特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
「お主も魔女、という認識でいいのかのぅ」
ワタシは目の前のジンジャーを睨む。剣は折れ、ボロボロではあった。ただ、外見上は、だ。
「ふふふ、いいねぇ。強くて」
傷を舐め取り、座っていたジンジャーが立ち上がる。先程からこの笑みが気持ち悪かった。
「隠す必要もないからね。認めるよ。アタシも魔女」
「そうか。ならさっさと散れ」
火炎を放つ。放つ瞬間は小さなそれだったが、だんだん膨らみ、到達する頃に火柱となった。
ロマが向かった方を見る。あやつの言い方的に魔女は2人いると考えてよいか。
「よそ見してていいのかなァ!」
火柱から、燃えるジンジャーが飛び込んでくる。ワタシは剣を抜いて火炎を纏わせた。
「はえ?」
「しぶといやつだ」
剣を叩きつける。炎と共にジンジャーの体が転がった。皮膚は黒焦げ、目玉が剥き出しだ。
顎が外れて無様に舌まで垂らしている。
生きている方が不思議だった。
それでもゆらりと立ち上がる。
「まさかここまで強いなんてねぇ」
「当たり前だ」
腕を組む。
相手が余裕そうなのが気になる。完全消滅させられる大技を放ちたいところだが、そこまで余裕はない。
歯がゆいな。
「ロマの体でも良かったんだけどねぇ。アイツ警戒しすぎてて手ぇ出しづらくてサァ……! だからアンタも強くて助かったよぉ」
「まるでワタシならどうにかできるとでもいいたげだな」
「無理さ。ムリムリ。勝てっこない」
「ならなぜ助かったと言う」
「それはね!」
身体強化で肉薄してくる。ワタシは剣で体を両断した。先程と違い、熱で切断力を上げた。
上半身と下半身は真っ二つ。
これで生きてはいられ――
「つっかまえたァ」
肩を掴まれる。
「いっひひ」
「離せ。気色わる……」
体が動かない。
魔力で拘束されている。最初に見せた魔力のわりに手応えがないと思ってはいたが、拘束のために魔力を温存してたのか……?
「ここに紛れ込んで、成長した魔女ちゃんをいただくつもりだったんだけど、アンタのほうが逸材っぽいっからねェ」
ギャハギャハと笑い交じりに語られる。
「もらうよ、アンタの体」
何のからくりか、加護さえ貫通して、頭にナニカが入ってくる。気持ち悪い。全身鳥肌が立って、寒気がする。
どうなってる? 加護は切っておらぬというのに。
「加護が効かないのが不思議かい? 加護は攻撃や呪いは守ってくれるけど、魂を弾くなんてしないのさ。敵意も害もないからねェ」
なら、魔力で無理やり……クソ。もう魔力のコントロールができぬのか。
「共生、わかりやすく言えば寄生ってやつさ。だ・か・ら・ム・ダ!」
頭が痺れる。意識が薄れていく。
「――クク、キャハハハハ!」
笑い声が響く。
ワタシの声で、ワタシじゃない言葉で。
いやだ。
このままじゃこやつが何をやらかすかわかったものではない。体を好き勝手使わせたくない。
必死に意識を繋ぐ。体の主導権を奪われても、意識だけは保つ。完全に全てこやつのものにしてしまったら、それこそ終わりだ。
「安心しなよー、有意義に使ってやるからさァ。まずは邪魔者の排除からだね」
邪魔者。
そう聞いて真っ先にロマや、ウラリアとニエベを思い浮かべる。
『もしワタシが、自分の意思と関係なく、周りを襲うようになったらどうする?』
『……まぁ、止められそうなら止めますね。無理なら逃げます』
いつかの問答を思い出す。
あぁ、ロマ。お願いだ、ロマ。
ワタシがワタシじゃないって気づいてくれ。それで、気づいて、どうにかしてくれ。
お前を殺すなんてしたくない。
だから頼む。
本当に化け物になるくらいなら――
◯
光が収まる。
魔女の姿はそこにはなかった。
「終わったのか……?」
ニエベが呟く。
「消し飛んだな。魔法ごと」
オレは魔法剣を解除し、警戒を解く。気配の消える感じはなかった。
「倒しました。ニエベ、ロマ様。あなたたちのおかげです」
ウラリアが勝利宣言をする。そして倒れた。咄嗟にニエベがその体を支える。全身全霊の一撃だったのだろう。
もう一戦は無理だ。とはいえ、根源がいなくなったことで魔物が集まるということはなくなるだろう。
「――なんじゃ、もう終わったのか」
エルゼ王女が、こっちにやってくるところだった。
「終わりましたよ」
もう少し早ければ戦いに参加できただろうに。
「そうか。良かった」
エルゼ王女がそう呟く。オレは腰の剣を抜いた。そしてウラリアとエルゼ王女の間に立つ。
「何のつもりだ、ロマ」
「いえ。こういうときは
オレの言葉に、エルゼ王女は見たことのない笑みを浮かべた。口の裂けそうなそんな笑みだ。
「記憶も馴染んでないのに騙そうとするもんじゃないね」
「どういうからくりだよ」
「魂への寄生だよ。昔っから魂に関するものが得意分野でね。さっきまでジンジャーだった」
魂に関連する魔法ってことか?
