特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです   作:月待 紫雲

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5話 誘拐だなんてとんでもない

 第三王女誘拐事件。

 

 エルゼ王女が誘拐され、そしてオレが救出したことになっている事件。

 

 誘拐だなんて――とんでもない。

 

 エルゼ王女はオレたちの()()()()だった。

 

 ダインスレイヴ教団。暗殺剣士の集まる、組織の名だ。そこにいた元孤児で「ノロマのロマ」と呼ばれていたのが、オレだ。

 

 暗殺は基本集団でやる。

 

 鼻歌まじりに城を抜け出したエルゼ王女は、暗殺依頼を受けたオレたちには絶好の機会だった。なぜ依頼があったかは……まぁ、権力争いだとかいろいろあるだろう。深いとこは知らん。

 

 で、オレ以外返り討ちにされた。あいつが化け物だったせいで。

 

 オレは降参。アジトを紹介して教団は壊滅。

 

 つまり、あいつがやらかしたの。誘拐されたんじゃなくて襲撃したの。オレを使って。

 

 ――と、口が裂けてもいえない。

 

 だってバレたら普通にまずいし。死にたくないから。

 

「暗部のやつがこんな堂々と王女殿下に付き従いますか? 魔物退治だなんてまっぴらごめんですよ」

「冒険者を雇って隠蔽し、個人の功績にするという線も考えた。調査させても全て白だったな」

「げ。コソコソ何してんすか」

「すまぬが、王からの相談もあったゆえな」

 

 まぁ、突然娘が男連れてきて「特任騎士という職を無理やり作って押し込みます」って言ったら気でも狂ったのかと思うわな。

 

「名が売れていてもおかしくはないはずだが、ロマという名は聞いたこともない」

 

 暗殺者の名が知れたら困りますからね!

 

「そのうち本性が出るだろうと思ったが、特に何もない。センスもその類ではなかった」

 

 そりゃ大金もらえて未来安泰最高だからな! というか才定の儀の許可が出たのもそういう理由かい!

 

「貴殿は第三王女殿下によく付き合っている。今回、実力を試す方向に誘導したのは最後の憂いだったのだ。真に実力があるのか、という疑念のな」

 

 つまり暗殺者まがいのちまちました剣技見せたらお前をクロとする! というわけだったってことか。

 

 ……うん? てことはダインスレイヴ教団の剣技はさほど知らないか。

 

「オレは団長を倒しゃいいわけですね」

「できるか? 若造」

「エルゼ王女が見てるんで」

 

 負けたら何を言われるかワカラナイヨ。

 

 オレは上段に構えた。抱きかかえるように拳を胸に寄せ、刃が右肩に乗るようにする。

 

「そんじゃ、行きます」

 

 前に出る。

 

 シンプルに斬りかかった。団長は冷静に上体をそらし、少し後ろに下がってから剣を合わせに来る。

 

 剣は打ち合い、読み合いだ。

 

 相手の攻めをいかに防ぎつつ攻撃に転じれるか。または相手の意表を突けるか。刃先でもなんでも急所に当てれば勝ちである。

 

 ただの愚直な縦斬り。

 

 この対処は簡単だ。受けて弾きあげて斬る。受けて捻り上げつつ突く。色々できる。横薙ぎでオレのがら空きの胴を叩いてもいい。だが、何も考えずにそれを行うとオレの一撃が頭に届く。

 

 オレは姿勢を低くしながら縦斬りすることで的を小さくしつつ、選択肢を狭める。

 

 団長の選択肢は叩き潰しに来た。

 

 最終的な斬撃の威力、衝撃で言えば団長の方が上だろう。

 

 つまりまともに打ち合えば、オレはただ不利になる。

 

 が。

 

 まともにやるわけないよね!

 

「――!?」

 

 斬り抜いた。

 

 団長の剣をすり抜けて、胴を叩き、そのまま抜ける。

 

 少し怯んだ団長はゆっくりオレに振り返る。そして衝撃があった自分の腹に手を当てる。信じられないようなものを見たような顔をしていたが、しばらくしてフッと微笑んだ。

 

「負けだな」

 

 剣を降ろし、降参の意を示す。

 

「勝者、特任騎士ロマ」

 

 周囲にどよめきがわき起こった。エルゼ王女を見ると、笑顔で手を振ってくれる。愛想笑いで手をあげといた。猫かぶってると美少女なんだけどなぁ。

 

 視線を団長に戻すと、凄い形相でこちらを見ていた。

 

 え、何? やっぱ卑怯に思われた?

 

「……ロマ殿。どこでその剣技を学んだ」

「独学です」

「独学か。正気ではないな。どうやってやっている」

「わからないっす」

 

 団長が目だけで説明しろと訴えてきた。

 

「いやなんでできてるかわかんないんですよ。説明できないっていうか」

 

 オレがやったことは簡単だ。

 

 斬りつけると見せかけて衝突直前に剣をぴたりと停止、そして剣先を前から後方に、肩に乗せるように引き寄せた。横向きの剣が肩に乗る形だ。

 

 そのまま、沈み込む勢いで左へ抜け、横薙ぎを胴に入れる。

 

 相手の剣をすり抜ける剣技。系統としては影抜きとか、そんな言われ方をする技だ。実際の影抜きとやり方全然違うけどね。ウチでやってた影抜きは剣の軌道に変化をつけやすくするための訓練用みたいな技だったし、目標を飛び越すようにするから。

 

 相手の剣速を見極め、己の体捌きで抜けて斬る。

 

 ぶっちゃけ非効率だ。相手の剣をしっかり受けて突きのカウンターをした方が早いし安全。

 ただオレがこれをやったのは、今()()()()()()()()()()しかいなくて、対策できるやつを現実で見たことがないからだ。

 

 本気ではないとはいえ団長にも通じたらしい。

 

 本気の団長とか、剣聖だとかに通じるかは知らない。今回は魔法だの魔力操作技術だのを全く使用せず、わかりやすく剣術に絞られたのもあるしな。

 

 警戒されてめちゃくちゃ攻勢に出られたら影抜きの余裕はないだろう。

 

「王女殿下には危なすぎるんで、教えられたとしても教えませんよ」

「そうしてくれ」

「ちなみにだが、貴殿が第三王女殿下を裏切る可能性があるとすればなんだ」

「素直に答えると思いますか」

「安心しろ、本気にはせん。他の所属になるか、王に誘われたなど、そういったものだと思え」

「……うーん」

 

 あの王女サマから離れる? ご冗談を。立って戦いを傍観しててもお金がもらえるのに?

 

「エルゼ王女以外の誘いなんて断りますわ。もしも、本当に裏切ることがあるとするなら、エルゼ王女より王家ですかね」

「……なぜだ?」

「エルゼ王女が喧嘩売るっていうんなら王家でも何でもやりますよ。なにせ貴族じゃないですから」

 

 エルゼ王女を敵にするなんてとんでもない。ヤツを敵にするほうが国相手より怖い。

 

 団長はきょとんとした。今までで一番やわらかいというか、厳格さの削がれた顔だった。それから豪快に笑う。

 

「そうかそうか! では安心だな」

 

 団長が手を出してくる。

 

 握手、らしかった。オレもそれに応じる。

 

「実力に偽りなし。任せたぞ」

 

 いや、指南はしないつもりなんですけど。

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