セブルス・スネイプの悔恨記(短期連載) 作:テーラ・クレプスクリー
ハリー・ポッター調べてましたら
止まらず書いてしまいました。
抽象的な部分や筆者のイメージが先行している
ところもあります、
ご了承ください
一:光と影のボーダーライン
今日、
七年間を過ごした学び舎、
ホグワーツを卒業する。
大広間は歓喜に沸いていた。
周囲の卒業生たちは、
この先に待つ闇の帝王の
「新しい世界」のことなど
何も考えず、
ただ目の前の自由を
無邪気に祝っている。
その浅薄な笑顔を見下ろしながら、
僕は無意識に、
まだ何も刻まれていない
左の前腕を強くさすっていた。
いずれここには、
消えない呪縛が刻まれる。
この式のあと、
僕は闇の帝王に臣従し、
デス・イーターとなる。
すべては、
二年前のあの日、
僕の愚行によって
失ってしまった一輪の花
――リリーを取り戻すためだ。
闇の帝王の側近として、
世界をねじ伏せる
圧倒的な力を手に入れれば、
彼女も私の正しさを知り、
きっと私のもとへ戻ってくる。
そう信じて疑わなかった、
ーー少し離れた場所に、
その花が咲いていた。
彼女は、僕の知らない笑顔を、
あの憎きポッターに向けていた。
あの男とその仲間に
囲まれたリリーは、
かつて僕にだけ
向けてくれていたものとは、
決定的に「別の笑顔」を咲かせている。
胸を抉るような嫉妬と絶望が僕を襲う。
僕はその笑顔を
見ることに耐えかね、
拒絶するように目を背け、
そのままその場を立ち去った。
――その刹那、
リリーが僕を振り返り、
ひどく悲しげな笑顔を
向けてくれていたことなど、
当時の僕は気づく由もなかった。
二:僕から私へ
ホグワーツを
卒業したその日、
未熟な「僕」は死に、
感情を殺した「私」が生まれた。
闇の帝王は私を歓迎し、
その冷たい手で私の左腕に
「闇の印」を焼き付けた。
痛みとともに、
私は影の住人となった。
それからの数年間、
私は帝王の忠実な猟犬として
魔法省やダンブルドアの周囲を奔走した。
かつての同級生の奴らや
「私の花」も
ダンブルドアの元で戦うことを
選択したようだ。
しかも彼らは、
私が在学中から
闇の勢力と懇意にしていたのを
知っており
こちらの動きは警戒され、
ろくな情報は得られなかった。
上からの任務、得られない情報、
焦燥と疲弊が私を蝕んでいく。
そんな折、
風の噂が私の耳に届いた。
私の花が、あの男の種を宿した、と。
(私は……もう、諦めるべきなのだろうか)
その心の大穴に、
力を求めることで
必死に蓋をしてきたというのに。
彼女があの男と新たな家庭を築いたことを
知った時以上の絶望
彼女の中で、すでに私は過去なのだ、
その情報は
張り詰めていた私の糸を、
さらに張り詰めさせた。
三:戻せぬ引き金、
そんな張り詰めた糸を抱えながら、
私は久方ぶりに
ホグズミードの宿屋「ホッグス・ヘッド」
へと足を踏み入れた。
身も心も疲れ果てていた。
隠密たる者、
目立たぬようフードを深くかぶり、
薄暗い店の隅で、
ただ静かに酒を煽っていた。
その時、
見覚えのある姿が階段を登るのを見た。
学生時代よく見た
ダンブルドアの後ろ姿だ。
その姿に
(ダンブルドアの動向を掴める。
帝王への、格好の手土産だ)
そう考えた私は
沈んでいた心を震わせ、
気配を絶ち、息を潜め、
ダンブルドアの
上がった先にある部屋を目指す、
聞き耳を立てていた
私が耳にしたのは
ダンブルドアの声と
女の高く胡散臭い声だった。
盗み聞きを続けていた
私はその部屋の空気と女の声が
変わったのを感じた。
先程までの胡散臭い声から、
不気味なしわがれ声へ変わり
『闇の帝王を打ち破る力を持つ者が生まれる……』
『三度激しく挑んだ者達の元に、
七つ目の月が死ぬ時生まれる……』
これは、予言か……!
