特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
ブラックドッグが迫る。
ワタシは燃え盛る瞳に手を当てると火属性の魔法を炸裂させた。それで、1匹倒す。さっきロマが口へやっていたので真似た。
瞳の炎は別に本当に燃えているわけではない。ブラックドッグ自身が過剰に生成した魔力を目の強化に使って燃えているように見えているだけだ。
周りを見る。
ワタシは孤立に近い形で戦っている。他の冒険者はそれぞれ慣れたパーティーメンバーなどで戦闘している。
「……で。ワタシに用があったのか? お主は」
殺気がして、剣を抜く。
それで相手の一撃を防いだ。驚いたような顔でこちらを見てくる。
「ジンジャー・ロレイズ」
「……驚いた。疑われてるなんて」
凶悪な笑みを浮かべながら剣を向けてくるジンジャー。
「ロマはずっと警戒しておったぞ?」
大規模攻略の説明がされた、ギルドから。
「この前とはまるで別人じゃな」
「あれぇ、アンタらとアタシはそんなに仲良かったわけじゃないと思うんだけど」
「他人の忠義を試すような言葉を吐くからじゃ」
ロマが魔女と遭遇したことある、そう知ったあとの言葉だ。
『ほら、魔女も年齢に関わらず強い力を持つっていうじゃないか』
ロマに視線を向けて、ワタシが魔女かもしれないぞ、と遠回しにそう言っていたのだろう。ロマがワタシを疑うと思っていたのだろうが、ロマは疑っていたのはお主というわけじゃ、ジンジャー。
「あーらら。でも、疑う理由にはなんないじゃん?」
「ロマが気にしていただけで十分じゃ」
ワタシがウラリアに協力するように指示したとき、あやつが指さしたのは街じゃなく、そう見せかけてジンジャーを指さしていた。
道中もこまめに動きを確認していた。
ロマが違和感を覚えて、警戒している。
確かに強さを好んでいる様子が、イバラの森ではあった。それでも節度はわきまえておった。
こいつはグイグイ来すぎじゃ。
「さて。お主は誰かの?」
「ジンジャー・ロレイズだよ。
ジンジャーの体から魔力が溢れ出す。禍々しい、どす黒い魔力だった。
「ま、
剣に魔力を纏わせて、風を呼ぶ。そして、黒い斬撃をワタシにぶつけてきた。
◯
噴水だったものが、そこにあった。
水は枯れ、その代わりに入れられているのは「血」だ。
噴水の前では大きな釜が燃やされている。そこから死臭がした。
サバト。
香で魔物を引き寄せ、誘拐した人間や、寄ってきた魔物を殺して己の血肉とする儀式。
街が犠牲になっているということは、そういうわけだ。
「いつ見ても醜悪な景色だ」
嫌悪感を隠さずに、ニエベが言う。
ウラリアは手を合わせて祈る。
「堕落し、人々を殺し、そして邪悪な魔物を呼び寄せる……
ウラリアの頭上に神々しい光が浮かぶ。そして剣の形を取る。
裁定魔法。
しかもオレらと戦ったときとは比べものにならないほど大きなものだ。
その裁定が、噴水に降る。
血溜まりから手が出た。
紅い魔法壁が剣を阻む。だが、すぐに亀裂が入って砕けた。
――光柱が立つ。
「…………アは」
光の中から声がする。
「アハハはははあギャッハハハ! イタイ、イタイじゃないかぁアアア」
知性の感じられない、叫び。裁定魔法を気にしていないかのような声。
光が晴れると、煮詰まった釜も、血も全てなくなっている。
だが、それだけは残っていた。
「台無しだよ。せっかく集めたのに」
猫背から頭を持ち上げる。
赤黒いドレスを身にまとった、女性だった。
「聖女様か。あんたの血で許してやるよ」
「渡しません。あなたがすべきなのは懺悔です」
