□日本
俺の名前は新垣貴志、ごく普通の小学生だ。両親が<オモイカネ・インテリジェンス>と言う会社のVPゲーム開発部に勤めていたり、俺自身も色んなゲームが好きなゲーマーでもあるが多分そこまで珍しい出自でもないと思う。
……まあ、ちょっと人と話すのが苦手でリアルでの人付き合いがネトゲ程上手くいかなくて学校ではボッチ気味だったり、そのせいでクラス内でイジメられていた事もあったが。
色々あって小学校高学年に上がってからはイジメもなくなって、最近は席替えで気になる女の子の隣に座る事が出来ると言う超ラッキーイベントがあったので不登校とかにはなっていない。むしろ体調が悪くても休まず通っている。
「最近話題だよね<Infinite Dendrogram>。まあ私もやってるんだけど」
「わ、話題になってるゲームだよね。ほ、本物のVRMMOだっていう」
そんな気になる女の子と言うのが加藤美希ちゃん、昔のイジメの時に俺を庇ってくれて以来ずっと気になっていて、どうにか話し掛けようと何年か努力してようやく少しは話せる様になった。
……だってしょうがないじゃん、当初は彼女を前にするだけでまともに言葉が出なくなって挨拶出来るようになるまで1年は掛かったんだから。席が隣になった事をキッカケに共通の趣味であるゲームについての話が出来るようになっただけでも大躍進なんだからな!
「まあ“リアル感”は凄いと思うよ。リアル過ぎて合う合わないは結構あるけど」
「そ、そうなんだ」
そして今日の話題は先日発売された“本物のVRMMO”である<Infinite Dendrogram>、正直両親の影響で色々なVRゲームをやった事のある僕としては正直誇大広告だと思っていた。
国内最高峰のVR技術を持つオモイカネでも完全なVRや時間加速やNPC全部の超高精度AI搭載ゲームを作るとか不可能だしな。大体のVRゲームはリアリティを求めたせいでスペックが追い付かず糞ゲーになるか、リアリティは最低限にしてちゃんとしたゲームとして作るかが限界だし。
特にネトゲは処理する要素が多いから完全なVRでやるのは難しいと父さんも言ってたし、未だに下手なVRよりは据え置き型の方がゲームは面白いとも言っていたし俺もそう思う。
「まあ私には合ってたから続ける気だけど。アルター王国でプレイするも結構楽しいし」
「じゃ、じゃあ俺もやってみようかな!」
それはそれとして美希ちゃんがやってるなら俺もやるんだけどな! ゲームの胡散臭さとかどうでもいい、同じネトゲをやってあわよくば彼女とゲーム内パーティーを組んだり学校で同じゲームの事を話せる様になる機会を逃してなるものか!
とりあえず学校終わったらどうにかしてデンドロのハードをゲットしないと。お年玉がまだ残ってるし馴染みのゲーム屋を梯子して、もしハードが無ければ最悪両親に頼んで買って貰うしかないか。
ウチの両親はオモイカネ製だけじゃなくて色んな会社のゲームをプレイして、そこから得られた経験を自分達のゲーム開発に活かすっとスタンスだから俺も色んなゲームをさせて貰ったし、デンドロが本物ならやってみようと思うだろうしな。
◇◇◇
□王都アルテア 【
「……一通り王都を見て回ってジョブにも就いてみたけど、確かに彼女の言う通り“リアル感”は凄いなデンドロ」
あれから放課後ダッシュで馴染みのゲーム屋に行って残っていた<Infinite Dendrogram>をお年玉の残りで買った俺は直ぐにログイン、チェシャとか言う管理AIの元でキャラメイクをして今の俺を高校生ぐらいに成長させて顔を少し弄ったアバターにいつもネトゲで使ってる“シュバルツ・ブラック”の名前を与えてアルター王国に降り立っていた。
……名前が黒と黒とか変じゃないかって? ネトゲの名前なんてネタに走ってるヤツも多いんだからこのぐらい普通だろ。黒色好きだから適当に検索して読み替えた単語を繋げてそれっぽくしただけだし。
「……と言うか“リアル”ではあるけどゲームとしての“リアリティ”に欠けると言うか。
まあログインした後はめっちゃ驚いたけどな。現実視にしたら完全にリアルと変わらない五感だし、ちょっとログアウトしたらマジで三倍時間だったしで、両親が開発に携わったVPゲーム含めてこれまでプレイしたゲームとは間違いなく“別物”と感じたな。
ただシステム面はともかく“ゲーム”てしては余りにもリアル過ぎる気もするな。基本的にゲームはリアルにある煩雑さを無くしつつリアリティを追求するけど、デンドロはとにかくもう一つのリアルを作ろうとしていると言うか。
「……ま、デンドロの技術云々は父さん達が考える事だし気にしなくていいか。まずは兎に角レベリングだ。ある程度戦闘が出来るぐらいにならないと彼女とパーティーが組めないし」
美希ちゃんも戦闘系ジョブを取ったって言ってたしな。それにパーティーを組んでおいて足手纏いになる有り様だったら俺のプライドが死ぬし、出来ればトッププレイヤー的な立ち位置で彼女をエスコートとかしたい!