闇の帝王を打ち破る者が生まれるという、
本物の予言なのか。
しかし、
そのあまりの衝撃に集中しすぎていた私は、
背後から近づく足音に気づかなかった。
ダンブルドアの手下だったらしく
私は手荒く店から追い出されてしまった。
予言のすべてを得られていないというのに、
それでもこの情報だけでも充分と判断した私は
高揚感と焦燥のまま、その場をあとにした。
四:因果応報
例え断片的であろうとも、
帝王を打ち破る不穏な力など、
私一人の胸に収めておくべきではない。
帝王に進言すれば
組織での立ち位置を確立することが出来ると
取るものも取らず、帝王の所在へと姿現しをした。
謁見の間に平伏し、
得られた予言の断片を
すべて帝王に捧げた。
帝王は満足し、
その酷薄な唇を歪めて笑った。
その手柄により、
私は組織での地位を揺るぎないものにしたのだ。
(私はもう、この闇の道を進むしかないのだ)
たとえ、
二度とあの花と笑いあう未来が訪れなくとも。
私は彼女への未練を断ち切るように、
自分の未来が開けたのだと、
歪んだ高揚感に浸っていた
それが、
彼女を地獄へ突き落とす要因になるとも知らずに。
五:選択の時
少し時が経ち、
帝王に呼ばれ馳せ参じると
帝王から受けた情報は
私を地獄へと突き落とした。
予言の該当者には
ロングボトム家の赤子と
リリーの産んだ赤子が
当てはまるという、
その上リリーの子供を
帝王は標的に定めたと言う、
私が……
この私が、得た情報が彼女を終わらせ
私のすべてだった花が枯らされる。
狂わんばかりのパニックと
罪悪感が私を襲う。
息ができない。
私は帝王の足元に縋りつき
「彼女だけは助けてほしい」
と命乞いした、
私のそのザマを帝王は嘲笑しながらも、
気が向けばなと約束してくれた、
だが、そんな口約束などでは安心出来ず、
リリーの命と私の今までを引き換えにする覚悟で
あの人を頼ることにした、
六:密会と取引
私の不躾で、裏切りともとれる懇願を、
ダンブルドアは聞き届け、
面会を約束してくれた。
夜の帳が下りた、
人目のない荒涼とした丘の上。
吹き荒れる夜風のなかで、
私はダンブルドアの厳格な瞳と目を
合わすことさえできず、
ただ必死に言葉を絞り出した。
「リリーを……彼女を匿って、助けてほしい」
ダンブルドアは、
私の浅ましさを見抜くように冷たく尋ねた。
「では、ジェームズと、
その子供はどうなっても良いというのか?」
その問いに、
私はなりふり構わず縋り付くように叫んだ。
「それならば、あの一家すべてを守ってくれ!
