□日本
『……それでお兄ちゃん達と薬草集めのクエストをしてたら<
「す、凄いね。<UBM>ってモンスターがいるのはネットで見たけど、デンドロが始まってリアルではまだ半月ぐらいなのにもう見つけたんだ」
一学期が終わって夏休みに入った七月末、俺は電話で
そう、夏休みに入る前に勇気を出して彼女と電話番号とメールアドレスを交換する事が出来たのだ。フラガラッハに『え、学校で話してるのに電話番号すら聞けてないのダサッ。夏休みに入ったら話す機会激減する事も分かってないのこのヘタレオブヘタレは』と言われたから頑張った。
あやつの煽りは未だにイラッと来るけど背中を押してくれた事には感謝してやってもいい。『フラガラッハだと可愛くないから可愛いあだ名が欲しいな〜。ヘタレでセンスがないマスターには期待出来ないけどwww』とか言ってたから何か略称ぐらいは考えてやろう。
『実際結構強かったね。お兄ちゃんのデスペナ覚悟の自爆特攻がなければ倒せなかったよ。特典武具はお兄ちゃんが持っていったけど。貴志君はどんな感じ?』
「う、うん、美希ちゃんと違って<UBM>とかには遭遇してないけど亜竜ぐらいのモンスターまでは倒せる様になったよ。【
『おお、ジョブを三つも凄いじゃんね。私は上級職の【
ふふふ、彼女との会話に備えてデンドロはやり込んだから会話デッキは豊富だぜ。正直言ってデンドロの事は割とクソゲーだと思ってるけど、学校で彼女と会話出来るネタになると言う事実だけで感謝してやってもいい。ありがとうデンドロ!
まあ【剣士】と【魔術師】と【斥候】はどれも少しレベルを上げたぐらいでカンストしておらず際立ったステータスはないけど、相性次第では格上にも通じる【フラガラッハ】のスキルもあって亜竜級ぐらいは相手によるけどタイマンで倒せる実力は得た。
……でも美希ちゃんはもう上級職まで取ってるんだよね。それに【フラガラッハ】のスキルは効果範囲内で無差別だからパーティープレイでは使い難いから、これだと彼女をデンドロでパーティーに誘うにしてもリードとかは難しいな。
『あ、そうだ今日暇だったら一緒にデンドロしない? お兄ちゃんも祐美ちゃんも今日はクエストがあるって言うから1人なんだよね。そっちが暇ならだけど……』
「だ、大丈夫! 今日は俺も暇だから!」
『そう? じゃあ待ち合わせは王都の噴水でいいかな?』
シャァッ!(大歓喜) 向こうから誘ってくれるなら仕方ないよな! しかも美希ちゃん1人って事は実質的2人きりのパーティー! ここはいい所を見せて好感度を稼ぐチャンスだ!
現実では正直言っていい所のない俺だがゲームないならカッコよく彼女を助けるとか出来る筈!……言ってて少し情けなくなるが。
◇◇◇
□王都アルテア・噴水前 【魔術師】シュバルツ・ブラック
「……それでようやくデートに漕ぎ着けた訳ね」
「いいいやデートって言ってもゲーム内で一緒にプレイするだけだし……」
「ハァァァ〜(クソデカ溜息) まあこっちから誘うんじゃなくて情けなくも相手から誘われて、しかもそれを喜ぶ程度のヘタレマスターにしては前進したと言えるのかしら」
うるさいなぁ、分かってるんだよそんな事は。俺としてももう少しレベリングしてパーティーを組んでも足を引っ張らないと確信出来るぐらいになったら美希ちゃんを誘うつもりだったし!