正直ちょっとこのデンドロは俺の好みなタイプの
「まあ“シュバルツ・ブラック”のネトゲでの主な立ち位置は
ネトゲを本格的に始めたのがイジメとかでリアルでストレスが溜まってた時期だからゲーム内でPKしまくって発散してたからなぁ。イジメが無くなって以降もPK自体を楽しんでやっていたけど、デンドロでは
まあデンドロは<マスター>同士ならPKKしてもペナルティが一切なくて、ティアンを殺してもデスペナ後に<監獄>に送られるだけって言うあってない様なペナルティだからPKはやりやすそうだな。
「プレイヤーに過度な自由を許すと無法地帯になるのがネトゲの常なんだけどな。VRだからって自由度マシマシなゲームを作ったら大ゴケするし、ユニーク要素満杯のネトゲとか炎上しまくりだと思うんだが。……ならいっその事プレイヤー全員にユニーク要素をプレゼントってのがこの<エンブリオ>なのか?」
ログインしてから暫く経ったけど俺の<エンブリオ>は未だに卵状態、少しだけネットを調べたけど<エンブリオ>の孵化までに1時間だったり半日だったりまだ卵とかだったりと孵化に掛かる時間には個人差があるらしい。
これだとジョブは<エンブリオ>が孵化してから選んだ方がいいかもしれないが、今は兎に角早くまともに戦える様になりたいので先んじてレベリングする。最悪ジョブはまた取り直せばいい。
「大抵のファンタジーものゲームで剣はド安定なバランス型の武器だからデンドロでもハズレって事はないだろ。剣スキルがキワモノとか言う逆張りゲームは大体クソゲーだし。……いやデンドロ自体がゲームとしてはアレな節があるけど」
それは兎も角としてわざわざ掲示板で話題だった<マリィの雑貨屋>って言う初心者冒険者用中古装備が安く手に入ると言う店で、出来るだけ性能の高い中古剣とステータス補強アクセサリーを買って準備は出来た。
お陰で初期資金が尽きてポーションとかは最低限しか買えなかったが敵の攻撃なぞ当たらなければどうと言う事はない。早速王都周辺の狩場で梯子してレベリングだ。
◇
「しゃぁっ! 経験値になれい!《スラッシュ》!」
『GUAAA!?』
そうしてレベリングを始めてから暫く、俺は<ノズ森林>で数匹の【ティールウルフ】の群れと戦って、数の不利から多少は手間取ったものの最後の一体の首を覚えた剣技スキルで斬り落として戦いに勝利した。
これでもそれなりに色々なVRゲームをやり込んでいるからな、序盤の雑魚敵の強さ設定がカスだったりアバターの動作もカクついたり敵の当たり判定がバグってたりはしないデンドロでなら序盤のモンスターに負けたりはしないさ。
「まあ血や臓物がリアル視点だとマジでグロいな。俺は無駄にグロ描写のリアリティを追求してゲームバランスがゴミだったクソゲーとかもやってたから耐性はあるけど、初心者バイバイゲーだと普通は長続きしないんだが」
多分最初の紐なしバンジーと言い序盤でやめるプレイヤーも多いだろうなデンドロ。むしろあの紐なしバンジーに耐えられない程度の人はお断りとかか?
