天災三兄妹のデンドロ日和   作:貴司崎

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第六話 スタートダッシュ

 □<イースター平原> 【僧兵(モンク)】ミュウ・ウィステリア

 

【<Infinite Dendrogram>リリース一週間記念スタートダッシュキャンペーン開催中!】

【各国のスタート地点周辺にいるイベントモンスターを倒して経験値と景品交換用アイテムをゲットしよう】

【イベントモンスター中にはレアアイテムを落とす強力なボスも?】

 

 そんな事がリアルのデンドロ公式サイトや公式動画によって宣伝されたのが今日の話であり、既に夏休みに入っていたし折角のイベントという事で私も兄様や姉様と一緒にイベントに参加すべくログインしました。

 

「ヒャッハー! イベントモンスター狩り放題だぁ!」「経験値おいちい!」「アイテムは【スタートダッシュメダル】か」「とりあえず交換アイテムの為にイベントモンスター周回だな」「200体も狩れば集まるか?」「テメェ何フレンドリーファイアしてんだ!」「うるせぇ! 俺のイベントモンスターだぞ!」「お前らをやればメダルも総取りだろぉ!」「やんのかゴラァ!」「アハハハハ! イベントオイシイ! ケイケンチオイシイ!」「周回周回周回周回周回周回周回」「周回イベントに人間性なぞ不要。ただひたすらに狩るのみ」「もうイベントモンスターいないんだけど!?」「殺したかっただけで死んで欲しくなかったのに!?」

 

 そうしてログインした私達が見たのは王都周辺に溢れかえるイベント参加目的の<マスター>によって、ポップしたイベントモンスターが片っ端から狩り取られる光景でした。

 ちなみに上記のセリフは一部印象深いものを抜粋しただけなので<マスター>が全員こんな感じではありませんが、それもあって私達は王都周辺は人が多過ぎるのでボスモンスター狙いで離れた狩場に移動する事にしました。

 

「うーん、ネトゲやソシャゲのイベント光景はいつの時代もそんなに変わらないね」

「人間の業というヤツですね」

「人間怖いなー」

「人の欲望には限りがないからな。これで初期地点周辺のモンスター減少に歯止めが掛かればいいんだがな。運営的にもそこが狙いな部分もあるかもしれない」

 

 <マスター>の急速増加によって初心者狩場のモンスターが激減し、モンスターの生態系の異常が起きてると言う話ですか。姉様が王都近辺で亜竜級や純竜級モンスターと遭遇したとも聞きましたが。

 デンドロでは今回の様な運営主体イベントを除いてモンスターはポップするとかではなくちゃんと生態系を作っているだろうと兄様は言ってますし、ティアンの人達に話を聞けばそれが間違いない事が分かります。

 

「イベントならそっちのモンスターを狩るのを<マスター>は優先するし、それでレベルが上がれば初心者狩場よりも効率のいい上級者向け狩場に行くだろう。……って感じかな?」

「それが理想ではあるだろうな。まあ下級のモンスターの繁殖力は凄まじいらしいからデンドロリリースから暫く経てば初心者狩場のモンスター減少も落ち着くと思うが。初心者狩場での狩りが効率悪くなったらジョブクエストで経験値を稼げばいいだけだしな」

「ですね。私も新しく【司祭(プリースト)】のジョブに就いてそっちをメインに教会でジョブクエストを受けましたから」

「MPが伸びたから僕のスキルも大分使いやすくなったよ」

 

 司祭系統のクエストは王国の国教が行う司祭系統ジョブによる医療行為が主なクエスト内容なので、より回復魔法に特化した【司祭】の方が色々とやりやすかったんですよね。【僧兵】も回復魔法は使えますが少しクセがあるので。

 同じ系統故にサブに回しても【司祭】のスキルは使えますし、レベルアップ時のステータスが【僧兵】よりMPが上がりやすいので燃費が悪いミメのスキルも使いやすくなるので戦闘では【僧兵】、ジョブクエストでは【司祭】をメインにしてレベル上げをしてます。

 

「国教の人達は皆さんとても良い人達で、教義もジョブの力でみんなを助けようという穏やかなものでしたから楽しくジョブクエストをやれました。それと私と同じメイデンの<マスター>にも出会いましたよ」

