特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
玉座の間にて、近衛騎士団長マイロスは王に謁見していた。
「してどうだった?」
オーレリア王はたくわえた髭を指で撫でながら、マイロスに問いを投げてくる。「どう」とは第三王女であるエルゼリーナ王女の特任騎士ロマについてである。
「得体の知れなさは増したかと存じます。が、我々の脅威になる存在であるかどうかは極めて低くなったと存じます」
「ふむ。確かにお主以上の剣士であるとはわかったな。問題はなぜそれほどの実力があるのか、だが」
「はい。しかも、やつには剣気というものがありませんでした」
剣を扱う者としては構えや表情などから大小なりとも気迫を感じるものだ。
ロマにはそれが全くなかった。最後まで。
相手として認識されていなかったのか。それともそれが平常なのか。
「暗殺者は気配や殺気を消すのが上手い。その手の類と疑いはあったろう」
「えぇ。ですが、それは不意をつくためのもの。隠し武器や相手の無防備な瞬間に確実に仕留めるためのものです。決め手の一撃すら剣気がないというのは、はっきり言って異常です。わたしと真正面から剣で挑むことに関して、一切迷いも焦りもなかった。暗部関係ではないと断言いたします」
得体のしれない、脅威となりうる強さを持つものが「特任騎士」としている。
王にとってもマイロスにとってもそれは不安材料であった。
それでも容認したのは、「今後、どんなものも欲しがらない。だから彼を特任騎士として専属にしてほしい」とエルゼ王女が懇願したこと。
あの強さは確かにどれほど金を積んでもほしいだろう。今ならわかる。しかし幼いエルゼ王女がそれを見越していたとは思えない。いくら誘拐現場から助け出されたとはいえ、渇望するほどの信頼をロマに抱くのか、それはマイロスにはわからず、そして恐らくオーレリア王も同じであった。
しかも当初はロマ本人の実力も不明、何のために特任騎士となったのかも不明だった。
だが、ロマが特任騎士となって、エルゼリーナ王女が明確に変わった。笑顔がどこかぎこちなく、感情表現が苦手そうであったエルゼリーナ王女が、明るい笑みを浮かべるようになった。エルゼリーナ王女からすると、生活が潤ったと言えるだろう。
そしてロマはエルゼリーナ王女に付き従い、エルゼリーナ王女の希望以外ほぼ動かない。疑いは疑いのまま、軽い事実確認が手一杯であった。
たまに戦果をあげてくるときがあるが、なぜかそれを直接見ているのはエルゼリーナ王女ただひとり。
今回は、強さを直接確かめ、腹を探るのにまたとない機会であった。
結果として強さは偽りなしであった。では問題となるのは腹の中というわけである。
「最後、彼に聞きました。エルゼリーナ王女を裏切るとすればどのようなときか、と」
真面目に答えるわけがない。答え方によっては極刑だ。無論、マイロスの胸の家に留める予定であったため、実際に刑を執行するように動くつもりはなかったが。
オーレリア王もそれは理解したらしい。疑問を口にはしなかった。
「彼は王女を裏切るくらいであれば王家を裏切ると言いました。つまり、エルゼリーナ王女に害を為すのであれば、王家そのものであろうと敵にすると」
普通であれば裏切ることはないと言って終わりだ。それ一択と言っていい。
ただ。
マイロスにはエルゼリーナ王女がロマへの特任騎士任命を懇願したように、ロマにもエルゼリーナ王女に何か思うところがあるのではないか、とそう思った。
その考えは正しかったと思える。
「特任騎士としてふさわしい発言かと」
「うむ。彼の出自がどうあれ、手綱を握るのは難しいやもしれぬな。娘にとってこれ以上ない護衛となっているのなら、わしらも警戒しすぎるのはいらぬ争いを生むかもしれん。詮索はこれまでとしよう」
「それが良いかと」
騎士団長として多くの強敵を相手にしてきたが、ロマは相手にしたくないと思える剣士だ。敵対しないに越したことはない。
「ご苦労であった。体をゆっくり休めてくれ」
「はっ。失礼します」
玉座の間を後にする。閉じた扉を振り返りながら、マイロスは思った。
なぜ、二人はあそこまで離れずにいるのか。
命を助けられたエルゼリーナ王女はわからなくもない。恩人であり、強き者をそばに置きたいという心理は誰でも働くであろう。幼き少女であればなおさらだろう。
だが、やはりロマだ。
ロマがエルゼリーナ王女から決して離れず、支え続けている理由。王家を敵にまわす事態となっても王女のそばにいようとする、その心。
あの日の二人に一体何が起こり、互いを結びつけたのか。
「……野暮か」
マイロスは国の騎士だ。追及し続けることは仕事ではない。
きっとあの二人にしか、わからぬものだ。