□王都アルテア・冒険者ギルド前 レント・ウィステリア
「……と、言うわけで、やっと到着しました冒険者ギルド。これぞザ・ファンタジーって感じがするね」
「とりあえず中に入るぞ。公共機関っぽいしあんまり騒がない様にな」
とりあえずマップを頼りに冒険者ギルドへと辿り着いた俺達は中に入ったが、そこは思っていたよりも遥かに綺麗であり現実での市役所などの公的機関を思わせる雰囲気だった。
しかし、中に居る人は鎧などを身に付けている人が多く、彼等の雰囲気や足運びからその殆どが“戦う人間”である事も分かったのでリアルの市役所とは違う事も伺われた。
「冒険者ギルドと言うからには荒くれ者の集まりみたいなのを期待してたけどそうでもないっぽい?」
「ギルドという名の公共機関みたいなもんか。こういう時には受付で話を聞いてみるべきかね」
幸いにも空いている受付があったので俺達はそこに行ってカウンターに座っていた受付嬢さんに話を聞いてみる事にした。
「いらっしゃいませ、ご用件は何でしょうか?」
「あの、俺達は<マスター>なんですが「今日この世界にやって来たばかりで何も分からないのでこの世界やこのギルドやこの国について教えて下さい!」っておいミカ」
そう思っていたらいきなりミカが全部ぶっちゃけた。まあ俺達がほぼ何も知らない事は事実だし、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とも言うが。
まあコイツの事だから“コレが最善手”と判断しての事だろうし、実際に受付嬢さんも少し困惑へしていたが直ぐに何かを考える様な表情になったから悪い事にはならなさそうか。
「成る程、<マスター>ですか。あの“決闘王者”が言っていた通り近くに多くの<マスター>が来訪すると言う話は本当だったと。……分かりました。では、簡単な説明だけをする事も出来ますが、この冒険者ギルドでは初心者用の簡単な訓練や講義、ジョブ適正の審査、初心者用アイテムの配布などを行う初心者講習を一人四千リルで受ける事が出来ますが、どうしますか?」
「四千リルか、手持ちは五千リルあるから受けられるが」
ゲーム序盤として見るなら結構痛い出費であるが、今は何よりこの世界の情報が欲しい身だからな。
「受けてもいいんじゃないでしょうか。私達はまだこの世界について殆ど知りませんしね」
「まずはやっぱり情報だよ。ここでケチっても先に進めないのは見えてる」
「分かりました、初心者講習を受けます」
「……<マスター>なのに余りお金を持って居ないのですね。……皆さま、私から一つ提案があるのですが、初心者講習の費用を無しとする代わりにとあるクエストを受けて貰えないでしょうか?」
ここはケチらずに行く場面だろうという意見は3人で一致したので初心者講習を受ける事にしたが、そこで受付嬢さんからそんな提案を持ちかけられました。
「二千リルを払わなくて済むのなら助かりますが、その“クエスト”の内容はどんなもので?」
「はい、簡単に言うと内容というのは『<マスター>についての情報提供』になります。……今日から多くの<マスター>がこの世界に現れると言うことは聞いていたのですが、<マスター>の事は伝承に語られた情報かこの国に決闘王者である【
そこから彼女が語った<マスター>の情報は聞いたものと殆ど同じ不死である事や、<エンブリオ>に選ばれた者といった内容でした。
「これからこの世界に現れる<マスター>が増えていくとするなら、より詳細で正しい情報を得てた方が良いと私は考えたのでこのクエストを出させて頂きました」
「成る程」
どうやら俺達がデンドロについて色々と手探りなのと同じ程度にこの世界のティアンも<マスター>については詳しくないと。
「俺は受けても構わないと思うが」
「うん、私もこのクエストはなんとなく受けた方が良い気がする」
「兄様と姉様がそう言うなら私も構わないのです」