「“扶桑月夜”って<マスター>と“カグヤ”ってメイデン。メイデン同士で同じクエストを受けて少し話した程度だったけどね」

「ああ、メイデンの<マスター>といえば私も“フォルテスラ“さんに会ったよ。ティアンのエーリカさんとラブコメしてた所をモンスターに襲われてたから助けたらお礼言われた。“ネイリング”ってメイデンを連れてて私がソロで動いている時にパーティー組んで狩りもしたよ」

「俺も“シュバルツ・ブラック”と言うメイデンの<マスター>に会ったな。何でも初心者狩りPKの被害に遭ったって言ってたから、割のいい魔術師ギルドのクエストを紹介してやった。メイデン持ってるなら最低限信用出来そうだったし」

 

 割とメイデンの<マスター>って多いですね。レアカテゴリーって話でしたがデンドロ自体にログインした<マスター>の数を考えればそれなりの数が居てもおかしくありませんか。

 

「<エンブリオ>と言えば私の【ギガース】は第三形態に進化したよ。まあ物理ステータスの補正が増えてSTRの装備補正が+1200になって《神意砕く巨人の腕(ディバイン・ブレイカー)》のスキルレベルが3になっただけだけど」

「俺の【ルー】も第三形態にはなったな。ステ補正が多少増えて《光り輝く経験(リワード・マイセルフ)》のレベルが3になったぐらいだ。【傭兵(マーセナリー)】をカンストしたから、漸く《諸芸の達人(スキル・マスタリー)》を活用出来る様にもなったが」

「私は第三形態に進化した時に新スキルを覚えました。……ただ、燃費は良くても発動条件が難しいスキルなので使い方は考える必要がありますが」 

「ごめんねー使い難いスキルで。まあ相手次第では高い攻撃力を期待出来るし、何よりミュウなら使いこなせるでしょ?」

 

 多分戦ってる時に『もっと燃費の良いスキルか素手の攻撃力を補うスキルが生えると良い』と思っていた私の考えが反映されたスキルっぽいので文句はないですけど。

 後は第三形態になって《オーバーライト・アビリティ》で選べるステータスが4つに増えて、ステータス補正はMPだけがCまで上がりましたが。まあMP以外のステータス補正は飾りなので良いんですが。

 

「新スキルはちょっと羨ましいね、私はなんかこう単機能特化みたいな気配がする。後もっとパワーが欲しいよね。亜竜級や純竜級だとまだまだパワーが足りないから」

「その辺りはミカは新しいスキルを欲していないから<エンブリオ>がそれを汲み取っているんじゃないか? 大体今の能力と自前の技術で何とかなっていると言うか、パワーを求める要望には全力で応えてるし」

「お兄ちゃんの場合ジョブを増やして手札を増やすタイプだから<エンブリオ>もそれに応えてるのかね。そう言えば意思がある<エンブリオ>であるミメちゃんは狙った能力に進化するとか出来ないの?」

「僕ら<エンブリオ>はマスターのパーソナルに従って能力を得るから、明確に僕自身の意思でどうこうってのは無理だと思う。なるべくミュウの要望は叶えたいとは思ってるけど進化自体は自動とか無意識でやってるみたいな?」

「確かに新スキルは【僧兵】にも合った力ですが」

 

 新スキルは発動条件に『両手武器枠に武器を装備していない』を要求するので、同じ条件で発動出来るスキルを覚える【僧兵】に就いて素手で戦う私に合わせたスキルなのでしょうが、やっぱり武器持たない素手って攻撃力低いんですよね。

 僧兵系統のスキルは両手武器枠が空いてる時に使用可能なものが多く、そう言った素手条件スキルは効果倍率が高かったりもしますが基本武器持った方が攻撃力は高いのです。今は打撃威力を上げる装備スキル持ちの【レッド・セスタス】と言う鋲付き布の籠手装備で補ってますけど。

 ……或いは私の“武器に対する若干の嫌悪感”が出ているスキルな気もしますが、そこは考え過ぎない様にしています。

 

「【僧兵】のジョブはミメとも相性がいいので悪くはないですが、やっぱり今はMPの問題で亜竜級相手だと長期戦出来ないんですよね。籠手装備以外はMPが上がる装備を付けて補ってますけど」

