セブルス・スネイプの悔恨記(短期連載)   作:テーラ・クレプスクリー

2 / 3

原作に入ります、

思ったより早く出来ました。
楽しんで頂けましたら幸いです。


賢者の石(前)

 

 

十:十年目の残滓、

 

あの風が吹きすさぶ丘の上で、

 

私がすべてを捧げた魂の誓いから、

もう十年の月日が流れた。

 

私にとっての唯一の光であり、

太陽であった人が沈んでから、

世界は何事もなかったかのように

回り続けている。

 

私はあの日

ダンブルドアに誓った通り、

ホグワーツの教職を続け、

今日まで生き恥をさらし続けてきた。

 

デス・イーターたちからは

裏切り者と疑われ、

同僚たちからは元・闇の信奉者として

冷ややかな目を向けられる。

 

そのすべての泥をすすりながら、

私はただ、

影のなかでその時を待っていた。

 

そして今年、

私が命に代えても守ると誓った

「光の残滓」が、

ついにホグワーツへと入学する。

 

大広間に、

新入生たちの緊張した足音が響き渡る。

 

組み分け儀式が始まった。

 

大広間の押しつぶされそうな喧騒のなか、

私の視線はある一人の少年に釘付けになる。

 

信じたくないほどの嫌悪感が、

私の胃の底をせり上がってきた。

 

そこにいるのは、

私からすべてを奪った憎き男

――ジェームズ・ポッターと、

あまりにも生き写しの姿を持った子供だった。

 

歩き方、髪の癖、

眼鏡の奥の小生意気な輪郭、

額の髪の奥に、

私が因となった傷跡が

刻まれているのだと思うだけで、

胃の底が自責の念で煮えくり返る。

 

そのすべてがあの忌々しい

過去の記憶を呼び覚ます。

 

(やはり、あの男の血か……)

 

そう毒づき、

拒絶するように目を背けようとした、

その瞬間だった。

 

壇上のスツールに座った少年が、

不安げに教職員席の私の方を見上げ、

その視線が真っ向から交錯した。

 

あの子と私の目が交錯した時

あの子は顔をしかめるも

私はそれを認識する余裕はなく

 

私の心臓が、

10年ぶりに激しく跳ね上がる。

――その目は、リリーのものだった。

 

ジェームズの顔の真ん中に、

私が生涯をかけて愛し、失い、

そして今も焦がれ続けている、

 

あのリリーの鮮やかな緑色の瞳が、

確かにこちらを見つめ返していたのだ。

 

憎しみと、

狂おしいほどの愛おしさ。

相反する二つの感情が、

私の魂を容赦なく引き裂いていく。

 

私は言葉を失ったまま、

その緑の瞳から、

どうしても目を離すことができなかった。

 

 

十一:届かぬ花言葉、

 

リリーの息子は、

グリフィンドール寮に所属となった。

まあ、順当だろう。

 

あのリリーも、

そして私からすべてを奪ったあの男も

グリフィンドールだったのだから。

 

あの子が赤と金のネクタイを締めて

大広間に座っている姿は、

嫌が応にもあの忌々しい学生時代の

記憶を呼び覚ます。

 

そして今日、

私が寮監を務めるスリザリンと、

グリフィンドールが合同で行う、

私の最初の「魔法薬学」の授業が始まる。

 

薄暗く冷え切った地下牢の教室。

生徒たちの前に立った私は、

 

彼らを一瞥し、静かに、

しかし教室の隅々にまで

響き渡る声で大演説を始めた。

 

「この授業では杖を振ったり、

馬鹿げた呪文を唱えたりはしない」

 

「諸君に魔法薬調合の微妙な科学と

芸術的な技が理解できるとは期待していない……」

 

私の視線は、

熱心に手元の羊皮紙に何かを書き留めている、

一人の少年に向けられる。

 

ハリー・ポッター。

「ポッター!」

 

鋭くその名を呼ぶと、

少年はハッとして顔を上げ、

あのリリーの鮮やかな緑の瞳で

真っ直ぐに私を見つめた。

 

その目を見るだけで、

私の胸の奥の古傷から、

どろりとした罪悪感と情念が

溢れ出しそうになる。

 