「ありがとうございます。……申し遅れました、私は王都アルテア冒険者ギルドにおいて受付嬢をしておりますアイラ・ローランと申します。本日はよろしくお願いします」
【クエスト【相談──アイラ・ローラン 難易度:一】が発生しました】
【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】
俺達が彼女──アイラさんからのクエストを受託すると共に、そんなアナウンスが表示されたがこう言うところはゲーム的だな
◇
「……なるほど、やはりこれからこの世界に来る<マスター>は、以前からいた<マスター>とはだいぶ違うようですね」
「そうみたいですね。……と言っても、<マスター>個人個人で価値観や行動パターンも全く違いますから、<マスター>と言う括りで見すぎるのは誤解を生むかもしれません」
「私達を含めて多くの<マスター>達は基本的にこの世界には遊びに来てるからね。まあその辺りは人によって違うだろうけど」
「<マスター>は良くも悪くも“自由”ですから。善行を成す人も、悪逆を成す人も、これからはそれぞれ現れると思うのです」
あれから俺達はアイラさんに案内された冒険者ギルドの一室で<マスター>と言う存在について可能な限りの事を話した。まあミカが『と言う訳で説明はお兄ちゃんに任せた!』と言ってきたので殆ど俺が説明したが。
まあ、この世界が<マスター>の中ではゲームとして扱われているとかはぼかして話したが、俺達が今持っている知識や所持金やこの世界には招かれて来た事などは説明した
「<マスター>がこちら側に居られる時間が限られている以上、長時間の護衛依頼などは難しいですか。ギルドとしては<マスター>が受けやすい依頼を纏めておいた方が良いかもしれませんね」
「<マスター>は不死身だから命の危険もある程度は気にしないだろうし、どちらかと言うと時間単位での報酬が良いクエストは人気になりやすいでしょう」
「<マスター>同士での争いにティアンは基本介入しないってのも初めて聞いたよ。コレならPKとかやりたい放題じゃない?」
「ティアンに危害を加えればキルされた後で<監獄>と呼ばれる場所に落とされるらしいですが、つまりキルされなければ良いともいえます」
この世界で生きるティアンの視点から語られるアイラさんの話は常識的な話しかしていないらしいがかなり参考になった。と言うかヘルプや取説では分からん部分が多過ぎるぞ。
ひょっとしてこの<Infinite Dendrogram>は夢のVRMMOに見えて結構ゲームバランス悪くないか? まあユニーク要素を全面に押し出してるなら当然ゲームバランスは悪くなるだろうが。
「……皆さま、今回は貴重なご意見を聞かせて下さって誠にありがとうございました。今回の意見は冒険者ギルドの<マスター>に対する姿勢の良い参考になると思います」
「いえ、こちらこそ色々な話を教えてくれて感謝しています。中には、詳しく知らなかったなら致命的な情報もありましたし」
「ジョブとか<
「この世界の一般常識が知れたのが一番大きいと思うのです」
本当にな。この調子だと暫くは<マスター>達は手探りでデンドロをプレイせざるを得ないだろう。
「それではお約束通りにクエストの報酬として初心者講習を始めさせて頂きます。これから冒険者に必要な各種知識の講義を行った後、貴方達が初めて就くジョブ選択の手伝いと簡単と戦闘指導、最後に初心者用アイテムの配布になります。配布されるアイテムはクエスト報酬分も含めて多少色を付けさせて貰います」
「何から何までありがとうございます」
そう言いながら改めてこちらへ向き直ったアイラさんは左手人差し指に付いている指輪から十冊近くある分厚い資料を取り出して机の上にドン!と置いた。
……どうやら、あの指輪が【アイテムボックス】の様だけどその分厚い資料は一体?
