【異世界版】ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になって色んな世界に転移・召喚される話 作:ポップ
地上から遥か遠く離れた、大魔王の居城。
薄暗い大広間の中央では、一匹の悪魔の目玉が、パプニカ王国で行われている催しの様子を映し出していた。
その前に立つ白い衣の男――ミストバーンが、僅かに顔を上げる。
映像の中では、バニーが右手を掲げ、その掌に膨大な炎を生み出しているところだった。
集まった炎が形を変え、大きな翼を広げていく。
それが巨大な鳥の姿を形作った瞬間、それまで黙っていたミストバーンが口を開いた。
「……バーン様。あの炎は……」
奥の玉座に腰掛けていた老人は答えない。
赤い酒の入った杯を傾けたまま、炎の鳥が放たれる様を静かに見つめている。
【カイザーフェニックス】。
バニーの声と共に、巨大な炎の鳥が飛翔した。
フバーハを打ち破り、更にその後ろに展開された魔法防壁までも、容易く打ち破っていく。
それでも、老人の表情は変わらない。
ただ、その双眸に僅かな興味の色が宿る。
「……ほう」
やがて、炎の鳥は標的となっていた賢者達を焼き尽くす直前で軌道を変え、大空へと昇っていった。
そこで初めて、大魔王バーンの口元が僅かに吊り上がる。
「余の呪文を使う者が、地上に現れたか」
「では……」
ミストバーンが映像へ視線を戻す。
「うむ。あれは紛れもなく、余のカイザーフェニックスを模したものだ」
バーンは手にした杯を静かに揺らした。
「威力はまだ余には及んでおらぬが……それにしても、よく似せたものよ」
その声に不快感はない。
自らの技を真似られた事への怒りも、ましてや人間如きがと侮る様子もなかった。
むしろ、人間がこれ程までの完成度で自らの魔法を模倣出来ている事に感心し、楽しんでいる様にすら見える。
「面白い……」
その後も二人は、悪魔の目玉に映る光景を見続けた。
魔王軍との関係を疑われた女が、やがてその身を光に包まれ、全く異なる姿へと変わる。
先程までの黒いバニースーツは消え失せ、代わりに現れたのは純白と青を基調とした神秘的な法衣。
頭には星を思わせるサークレットが輝き、手には美しい杖。そして、左腕には神聖な気配を感じさせる盾を身に付けていた。
悪魔の目玉越しの映像では、細かな部分までは分からなかったが、それでもあの装備の一つ一つが、ただ見栄えだけの物ではない事くらいは、バーンにも容易に見て取れた。
「バーン様。あの武具は……」
「この映像だけでは、まだ何とも言えぬ。だが、そこらの人間が容易く手に入れられる物ではあるまい」
そして、その女は自分がかつて賢者だった事、仲間達と共に、大魔王ゾーマを倒した事を語り始めた。
「ゾーマか……」
バーンの口から、懐かしむ様な声が漏れる。
自分がまだ若い魔族だった頃、世界を滅ぼそうとしていた大魔王の名である。
その古代の大魔王の名を、映像の中の女は、まるで本当に戦った事のある相手の様に口にしていた。
「あの時代の、勇者一行の賢者だというのか」
更に話は続く。
ゾーマを倒して平和になった後、賢者から遊び人へと転職した事。
その後、何らかの原因で別の世界へと飛ばされ、そこで出会った神の眷属となった事。
そして今纏っている力も、その神から受けた恩恵によって得たものだという。
俄には信じ難い話である。
だが、現に地上で実際に起きている事までを否定する訳にはいかない。
そして何より、バーンが興味を抱いたのは、その次に語られた話だった。
女は元の世界に戻ろうとして、世界を渡る術を自ら組み上げて使ったところ、勇者達と大魔王が戦っている場所に辿り着いたという。
そして、その時に目にした呪文があまりにも凄かった為、自分でも使える様になるまで練習したという。
先程見せたカイザーフェニックスは、そこで見た大魔王の呪文を再現したものらしい。
バーンは手にしていた杯を置くと、片手を顎へ添え、考える様に目を細めた。
話の通りならば、あの女が出会った大魔王とは――。
「……余は未来で、あの女と出会うという事か?」