ちなみに電話が終わってから即デンドロにログイン、大体の合流時間は決めてたけどそれよりも早くにログインした上で雑貨屋で必要そうなアイテムを一通り買い込んで準備は万端にしておいた。
「一応言っておくけど彼女を煽ったりはするなよ“フララ”。頼むから猫を被っていてくれ」
「別に私は誰彼構わずに煽る訳じゃないわ、煽っていい相手(マスターとか)にしか煽らないわよ。……それと“フララ”って」
「お前の愛称、前に愛称が欲しいって言ってたからフラガラッハを略してフララ。まあ気に入らんなら別の愛称を考えるが」
「……ふぅん、まあネーミングセンスがお察しのマスターにしては良い愛称じゃないかしら」
そっぽを向いたフララだが機嫌は良さそうだしご機嫌取りは出来たみたいだな。3分ぐらい愛称を考えた甲斐があった、これで美希ちゃん相手に煽りを入れる確率が減ったと思いたい。
さて、お互いのプレイヤーネームと大雑把な見た目は教え合ってるけど、デンドロで会うのは初めてだからやべ緊張してき「おーい」と思っていたら金髪碧眼の何処か見覚えのある顔立ちの少女が声を掛けてきた。
「えーっと、黒髪黒目の男性アバターと銀髪オッドアイの美少女メイデン、もしかしてシュバルツ・ブラック君とフラガラッハちゃんで合ってるかな?」
「あ、ああ、そうだ。そっちがみ……ミカ・ウィステリアさんで合っていますか?」
「そうだよー、今日はよろしくねシュバルツ君」
よしっ! ちゃんと合流出来た! 俺のアバターは兎も角銀髪美少女メイデンのフララは目立つから分かりやすかったらしい。ミカちゃんのアバターは俺程じゃないけどリアルよりも成長していて超可愛い(コイツ色ボケ過ぎない?byフララ)
「お初にお目に掛かりますわ。私はTYPE:メイデンの【フラガラッハ】と申します、気軽にフララとお呼び下さい。常日頃からマスターがお世話になっている様で」
「宜しくねフララちゃん。シュバルツ君とは友達だからね。それで今日は冒険者ギルドでクエストを一緒に受けようって話だけど」
「う、うん、じゃあまずギルドに行こうか」
猫を被ってるフララはミカちゃんと上手くやってるみたいだが、俺に関しては『もっと気の利いた事を言いなさいヘタレ』と言った感じの視線を送って来るので何とか話題を出そうとする。
「そ、そのマント似合ってるね」
「ありがとー。最近手に入れた【亜竜風狼の外套・ネイティブ】ってヤツでね、ちょっとしたクエストで【ウィンド・デミドラグウルフ】を倒した時に落ちた【宝櫃】から出たの。そこそこの防御力に《衝撃耐性》と《AGI増加》の装備スキルがあるよ」
「あ、亜竜のドロップ品とか凄いね」
「まあこのマントみたいに使える装備品が出る事は稀だけどね。殆どは換金アイテムか素材アイテムか自分じゃ使えない装備だし。お兄ちゃんが『蛮族スタイルははしたないから装備が選べるならまともな格好をしなさい』って言われたから露出少ないのを選んだけど、性能重視だとチグハグな外見になるしねー」
よし何とか会話が出来ている!……と思ったけど、そんな様子を見たフララが『一々吃ってるのは兎も角、会話量の9割以上があっちの言葉じゃないおバカ。もっとそっちから会話をしなさいよヘタレ』と小声で言われながら尻をつねられた。痛い。
ま、まだだ! クエスト中で一緒にゲーム攻略をする時なら歴戦のゲーマーとしての経験からアドバイスとか出来る筈! そうすればもう少し会話も!
