ここでは都市に転移したと思ったら目の前に指令を受けたソラがいた男について語られる 作:ケジメされた人差し指
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カンソウガヒツヨウデス(ジフン書き文字)
今から、殺されるんじゃないか。開けたままの扉の存在も忘れて、こちらを凝視するカリストを見た刹那にそう思った。人間らしい眼球ではない、あの真っ黒で空洞のようにさえ見える部位からのそれを視線と呼んでいいのかわからないが、落ち窪んだ闇のような視線が俺を真っ直ぐに貫いている。
頭のてっぺんから足の先までを吟味するように、年代物のワインなんかをテイスティングするようなその視線には敵意も害意も、悪意もない。それも当然の事だろう……薬指のマエストロ、カリストにとって『それ』は喜ばしい事であろうから。全身の毛穴に冷たい針を突き刺されているような悪寒。同じ人間とは到底言えぬほどに隔絶した存在の核に気圧されながらも、俺がこうして立っていられるのは……熟知とは言えぬまでも彼の事を知っているからだろう。
都市という伏魔殿に座す圧倒的な上位存在としてではなく、Limbus Companyという1ゲームの登場人物として知っているからこそ、それを過度に恐れる必要などあろうものか。この先、地獄があるぞ。だから、ペラ回しの時間だ。と身構えていた俺の前にソラちゃんがさっと身を割り込ませ、冷や汗を垂らしつつも立ち塞がってくれた。援護防御助かる、多分カリストは引いてくれないだろうけど……精神的にね。
「ま、待ってくださいカリストさん! そ、『それ』は困ります……」
「蜘蛛の巣にまで連れて来るくらいです、どうせ理由はいつものくだらない指令でしょう。そんな生産性のない所業に使ってしまうよりも、私の方が余程彼のような稀人を活用出来ます」
独創性の塊みたいな薬指に対して、主体性というものが存在しない人差し指。同じ親方のリアンをも疎んでいたカリストの事だ、原作で絡んでいるシーンは見れなかったがソラちゃんに対しても辛辣なのは予想出来たが……普通に当たりが強いな。ソラちゃんも一応指令なので俺を守るという行動に自信を持つ事が出来てはいるが、流石に相手が悪過ぎる。
「だ、駄目です! そ、その人はボ、ボクの……その、交際相手なんです!」
とか思ってたけどいきなりぶっ込んで来たなこの娘。ここは羞恥が無いんか? ほら見ろあのカリストもびっくりして口開いてるじゃん、その顔のままソラちゃんと俺の事交互に見るなよちょっとコミカルだから。金属質な顔に口元だけが出てて目が真っ黒なの、見た目の構成要素がちいかわの鎧さんだから尚のことちょっと面白いんだよ。
「……ああ、そういう指令なのでしょう?」
「そ、それはそうなんですけど……」
「はぁ、色恋すら何かの言いなりにならなければ出来ないあなた達よりも余程、私の方が彼に愛を施せます。ですがその方を連れていただいた事には一先ず感謝を述べておきましょう……其方のあなた、お名前を教えていただけますか?」
人差し指の子方など知ったことかと言わんばかりに言葉をぶった切り、カリストは歩み寄りながら俺に問いかけて来る。都市の義体としても異質だろうその異形の体躯。2m弱はありそうな細く鋭利な巨体が一歩、また一歩と近づく度に濃密になる死の予感が重圧としてのしかかって来る。
突然の邂逅には面食らったが、こうなる事自体は想定の範囲内だ。リアンと先に会うことが出来ていればそちらからのセーブが期待出来たが、こうなってしまっては致し方ない。カリストが俺の事を未知の素材として認識する以上に、薬指の芸術……身体派への理解者としての認識で上書きする。本心からそうであると疑う事なく擬態しろ、それだけが活路だ。
おろおろしながらこちらを見上げるソラちゃんに目配せし、カインハースト式の一礼をしてから前に出る。文化人である事を気取れ、鬼龍のように……服がこれだから格好つかないけども!