「亜竜と戦えない事はないけどもう出来れば少しレベルが欲しいよね。ジョブレベルと言えばお兄ちゃんだけど」

「さっきも言ったが【傭兵】はカンストして、今は【魔術師(メイジ)】がメインジョブだがジョブクエストを色々と受けたお陰でカンスト寸前だ。他の【司祭】【付与術師(エンチャンター)】【呪術師(ソーサラー)】は就いてスキルを少し使っただけだからほぼ初期レベルだな。後【魔石職人(ジェム・マイスター)】は【ジェム】作りのジョブクエストが金策に丁度いいからレベルもそこそこ上がった」

 

 本当に兄様はレベル上げが早くて羨ましいですね、早期に下級職のジョブを全部埋めるのも兄様なら取り直しも難しくないので問題ないですし。

 本人は『最大レベル500という頭打ちが見えてる状況だと獲得経験値上昇はそこまで強いスキルでもない。これが他人にも適応出来るなら違うんだろうが多分【ルー】はそういう方向に進化はしない』と言ってましたが。

 

「ジョブ的には私が前衛、お兄ちゃんが後衛魔法職でミュウちゃんが回復役って感じだね。まあ2人とも必要なら前衛をやるけど」

「ですねー。……大分歩いたお陰で他の<マスター>は余り見なくなりましたね。王都近辺とは偉い違いです」

「イベントモンスター周回するなら街周辺の方が楽ではあるからな。後はこの<フォスタ森林>ぐらいで戦える<マスター>はまだ少ないしだろうな。折角のイベントをデスペナで潰したくないだろう」

 

 この<フォスタ森林>は<イースター平原>の先にある森林地帯の一つであり初心者狩場と比べてもレベルの高いモンスター、最大で亜竜級のモンスターまでもが住む場所なのです。

 経験値もアイテムも初心者狩場よりも美味しいのですが、それに味を占めた<マスター>が深入りして亜竜級モンスターと遭遇してデスペナする事もあるぐらいの難易度の狩場になります。

 

「先に進みすぎて亜竜級モンスターと戦って負けたとか、亜竜級を倒して【宝櫃】ゲットとかネット上でも“亜竜級の洗礼”とか“亜竜を倒せるかが初心者と中級者を分ける壁”とか言われてるな」

「私達もこの<フォスタ森林>で亜竜級は倒してるから中級者<マスター>なのかな?……うん、何か来るよ」

「ミメ、戦闘形態を」

「承知したマスター」

 

 姉様が何かを感じ取ったので私は即座にミメをテリトリー形態に変えて周囲を警戒します。王都近辺のモンスターならステータスを上書きする必要が余りないのもあってメイデン体のミメと戦ってもいいんですが、強敵相手なら固有スキルが必要ですし。

 しかし私と兄様で周囲を確認しますがモンスターの影はなく、だとするなら“見えない場所”から来る可能性を考慮した兄様が上に意識を向けたので、私は下に意識を向けます。

 

「うん、多分下から何か来るよ」

「地面が僅かに振動してますね、何かが地面の中を掘り進んでるのでしょうか。……あ、《殺気感知》にも反応ありましたね」

「こっちを狙って来たか。……来るぞ」

 

 兄様の声と同時に私達はその場を三方に飛び退き、その直後に地面が破裂して地中より全長10メートル以上で硬そうな甲殻を持つ巨大な百足の様なモンスターが姿を表しました。

 その頭上には【スタートダッシュ・アーマードワーム】という文字が浮かんでいたので、狙い通りにイベントボスモンスターと遭遇出来たみたいです。

 

『KISYAAAAAAAAA!!!』

「いきなり狙いのイベントボスと遭遇出来るとは運がいいね!」

「魔蟲系のモンスターか、見た目と名前通りに固そうだな」

「久しぶりのパーティーボス戦なので張り切っていくのです」

『スキル発動の準備はいつでもオッケーだよ』

 

 最近はミメと一緒にジョブクエストばかりで兄様姉様とパーティーを組むのも久しぶり(デンドロ内の3倍時間計算)なので楽しみです。相手は強そうなモンスターなので頑張りましょう。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □■<フォスタ森林>

 

 今回管理AIが企画した“スタートダッシュキャンペーン”用のモンスター【スタートダッシュ】モンスターには様々な種類があるが、ドロップアイテムの特殊処理や獲得経験値の若干量上昇、<マスター>を識別して自衛以外は<マスター>のみと戦う刷り込みなど共通の仕組みが存在している。

 これらはイベント進行の為の処理ではあるが、他にもモンスター担当の管理AIによって【スタートダッシュ】シリーズには共通のスキル《スタートダッシュ》が与えられている。