色々とクソゲーもやって来た俺の嗅覚からすると
「まあ完全なVRってだけで需要はあるだろうけどな。完全なVRなら医療方面にも活用出来るって母さんが前に言ってたし」
それに俺に取っては美希ちゃんとゲームが出来る可能性があるだけでゲーム内容は気にならない神ゲー扱いだけどな。とりあえずドロップアイテムを拾ってからポーションを……ッ!?
「ヒャッハァ! 死ねぇ!」
「チィッ!」
俺がドロップアイテムに手を伸ばした時に猛烈に嫌な感じ、色んなネトゲでPKを続けて来たが故に培われた“プレイヤーがプレイヤーを狙う感覚”を覚えた俺は咄嗟にその場から飛び退いたが、背後から振るわれた剣の一閃を避けきれずに腕に傷を負う。
幸いにもかすり傷だったので即座に剣を抜いて背後から襲い掛かってきたクソ野郎に攻撃するも、コチラよりも“遥かに速い速度”で動いた相手はあっさりと俺の剣を避けて後方に飛び退った。
「おいおい〜そこはあっさり死んどけやルーキーさんよぉ〜」
「ふん、PKか。初心者狩りとはマナーがなっていないヤツだな」
その男は黒髪黒目でそこそこイケメンなメイキングのアバターではあったが、下品な雰囲気のニヤニヤ笑いのせいで悪役ヅラにしか見えなかった。小物チンピラ系悪人ロールプレイとしては満点をやってもいいな。
……手に持った剣は俺が持っている物とさして変わらない質に見えるが、同じく初心者用のシンプルな防具の中で履いている靴だけが不自然なぐらいにデザインが凝っているので<エンブリオ>である可能性が高い。
デンドロが始まってまだリアルで一週間経っていない以上、店売りじゃない高級そうな装備を付けられる理由は<エンブリオ>ほぼ一択だろう。同じくジョブも下級職一職目が精々なのに俺よりも遥かに速い動きもアレが原因か。
「ああん? モンスターをチマチマ狩るよりもその隙にプレイヤーを殺す方が実入りはいいんだよなぁ。誰も大してアイテム持ってない今なら結構な確率でメイン装備がドロップするしよぉ。それに左手を見れば初心者かどうかも直ぐに分かるしなぁ」
「まだ卵状態で<エンブリオ>が孵化していない者のみを狙っていると。デンドロ開始から一週間経ってないのに初心者もクソもないと思うがな」
「初心者くぅん? <エンブリオ>が孵化しているのといないのとじゃ戦力には大きく差があるんだよぉ〜? 俺の【イダテン】みたいになぁ」
そう言いながら男は派手な装飾のブーツをコツコツと爪先で叩いている辺り、やはりアレがヤツの<エンブリオ>と言う事で間違いはなさそうだな。
しかし、ペナルティがない
「三流噛ませ小物PKロールプレイをしてる割に結構頭を使ってるな。ロールプレイに関してはそういう趣味か? まあ悪くないんじゃないか?」
「誰が三流PKだと!? この俺様、いずれこの王国で最強最悪のPKになるデッドリー・デス・デーモン様に舐めた口を聞きやがって!」
「おお、絵に描いたような噛ませ犬ムーブ、そこまでロールプレイに徹するとはやるじゃないか。えーっと、名前はデデデ君だったっけ?」
「殺す!《初動禍速》!」
こっちの挑発(半分本音)に乗ってキレたデデデが何かのスキルを起動すると俺よりも遥かに速い速度で突っ込んで来て剣を振るったが、その軌道自体はフェイントもない単純なもので先程の奇襲よりも何故か速度は遅かったのでどうにか剣で防ぐ事が出来た。
だが、デデデはその速度差を活かして攻撃する度に距離を取るヒットアンドアウェイ戦術で攻めてくるので、こっちが反撃する時には既に剣の間合いの外にいるので反撃出来ず、段々と彼方の攻撃を防ぎきれなくなって徐々に傷を負ってしまう。
「ひゃはははは! 遅い遅い遅い! さっきまでの減らず口はどうしたぁ!」
「チィッ!」
単純に
どうにか反撃をしたいがなんか徐々に速度が上がっているのか……?
「そこだ!《スティール》!」
「なっ! 剣が!?」
そう考えていたらいきなり俺の手の中から装備していた剣が消え、慌てて周囲を見るとその剣はデデデの手の中へと収まっていた。《スティール》って名前からして相手のアイテムを盗むスキルか! 装備中の武器が盗めるとかバランス調整カスだなデンドロ!