しかし、私は度し難いほどの傲慢さと、

冷徹な教師としてのプライドを

その面に張り付け、

あの子を値踏みするように見下ろした。

 

有名なだけで何も知らない、

思い上がったジェームズの息子。

 

教室の全員にそう思わせるための、

底意地の悪い質問を投げかける。

 

「アスフォデルの球根の粉末に、

ニガヨモギを煎じたものを

加えると何になるかね?」

 

あの子は、そして周囲の生徒たちは、

これをただの

「意地悪な教師の小難い質問」としか

受け取らないだろう。

 

誰もこの調合によって完成する

『生き地獄の薬』

という名など興味はない。

 

だが、それでいい。

 

これこそが、私があの子に、

そして沈んでしまった私の太陽に捧げる、

世界で最も孤独な告白なのだから。

 

アスフォデル――

「私の後悔は、墓の中まであなたを追いかける」。

 

ニガヨモギ――「不在」、

そして「苦痛に満ちた深い悲しみ」。

 

(リリー。君のいないこの世界で、

私は今も、君の死を狂おしいほどに悔やみ、

泣き続けている)

 

プライドという名の歪んだ仮面の裏側に、

決してあの子には伝わらぬ、

届いてはならぬ謝罪と、

 

10年経っても1ミリも色褪せない

私の想いを潜ませて。

『この生ける屍』である私は

いつまでもあの子の緑の瞳を、

じっと見つめ続けた。

 

 

十二:天秤の上の命題、

 

時を置き、

 

静寂が戻った地下牢の教室で、

私はあの子の愚かさに

ただ眉をひそめていた。

 

視線の先に残る残像。

 

そこにいたのは、

かつて私の記憶の中で鮮烈に輝いていた、

リリーの、

そしてあの憎き男の優秀さを

何一つ引き継げなかった、

あまりにも幼く無知な少年の姿だった。

 

その血脈の乖離に、

私の胸の奥に冷たい苛立ちが

澱のように沈んでいく。

 

あの日、あの吹きさす丘の上で、

私の魂を売り渡した

あの誓いは決して偽りではない。

 

私は命に代えても、

リリーの瞳を宿したあの子を守り抜く。

 

だが、ダンブルドアの決定には、

どうしても拭いきれぬ違和感を感じていた。

 

あの子が十一の齢を迎え、

ホグワーツに入学することは、

あの子がこの世界に命を得た

その瞬間から定められていた宿命だ。

 

それはいい。

 

しかし、なぜ、

私の前に揺れる天秤の上に、

あの子の命と、

もう一つの重りを同時に乗せるのだ。

 

秤のもう片方に乗るのは、

永遠の命と奇跡を叶える『賢者の石』。

 

なぜ、今なのだ。

 

たとえ、来たるべき未来の為に

あの子への試練として

利用する意図があるのだとしても――

 

これほどの危険を重ねる必要がどこにある。

時をおいてもよかろうに。

 

私の双腕は、

あまりにも脆く、傷つきすぎている。

天秤の左右で揺れる

「あの子の命」と「ダンブルドアの言う使命」、

 

その両方を零さずに支え続けるには、

この世界はあまりに過酷だ。

 

私はダンブルドアの底知れぬ眼差しを思い出し、

誰もいない暗闇に向かって、

届かぬ呪詛をそっと吐き捨てるのだった

 

 

十三、重なる因縁、

 

先日の飛行術で起きた、

取るに足らぬ騒劇。

 

それにあの『残滓』が関わり、

特例という名の免罪符を以て、

天を駆けるシーカーに据えられる。

 

マクゴナガルは、

あの赤と金の栄光に目を狂わせているのではないか。

 

しかし、やはり――血は争えぬということか。

忌々しい。

 

かつてグリフィンドールの

英雄と謳われた男の影が、

時を超えてあの子の姿に重なる。

 

あの子は役目こそ違えど、

父親と同じく

周囲の賞賛と名誉を、

さも当然のように引き継ぐというのか。

 

あの男が誇った栄光の裏には、

常に数多の規律の崩壊が潜んでいた。

 