あなたならば、あなたほどの魔法使いならば、
それができるだろう!」
ダンブルドアの鋭い視線が私を射抜く。
「その代わりに、お前は何をくれる?」
「全てを」
それは、
私の魂を光の側に売り渡し、
彼女を守る契約だった。
彼女が生きていてくれるなら、
私は何にでもなる。
そう、固く誓ったはずだったのに。
七:枯れ果てた花
あの取引の日から、
私はダンブルドアの命令で
ホグワーツの魔法薬学の教授に就き
デス・イーター側の
スパイとして暗躍した。
だが、運命はあまりにも残酷だった。
守れなかった。
私のすべてを捧げた誓いは、
無残にも打ち砕かれた。
かつてホグワーツの卒業式で、
見た彼女の綻ぶ笑顔が
脳裏に焼き付いて離れない。
ダンブルドアから
ポッター家からの定期連絡が
切れたという知らせを受け、
私は夜の底のようなゴドリックの谷へと
姿現しをくり返して降り立った。
目に入ったのは、
無残に破壊された家屋と、
冷たい静寂。
階段を駆け上がった先に、
私のすべてだった一輪の花が、
命の灯火を完全に消され、横たわっていた。
冷たくなった彼女の遺体に私は縋りついた。
「リリー……っ!!」
視界が真っ赤に染まる。
冷たくなっていく彼女の体に
その名を何度も何度も叫ぶ。
もし今、ここに
魔法省の役人や不死鳥の騎士団の者が
踏み込んできたら、
私はデス・イーターとして捕らえられるだろう。
それでも構わなかった。
衣服を血と涙で汚しながら、
私は己の涙が枯れ果てるまで、
彼女を抱きしめて泣き続けた。
目の前で物言わぬ骸となった彼女だけが、
私の世界を狂わせていた。
八:生への拒絶と嘆願
いつの間にかリリーの体から引き離された私は、
ダンブルドアの元へと連行された。
私にはもう、恐怖も、
生きる気力すらも
残されていなかった。
私の魂は、
あのゴドリックの谷の床に
置いてきてしまったのだ。
呆然と床を見つめる私に、
ダンブルドアが冷淡に語りかける。
闇の帝王は滅びたこと。
そして、帝王の配下であった
デス・イーターたちは、
順次捕縛され、裁きを受けるだろう、と。
その言葉が、
私の耳の奥で酷く不快に響いた。
私は逆立った髪を振り乱し、
ダンブルドアに向かって吠えた。
「今さら世界がどうなろうと、
誰が捕まろうと、
私には何の関係もない!
なぜそれを私に話す……!」
「なぜだ! なぜ、
あなたほどの魔法使いがいながら、
彼女を守れなかったのだ!?」
やり場のない怒りと罪悪感が、喉を掻きむしる。
私は自分の胸を拳で殴りつけながら、
狂ったように叫び続けた。
「もういい・・・死なせてくれ!
彼女のいないこの世界は地獄だ!
死なせてくれ」
リリーのいない世界で
息を吸い続けること自体が、
私にとっての「死」以上の拷問だった。
九:誓いと望み
地を這い、
死を乞うて嘆き哀しむ私を見下ろし、
ダンブルドアはただ静かに、
しかし断固とした声で告げた。
「セブルスよ。お前が死んだとて、
失われたものは何も戻りはしない」
「もしお前に、本当に悔いる心があるのなら
――リリーの残した子供を、
彼女の命を賭した愛によって守られ、
彼女の眼を継いだハリーを守れ」
ハリー。
あの憎きポッターの血を引く、
しかし、
リリーが命に代えて守った赤ん坊。
私にとっての光であり、
太陽であった彼女の代わりなど、
この世のどこを探してもいない。
あの男の子供を
憎む気持ちが消えるわけもない。
しかし……それこそが彼女の最後の遺志であり、
彼女の愛の証明なのだとしたら。
私は、床に深く額を擦りつけた。
「……私のすべてを。
そのハリーを守ることに捧げよう」
それは、生きながらにして死人となり、
影の底で泥をすすり続けるという、
真の「悔恨」の誓いだった。
しかし、私は顔を上げ、
ダンブルドアの青い瞳を強く睨みつけた。
「けれど、ダンブルドア。誓ってくれ」
「ハリーには、私があの子を守っていることを
……いや、あの子だけではない。
あなた以外の、全ての者達に、
私の真意を絶対に明かさないでくれ」
私は、
世界のすべてに憎まれる裏切り者として生きる。
ハリーからも、
かつての仲間からも、光の側からも、
すべてから蔑まれ、泥を投げつけられながら、
たった一人でリリーの瞳を守り抜く。
それが、あの卒業式の日に、
彼女の「悲しい笑顔」に
気づけなかった私に課された、
生涯の罰なのだから。
完全に筆者の趣味です、
これから原作部分も書く予定ですが
いつになるかは明言できません、
ご了承ください