「不肖ながら応えさせていただきます。私はアンデルセン……高名なる薬指の身体派がマエストロ、カリスト様という知己を得られて光栄です」
カリストは虚栄心に満ちた人格の持ち主だとストーリーから推測出来る。虚栄とは言っても彼が薬指のマエストロ『であった』事実に変わりはないのでどちらかと言うと承認欲、いや誇示欲が強いという方が正しいかもしれない。自分の産み出す美しく優れた作品の数々が理解され、賞賛される事を求めている……そんなマエストロである事を自称して憚らないカリストではあるが、敵情報から確認出来る特性キーワードを見るにその地位はヴァレンチーナ同様に剥奪されてしまっている。
しかし縒り合わせに出て来た現役のドーセントであるルフォからは、豚に真珠だなんて見下されつつもマエストロとしての扱い自体はされているようであった。実際にマエストロから格下げされてドーセント扱いをされていると言うよりは、1ジャンルのトップ気取りだけど所詮はマイナージャンルの中ででしょ? みたいな風潮があるんだろう。
幸いにもカリストはそれが策略や罠であるとわかっていても、興味深い話には聞き入ってしまうタイプだ。俺のように薬指の活動に迎合するフリをして命乞いをするような人間は幾らでも見て来ているだろうが……この切り口は効くだろう。
「ほぉ……私の事をご存知とは。ふふ、ご丁寧にありがとうございます。ですが改めて此方からも自己紹介を。薬指のマエストロ、カリストです。アンデルセン君でしたか……瞳孔のブレに呼気の弾み、私から自身をどういう目で見られているかを理解していますね?」
ファーストインプレッションは悪くなさそうだが、俺の身体に出てしまう生理的反応を経験と照らし合わせて、そのくらいの考えは見抜かれてしまう。は、マエストロということか……そう簡単にはいかないか……ビビり散らかして泣いちゃいそうだけど、そうしてしまうよりもそれを呑み込もうとする姿の方が感心されるだろうから気張るしかない。見抜かれているというならそれをも利用するまでだ。
「おっしゃる通りです、流石は身体派の盟主……その人体へ対する観察眼、感服する限り」
「単なるおべっかであれば聞き流すところですが、敬意を払っている事自体は本心である様子……初めは人差し指の子方が格別な素材を持ち込んだものと思いましたが、次第によっては新しい観客か……或いはあなたが産み出す芸術を見定めるのも悪くありませんね」
ホンルの人格ストーリーの話だからカリスト本人にまで当て嵌まるとは思っていないが、薬指としてではなく身体派として認知しているだけでも侵入者に対応が柔らかくなるくらいだ。この場で即座に素材行きってのは避けられそうだが……気に入られすぎも困るな。実のところやってみたくないわけでも無いけど、倫理観的にかなり、あれだから……
「安易な同調は出来ません。私自身の手は人を殺めた事もないほどに青いものですが……鑑賞の経験からゴアジャンルやグロテスクへの関心はあるつもりです」
「素直で宜しい事です。理解も無い癖にわかったような真似をされる事ほど白ける事はありませんから。しかし、あなたのような異邦人が見て来た物というのは興味があります。後学の為にも聞かせていただけますか?」
都市の人間というのは技術力的に先進的であるようにこそ見えるものの、ディストピアな世界観でもあるが故に心にゆとりというものが無い人が大多数だ。生きているのもやっとだっていうのに、そんな中で何かに拘ったりだとか追求したりっていうのは二の次な訳で。
そういった事情もなく、インターネットやメディアで広く創作物に触れる事が出来ているのは間違いなく強みだと思っていい。ともすれば今この状況も、『プロムンの都市に転移した』ではなく『知らないディストピア世界に転移した』になっていた可能性もある。だから鑑賞の経験があるというのは嘘じゃない、関心があるというのも。