名誉という名の眩い光の裏で、

あの子がその『悪癖』という重荷に

 

一片の躊躇いも感じていないのは、

血による呪縛、

遺伝という名の因果なのだろうか。

 

私の目の前で、

かつての苦い過去と、現在の理不尽が、

 

最悪の形で重なり合っていく。

 

 

十四:高まる焦燥

 

先刻、怯える愚か者の

おそらくは手引きであろう、

巨人の報告があった。

 

稚拙な陽動を仕掛けた奴の目的は、

あの賢者の石だろう。

 

私は目線だけでダンブルドアに合図し、

すぐさま賢者の石の始まりの試練へと向かった。

 

しかし、あのウスノロの半巨人が

ダンブルドアに貸した三頭犬に噛まれ、

激痛と鮮血が私を襲う。

 

忌々しいが、

この私ですら負傷するような守りならば、

あの愚か者では突破など無理であろう。

 

そう判断した私は、

痛む脚を引きずりながら、

他とは違う行動を隠し、

痛みを耐えながら

 

騒ぎの渦中にある場所へと、身を進めた。

 

騒ぎの核には、やはりあの残滓がいた。

 

何故あの子は、

自ら薄氷の上を歩くようなマネをするのか!

その地盤の不安定なことに気づかず、

自ら沈むのか!

 

単独の無謀だけに留まらず、

徒党を組んで騒ぎを起こすとは、

あの忌まわしい記憶の再来とならんことを、

今はただ、

呪うように願うしかあるまい。

 

 

十五:冬の訪れ、記憶の痛み

 

ホグワーツの周辺の

山や森は冬将軍に支配され、

庭には白い霜が降りる。

 

私が寮監を務めるスリザリンと、

あの子がシーカーとなった

グリフィンドールとの試合が、

刻々と近づいている。

 

三頭犬に噛まれた、

未だ癒えぬ脚を引きずりながら窓の外を見れば、

 

中庭ではあの子とその友らが、

何やら本を片手に楽しげに盛り上がっていた。

 

無邪気に笑うあの子の顔が、

私の脳裏に、

かつての惨めな記憶を鮮烈に回顧させる。

 

私が一人、

屈辱と痛みに耐えているすぐ近くで、

アヤツらはいつも、

あのように勝ち誇った顔で笑っていた。

 

その忌々しい記憶の残像が、

本当は関係のないはずの、

目の前のあの子の姿に、

どうしても重なってしまうのだ。

 

痛む脚が一歩、床を踏み締める。

 

私は黒いローブを翻し、

あの子らの笑い声が響く凍てついた中庭へと、

吸い寄せられるように足を進めた。

 

 

十六、外せぬ視線、炎の妨害

 

クィディッチの試合が開始されて

しばらくは、

平穏に時が進んだ。

 

観戦席が喧騒にやかましいことは

いつものことだが、

不意に、世界の均衡が崩れる。

 

あの子の跨る箒が、

突如として奇妙な挙動を始めたのだ。

 

必死にしがみつくあの子の歪んだ表情を見るに、

間違いない。

あの怯える愚か者が、

人混みに紛れて呪詛を唱えているのだろう。

 

私は即座に

あの子の箒を穴が開くほどに見据え、

ただ一心に、呪い返しの呪を紡ぎ続けた。

 

一瞬の瞬きすら、

あの子の墜落を意味する。

まさに、外せぬ視線。

 

一体、どれほどの時間が過ぎただろうか。

突如として、

私のマントの裾が赤々と燃え上がった。

 

熱気と周囲の騒動に、

私は不覚にも一瞬、

あの子から目を離してしまう。

 

炎の妨害。

 

慌てて炎を消し、

パニックの中であの子を探すと、

どうやら無事に地上へと着地したようだった。

 

心臓の激しい鼓動が収まらない。

 

昨日は、

隠れて行っていた三頭犬の傷の治療を

あの子に覗き見られ、

今日はあろうことか、

観戦席で服を燃やされる。

 

リリーの残滓がホグワーツに

来てからというもの、

私の眉間の皺と溜め息は、

ただ増える一方だった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。