 

『KISYAAAAAAAAAaaaaa!!!』

「げっ、思ったよりも速い!?」

「ネットデモイベントモンスターは妙に速いって言ってたが、何かのスキルか」

 

 その効果は戦闘開始時にスキルレベル×100の数値だけAGIを上昇させる事であり、名前の通りに“スタートダッシュ”を切るスキルだがAGIバフ数値は戦闘継続時間1秒毎に10下がる制限も付いている。

 そして普通のイベントモンスターはスキルレベルが1〜2程度と低くAGIも多少早くなったぐらいにしか感じないが、ボスモンスターに関してはスキルレベルが10固定で戦闘開始と共にAGIが1000上昇する。

 つまり装甲(アーマード)の名の通りENDが高くAGIが低い【スタートダッシュ・アーマードワーム】も戦闘開始時だけは亜竜の平均程度の速度を出す事が出来るという意味である。

 

「ミメ、STRとAGI対象。足りますか?」

『僕のMPを合わせればどうにかね。《オーバーライト・アビリティ》STR1553・AGI1649!』

「2分も持てば十分です。《剛健の構え》《疾風の構え》」

 

 それに対して動いたのは【アーマードワーム】が出て《スタートダッシュ》を起動させた瞬間にそのSTRとAGIを上書きしたミュウであり、彼女は同時に【僧兵】の自己バフスキルで上書きステータスを引き上げる。

 これまででMP上昇系防具を買い揃えた彼女であれば亜竜級相手でも最初のコストを支払いながら自己バフを掛ける事は辛うじて可能であり、その卓越した戦闘センスで【アーマードワーム】の動きを見切って接近しながら甲殻の隙間を狙って拳を叩き込む。

 

『KISHAAA!!?』

「あんまり効いてないですね、ダメージを減らされた感覚がありました」

『コイツSTRよりもENDの方が高いタイプだよ!』

「甲殻系モンスターはダメージ軽減スキル持ちが多いと効いたな。《ファイアーボール》」

 

 しかし亜竜級の力を強化した攻撃もEND型で《ダメージ軽減》スキルを有する【アーマードワーム】にはそこまでのダメージにはならず甲殻を少し砕いただけで終わり、レントが放った追撃の火球も硬い甲殻に阻まれて表面を焦がすに留まる。

 反撃に【アーマードワーム】はミュウに食らいつこうとするが時間経過で《スタートダッシュ》の効果が弱まっていた事、何より反撃を読んでいたミュウが既に攻撃範囲から離脱していたので相手を捉えられず、そうして攻撃を外した隙に両手でハンマーを持ったミカが飛び掛かった。

 

「つまり私の出番だね!【宝櫃】から出た換金アイテムを売り払って買った【ミスリルスレッジハンマー(新品)】を喰らえ!」

『KISYAAAAAAA!?』

 

 STRが既に2000を超えるミカによるハンマーの一撃はミュウの攻撃でひび割れた甲殻部分に突き刺さり、ダメージ軽減の防御スキルを【ギガース】の力で貫通して甲殻の一部を砕いてみせた。

 だが【アーマードワーム】のHPはまだまだ残っており、自らにダメージを与えたミカを薙ぎ払おうとするもレントが使った風魔法《ウィンド・ブレス》による強風を横合いから浴びせられ体勢を崩された事で失敗する。

 

「うーん、硬いしHPが多いしで倒すのに時間が掛かりそう」

「初級魔法じゃ大して効かんな。甲殻を砕いて中身を攻撃すれば効くか、或いは頭部などの急所を狙うかだな」

「分かりました、甲殻砕くのは私がやるのです。条件を満たしたので新スキルを使えますし、やれますねミメ」

『《オーバーライト・アビリティ》維持時間1分、かつコピー対象の攻撃回避で“第二スキル”の上書き条件を満たしたよ。でもこれ以上の効果時間延長はMPが足りなくなる』

 

 それを確認したミュウは残り1分で勝負を決めるべく【アーマードワーム】へと突進、それを迎え撃とうとする【アーマードワーム】だったがそれを読んでレントが発動した地属性魔法《マッドクラップ》による液状化した地面に足を取られて動きが鈍る。

 下級魔法による拘束であるので数秒もあれば【アーマードワーム】は拘束から逃れたが、その間にミュウは【アーマードワーム】の背に飛び乗り真下に向けて拳を振りかぶりながら第二スキルを使用する。