「身体派の芸術は人体の動と静、躍動する筋の震えと聳える骨の雄大さを美と感じるところですので少々趣向が異なりますが……写真という形で切り取られた人間の死に感銘を受けた経験があります」
「ほぉ……身体派への解釈も悪くありません。そしてその手法はこれまでに見た事もありませんね。しかしそれでは単なるスナップフィルムと大差ないのでは?」
「いいえ、N社辺りにあるような後から上辺を添加した物ではなく、装束や背景、照明と構図にこだわり写真の枠を額縁へと昇華していたのがそのアーティストの特徴でした」
やってて良かった、サイコブレイク2。ステファノとかいう美中年は当時の俺にマジで劇薬だったからな……暫く二次創作漁り倒してたもん。あんなん浴びて気持ちよくならんオタクそういないって。
「死は本来一瞬にして到来し、過ぎ去るものです。しかし彼の作品は生とも死とも言えない絶妙な瞬間、被写体の絶望や恐怖……或いはそれを自覚出来ない唖然とした表情をも抜き取ります。風景に映える色彩とそこに点画するような弾ける肉体、死に様へ構図によって異なる解釈を付け加えて産み出される時間の琥珀は単にその光景を目にするのとは違った情動を感じさせられました」
「叙情的ですね……プロセスアートの側面もあるのでしょうか? これは……新しい着想が、申し訳ありませんアンデルセン君。あなたの話で舞い降りたインスピレーションを一先ず形にしたいのです。あなたが見る私の作品への感想などもっと話を続けたいところですが……」
「閃いた瞬間にはこれだと思ったものが、形にしようとした時には跡形を忘れているというのには自分も覚えがあります。また今度お誘いください、その時はアルビナさんや……叶うならばティビアを拝見させていただきたいですね」
「ええ、ええ! 是非ともご覧にいれましょう、アルビナ達の事もご存知とは……果たしてあなたが何処から来たのか更に気になるところですが、私はこれで」
頭を下げて足早に去っていくカリストを見送る。よし、楽しく話せたな。暫く放置してしまったソラちゃんを見ればいまだにおろおろしたままである、ソラちは可愛いですね。或いは芸術トークに引かれただけかもしれない。
「……ほ、ほら、芸は身を助くって言うから……」
「あ、ち、違いますよ? ただ、カリストさんともあんな風にお話が出来るんだと思って、会ったばかりですから当たり前ですけど、ア、アンデルセンさんの知らない所をまた知れたなぁって……」
「フォローありがとうねぇ!」
まぁ、俺の存在が珍しいってだけで特別際立った素材としての美しさがある訳じゃないだろうから見逃してくれたところもあるんだろう。これがとんでもない美男美女だったら流石に加工したい気持ちも強かったろうしよ。いや、サンプルが一つしか無いのに安易に手出しは出来ないって可能性もあったか?
何にせよ生き残った……まだ蜘蛛の巣に来てから5分も経ってないのに疲労困憊なんですけど、いいんすかこれ。というか本当に必死こいて丸め込んだけど、時間にすると短いよな今の会話。今後付き合ってく中でネタ切れしてボロが出始める瞬間が怖い。
「くたびれました。疲れました? 休みたいです。お腹が空きます? 寝たいです」
「だ、大丈夫ですか? お、お腹が空いてるんだったら、お、おやつのアーモンドとかありますけど……い、いりますか?」
「あー、いや大丈夫だよ。これが言いたくなっただけなんだ」
「そ、それなら良かったです。けど、な、なんか聞いた事ある気がしますね……」
というか都市に来させられたインパクト強くて忘れてたけど俺普通に仕事終わりなんだよ。そんな中で死のチラつくコミュニケーションタイムはマジ苦だよ〜。だけどまぁ……
「た、大変でしたね……ほ、本当はリアンさんに紹介しないといけないので、ボ、ボクがちゃんと言って聞いてもらうべきだったんですけど……」
「でもねソラちゃん、カリストさんと話すのは……マジでビビってたし怖かったけども、楽しかったんだよ」
「え……そ、そうなんですか?」