静かな声が、大広間に響く。
ミストバーンも、その意味を理解したのだろう。
僅かな間を置いてから、主へと問い掛けた。
「バーン様は、あの者を御覧になった覚えはないのですね」
「ない」
バーンは即座に答えた。
「あの様な娘を、一度見て忘れるとも思えぬ」
あまりにも特徴的な姿である。
ましてや、あの娘の語る話が事実であれば、ただ顔を合わせただけではない。
大魔王である自分の前に現れ、そのカイザーフェニックスを目にする程の状況になったのだ。
話の全てを、そのまま信じた訳ではない。
しかし、自分と会った覚えのない女が、カイザーフェニックスをあそこまで再現してみせた事は、紛れもない事実である。
しかも女の言葉通りならば、あれはこの時代より先の自分を見て覚えたという事になる。
「このまま何もせずとも、いずれ余はあの娘と出会う事になるのやもしれぬな」
バーンはそこで一度言葉を切ると、手にしていた杯を静かに卓上へ置いた。
「……しかし」
悪魔の目玉に映るバニーへ視線を戻し、その口元に僅かな笑みを浮かべる。
「それでは面白くない」
未来で自分と出会うという女が、既にこの時代の地上にいる。
ならば、わざわざ未来まで待つ必要もない。
「ミストよ」
「はっ」
「あの娘について調べよ」
ミストバーンが静かに頭を下げる。
「何処に住み、何をしているのか。あの娘が言う通りに別の世界から訪れたというのであれば、この地に現れてからの足取りを含めて全てだ」
「承知致しました」
「ただし、こちらからはまだ手を出すな」
「はっ」
今はまだ、特にどうこうするつもりもない。
古の大魔王ゾーマを倒したという、勇者一行の賢者。
その者が異なる世界に飛び、そこで神の眷属となったという。
そして未来では自らと対峙し、その際に目にしたカイザーフェニックスを覚え、あれ程の形に仕上げてみせた女。
興味を抱くには、それだけでも十分過ぎる。
バーンは再び杯を手に取り、悪魔の目玉に映るバニーを眺めながら、ゆっくりと口元を吊り上げた。
「話を聞いてみたくなった」
そして杯に口を付ける直前、静かに付け加える。
「あの娘自身の口からな」
◇ ◇ ◇
パプニカでの催しから、幾日かが過ぎた頃。
ミストバーンは、地上で調べさせた事を主に報告していた。各国から大勢の人間が集まる場であれだけ目立ったのだから、娘の居場所を突き止める事自体は難しくなかったらしい。
「バニーと名乗っており、現在はロモス王国のネイル村に戻っています。村の教会に滞在し、そこの神父達と暮らしている様です」
「ふむ……それ以前の痕跡はどうであった?」
「ロモスの騎士達が、支援物資を運ぶ途中で盗賊に襲われ、あの娘に助けられております。そのまま村まで同行したとの事ですが、森に現れる以前の足取りは掴めておりません」
バーンは続きを促す事もなく聞いていたが、ミストバーンが報告を終えると、指先で杯の縁をなぞりながら口を開いた。
「よかろう。使いを出せ。パプニカでの一件を見て、この時代の大魔王である余が、是非とも会いたがっているとな」
「はっ」
「人間の姿に近い者がよい。今のところ、あの娘と敵対する理由はない。ならば、無用に警戒させる必要もあるまい。あくまで招待だ。相手には丁重に接する様、言い含めておけ」
その言葉を受け、ミストバーンは一礼して退いていく。
バーンは杯を傾けながら、あの娘がどの様な返事を寄越すのかと思いを巡らせていた。
大魔王の呪文を使っただけで魔王軍の幹部だと疑われていた者に、今度は大魔王自身から使者を送るのだから、少々意地の悪い話ではある。
あのテムジンとかいう小物の耳にでも入れば、それはそれで面白い事になりそうだが。
そこまで考えたところで、バーンの口元に僅かな笑みが浮かぶ。
「さて……来るかな」
未来で自分と対峙した事があるという、古の大魔王を倒した賢者。
久しく味わっていなかった興味深い出来事を前に、大魔王バーンは、これから何が起こるのかを楽しむ様に杯を傾けた。
第九話以降の展開がちょっと自信なかったので、一旦ここまでを八話にして投稿させて頂きました。いつも読んで頂いて有難う御座います。