初期武器は装備を整える為の足しで下取りに出してしまったから予備の武器はなく、そして武器を失った事による隙を見逃す程にはデデデがバカではなかった。
「手間取らせてくれたなぁ! 死ねぇ!」
「グッ! ガハァッ!」
何らかのスキル効果か更に加速したデデデの刺突は武器がない俺には防ぐ事が出来ず、そのまま心臓を穿たれた俺のHPは一瞬で全損してこちらを嘲笑うデデデの表情を最後に意識は途絶えたのだった。
【致死ダメージ】
【パーティ全滅】
【蘇生可能時間経過】
【デスペナルティ:ログイン制限24h】
◇◇◇
□新潟貴志
「……あーやられたなクソ。お陰でスタートダッシュして美希ちゃんとパーティー組んで凄腕プレイヤーってしてリードする計画が遠のいた。おのれデデデめ」
デスペナを食らった後、俺は自室のベッドの上で寝転がりながら天井を見上げていた。まあネトゲでPKやPKKをやってた以上はキルしてキルされるのには慣れてるからそこまでショックではない。
……いやちょっと嘘、本当はめっちゃ悔しい。美希ちゃんとのパーティーで出来る<マスター>だと見せて好感度を稼ぐ計画(出来るとは言っていない)が遠のいたのもそうだが、あんなチンピラにあっさりキルされた自分が超悔しい。
「くそぅ、メイン武器も取られてランダムドロップもしたからキツいな。……にしてもデスペナがログイン制限24時間とか、ゲームをさせないペナルティってまともにゲームの運営をする気がないんじゃないかデンドロ。とりあえず初心者狩りとデスペナルティについて運営にお気持ち表明してからネットを漁るか」
そんな訳でログイン出来ない時間でデンドロについて情報を集めて、再びログインした時にどうにか効率的なプレイで盛り返そうと思ったのだが、非公式wikiはまだ出来たばかりで然程の情報もなく、掲示板も色々な情報が錯綜して役に立ちそうにない。
掲示板に『初心者狩りPK情報求む!』って言うスレがあって、例のデデデにやられたプレイヤーの書き込みもあったからネット漁りも無駄ではなかったが。とりあえずヤツの情報を可能な限り書き込んでおこう。
「あの《スティール》は【
wikiにが基本的な下級職のジョブ情報は一部載っていたりするので知識としては役に立ったし、王国の王都周辺の情報は結構集まったが序盤のオススメみたいな情報は錯綜してるな。
まあデンドロはサービス開始から間もないし異様に世界観が複雑だから、大抵どのゲームにもいる検証班やwiki作りが趣味なプレイヤーも手間取っているんだろう。
「……ええい、思い返してもあのデデデのせいで予定が崩れっぱなしだ。何よりネトゲでPKされっぱなしは本当に性に合わない! クッソリベンジしたい!……でもPKやると美希ちゃんに嫌われる可能性が……PKKならまだマシか?」
こういう思考になる辺りやっぱり俺って根っからのPKなんだよなぁ。俺はネトゲでトッププレイヤーとか呼ばれてる連中をキルしてザマァするのは本当に楽しいと思ってPKKしてる人だし。
勿論PKやるなら当然自キャラが反撃や復讐でキルされるのも覚悟の上だけど、今回の初心者狩りみたいなつまらない手段でデスペナ食らったのが思ったよりも引き摺ってるかもしれない。
……とりあえずデンドロ始めた事をネタにして美希ちゃんと話が出来るから、初心者狩りの事を話しつつそれとなく彼女がPKKについてどう思うか聞いてみるか。
「……まあ、こうして自室で会話デッキを考える事は出来るけど、実際には美希ちゃんを前にするとデッキ内容の10分の1も話せないんだけどなwww。……はぁ〜」