打てば響くような会話ってあるからな。実物の芸術鑑賞なんて大濠と足立くらいにしか行った事はないが解説文読みながらでもここがこうなってるのかーと思うのは面白かったし、身体派の彫像もカリストにキュレーションされながら見てみればあぁこういう事ねってきちんと理解出来そうだ。実際の絵面のグロさに俺が耐えられればの話だが、背景のスチルとかなんだよあれコストコに売ってるサーモンじゃねぇか。
「こっちに来る前に話したと思うけど、俺は広く浅く趣味を持ってきたから……色んな物に関心があればああして気難しい人ともそれなりの会話が出来るんだよ」
「ボ、ボクが蜘蛛の巣に来てから、歴史に比べてまだ日は浅いんでしょうけど、あ、あんなに楽しそうに話しているカリストさんを見るのは、アルビナさんと以外では初めてでした……ああいう風に、お話しする人なんですね……」
「ソラちゃんはどうかな、別に無理に合わせたり関わりたくない人とは関わらなくてもいいだろうけど……他の子方とはどうだろう。キラなんかは同性でアルビナよりかまともだろうし、彼女はフィクサーとコミックが好きだから……そういうものを知ってみれば、君の世界も開けるんじゃないかと思うんだけど」
人差し指の子方、ソラの最期については指令への強過ぎる陶酔がその一助となっているだろう。それに関してはE.G.O.にもなってしまうくらいだから今更どうしようもないかもしれないが、精神の支柱が指令やリアンだけでなく、俺だけでもなく、もっと沢山持てていればああなりもしないんじゃないか。俺が近くにいて出来ることは……そういう可能性を見せることくらいなんじゃないかと思う。
「そ、それは……初めに話した時もあったんですけど、どうしてか上手く行かなくて……」
「国語の授業じゃないが、物語を読む時は登場人物の心情を鑑みるのが楽しむコツだよ。まぁそれしたところで何考えてんだコイツってのもいるが……」
「あぁ、リ、リアンさんの事を考える事は多いですけど、ボ、ボクだと全然どうしてああするのかこうするのかとか、わからない時も多いですけど……そうして悩むのは、楽しいと思ったりしますね」
なんだか本当に子どもに情操教育してるみたいになって来てるが、それならそれでええやろ。キラなんかは生存組だし、そこと仲良く出来てたら予後も良い筈だ。リンバスカンパニーだって到底まともと言える職場ではないだろうが、捕虜になった面々はホーエンハイムの手元に暫く置かれるだろうし、あの人は利用するだけして処分するって風でもない。LCD組なりに入り込んで……普通の人生を……
「さて、リアンさんも待ってるだろうからそろそろ動こうか。考えたくなかったなここからが本番だった」
「リ、リアンさんとのお話はボクも入れるでしょうから……きっとなんとかなりますよ」
とか言ってるけどヴァレンチーナ相手とかは本当に話せる事ないからな! というかあの人と良いコミュニケーション取れるやつなんて多分いない。こんな風にカッコつけた手前今更スライディング土下座とかしたら失望もんだよ〜。ついでに言うとカリストよりマティアスの方が付き合い難しいと思う。カリストは解釈の幅を広げてくれもするけど、マティアスはいや俺がこう言ってるんだけど? なのがアナウンサーで露呈してしまいかなり怖かったな……
「連れて、来たのか……わからないな、久しぶりにそう思うよ」
アンデルセン(仮)
狂人を相手にする為に狂人のフリをしたので実際狂人。途中からは楽しかったがシラフで考えるとやっぱり薬指自体ねーわとは思う、でも必要ならするしかないよなぁ……ゲームに命を救われた可哀想な友達
ソラ
気になる人の知らないところを知り、色んな人にそれが当て嵌まる事を知り、視野を広げてもいいのかとも思ったりした。とりあえずリアンのところにある絵本を読んでみるところから始める予定
カリスト
レア素材が喋ったので驚いたマエストロ。しかも意外と会話になる……芸術に画材が選ぶ必要がない事を再認識し、ちょっと時代が前進した。髪とか爪くらいは貰ってもいいんじゃないかと思っている