「む」
「あ」
一瞬目があった。やろうとしたことが同じだったので被って気まずい感じになる。
ブラックドッグが襲いかかってくる。
調整するか。
お互いにそう思い直したのか、ニエベと同時に反撃する形になった。
ニエベは剣を振り下ろし、オレは潜り込むように下から上へ斬った。ブラックドッグは首と腹を同時に斬られ、絶命する。
そして進行の妨げにならないようにニエベが蹴り飛ばす。
その間にも、数匹のブラックドッグがかかってきていた。
まだ、街に入れてないんだが……。
「ボクは左に」
「オッケ」
いちいち会議していられない。
ニエベに左側を任せ、オレは右側の処理に入った。
◯
街の中に入る。
ブラックドッグの巣窟だった。
あちこちにブラックドッグが徘徊している。当然のように建物の影から襲ってくる。群がってくる。
ブラックドッグが吠えながら口元に火を灯す。
ブレスだ。
「やりぃ」
オレは火の魔法をブラックドッグに飛ばした。
ファイアードレイクのような火耐性のある魔物には無駄骨と化す行動だが、こいつには火耐性はない。瞳から漏れ出すほどの魔力を身に宿しており、それを利用して魔法を放つというだけだ。
オレの魔法で口元が爆発し、ブラックドッグの体が飛ぶ。頭が自分の魔力で弾け跳び、絶命していた。
こうやって対処できるだけマシなんだよな。
ウラリアは足を止めず、進み続ける。ニエベも同様だ。
冒険者はいつの間にか全員いなくなっていた。入り口で広場があったから、そこで全員、足止めに入った。
「もう少しです」
道を塞ぐように1匹の魔物が立ち塞がる。
首が2つあった。ブラックドッグより上位のバイセルオルトだ。
おぞましい叫び声を上げる。それが風の刃となり、四方八方に飛ぶ。無論、オレたちにも。
「ウラリア様」
ニエベがウラリアを守るように立ち、風の刃を次々と斬る。さすが、エクトプラリウムの剣だ。魔法を切断すると言われるだけあるぜ。
大通りの番犬と化しているバイセルオルトは、見上げるほどに大きい。人間なんて一口だろう。
とはいえあんまり時間をかけるとブラックドッグも集まってくる。
さっさと倒すべきだな。
オレはバイセルオルトに突っ込む。風の刃は全て魔法剣を両手に生成し、二刀流で弾きまくる。
バイセルオルトは息を吸う。
ブレス攻撃だろう。止める余裕はない。
片方が風。片方が炎の魔法で竜巻のようなブレスを吐いてきた。
「やば」
魔法剣を合体させる。大剣にして、地面に叩きつけた。
大剣が刃に変換され、魔力波が飛ぶ。
それでブレスを斬り進んでもらう。その間に右手に魔力を込め、短剣をつくった。
「――
ブレスを飛び越え、ガラ空きの左頭部へ、
斬り裂く。
バイセルオルトが悲鳴を上げ、ブレスを中断する。左の頭部は完全に死んだ。あとは右だ。
オレは剣に手をかけるが、途中でやめた。
閃光が走る。
ニエベが右頭部を斬ったからだ。一刀両断し、互いに着地を済ませる。
巨体が沈黙し、そして倒れる。倒れた風圧が髪を撫でた。
「やるぅ」
「黙れ」
ひでぇ。褒めたのに。
巨体を迂回しながら大通りを進む。
街の中心と呼べる広場が、見えてきた。