◇
『『『GITITITITITITI!!!』』』
「せいやっ!」
「《ファイアーボール》!」
アルター王国南部にある森林地帯、そこで俺とミカちゃんは複数の魔蟲系モンスターと戦っており、ミカちゃんが【ストライクビートル】を片手斧で両断し、俺も後方から火球を麻痺の鱗粉を撒く【パラライズ・バタフライ】に放って彼女の援護をしている。
冒険者ギルドで受けたのは『<レーヴ果樹園>周辺の魔蟲駆除』と言うクエストで、王都南部にある果樹園の果実を狙って集まって来る魔蟲系モンスターを駆除して欲しいと言う内容だ。
報酬はそこそこの金銭と<レーヴ果樹園>の1日フリーパスという大した物でもないが、ミカちゃんが『何となくこのクエストがいいと思う』と言えば俺に文句なぞある筈もなく、こうして一緒にゲームが出来るだけで報酬とかどうでもいいんだが。
『はしゃぐのはいいんだけどマスター大して活躍出来てないわよね。さっきから魔蟲の8割ぐらいをミカが倒してるし』
「うぐぐぐぐ、ま、魔法で面倒なモンスターを倒すのを優先してるだけだから(震え声) それに役に立たないのはフララもだろ、スキルが全部無差別で下手に使ったらミカちゃんにも悪影響が出るし」
『まあ今の相手は“雑多な種族が集まっただけのモンスター達”で“ステータスも際立って高い訳じゃない”から私の
フララのモチーフである『フラガラッハ』はケルト神話に登場する伝説の魔剣、その色々とある逸話の中でも『これを見た者は産婦の如く力を失う』伝承に特に影響を受けたフララの能力特性は“対象の能力に応じた呪怨系デバフ”と言えるもの。
故にデバフ系スキルを幾つか有しているが、それら全てのデバフ効果が俺自身を含めた効果範囲内の存在全て、敵味方問わず対象となる無差別型のスキルなのでパーティー戦闘では迂闊に使えないのだ。
一応この事はミカちゃんにも伝えているし、通じる状況になったら使ってねとも言われたが、フララのスキルを抜きに俺が出来る事はこうしてチマチマ近接戦では落とせない魔蟲を魔法で倒す事ぐらいになってしまっている。
「む、あれは【ポイズン・センチピード】だったな、確か身体に毒があるから倒すか。《フリーズランス》! ……こうして魔法による援護しか出来ないから正直言って寄生プレイじゃないかって思ってはいる。だが現状はこれが最善の行動になってしまうんだ……」
『まあ援護にはなってるし足は引っ張ってないとは思うわよ。……と言うかミカがめっちゃ強いわよね』
そうなんだよなぁ、今もミカちゃんは俺を遥かに上回るAGIで魔蟲の群れの中に飛び込んでは両手の武器で次々と敵を斬り伏せて、包囲されて背後を突かれてもそれが見えているかの様に回避しながら傷一つ負わずに包囲を抜け出すと言う凄まじい戦いぶりを見せている。
高いステータスは上級職とステータス補正によるもので、彼女の<エンブリオ>は高いSTR補正と近接武器に防御貫通効果を与える義手【破壊戦腕 ギガース】で甲殻による防御スキルを有する事が多い魔蟲を相手に役に立ってはいるが、それでも彼女の戦いぶりはジョブや<エンブリオ>の性能ではなく本人の圧倒的なプレイヤースキルによるものだとは俺にも分かる。
「後ろにも目を付けてるぐらいにバックアタックに反応してる辺りがマジで凄い。この部分だとVRゲームのトッププレイヤーの中でも意味不明な変態機動が出来る一部バグ枠クラスの動きじゃないか? 少なくともステータス差を合わせれば近接戦だと俺より圧倒的に強いんだよなぁ」
『パーティープレイでカッコいい所を見せると言う皮算用は完全におじゃんになったわね』