あーこうして考えると自分の情けなさで思考がループするからやめよう。気を紛らわす為にデンドロの情報をネットで漁るか。何か役に立つ情報でもあればいいが。
◇◇◇
□王都アルテア 【剣士】シュバルツ・ブラック
「……あー、やっぱメインウェポンの剣は奪われてるし、装備もせっかく買ったアクセサリーもドロップしたか。オマケに資金もない」
そういう訳で24時間後、学校が終わってからデスペナが開けたのでとりあえずログインして、人目につかない路地裏でステータス欄で所持品を確認すると散々な有り様だったので思わず頭を抱えそうになる。
クソッ、せっかく今日は初心者狩りネタで美希ちゃんと少し話せて、PKについても『ゲームで許されてるなら敢えて否定はしないよ。仕掛けてくるなら叩き潰すけど』という考えであると知れる進展があった(俺視点)のにこのザマだ。
「残ったドロップアイテムを売れば多少のリルは確保出来るが武器まで買い揃えるのはキツイか。せっかく彼女との関係が進展しそうなのに……」
「いやマスターの記憶によるとその彼女とは単に学校で少し話をしただけじゃない。毎回あっちから話し掛けられてそれに吃りながら答えているだけ、はっきり言って女の子相手の対応としては赤点じゃないかしら?」
「うぐぐ、しょうがないだろ彼女の前だとまだ上手く喋れないんだから。これでも普通に他人とどうにか会話出来る様になっただけでもマシに……って、お前誰だ!」
そんな俺の独り言に対して図星になる発言の方を見ると、そこには所謂“地雷系”に見えるファッションで銀髪ツインテールでオッドアイの小学生ぐらいに見える美少女が居た。
一瞬めっちゃ気合い入ったアバターだなとも思ったが左手には紋章がないから<マスター>ではない、つまりティアンかと思ったがその割には発言の内容がプレイヤーよりと言うか……。
「そうね、まずは自己紹介しましょうか。私はTYPE:メイデンwithアームズ【弱態嬢剣 フラガラッハ】、シュバルツ・ブラックとか言う頭痛が痛いみたいなネーミングのマスターから生まれた<エンブリオ>よ」
「ネームの事はいいだろ……って、俺の<エンブリオ>? マジで?」
言われてステータス欄を確認すると確かに<エンブリオ>の欄には『【弱態嬢剣 フラガラッハ】TYPE:メイデンwithアームズ』の文字があり、ステータス補正や装備補正、固有スキルも表示されていた。
ステータス補正はG〜Eぐらいで平均的に低めだが、固有のスキルの方は中々強そうと言うかコレがあればあのデデデにも負けていなかったと思うぐらいの性能ではあったが……。
「いやゲーム内で女の子を連れ歩く趣味はないからチェンジで。リセマラ案件だな」
「残念でした、<エンブリオ>は変更出来ませ〜ん。と言うか好きな女の子と話したら後で自室で一喜一憂するヘタレマスターのパーソナルを参照してるから何回試しても私が生まれるわよ。今後もパートナーになる女性にそんな対応なら好きな女の子相手に告る事も出来ないのは当然よね」
「ウルセェ! と言うか俺の記憶を読んでないかお前!」
「<エンブリオ>はマスターのパーソナルを反映するから表層の記憶ぐらいは共有されるわよ。マスターがこれまで何度か一緒にゲームをやろうと誘おうとして結局出来ず、デンドロを始めたと聞いてようやく同じゲームを買って始める程度のヘタレだと言う事も知っているわ」
うるさいわ! と言うかプレイヤーの記憶を勝手に読むとかプライバシーの保護はどうなっているんだデンドロ! 分かってたけどやっぱりまともな“ゲーム”じゃないだろこの世界!
