特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
オレは両手を挙げていた。
降参である。
暗殺対象だった第三王女は化け物だった。仲間――特に仲良かったわけでもないが、そいつらが灰と化した。灰になる火力ってなんだよ。
暗殺者だからって防御が薄いわけじゃない。戦士みたいに真正面からの戦いが得意じゃないだけだ。魔力の操作技術だってある。防御膜を張れるし、身体能力だって向上できる。
それをものともせず、両手の炎で無に返した。魔法使いでも気軽に出せないぞこの火力。
子どもが出していい威力じゃない。
変だなと思ったんだよ。人気のない路地にるんるんで入っていって、しかも襲う瞬間こっちをぐりんって見たんだぜ。ちょー笑顔。
もうこれはホラーだって。
「なんだ、仲間のように使命に殉じる気はないのか?」
「そんな誇り高い職業に見えますか? 暗殺者っすよこちとら」
「……つまらん」
本当につまらなそうに、手元の炎を消す。
そのまま無言で向かい合う。
「…………オレは許されたので?」
「……隙ありとか言って襲わないのか? 戦闘態勢を解いたのだぞ」
首を傾げられる。
「いや割に合わない」
「割に合わない?」
「面倒くさいです。いくら積まれたってアンタと戦いたくない」
「……面倒。そうか」
顎に手を当てて考える素振りを見せる王女。
「ということは戦えるのだな」
笑顔で魔法をぶっ放してきた。
「おい!? 話聞いてたか!?」
魔法を斬り払って叫ぶ。
「聞いてたぞ? だからぶっ放したのではないか」
「戦闘狂か!? クソガキが!」
「うむ。キサマの強さに興味がわいた」
「終わりが見えないんでなしにしてくれませんかね」
「これはどうだ?」
炎で剣をつくってきて、斬り掛かってきた。動きは素人だが、火で加速でもしてるのかシャレにならない攻撃になっている。
しかも一瞬で人体を消し炭にできる火力の魔法を撃てるってことは、この炎の剣も受ければ消し炭確定である。
「バカがよォ!」
炎の剣を弾く。
弾かれた王女は炎の剣を消滅させ、不思議そうにオレを見た。
「今、何をした」
「剣で弾いたんですよ」
「抜いておらぬではないか」
腰の剣に指をさされる。一応愛剣になるのか、頼りにしたことないけど。
「ワタシと同じように魔法で剣をつくったな?」
「だから?」
「楽しめそうではないか。どうすれば本気になる?」
「やりません!」
両手を高く挙げて降参を強調する。
「……殺す前に、教えてくれぬか? 冥土の土産というやつじゃ」
「生かす気ゼロ!? しかも逆です、オレがもらうんです! 冥土の土産は」
「どうやってその戦い方を会得した。さっきのやつの仲間にしては
「……本があります」
「本?」
「
「ほう。では、全員強くなければおかしくないか」
「暗殺に使えればいいんですよ。並大抵のやつを斬り伏せられて、暗殺対象を始末する。
「読破する必要がない……?」
お、興味持ったな。あれだな、七影の書をエサに助けてもらうのもありだな。
「本を開けば別空間に落とされて、そこにいる剣士の概念って言えばいいか? そいつに剣技を叩き込まれる。そんだけの本だ」
「何を持って読破とするんだ」
「そりゃ、別空間にいるやつを倒しきれば、ですよ。7回」
「7回。それで七影か。キサマはどの段階だ」
「お頭が
「ほう、裏切るのか?」
「そりゃ裏切りますよ。孤児だったオレに暗殺術仕込んだやつらです。情だのなんだはねえので。問題は路頭に迷うことですが」
「路頭に迷う? 冒険者にでもなれば稼げるだろ」
「あのねぇ、生まれてこの方、暗殺を仕込まれてお頭が持ってくる仕事をこなすのが生き方だったんです。他も何もない。今王女サマが王女サマ以外の生活できますか」
「できるぞ。ただまぁ……苦労はするかもしれん」
「オレはこの稼業以外での生き方を知らないんです。生まれ変わってーなんて無理な話ですよ。身分証明もないし。平民でもない殺しの道具ってやつですよ。足がかりがない」
そういう風にオレは育てられてるんだ。別に不満だとかそういうんじゃない。最も楽で安定した生き方がそれだからそれ以外ができない。それ以外の道のハードルが恐ろしく高い。
ま、でも死ぬよりはマシだ。
だって死にたくないから。
「……キサマは、ワタシが怖くないのか?」
「……なんで?」
「子どもがこんな化け物じみた力を持っているんだぞ」
手をかざす。指先から火が灯った。
「生まれたときから使い方を知っていてな。なぜだろうな。半端に知識があるのだ。前世の記憶というやつかもしれん」
それは、どこか寂しげな呟きだった。
「力を存分に振るいたい。そんな欲求がある。だからこうして抜け出して、正当に反撃し、目撃者が残らないような場所と相手を望んだ」
「タチわりぃ……」
おもちゃを壊しまくる子どもかよ。
「ワタシはただの王女だ。でなければ困る。ワタシは狂人になりたいわけではない。城の者が嫌いなわけではない。いらぬ不安や混乱を招きたくはない。だからそう――」
指先の火が収束してオレに向けられる。
そして魔法がオレを襲った。
火柱でも立ったのか、一瞬視界が白に染まる。
「知ってるやつはこれからも
轟々と燃える世界の中で、孤独に満ちた声が聞こえた。