所詮俺は井の中の蛙、VRゲームやネトゲには自信があったとか言ってても実際にはこのザマよ。それでも足を引っ張らない様に状態異常持ち魔蟲を《看破》で見つつ優先して仕留める仕事はキチンとするけどな。
……足手纏いと思われたら次はパーティーを組んでくれないかもだから全力で頑張るが。兎に角魔法で【ポイズン・バタフライ】に【パラライズ・スパイダー】に【ポイズン・ホーネット】に【ポイズン・ワスプ】に【ニードルビー】とかを撃ち落としていく。
「……なんか蜂型のモンスターが増えて来たな」
「うん、蜂が森の奥から次々と来てる。しかも統制が取れてて連携して来るから多分群れじゃないかな」
「蜂系モンスターは同種で群れを作りやすい生態をしてるんだったか。……そしてその場合は高確率で“女王”と呼ばれる個体がいると」
ふふふ、ミカちゃんとパーティーを組んだ時に備えて王都周辺に出て来るモンスターの情報は冒険者ギルドや有料図書館を巡って色々と入手済みだぜ。まあこの辺りの情報はミカちゃんも既に知ってたみたいだけどね。
兎に角、この鉢の群れにはボスとなる女王がいると考えた俺達は蜂モンスターを駆除しつつ、その移動方向から群れの本隊の位置を逆算して進んでいくとそこには一際大きな蜂型モンスターが率いる数十匹の下級蜂型モンスターの群が居た。
『『『『『『BUBUBUBUBUBUBUBU……!』』』』』』
「群れを率いているのは【クイーン・ホーネット】か。蜂の巣とかはないね」
「蜂型モンスターは巣を作る性質があるがまだ巣を作る前……と言うか、進行方向に<レーヴ果樹園>があるからそこに巣を作る気じゃないか?」
「若手の群れの女王蜂が配下を率いて自分の巣を作れる場所を探して移動する性質があるってアイラさんも言ってた様な。後は配下強化や配下へのダメージ転化スキルを持ってる個体もいるとか」
リアルの蜂にもそんな感じの生態があると言う話は聞いた事があるが、このデンドロ世界だと蜂自体の危険度がリアルとは比べ物にならないから蜂型モンスターの巣作りは確認されれば冒険者ギルドでも懸賞金が賭けられる案件になる事もあるとか。
そして俺達を巣作りの邪魔者だと判断した女王蜂は配下の蜂達に邪魔者を排除する指示を出した様で、ミカちゃんにいい所を見せたい俺にとっては
『『『『BUBUBUBUBUBUBUBU!!!』』』』
「アイツらは俺が倒すよ。フララのスキルとは相性が良い」
「お願いね。女王蜂は私が倒すから」
「ッ……ああ! 任せてくれ!」
『ようやく活躍出来るからってはしゃいじゃってまぁ。……こっちを認識してる蜂の数は64、第三スキルであれば十分効果はあるでしょうけど』
ようやく、ようやくデンドロでミカちゃんに頼りにされた! 悪いが蜂共は纏めて駆除だ!……と言う感情を出来るだけ表に出さない様に取り繕いつつ、俺はフララを手に悠然と蜂達の元へと歩みを進める。
そんな風にノコノコと向かって来る間抜けな俺を抹殺するべく数十匹の蜂型モンスターが一斉に飛翔するが、そうやって群れの全員が俺をキチンと“認識”する事こそが狙いであり、広域呪怨スキルの条件を満たしたフララの刀身から禍々しいオーラが溢れ出す。
『『『『BUBUBUBUBUBUBUBU!!!』』』』
『「……ひれ伏せ、《
発動したのは【弱態嬢剣 フラガラッハ】の第三スキル《勇壮なる軍勢よ、地に伏せよ》、その効果は“効果範囲内の自身を認識した全ての対象に、範囲内に存在する全ての味方の数×20だけSTR・AGI・END・DEXを減少させる”対集団戦用広域呪怨系デバフ。