「と言うかもっと早くに目覚められなかったのかよ。そうすればあのデデデにキルされる事はなかったのに」
「私だってマスターの窮地を華麗に救えるタイミングで目覚めたかったんだけど、その前にマスターが三流かませPKにあっさりキルされちゃったからねぇ。もうちょっと生きていればカッコよく逆転出来たんだけどなぁ〜」
「ぐぬぬぬ……」
あのかませムーブしてるヤツにあっさり負けてキルされたのが事実だから言い返せない。しかしマスターである俺に対してのアタリが強くないかこの<エンブリオ>。
「だってせっかく格好よく生まれたかったのにマスターはあっさりやられるし、終始クラスの気になる女の子の事ばっかり考えてるしねぇ。後はチェンジとか言うし」
「あー、いきなりチェンジって言ったのは悪かったよ」
「まあマスターを煽るのは私が人を煽るのが好きだからだけど。PKしつつ相手を煽るのが大好きなマスターのパーソナルから生まれたのがこの私」
「俺の煽りは運営に注意を受けないギリギリを見極めての事だからいいんだよ。まあ渾名が“煽リスト”とかになった事はあるが」
「このデンドロには運営からの注意は多分ないから、つまり私のマスターへの煽りも問題ないって事ね」
「それは煽られた側がキレて反撃するのも問題ないって事だからな。煽るのは不快な気分にしてもいいやつだけだ」
だから俺は煽る相手はちゃんとマナー違反をしてイキってる様なアレなPKとかに限定してる。真っ当なトッププレイヤーは普通にPKとして挑んでいるし。
PKしてる時点で相手に取っては迷惑だろうって? まあそれは全く持ってその通りだけど対人PKにはそれでしか味わえない快感があるので。
「それでマスターはこれからどうするの? 私としては花々しい<エンブリオ>誕生シーンを邪魔してくれたあのデデデ野郎にリベンジして煽り散らしたいんだけど」
「俺の<エンブリオ>だからか本当に煽りとPKKしたいんだな。……まあリベンジしたい気持ちもあるが、それよりも悲惨な事になっている手持ちアイテムって装備をどうにかしたい。お前“フラガラッハ”でTYPE:アームズなんだから武器はどうにか出来ないか?」
「出来るわよ」
そう言ったフラガラッハの姿が瞬時に消えて、代わりに俺の手には黒色で銀の装飾があしらわれた長剣が握られていた。
曰く、TYPE:メイデンはハイブリッド型の<エンブリオ>であり基本形態である人型とwith〇〇部分の姿、TYPE:メイデンwithアームズのフラガラッハであればアームズ形態である今の剣の姿を切り替えられるらしい。
『この姿でもマスターとは念話で会話出来るわ。後私は固有スキルがアームズ形態でないと使用出来ないタイプだから』
「……それなら人型形態っているのか? インテリジェンスウェポン的な喋る剣じゃダメだったのかと問いたい」
『私と言う美少女を連れ歩けるという最大のメリットがあるじゃない。そこで気の利いた言葉の一つも言えないから好きな女の子と距離を縮められないのよヘタレマスター』
「誰がヘタレか! 俺だって彼女ともっとなぁ……」
そんな風に剣と言い争っていたら路地裏とは言え騒がしかったからか何人かに訝しげに見られたので、慌ててフラガラッハを人型に戻してその場を後にした。
「クソッ、お陰で周りから変な目で見られただろ」
「マスターが剣状態の私に怒鳴るっていう側から見たら不審者同然の行為をするのが悪いんじゃないかしら。これで私を人型で連れ歩いた方がマシって事に納得したでしょう?」
「抜き身の剣を持って街中を歩くよりはマシかもしれないけどさぁ。と言うか紋章に仕舞えばいいんじゃないか」
「それだと私が街を楽しめないから嫌よ。あら美味しそうな屋台があるわ」
「おいちょっと待てマジで今は資金が足りないんだよ!」
尚、結局残り資金を使って屋台で売られていた焼き鳥を買う羽目になった。まあ数本だけで安かったから資金が底を尽きる事はないし焼き鳥自体は美味しかったけどさぁ。
後はどうもフラガラッハは食事中は一切喋らないらしい。『レディとして食事中におしゃべりはしないのがマナー』とか言ってたが、口うるさいなら食べ物を与えるのも手か。
「それで、改めて聞くけどこれからどうするのマスター?」
「一応リアルのネットや掲示板で色々と情報は集めて来た。どうも王国の王都以外の初期地点周辺の狩場は今超混雑しているらしい。デンドロ始める<マスター>がアホほど増えてるのが理由だな」
「混雑は面倒ね。私のスキルは他のマスターも普通に巻き込むわよ」