「まず皆さんには手始めに各種基本的なジョブの情報や王都周辺含めた王国に分布するモンスターの情報、王都周辺の地形情報や各貴族・王族についての簡単な情報などを纏めたこの資料を
「「……え?」」
アイラさんは笑顔だったが有無を言わさぬ様な気迫を込めてそういいながら俺達に分厚い資料を手渡して来た。ちなみに俺はちょっと多めだなぐらいしか思わなかったが、ミカとミュウちゃんは資料を見て顔を引き攣らせていた。
「余り時間もないので
「俺達は<マスター>だからこの世界では死なないが、それでも知識は基本的にあるに越した事はないだろう」
「いやちょっと多過ぎる気が……」
「ご心配なく、これでも私の今のメインジョブは教師系統上級職【
「そうではなく資料の量……いえ何でもないのです……」
そんな妹2人の言葉はアイラさんの圧がある笑顔によって封じられてしまったとさ。まあこのぐらいの量なら2、3時間もあれば覚えられるだろうから問題はないだろう。軽く見たがかなり分かりやすく纏められているし。
……後日聞いた話だが、この冒険者ギルドの初心者講習はアイラさんが提案して実施させたものらしく、そんな彼女の講習は『冒険者を死なせない為』と言う理由で超絶スパルタ指導なので、本人が美人故に初恋泥棒な事と合わせて二重の意味で“冒険初心者キラー”と呼ばれているとかいないとか。
◇
「……おお、レントさん小テスト満点ですよ。ミカさんとミュウさんも合格点ですし、3人とも一般知識がほぼ皆無だったとは思えません」
「アイラさんが纏めた資料は分かりやすく、授業も聞きやすかったのでこのぐらいなら」
そんな訳で数時間後、一通りの初心者用講義を終えた俺達はアルター王国で冒険者をやって行く最低限の知識を身に付けたのだった。色々な情報が手に入ったから実に有意義な講義だったな。
「ウボァ……何で
「ぐふ……疲れたのですぅ……」
尚、妹2人はテストが終わった時点で机に突っ伏した。両者共に地頭は悪くないから講習内容を確認するテストで合格点を出してるんだけどな。
「私達はお兄ちゃん程に頭良くないんだよ。そりゃあ“一族”式学習法や記憶術は収めてるから学校の成績はいい方だけど」
「全方面で天才な兄様と頭で比べないで下さい」
「俺より頭が良いやつとか結構普通にいるんだがな」
「皆さんテストでは合格点だったのでこれで講義は終わりです。次はジョブに就いて貰います。この【適職診断カタログ】をお貸ししますので参考にしてして下さい。このカタログには現在確認されているジョブの情報が載っており、更に質問を通じて今就けるジョブに中で一番合っているジョブを探す事が出来ます。……まあ質問に関しては個人のジョブ適正は考慮していませんが、万能の適正がある<マスター>である皆さんなら参考に出来るでしょう」
そう言いながらアイラさんは一冊の本を手渡して来た。<マスター>はジョブ適正があるがティアンは付けるジョブに個人の適正が関係するんだったな、さっきのアイラゼミでやった所だ。
「しかしジョブ適正を考慮してないとか露骨に<マスター>用のアイテムだな」
「このアイテムを創り出したのはアイテム・キャットと言う<マスター>だと言われているので、元から<マスター>が使う事が前提なのでしょう」
「出たキャット一族。今まで現れた<マスター>の九割がコイツらという噂の」
「今の王国の決闘王者もトム・キャットと言う人物で数年前から活動してるとか」
デンドロサービス前からいる<マスター>って事はβテスターか運営側って事だろうが、とりあえず今は最初に着くジョブを決めて……うん? なんか左手の第0形態<エンブリオ>が光始めたんだが。
「お兄ちゃんなんか光ってるよ。バ◯ス!」
「そこまで光ってないだろう。多分、これは<エンブリオ>の孵化の合図じゃないか。……爆発とかはしないよな?」
「分からないので一応離れておきましょうか」
そう言って3人とも部屋の隅に避難してしまった。何せ<エンブリオ>の孵化に関する情報は俺らにも一切なく、ティアンであるアイラさんも当然さっぱり分からないそうだから念には念をって感じだ。
それで俺の<エンブリオ>の卵は暫くしたら光が消え、卵があった左手の甲には“光り輝く人”の紋章が浮かんでいた。
「どうやら俺の<エンブリオ>は孵化したらしいが何もないな」
「まさかハズレ枠!」
「とりあえずステータスを見れば良いのではないでしょうか?」
「それもそうか」
そうしてステータスウィンドウを開くと確かに<エンブリオ>の項目が追加されていて、そこには【才器煥発 ルー】と言う名前とステータス補正、そして保有スキルが載っていた。
【才器煥発 ルー】
TYPE:テリトリー
到達形態:Ⅰ
ステータス補正
HP補正:F
MP補正:F
SP補正:F
STR補正:F
AGI補正:F
END補正:F
DEX補正:F
LUC補正:F
『保有スキル』
《
クエストを達成した時に経験値を獲得する。
経験値獲得量はクエスト内容及びスキルレベルで決定。
パッシブスキル。
《
レベルが最大である下級職・上級職のサブジョブのスキルをメインジョブの系統に関係なく使用出来る。