「するかよ今更」
虚空を掴み、地面を叩くように動かす。その動きで杖が出現した。コン、と木の響く音がする。
「死ね」
杖を振るう。紅い刃が、ウラリアに飛ばされた。
前にニエベが立つ。
剣で刃を受けた。
「ぐっ、うぅううう」
ニエベが押されている。刃も結晶化に時間がかかっているのか、破壊される気配がない。
「ニエベの剣が、押されてる……?」
ウラリアの眉が上がる。
オレはニエベの隣に寄った。そして魔法剣で刃を斬る。
「おっっっも!」
強度が今までの敵と比べて段違いだった。あんなにあっさり出されたのに強力だ。それでも力を入れて魔法を斬る。
「オマエ……」
「とりあえず目の前の敵に集中したほうが良さそうだな」
ニエベが何かいいたげだったが、打ち切る。
間違いなくあいつが魔女だろう。しかも次の魔法を準備している。
「リストレクション!」
ウラリアが魔法を発動する。名前からして拘束するものだろう。
光の鎖が魔女に絡みつく。
高く掲げていた杖が落とされ、空中で渦巻いていた魔力が解ける。
「……今!」
ニエベが突っ込もうとする。だが――
「――ニヒッ」
魔女が笑った。オレはニエベの肩を掴んで後ろに引く。
「何を」
「ウラリア様を守ってろ」
笑みの答えはすぐにわかった。解けかかっていた魔法が急速に纏まっていったからだ。
そして、巨大な槍と化した。
黒い、槍。
「ブラッディランス」
魔女がオレたちを指さす。
――黒が、堕ちてくる。
オレは魔法剣を構え、斬りに行った。
「ちっ」
衝突した瞬間、力負けする。片膝を付き、それでも踏み止まる。魔力の削り合いで火花が散り、体を押してくる。それを魔力を追加し続けて拮抗まで持ち込む。落ちていた膝が上がるが、完全には上がらなかった。
魔法の規模がおかしい。オレが受けきれなきゃここらまとめて消し飛ぶだろう。
「ぐ、ぐぐ……」
「あはは! 凄いすごーイ! これを止めるなんて」
長い髪を振り乱し、魔女が笑う。笑い方が、昔見たものによく似ていた。
魔女が杖に魔力を込めたのか、魔法の威力が上がっていく。それで、ガリガリと魔法剣を削られた。
おいおい冗談じゃねえぞ。こちとら今はこれが精一杯だっつーのに。
「……ロマ様」
「なんですウラリア様!」
「そのまま止めておいてください」
「無理ですぅ! あと数秒が限界です!」
エルゼ王女みたいな無茶言いやがって。言うても保たないぞ!
「それは会話中でも過ぎていってますか」
思った以上に呑気な質問をされる。
「会話が終わったあたりからカウントダウンを計算してる。今からァ!」
「こんのぉ!」
ニエベが魔女の魔法に剣を叩きつける。それでいくらか勢いが削がれたが、キツいのは変わらなかった。
魔女の方は動かない。いや拘束がバッチリ効いてるっぽいから動けないのほうが正しいか。
「さっさと死ねよ」
今抑え込んでいる魔法で決着だと思っていたのか、魔女の表情に余裕はなさそうだった。
こんな魔法連発できるもんだったら、勝ち目ないから困るしな。余裕がないなら好都合だ。
「――神よ」
ウラリアが言葉を口にする。
「悪しき魂を滅ぼし、我らに光を与え給え」
それは詠唱。
魔法はより具体的であればあるほどその力を増す。
しかし、詠唱は魔法を強力にする代わりに無防備な時間を生む。当たり前だ。魔法を発動するために、言葉ひとつひとつにも魔力を込める。だから注ぎ込む魔力も増えるし、強力になる。
威力を取れば、防御がおろそかになる。
しかし今は問題ない。
オレらで魔法を抑え込んでいる。拘束魔法が生きている。
「――
何もかも上塗りにするような、そんな光が降り注いだ。