「無差別型っぽかったもんなアレ。……だから資金稼ぎを兼ねて街中で出来るクエストをやろうと思う。掲示板情報だけど王都の魔術師ギルドで<マスター>の調査研究ってクエストをやってるらしい。報酬もいいらしいし【
他の街中で出来るジョブクエストは大体が生産系か司祭系統の教会のジョブクエストぐらいらしいからな。王都には<墓標迷宮>と言うダンジョンもあるらしいけどお高いアイテムを手に入れないと入れない場所らしいし。
それにフラガラッハのスキルはMPを消費するタイプだから【魔術師】でMPを上げるのも無駄ではないだろうし、むしろ物理ステータスを
「それに最終的には魔法剣士的なジョブに就きたいしな。俺がそういう万能系の構成が好きなんだ。中途半端な部分はプレイヤースキルでカバーする」
「まあ私の能力を考えるならマスターは万能型の方が相性はいいわよね。ただプレイヤースキル面はあっさりPKされて雑ぁ魚になった辺りで信用はガタ落ちしてるけど」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ……見てろよ、汚名返上してやるからな!」
やはり初心者狩り如きにPKされた汚点私注ぐにはリベンジしかないか。美希ちゃんをリードする夢のデンドロプレイの為にも早急にレベリングと装備を整えて戦力を強化せねば。
◯新潟貴志/シュバルツ・ブラック
(@_@)<妹に片想いしている小学生<マスター>で学校と自室やゲーム内では口調が変わるタイプ
(@_@)<豊富なネトゲの経験とクソゲー含むVRゲームでのアバター操作技術によって高いプレイヤースキルを持つ天災児
(@_@)<ただ乱数の女神に嫌われているタイプで運悪くうっかり負ける事も多い(確率低い《スティール》が決まったり)
(@_@)<両親は“一族”が経営している<オモイカネ・インテリジェンス>の社員だが普通の表側の研究者なので裏事情とかは知らない
(@_@)<そんな家庭なので様々なゲームやAI技術に幼い頃から触れているのでそれらに対する目利きの能力が非常に高くなっている
(@_@)<なので頭ではデンドロをゲームだとして行動しているが心の中では“ゲームじゃない何か”だと思ってしまった
(@_@)<そこに初心者狩りによって妹とゲームプレイする計画がオジャンになる“危機感”が合わさって<エンブリオ>がメイデンになった
(@_@)<まあ今は遊戯か世界か云々よりも妹とどうにか一緒にデンドロを出来ないかとその為の自己強化に専念してる模様
◯【弱態嬢剣 フラガラッハ】
(@_@)<シュバルツ・ブラックの<エンブリオ>であり煽りメスガキ系ロリメイデン
(@_@)<一応煽る対象は選んでおり誰にでも煽りをする訳ではない(シュバルツは煽ってもいい相手扱い)
(@_@)<アームズ形態は黒い長剣であり攻撃力はそこそこ程度でステータス補正は平均的に低めなのもあって武器としてはそこまで強力ではない
(@_@)<ただメイデンらしくジャイアントキリングが出来る強力な固有スキルにリソースが振られているタイプであり有利な相手にはとことん強い
(@_@)<人型<エンブリオ>としての食癖は“食事中には喋らない”
(@_@)<根っこがヘタレのマスターのケツを叩くついでに煽らなければと思っている
◯デッドリー・デス・デーモン
(@_@)<元からPKをやるつもりだったが初心者狩りの方がモンスター狩りより効率がいいと思って初心者狩りし始めた<マスター>
(@_@)<有する<エンブリオ>【禍速走躓 イダテン】は靴型のTYPE:アームズで装備補正とステータス補正共にAGI特化
(@_@)<固有スキル《初動禍速》は発動前の停止・低速行動時間に比例したAGIバフで【盗賊】の《気配操作》で獲物の近くに潜みながら条件を満たしている
(@_@)<第二スキルである高速移動した時間に比例してAGIにバフが掛かる《継続禍速》と合わせてデンドロでは攻防に万能なAGIを強化する強力な<エンブリオ>
(@_@)<ただし両スキル共に数秒停止するとAGIバフがリセットされてしまうデメリットがありシュバルツに奇襲を避けられて止まった時には会話で停止時間を稼いだ
(@_@)<噛ませムーブは半分ぐらいは素だが全くの考えなしではなく戦術もちゃんと練っているものの自意識過剰な部分もあって煽り耐性は高くない
◯妹
(@_@)<貴志/シュバルツの事は同じゲーム好きの友人とは思っているが想いを向けられている事は全く気付いていない
(@_@)<妹の“直感”は危険や悪意には敏感だがごく普通の好意には機能せず、他の感度が高過ぎる反動でそういう感情には人並み以上に鈍い模様