レベルが最大である下級職・上級職のジョブクエスト達成時、経験値をメインジョブに関係なく取得出来る。
使用可能スキルはジョブ毎にオンオフ可能。
パッシブスキル。
「どうもTYPE:テリトリーだったから一見何もない様に見えたみたいだな。……しかし【ルー】、ケルト神話の『光』と『
デンドロのジョブ枠は<マスター>は全員合計レベル500まで枠があるがティアンは個人の才能次第ではジョブ枠がそれより少ない、むしろ500までのジョブ枠がある人が天才と呼ばれる。つまりこの世界ではジョブ枠やレベルこそが人の才能として象徴的な部分と言える。
故に才能がありながら
「《諸芸の達人》は俺が“やりたい事”を探す為に色々とやろうとしている部分を汲んだのか? ……ログインしてからその辺りの事は話さなかった筈だが、<エンブリオ>が<マスター>の内面を読んで発現してるのは本当みたいだな」
「何ブツブツ言ってるのお兄ちゃん。それでどんな<エンブリオ>だったの?」
「ああ済まん。……まあ《光り輝く経験》の方はレベルが上がりやすくなるのは悪くはないが、《諸芸の達人》の方はまだジョブに就いていない今は役に立たんな」
「もっと<エンブリオ>は武器とか強力なスキルとか出るものだと思ってましたのです。まあ兄様ならこれでも十分だからそうなったのかもしれません」
とりあえずあまり意味がない思考をカットしてミカ達に【ルー】の能力について説明してから再びジョブ選びに戻った。どうあれ【ルー】はジョブを補助する<エンブリオ>みたいだからジョブ選びは重要になるだろうし。
「よし、俺はこの【
「傭兵系統は物理戦闘型下級職で弓の様な遠距離武器も扱えて、前衛ジョブとしてはステータスは低いですが戦闘系クエストを受ける際に補正が掛かるのが特長のジョブです」
「アイラさんの講義でスキルにクエスト受注中の戦闘時にステータス補正が掛かる《傭兵の心得》やクエスト中の戦闘行為で獲得する経験値量を増やす《傭兵の経験》もあると言っていたので」
クエストが達成しやすくなるなら《光り輝く経験》を相性がいいだろうし、さっさとジョブを一個でもカンストさせないと《諸芸の達人》が腐る獲得経験値増加はありがたいと【ルー】とは中々のシナジーがあるんじゃないだろうか。
そんな風に俺はさっさとジョブを決めたがまだ<エンブリオ>が目覚めていない妹2人は結構悩んでいる様だ。
「うーん、どうしようかなー。お兄ちゃんは<エンブリオ>が早く目覚めていいよねー」
「悩みますね」
「とりあえずどんな風にデンドロをプレイしたいかで決めればいいんじゃないか。戦闘する予定ならどういう風に戦うかで。どうせ一度ジョブに就いても後で別のジョブに取り直す事が出来るのだし」
「そうだねー、それが無難かな。戦いなら前衛でパワー重視で行きたい気分だし……」
「武器は余り使いたくないですので格闘系で行きましょうか。母様直伝の樹廻流のお陰で格闘が一番慣れてますから」
暫く考えた後でミカは無難に前衛オールラウンダージョブの【
運良く冒険者ギルドに設置されている【ジョブクリスタル】でこれらのジョブには転職可能だったので、すぐにそれぞれのジョブに転職した俺達はアイラさんに案内されてギルドに設置された戦闘訓練場に足を運んでいた。
「それでは最後に簡単な実戦訓練を行います。まずは私とパーティーを組んで下さい。【教導者】には自分よりもレベルが低いパーティーメンバーに獲得経験値の上昇補正を掛ける《教導》スキルがありますので」
「よし、ようやく身体を動かす訓練に入った!」
「こっちの方が得意です」
「本来なら私が戦闘技術を指導する予定でしたが、皆さんへ既に相応の戦闘技術を持っていらっしゃる様ですので省きます」
妹2人は勉強から解放されて喜んでいるが基本的にスパルタなアイラさんの事だからかなり厳しい内容だと思うし、俺らの技量を見ただけで見破ってるし、そもそも立ち振る舞いが戦う者のソレだから彼女は相当な実力者だろう。
「まあ一応実家の方で三人共武術の訓練は受けてます。<マスター>としては珍しい方ではあると思いますが」
「多分アイラさんの動き方を見た限り少なくともギルドの中で一番強いと思いますよ兄様」
「只者じゃない雰囲気があるよね」
「これでも
アイラさんから手渡されたのは【スティールソード】と言う両刃の片手剣だった。使われた痕があるので中古品なんだろうが初期装備の木刀よりは遥かにマシだな。
同じ様にミカには初期武器の棍棒の代わりに【スティールメイス】、ミュウちゃんには同じく杖の代わりに拳闘を補助する【ボクサーグローブ】が渡されたのでそれぞれ装備する。
「そして実践訓練の相手はコイツらです。《
そうしてアイラさんは右手の甲に付けられた宝石──テイムモンスターなどを格納する【ジュエル】から3体の人型モンスターを呼び出した。それらのモンスターはのっぺりってしたマネキンの様な風体だったが、それぞれ剣や槍や斧や弓などの複数の武器を身に付けていた。
「これらは主に初心者【
『『『GUAAAAAA』』』
それだけ言ったアイラさんは素早く壁際に退避すると同時に3体のホムンクルスはそれぞれ武器を持って近くにいる俺達に襲いかかって来た。やっぱアイラさんスパルタだな!?