つまり計64体の蜂型モンスターにはSTR・AGI・END・DEXに
『『『『BU……BUBU………………!』』』』
「俺とミカちゃんにもデバフは掛かるが、パーティー2人だけならデバフ数値はマイナス40程度。まあ誤差だな」
『それと蜂型モンスターはENDが特に低いみたいだから、マイナス化で地面に落ちただけで砕け散るわね』
そしてデバフにより飛ぶ力を失った蜂達は地面に墜落し、マイナス化したENDによって落下の衝撃に耐えきれずに肉体が砕けていく。“味方”判定が結構厳しいから使い所は限られるが嵌れば強いスキルだ。
それでも亜竜クラスの【クイーン・ホーネット】はデバフを受けても自滅まではしていないが、それでもステータスが大幅に減っている事には変わりなく、武器を大斧に持ち替えたミカちゃんの接近に反応する前に身体を両断されていた。
『BUA……!?』
「ああ、身代わり系スキルでも持ってたかな。でも私の【ギガース】の《
『あ、女王が居なくなって蜂達が“味方”判定じゃなくなったからデバフの効果が落ちるわ』
「同じ種族のモンスターってだけだと味方判定されない辺り条件が微妙に厳しいよな。《ウィンドランス》!」
まあ蜂型の大半は地面に落ちた落下ダメージで砕けてるからスキルを解除しつつ止めを刺しておけばいい簡単なお仕事だからいいんだがな。ミカちゃんと一緒に暫く地面の鉢潰しをして駆除作業は終わった。
「ドロップアイテムは針とか毒腺とかの素材アイテムばっかりか。【クイーン・ホーネット】からは【宝櫃】が落ちてくれたが、中身は素材と換金アイテムか」
「後で素材は売ってから山分けだね。……それにしても凄いスキルだったね、あの鉢の群れを一瞬で全滅させるなんてカッコよかったよ」
「………………あ、ありがとう……」
よっしゃぁっ!!! 俺の見せ場を作ってくれて本当にありがとう蜂型モンスター達! ドロップアイテムは有効活用するね! フララからは念話で『もうちょっとマシな返しをしなさいよヘタレ』とか言われたがミカちゃんに“カッコいい”って言われたのにそんな返しをする余裕はない!
ほんとうにありがとう<Infinite Dendrogram>! ゲームバランスはともかく俺的にはマジで神ゲーですわ!
◇
「これでクエスト分の魔蟲討伐は終わったかな。じゃあ報告に行こうか」
「クエストで要求された以上の数を討伐した気もするけど。まあ経験値とドロップアイテムは沢山手に入ったし」
俺とミカちゃんは蜂型モンスターの群れの後も暫く魔蟲を倒し続けてクエストを達成、俺としては非常に残念ではあるが一旦王都に戻ってクエスト達成報告と報酬を貰いに行く事になった。
……出来ればもう少し一緒にパーティープレイをしたかったけど、流石にこれ以上引き伸ばすのは不自然だしなぁ。でもねそれなりに活躍出来たしもしかしたらまたパーティーに誘ってくれるかも……。
『いやそこは自分でもう一度誘いなさいよアンポンタン。……ん? 誰かに見られているわね』
「本当かフララ、周りには何も見えないが……」
アームズ形態のまま容赦ない念話を飛ばして来たフララがそんな事を言って来たので辺りを伺うが俺達以外に人やモンスターの姿はない。フララはスキルの関係上こっちを認識している範囲内の存在を大雑把に感じ取れるらしいのだが、詳細な位置などの情報がわかる程の精度はないらしい。
いや、この感じはボス狩りし終わった後のパーティーを不意打ちする時に似てるか。マナー違反なやり口だから相手は選んだが、俺も昔はボス戦で消耗したPKを隠密スキルで待ち伏せ……今、ミカちゃんの近くの落ち葉が踏まれ……!
