特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
ロマが倒れて、動かなくなった。
「……ロマ?」
ワタシは涙を拭うのも忘れて、ロマの顔を覗き込む。顔色が悪いような気がした。
……口元に耳を持っていく。
――息を、してなかった。
鼓動を確認……聞こえない。聴覚を強化して、わずかに、ゆっくりと鼓動しているのがやっと聞こえた。
「ウラリア様!」
顔を上げて、ウラリアに目を向ける。
「魔力がかなり弱まっています。エルゼリーナ王女を救うために使った魔法。わたくしは存じ上げないものでしたが……魔法の中でも特に理外のものであったのは間違いありませんから……」
「助かるか!?」
「回復魔法は無駄でしょう。魔力を最低限補充する必要があります」
回復魔法は外傷の回復を手助けするものだ。無から生成できないし、魔力の補充はできない。魔力回復の薬は、栄養剤のようなものだ。そもそも今飲めるかわからないし、活動が停止している体に意味があるかわからない。
「どの程度だ」
「微量ずつとしか。血液に行き渡れば」
こやつ、血中に流れる魔力まで使ったのか。魔力は魔法に使用する以外に、生命活動も担っている。身体強化はその生命活動の魔力量を変化させることで一時的に活動量を上げて強化するものだ。
その本来、体に流れるべき魔力が不足し、欠乏している。それは死を招く。ロマの呼吸が止まっているのはそれが原因か。
この場合は人工呼吸が必要だ。肺に魔力を送り込んで、血液に取り込ませる。
送り込む魔力量を間違えれば、許容を超える。他人の魔力だ。体質に馴染んだ魔力と違って、量が多すぎれば拒絶反応を起こす。
胸に手を当てる。
「すぅ、はぁ」
深呼吸をして、魔力を極力抑える。落ち着け。問題ない。魔力のコントロールは生まれたときから知っている。
「できますか、エルゼリーナ王女」
ウラリアが聞いてくる。
「やる」
死なせるものか。
ロマの顎を上に向けて、鼻を摘む。そうして、自分の息を吹き込む。
「ウラリア様」
「……任せましょう。ニエベは魔物の残りが襲ってこないか警戒を」
「承知しました」
ゆっくり魔力を送り込む。ロマの胸が膨らんだことを確認し、口を離す。そうして活性化の魔法をロマの心臓に向けてかける。火とは熱、熱とはエネルギー、活力だ。通常であればエンチャントのためのものであるが、胸回りに範囲を限定し、効力も微々たるものにし、過剰にならないように神経を尖らせた。
「死ぬなよ」
――王女サマなら『助けろ』って言えよ。
意識が薄れても、そんな声がしっかり響いた。ちゃんと覚えている。
自分が失くなっていく感覚。怖くて、寂しくて、狂いそうな中で、こやつはそう言ってくれた。助けてくれた。止めてくれれば、それで良かったのに。
息をもう一度吹き込む。
そして、活性化の魔法をかけ続ける。
「ワタシの人生にはお主が必要だ。だから、頼む」
初めて己のことを知った相手。前世の記憶による不釣り合いな欲求と、思考回路。一生誰にも話さないことだってあったかもしれない。
力を振るう快感だって、いけないことだと思い続けて、発散するのに苦労したかもしれない。
ロマは、前世の記憶があることを信じずバカにすることもなかったし、力を振るうことを面倒に巻き込まれるのはごめんだといいつつも否定はしないでくれた。
死にたくないと言っていたくせに、ファイアードレイクのときも、今も命を賭けて守ってくれた。
――戦いのときは化け物、今は子ども、王女やってるときもある。
ワタシが異常に強いことも、甘い物が好きなことも、猫かぶってることも。全部。全部知っていて、ありのまま肯定してくれているのは、紛れもなくお主だけだ。
だから、ずっと共犯であってくれ。少なくとも、こんな別れ方はしたくない。
「ロマ。お願いだ」
もう一度息を吹き込む。
「――エルゼリーナ王女」
そして、活性化の魔法に戻る。
「エルゼリーナ王女」
「なんだ!? 今集中して」
怒鳴りそうになったところで、体を抱きしめられた。
「失礼しました。ですが、もう大丈夫です。がんばりましたね」
背中を擦られる。
ロマを確認すると、胸が上下に動いていた。呼吸が戻っている証拠だ。
「……あ」
止まっていた涙がまた溢れ出してきた。それをウラリアが胸で受け止めてくれる。
「回復には日を要するでしょう。近くに教会の治療院があります。そこにお連れして、目覚めるのを待ちましょう。ロマ様は、ニエベが運べますから」
「う、うぐっ、あう……」
返事もできなかった。
色々なことが起こりすぎて、頭がいっぱいいっぱいだったのかもしれない。そのまま子どものように泣きじゃくった。
えー明日の更新で今回は最後になります