「……ジョブとやらの力を試すには丁度いいか。それぞれ一対一で練習するぞ」
「オッケー、まあそこまで危険な感じはしないし大丈夫でしょ」
「分かりましたのです」
まあ、この程度の相手ならリアルの生身でもどうにか出来そうだし、妹2人も心配する必要はなさそうだから色々と試しますか。
◇◇◇
□冒険者ギルド・訓練場
(さて、<マスター>側の話を色々聞けて収穫は大きかったですが、やはり今後現れる<マスター>はあの
壁際に退避する事で近くにいるレベルの低い相手を狙う設定になっていたホムンクルスをレント達に押し付けたアイラは、彼等の戦いぶりを観察しながら思考に耽っていた。
ちなみにこの辺りの設定はパーティーを組んだ指南役が初心者の戦闘を監督する為のものであり、一応アイラも万が一の事があれば
(まあ心配する必要はないでしょうが……あの3人の戦闘技術は並の冒険者ティアンより上みたいですし)
その思考通り彼女の目の前では三体のホムンクルスがそれぞれ別の<マスター>に攻撃を仕掛け、それが完全に捌かれて更には反撃までされている光景が広がっていたのだから。
「ふむ、レベル1でも全体的に身体能力は向上していると。その割に違和感がほぼない辺りセンススキルとやらの効果か? 或いは“ステータス”って呼ばれる概念が……」
『GUA!?』
まずレントは剣を持ったホムンクルスと斬り合いをしていたが、彼は振り下ろされたホムンクルスの剣に自分の剣を合わせて受け流しながら反撃で僅かな切り傷を付けていた。
恐らくやろうと思えば最初の交錯ですぐにホムンクルスの首を刎ねる事も出来たのだろうが、意図的に戦闘を長引かせてジョブに就いた肉体を確かめているのだろうとアイラは見た。
「よしよし“直感”による先読みは機能してるね。早く私の<エンブリオ>も孵化しないかなー」
『GUU!』
次にミカは弓を持ったホムンクルスが射掛ける矢をメイスで弾きながら自分の左手の甲を見ていた。それを隙と捉えたホムンクルスが矢を射るが、彼女はそちらを見る事なく矢の射線上にメイスを置いて防いでしまう。
戦闘技術は他の2人には劣るものの相手の攻撃を先読みする事に関しては上回る、どころか他の2人に向かうレベル1の人間より遥かに早い矢を重いメイスで防いでいる辺り事前に矢が撃たれる方向やタイミングを完全に把握しているとしか思えないとアイラは考えた。
『GAA!』
「あくまでパターン通りの動きしか出来ない様ですね。
そしてミュウは向かってくる槍を持ったホムンクルスに対して自らも前に出て頭部目掛けて突き込まれる刺突を回避、同時に小柄な体型を活かして懐に潜り込みながら身体全体で螺旋を描く様な掌底を腹部に叩き込んだ。
ホムンクルスも直ぐに槍を捨てて短剣に持ち替えて振るうがミュウはそれも回避しながら手首を掴み、瞬時に捻り上げつつ一本背負いで投げ飛ばすて地面に叩き付けた。
(ホムンクルスのステータスはレベル一桁程度ですが、技術を教える為に武術系のセンススキルはそこそこ高いレベルなんですがね。まあセンススキル以上の技術を持っていればこうなるのは当然ですけど)
「やはり格闘するなら手足は長い方がいいですね」
「そうだね、リアルでもこのぐらい成長してくれれば良いんだけど……お?」
そうして彼等が戦っていると突如としてミカの左手が光り始めたが、流石に2回目なので何が起きるのかが分かっていた事もあってミカは矢を弾きながら様子を見ていた。
そして光が収まるとミカの両腕の肩から手までが暗い灰色に染まり、質感や形状も生身の腕とは違う何処か禍々しいデザインの“義手”へと変化していた。
「コレって義手? <エンブリオ>ってこんなのにもなるのか……おっと」