「まずいミカちゃ「ああそこだね」「死ぐげぇ!?」……ん?」
過去の経験から透明な敵がミカちゃんを狙っていると気が付いたら俺は彼女を庇おうと声を上げながら走りだそうとしたんだが、それより早くミカちゃんは無造作に身体を半回転させながら剣を振るって透明な何かを斬り裂いた。
攻撃を受けた事で透明化が解かれたのかそこには胴体を斬られているフード付きローブを被った男の姿があり、それを確認した彼女は間髪入れずにもう片方の手に持った手斧を男の脳天に振り下ろしてキルしてしまう。
すると少し離れた木陰に5人の人間の姿が浮かび上がる様に現れて、その内の1人が俺を初心者狩りしやがったデデデ野郎(本名は忘れた)だったのでPK<マスター>達による襲撃だと確信する。
「なっ!? アイツがやられると【カミカクシ】の効果が……!」
「クソッ! 見つかったなら仕方ねぇ、やるぞ!」
「アイツまた性懲りもなく「シュバルツ君の知り合い?」いや知り合いって言うか真ん中のが俺を初心者狩りしたPKだから、多分俺達をキルしに来たPK連中「じゃあ敵だね、えいやっ!」えっ?」
ミカちゃんはそれだけ聞いた後即座に手斧を全力で投擲、物理ステータスにおいては俺とは比べ物にならない彼女が投げた斧は凄まじい速度で飛将してPK達の中でも魔法使い風の男の身体に突き刺さる。
そこから《瞬間装備》でハンマーを取り出した彼女は『シュバルツ君もデバフは私を気にせず好きに使っていいからね。ステータスの調整はしてるし』とだけ言い残して大地が砕ける程に踏み込みながらPK達に突っ込んでいった。
「え?」
「なっ! 女が突っ込んで来た!」
「舐めるな!《
それに対してPK連中は混乱しつつも<エンブリオ>っぽい盾を持った壁役らしきモヒカンの男が前に出て、そのスキルらしい光の壁を展開するが防御貫通の<エンブリオ>を持つミカちゃんとの相性は最悪であり、その壁をあっさりと砕かれた上で盾の上から殴り飛ばされてノックバックで吹き飛んでいった。
そうして陣形が崩れた隙に彼女は前衛のPKを擦り抜けて後衛側に接近、さっき斧の直撃を受けた魔術師楓の男が紋章から鳥型の恐らくガードナーを呼び出して迎え討とうとしたが、ガードナーが攻撃に移るよりも早く彼女はそのマスターの心臓に剣を突き立てて始末してみせた。
……あ、最後っ屁か鳥型ガードナーが自爆気味の爆発を起こしたけどミカちゃん男の死体を盾にしつつ装備の衝撃耐性で凌いだな。しかも爆発のお陰でPK達がダメージを負って陣形が崩れたし、完璧なPKの返り討ちに思わず惚れ惚れするね。
『いや呑気に見ている場合じゃないでしょうが。折角のリベンジのチャンスなのにこのままだと女の子の無双を見てるだけのヘタレカスになるわよ』
「分かっとるわい! それにもう《詠唱》は終わったぞ。《ファイアーボール》!」
フララに言われるまでもなく俺は準備していた魔法を発動、それなりのMPを込めた下級が爆発で吹き飛ばされたPKの1人に命中して火だるまにし、続いてフララを握り締めて混乱しているデデデ野郎に接近する。
流石に俺の接近に向こうも気が付いたのか振り下ろしたフララを剣で防がれるが、それでもまだ混乱している隙を突いて攻め立てるついでに煽ってみようか。
「へい久しぶりだなデデデ君、もう初心者狩りは卒業したのかい?」
「テメェ……! ザコの分際で! こっちの奇襲に始めから気付いてやがったな!」
「あーまあそう思っても無理ないか」
実際姿を消しての奇襲戦術自体は悪くないと思う。まず隠密に長けた1人が不意打ちでターゲットにダメージを与えて、続けて残りのメンバーが襲い掛かる予定だったんだろうし、俺も直前に気付けたぐらいだから多分俺1人なら上手く行ってたと思うぞ。
ただ残念ながら何故か奇襲を完璧に読み切っていたミカちゃんに不意打ち役を即キルされて、更に彼女がPKに即時逆撃をかますぐらいの対PK戦術が出来たからこうなってるけど。改めて彼女に惚れ直したよ(色ボケしすぎじゃない?byフララ)
「クソがぁ! ずっと上手くいってた俺のPK戦術にケチを付けやがて!」
「まあ事前に建てた計画通りに上手くいかない事もあるさ。特にネトゲではね」
