特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです 作:月待 紫雲
――少しもったいなかったか。
――少しもったいなかったか。
ワタシは炎の中を眺める。
話の通じるやつではあった。本気で戦う気があったのであれば、このような末路にはならなかっただろう。本来はどれほど強かったのか、気になることではあった。
しかしもう、やってしまったのだ。
こうして灰にしてしまえば何も残らない。
「――――あっちぃ!」
ありえない声がした。
炎を斬って、男が出てきた。
――なんなのだ、こやつは?
◯
燃えてる衣服の肩や足を叩いて急いで火を消す。
目を見開いた王女がこっちを見ていた。帰るつもりだったのか、体は人通りの多い方向に向いている。
「……キサマ。何者だ」
「暗殺者ですよ。剣がメインの」
「キサマのような暗殺者がいるか」
「ここにいますぅ!」
にしても、がちで殺しに来やがって。これがガキのすることかよ。
…………あ。そういや仲間は全員消し炭にされてるんだった。じゃあおかしくないわ。
「あのねぇ、他人を異常者呼ばわりしてますけど、お互い様でしょう」
どこの世界に暗殺者を笑顔で返り討ちにできる子どもがいるんだよ。そっちのほうが異常だ異常。
「お互い様……?」
意外そうに口を開く王女。
「……そうか。お互い様か」
顎に手を当てて、ぶつぶつ呟かれる。
「キサマがそんなに強いのを知ってるやつはいるのか」
「いませんよ。アンタだけ」
「なぜだ?」
「楽だからですよ。アンタだってそうでしょう」
力があるってわかったら無茶させられる。命の危険が増える。
ごめんだね。
「周りからいらぬ目で見られたくない。厄介事は避けたい。だから、こそこそやってるんでしょ」
「まぁな」
暗殺者の時点でリスキーなんだから別の面でリスク増やしてたまるか。さっと殺って、さっと金をもらって、適当に生きる。オレはそれで十分だ。
「……ふむ。ところで確認だが、七影の書とやらのおかげということに嘘偽りはないか」
「誓ってありません」
そこで嘘つく意味はない。
「もしワタシがそれをよこせと言ったら」
「いやあげますよ、いらないんで」
「いらないのか」
「というかどっかの暗殺教団が持ってるより、国の宝物庫にぶち込まれるなり、燃やされたりしたほうが世のためになると思いますよ。めんどいからしないけど」
「――ほう」
目を細めて、じろじろと見られる。
しばらく沈黙が続いた。王女が何か考え込んでいるようだった。逃げ出そうにもそんな素振り見せたら燃やされそうなので、大人しく待ってみる。
「……ワタシがその七影の書を読破したとしたらどう思う」
「ちょっと見てみたい気がしますね。どんなもんか」
「悔しいとか恐ろしいとか、殺されるかもしれないとか、ないのか」
「極地ってのは中々お目にかかれませんからね。興味ありますよ。ま、今本気でやりあわなければとりあえずいいですよ」
読破する頃にオレがそばにいるとは限らないし。
「つまり、読破すれば全力で相手をしてくれると」
「いや殺し合いはしませんよ。ちょこっと見せてくれれば満足です」
「今よりはやる気は出しそうだな」
王女は手を叩いた。
「よしお主。ワタシ専属の従者になれ」
いい出した言葉は全く脈絡のない意味不明なものだった。
「無理を通してお主に身分を与えてやろう。単純に位を与えることは難しいし、ワタシのそばに常に置かせたいしな。ワタシの行動を常に保証してくれる人物として――そうだな、特任騎士という独自の位をつくってそばに置く。そうしよう」
「はぁ!?」
「ワタシは理由をつけて外に出て、こうやって力を発散したい。だが、王女という立場では気軽に許されん。お主を連れていけば問題視されぬだろう。今までで一番強いしな、お主。で、暴れた後の処理を任せる。暗殺者だからある程度はできるだろう。手柄にできるならそのままお主の手柄にする。こうすればお主は安全安心、ワタシは王女のまま好き勝手できる」
「ま、待て! オレのメリットは」
「さっき生き方を知らんといっただろう。道をつくってやるという話だ。わからないか?」
「いやまぁ、そうか。そりゃ都合良いけどなんで急に」
「いつまでも隠そう、誤魔化そうとするのもストレスでな」
指をさされる。
「お主も面倒事が嫌なだけであろう? ワタシを中心に生活すれば戦争だのなんだののいざこざには巻き込まれまい。ワタシだけがお主が暗殺者であることを知っており、お主もまた、お主だけがワタシがこんなであると知っておる。ひけらかすことはせん。秘密の共有だ」
「共犯ってこと?」
「……共犯……良いな。うむ、共犯関係じゃ」
うんうんと何度も頷かれる。今までで一番子供っぽい笑顔だった。
「では、今日からお主とワタシは共犯関係じゃ」
手を差し出される。
「ワタシはエルゼリーナ・クロスタイン」
「知ってる」
手は真っ直ぐオレに向けられたままだ。握手をしろ、ということだろうか。
「お主の名を知らぬ。教えろ」
…………。
……なんかそれっぽくしたほうがいいか? 忠誠を誓うつもりはないけど、騎士っぽいやつ。
オレは跪く。そして差し出された手を包むように握った。
「ロマと申します、王女サマ」
「……ほう、感心したぞ。良い心がけだ」
王女様はオレの行動がお気に召したのか、満足そうだった。
「エルゼと呼べ。特に二人のときは、だ」
「承知しました、エルゼ王女」
「王女もいらぬが……まぁいい」
手を離すと、エルゼ王女は腰に手を当てた。
「さて。手始めに無理を通すために手柄を立ててもらわねばな」
「手柄って……」
「ほら、あるじゃろ? お主のア・ジ・ト」
あ。
こいつ、アジトで暴れるつもりだ。
◯
――――というわけで。
オレは家を失ったと同時に新しい生活を手に入れたわけである。
七影の書はエルゼ王女が持っているし、読んでいる。じゃなきゃ、以前よりも剣の扱いが巧みになっている理由がわからないしな。というか体捌きが七影の書の中にある剣術に寄ってるし。
「この本の攻略のコツとか、お主知らんのか」
エルゼ王女は円形の小さなテーブルの上で本を揺らす。指先で可愛らしくコトコト動かしていた。
「見て盗む」
「……お主なぁ」
「わかってますよ。できたら苦労しないからお頭も
剣術指南の時間だが、2人しかいないのでただの雑談時間と化している。なんならオレは城にあった本を読んでいるところだ。ちなみに紅茶に関する本だ。
うん、楽。
「ま、三影あればたいていの敵はどうにかなるでしょう。というか剣使わなくて良くね? 真面目に剣でやってるんですか」
「やっている。
「一生ないことを祈ってます」
まじで。死にたくないので。