『GI?GOGAAA!!?』
別物に変わった自分の手を見ているミカに矢が切れたから剣を持ってホムンクルスが斬りかかったが、彼女はそちらを見る事もなく斬撃を回避するすると同時にメイスをホムンクルスの土手っ腹に叩き込んで粉砕しながら訓練場の壁まで吹き飛ばしてしまった。
その一撃でHPがゼロになったホムンクルスは光の塵となり、ミカは初めて見るこの世界のモンスターの死に方と自分の<エンブリオ>を見比べて興味深い顔をしていた。
「おお! この義手凄いパワーだね! 流石は私の<エンブリオ>!」
「ミカはもう片付いたか。ならこっちも終わらせるか」
『GIA!?』
「はいなのです。
『GOIA!?』
それを見たレントは武器を斧に持ち替えて振り下ろしたホムンクルスに対して剣を斧の側面に当ててその軌道を逸らし、返す刀で重い武器を振り終わって隙だらけのホムンクルスの首を跳ね飛ばした。
同時にミュウは身体全体を回転させてのローキックでホムンクルスの膝を破壊し、倒れた相手の首へと拳を振り下ろして骨をへし折り絶命させてしまう。
「見た目はマネキンだが身体構造は人間と変わらんと、首を斬るか折るかすれば死ぬな」
「そうですね。それより姉様の<エンブリオ>はその腕ですか」
「そうみたい。えーっと名前は【破壊戦腕 ギガース】でスキルは《
「それだけ補正があればホムンクルスが吹き飛ぶのも当然ですね。STR特化下級職の【
そうして訓練を終えた三兄妹にアイラは初心者用講義の最後に渡すアイテムと『<マスター>の情報を提供する』クエストの報酬を取り出した。
「そちらの武器は先も言った通りそのまま渡します。そしてこっちが初心者講習の報酬である低級ポーションの詰め合わせ。そしてクエスト報酬として1人頭3万リルお渡しします」
「え? 少し話しただけでいきなりこんな大金!?」
「あのホムンクルスもタダじゃないでしょうし、ここまで貰っていいんですかね?」
「ホムンクルス倒したらレベルも上がりましたし、講習代もタダにして貰ってますし」
「私のポケットマネーですから問題はありません、ホムンクルスも初心者講習用の備品ですし。それに皆さんの話は私や冒険者ギルドにとってはそれだけの価値がある話だと思っているので色を付けました」
【クエスト【相談──アイラ・ローラン 難易度:一】を達成しました】
思った以上の大金を貰ってクエスト完了の報告が出て喜ぶよりも前にも困惑する三兄妹だったが、アイラとしてはこの程度なら自分にとっては端金であり<マスター>がこれから増えるなら今の段階でこれだけの情報を得られたのは大きいと判断していた。
「初めて冒険者ギルドに情報を聞きに来た<マスター>が貴方達で本当に良かったと思っていますよ。今後も他の<マスター>に話を聞く機会を設けた方が良さそうだと分かりましたし」
「私達は<マスター>の中でも少数派と言うか外れ値よりだと思いますのです。実際遊び感覚で来ている<マスター>が大半ですからあの講習を受けるかは分かりませんのです」
「講義に時間取られるのは面倒って思う人もいるだろうしね。まあアイラさん美人だから講習受けたいって人も出るかもしれないけど」
「この世界の常識を簡単に分かる媒体があれば<マスター>とティアンの間で常識を知らない事で起きるトラブルは減らせるかもしれません。無料冊子とか」
「なるほど 後での書記系統のジョブを持っている職員に相談してみましょう。冒険者ギルドには初心者用討伐クエストもありますので王都周辺でレベルを上げるなら御利用下さい」
まあ三兄妹に便宜を図っているのは冒険者ギルドってして有望な<マスター>と繋がりを持った方が良いという打算もあるが、その辺りは当然の事だと三兄妹も分かっているので終始和やかな雰囲気で彼らのデンドロ初クエストは終わったのだった。