「舐めやがって雑魚が! もう一度あの時と同じ様にキルしてやる! 《初動禍速》!」
「気が合うね、俺もあの時のリベンジはしたかった所だ。《
そうしてデデデ野郎が以前も見た加速スキルを使うと同時に、俺も【フラガラッハ】第一のスキルである条件型広域呪怨デバフスキルを使用して斬り合いに発展する。
本来であれば魔法系ジョブメインでサブジョブ含めても物理ステータスは低い俺と、AGIに特化した近接型ビルドのデデデが斬り合えば当然俺が圧倒的に不利な訳だが、嘗ての初心者狩りの時と違って今は俺の方が速い速度で斬り結ぶ事が出来ていた。
「どうなってる!? 魔法職なのにどうしてテメェの方が速い!?」
「当然《看破》済みか。後俺が速いんじゃなくて
それこそが【フラガラッハ】第一のスキル《輝ける力よ、翳り行け》の効果、“範囲内の自分を認識してしている対象のSTR・END・AGI・DEX・LUCの中で一番高いステータスに三番目に高い数値と同値になるだけのマイナス補正を掛ける”極振り殺しの広域デバフだ。
要は一番高いステータス値マイナス3番目のステータス値分の数値だけデバフを掛けるスキルであり、AGI特化のデデデ野郎のAGIはどれだけ数値を盛ろうともSTRと同値になるまで下げられると言う事になる。
当然俺自身にも掛かる無差別系スキルではあるのだが俺は装備でSTR・END・AGIが同じぐらいの数値になる様に調整しているし、ミカちゃんの方も元から物理ステータスが満遍なく上がる戦士系ジョブな事もあって装備を切り替えて影響を減らしてくれている。
「ふざけんな! そんなメタスキル……!?」
「お前に初心者狩りされたせいで最初のスキルぐらいコレだった節もあるんだが? ……さて、もう少し煽りたい所だがお前如きに構っている時間はない。《
発動するのは【フラガラッハ】第二のスキル、“フラガラッハに接触した対象の防御力をそのステータスの低下数値の合計分だけ引き下げる”デバフ対象への防御無視スキル《悪因を断つ魔剣》。
そのスキルによって禍々しいオーラを纏ったフララを隙を見せたデデデ野郎に振り下ろし、思わず受け様と構えた奴の剣を両断しながら袈裟懸けに身体を斬り裂いた。
……このスキルによる防御力が引き下げは対象の装備品にも及ぶ上、デデデ野郎は自分のスキルでAGIを上げているので《輝ける力よ、翳り行け》のデバフ数値も増加しているからな。防御力が低下している剣なら斬り裂けたと言う訳。
「て……め……!」
「ああまだ生きてるな。キチンと首を刎ねておこう。……とりあえずリベンジ達成したからスッキリした」
『やっぱり自分なら上手くやれると思ってる相手を踏み躙って潰すのは楽しいわよね。出来ればもう少し煽りたかったけど』
我が<エンブリオ>ながら趣味が悪いな。まあその辺りが楽しくてPKとかやってたおれも似た様なもんではあるが、つまらない初心者狩りにあってモヤってた気分が解消されたからまあ良いか!
……おっと、そんな事よりもまだ戦ってるミカちゃんの援護をしないと……んん?
「あ、シュバルツ君も倒したんだ。こっちも全員倒しておいたよ」
「……えーっと、PK連中残り全員をお一人で倒したので?」
「そうだよー、向こうも大分混乱してグダってたから割と簡単に倒せた」
そこにあったのはまだ3人いたPK達を余裕の表情で全キルして一息ついているミカちゃんの姿であった。俺がデデデと遊んでいる数分程度の時間で他の連中を全滅させてしまったらしい。
……キルスコアは俺がデデデ野郎1人でミカちゃんが他5人全員、最初の奇襲に完璧にタイプしたのも彼女だし俺ってば全く活躍出来ていない……? ゲームでいい所を見せる当初の目的が全く達成出来てないのでは……。
「……次彼女を誘うにしてももう少し、せめて足を引っ張らないぐらいに強くなってからで良いですか?」
『……あー、まあ私も手伝うから頑張りましょう』
「?」
そんな俺の情けない小声に対して普段なら煽ってくるフララが何とも言い難い雰囲気で慰めて来るのが正直一番メンタルに来る。ミカちゃんが強過ぎてゲーム内で彼女にいい所を見せる難易度が高過ぎる……!