そんな、加護もあるんだぞ。あの化け物王女様の体を乗っ取れるわけないだろ。
「……ロマ様。エルゼリーナ王女の魔力がその体にはあります。体は本物です」
ウラリアの言葉に、背筋が凍る。マジかよ。
「体を乗っ取って魂を溶かして全部もらう。我ながらいい魔法だと思うよ」
「そんで、ジンジャーも」
「そ。アンタと会った後でね。記憶も剣技も全部」
舌なめずりをするエルゼ王女。
「本当は魔女の血肉も食べるつもりだったんだけどね。同族の肉は中々得られない。聖女なんかに消し飛ばされるなんて予想外だったよ」
「黙れ。王女サマにそんなことさせられるか」
「気楽なことを言ってるが、この完璧な肉体を手に入れたんだ。アンタらを生かして帰すことはないって……わかってるんだろーなァ!」
ギャハ、と笑うエルゼ王女の体を乗っ取った魔女。
火がオレを襲った。
オレは剣で斬り、そして魔女に迫る。
「おっといいのか? この体は王女のモンだぞ?」
動きが止まった。止まってしまった。
「フフ、人間ってモンは脆いな」
剣を振られる。火炎を纏った一撃。
弾き上げて、後退する。
「ひとつ聞いていいか?」
「なんだ」
「エルゼ王女は生きてるんだよな」
「まだ、な。精神がやたら強くてな。前世の記憶のせいか……あ、少し会話でもするか?」
パチンと指を鳴らすと、魔女の頭が下がった。
「ロマ」
その一言だけでわかる。魔女じゃなく、ちゃんとエルゼ王女だ。
ゆっくり顔をあげて、オレを見てくる。その瞳には恐怖があった。
「頼みが……いや、お願いがあるのだ」
「なんです」
「殺してくれ」
胸を抑えながらエルゼ王女が訴えてくる。
「じわじわとワタシが蝕まれてく……そのうちワタシはこいつに全部取られる。そんなの、いやじゃ」
だから、と。
涙を流しながらオレに訴えかけてきた。
「殺してくれ。止められるときは止めてくれるんだろう? だから。だから……」
いつもわがまま放題の姿が見る影もなかった。そして手がエルゼ王女の顔を隠し、下ろした瞬間には狂気的な笑みを浮かべている。
舌を出して、挑発するように。
「――だ、そうだ。泣けるねぇ……」
「どこが」
「健気なお姫様と、苦渋の決断を迫られる騎士。実にいい場面じゃないか」
祈るように両手を合わせてから、花開くように両手を左右に広げて回る。
「アンタらもそう思うだろう?」
そうしてウラリアたちに目を向けた。
「……外道め」
ニエベがはっきり否定した。怒りで震えている。
「……はぁ」
ため息を吐く。
全く、あの王女サマは……。
剣を納める。
そして両手を合わせてから武器を生成した。
「ロマ様……? 何を」
「何をって。殺すんだよ」
生成途中の魔法武器をクルクルと回しながら、形を成していく。
「は?」
「何?」
魔女が固まり、ニエベも驚いたような声を出す。
「ま、待ってください。まだ取り返しがつかないとわかったわけではありません」
「そうだ。オマエの主だろう! 一度撤退して……」
「いや、記憶が馴染むとか言ってたからエルゼ王女の体を好き勝手使えるようになったら困る。仕留めるなら今だ」
魔力を練り上げる。
そして、魔女が震え上がった。
「……なんだ、それは」
「魔法武器だが?」
「そんなことを聞いてるのではない! その殺気は! 魔法はなんだと聞いてるんだ!」
震えながらオレを指さす魔女。
エルゼ王女の記憶があっても、オレの記憶はないだろう。そしてオレしか知らないものを、魔女が知るわけがない。
「何って、『即死魔法』だよ」
オレは淡々と告げた。