「それと冒険者ギルドの近くには<マリィの雑貨屋>という初心者用の中古装備が売っているお店があるので装備を整える事をオススメします。私の母が開いている店なので値段も良心的ですよ。母の趣味で色々と掘り出し物もありますし」
「何から何までありがとうございます」
「構いませんよ、身内の店の宣伝も兼ねてますしね」
そんな台詞を言いながら茶目っ気のある笑顔を浮かべたアイラを見て、三兄妹は『このギャップを見せる美人とか人気になるだろうなぁ』と内心で思うのだった。
◯【才器煥発 ルー】
(@_@)<《光り輝く経験》はジョブクエスト・突発クエスト・冒険者ギルドのクエストなど“クエスト”と名の着く依頼を達成すれば発動
(@_@)<クエスト達成が条件なのは自分の才覚を他者に認められたいと思う内面が反映されていると兄は考えてる
(@_@)<兄の才能が足りず“一族”に認められなかったと思っている事とその才能で成したい事が分からない事への不満を読み取って発現された
(@_@)<故に能力特性はデンドロ世界の“才能”の象徴であるジョブに関する補助・拡張を行う“ジョブ運用補助”となった
(@_@)<能力に文句はないがモチーフと特性が自分の内面を全力で曝け出してるなぁと兄は思ってる模様
◯【破壊戦腕 ギガース】
(@_@)<妹の<エンブリオ>であり腕部を置換した義手型のTYPE:アームズで紋章は“何かを壊す腕”
(@_@)<《神意を砕く巨人の腕》は<エンブリオ>本体及び装備中の武器による直接攻撃が防御スキルを無効化するパッシブスキル
(@_@)<武器攻撃は装備していて義手に持っている武器による攻撃のみが対象で弓や銃や投擲などは効果範囲外
(@_@)<どの程度までの防御スキルを無効化出来るかは効果発揮時の攻撃力と<エンブリオ>の到達形態で決まる
(@_@)<展開中は籠手部分の装備枠を使い義手をしまって普通の腕にする事も可能なタイプの置換型
(@_@)<装備補正はSTR特化で<エンブリオ>なので生身と同じステータスはあり普通の腕よりも頑丈だが装備防御力補正は低め
(@_@)<ステータス補正はHP・STR・AGI・ENDの物理ステータスが高いがそれ以外はGと最低値
(@_@)<モチーフのギガースはギリシャ神話で神々と争った巨人の名前であり能力特性は“力による
(@_@)<“直感”で理不尽な未来が見えても何も出来ない無力な自分への不満と力への渇望が根底にある<エンブリオ>
(@_@)<ちなみに防御スキル効果の破壊が特性なのはデンドロで最も理不尽なのが“それ”だと妹が“直感”で感じ取って【ギガース】が汲み取ったから
◯末妹
(@_@)<自分の<エンブリオ>がまだ孵化しない事にちょっと不満
(@_@)<僧兵系統は原作だと土下座スキルしか出て来ないのでRPG的モンクを参考に回復自己バフ殴り系のジョブと定義します
◯アイラ・ローラン
(@_@)<ラノベでいそうな実はめっちゃ強い系ギルド職員的なキャラ
(@_@)<元冒険者で決闘ランカーという事で実は有名人でありファンも多い
(@_@)<元決闘ランカーなので<マスター>関連の情報は面識があるトムから聞かされていた(デンドロ発売時の布石の一環)
(@_@)<ギルドの初心者講習とかは彼女が提案して実装したものでありスパルタ指導含めて“出来るだけ冒険者が死なない様にする”為
(@_@)<その為にサブジョブを教師系統に変更までしているが詳しい事情は追々
(@_@)<見た目は銀髪金眼の美人であるが実は30代なのに20代にしか見えないぐらい若々しい