そんな俺達に疑問符を浮かべる彼女に対して何でもないと誤魔化しつつ、内心ではPK達の事なんて刹那で忘れて今後更なるレベリングとジョブビルドの試行錯誤と装備の充実を図るプランを全力で練りながら俺は彼女と共に王都へと帰還するのだった。
◯シュバルツ・ブラック&フララ
(@_@)<妹にいい所を見せる作戦は本人的には失敗したが、この後報酬で妹と果樹園に行ったり出来たので最高のひと時だった模様
(@_@)<【フラガラッハ】の特性は“対象の能力に応じたデバフ”であり、対象の秀でた部分を呪い本来の力を出せなくするジャイアントキリング
(@_@)<呪怨デバフは全て自分にも効果を及ぼす無差別型スキルだが、それ故に複数種ありながらどれも高い効果を有する
(@_@)<対象の能力で効果が変動するので自分の能力を事前に調整しておけばデバフの影響を最小限に抑えられる長所もある
(@_@)<逆に言えば敵の能力とデバフスキルの条件が噛み合わなければ効果が殆どないピーキーな<エンブリオ>
◯《
(@_@)<【フラガラッハ】が第三形態で覚えた将軍や統率者絶対殺す対集団用呪怨デバフ
(@_@)<“味方”の判定は『同じパーティー・従属キャパシティ内』または『同じ集団系スキルの効果内(スキル使用者含む)』
(@_@)<このスキルを含めたフラガラッハの広域呪怨スキルはそれぞれ同時使用は出来ない制限がある
◯ 《
(@_@)<【フラガラッハ】第一のスキルである極振り絶対殺す呪怨デバフ
(@_@)<参照するステータスはこのスキルによる数値低下を除くバフデバフ装備補正含めた現在値で測定
(@_@)<なので他のスキル効果でバフデバフが掛かったり装備を切り替えて補正が変わるとデバフ効果やデバフ対象のステータスが変わる事もある
◯ 《
(@_@)<【フラガラッハ】が第二形態で覚えたスキルで例外的に他の広域デバフスキルとの併用が可能と言うか併用前提の攻撃スキル
(@_@)<条件が【フラガラッハ】に接触している事なので当然手に持っているシュバルツ自身の防御力も発動中は減少している
(@_@)<【フラガラッハ】のスキルは呪怨系スキルなので呪怨耐性で効果を抑える事は出来るが無差別故に並大抵の耐性ではレジスト困難
◯PK達
(@_@)<初心者狩りが潮時だと判断したデデデがPK志望<マスター>を集めて作ったパーティー
(@_@)<偵察能力持ち<エンブリオ>でクエスト後の<マスター>を探して透明化<エンブリオ>を含めた奇襲を狙う戦術だった
(@_@)<戦術は良かったが奇襲がそもそも効かず敵意を向けたら容赦なく反撃する妹がいたせいで壊滅してこの後パーティーも解散した模様
◯妹
(@_@)<本人的にはクラスメイトと一緒にデンドロして楽しかった、シュバルツ君強かったしまた一緒に遊んでもいいかなって思ってる
(@_@)<【ギガース】は既に上級に進化しており物理ステータス補正・装備STR補正上昇とスキルに身代わり効果破壊が追加される強化が成された
(@_@)<自分に敵意や害意を向けてくる相手に対しては例え相手が人間、<マスター>だけでなくティアンであっても一切の容赦をしないタイプ