 

『さっきの回避した攻撃力を両手部装備武器枠に上書き!」

「貴方の攻撃を上乗せしてお返しします。《オーバーライト・インパクト》枝捻(シネン)

『KISYAAAAAAAAA!!?』

 

 そうしてミュウは先程の攻撃では砕けなかった筈の【アーマードワーム】の甲殻を螺旋を描いて貫通力を上げた正拳突きを叩き込んだ拳で貫通させてみせた。

 これこそが【模倣肖女 ミメーシス】の第二スキル《オーバーライト・インパクト》、両手武器装備枠に何も装備していない時《オーバーライト・アビリティ》の継続時間1分経過毎に上書き対象から受けたか躱した攻撃の攻撃力最大値を記録してストック、それを消費する事で対処への素手攻撃力を加算する効果である。

 色々と条件がある面倒なスキルだが《オーバーライト・アビリティ》の対象が強力な攻撃を自分に使えば、それに応じて素手攻撃の威力を上げられる変則カウンタースキルである。

 

『KYUGYAAAAA!!?』

「隙だらけだな。《スタンボルト》」

「足は貰うよ!」

 

 その一撃のダメージに動揺して暴れ回る【アーマードワーム】だったが頭部に接近したレントが至近距離から【麻痺】効果を持つ電撃を叩き込まれて怯み、同時に接近していたミカが斧の一閃で足の一本を斬り落とした。

 

『KYUGAGAGA!?』

「ミュウちゃん交代」

「了解なのです兄様」

 

 その一言のみでミュウは即座に甲殻の上から飛び退き、代わりにレントが暴れ狂う【アーマードワーム】の脚部を交わしながら接近、ミュウが開けた甲殻の穴部分に【ジェムー《リトルフレア》】を投擲する。

 これはレントがサブジョブである【魔石職人】のスキルで幾つか作っておいた【ジェム】の一つであり、甲殻の中に入ったそれは数瞬後に起動して火属性の爆発を引き起こして【アーマードワーム】を内側から焼き尽くしていく。

 

『KIKIKISYAAAAAAaaaaaaaa!!?』

「《拳気》。捻花(ネジレバナ)!」

「しゃぁっ! 隙あり!」

 

 身体を内側から炙られる痛みに悶え苦しむ【アーマードワーム】だったがそんな隙を戦闘の天才であるミュウが見逃す筈もなく、素手の攻撃力を上げるバフを加えた上での螺旋を描く掌底が頭部に叩き込まれて目や脳に致命的なダメージを与える。

 そしてトドメに《瞬間装備》を切り替えた大斧【グレートアックス】を振り被ったミカが【アーマードワーム】の首筋、甲殻と甲殻の節目部分を狙って振り下ろして大百足の首を断ち切ったのだった。

 

「よっしゃイベントボス撃破! 思ったよりは強かったね」

「スキル解除。……やっぱり現状だと亜竜が相手では1分程度でMPを使い切りますね。レベルを上げてMPを伸ばせばいい話ですけど、とりあえずMPポーションと《瞑想》でどうにか……」

「イベントボスの【宝櫃】が落ちてたぞ」

「お、中身は何かな〜」

 

 そうして【アーマードワーム】が光の塵になった後、そこに【加速甲蟲の宝櫃】が落ちていたので開けてみると中身には何十枚もの【スタートダッシュメダル】と内部に光を閉じ込めた結晶の様なアイテムが出て来た。

 

「おおメダルが一杯! それとこっちは【リソース・チャージャー】?」

「《鑑定眼》で見たが使用するとメインジョブのレベルを上げられるレベルアップアイテムみたいだな。一つ使うと下級職をカンスト出来るだけの経験値を得られると書かれてる」

「おお凄いじゃん! よしイベントボスを乱獲してコレを大量に集めればレベルアップ祭りだよ!」

「それはいいんですが姉様、私はさっきの一戦でMPが殆ど残ってません」

「ボスモンスターを狩るにしても狩り方は考える必要があるか」

 

 地面に座り込んで静止状態でMP・SPの自然回復速度を上昇させる《瞑想》スキルまで使っているミュウを見て、自分達の損耗度合いからボスモンスター相手の効率的な連戦は現状戦力だと少し厳しいと判断した。

 同時に手元の【リソース・チャージャー】を見て上手くいけばその問題も解決出来る案を思い付き、それを妹達に話して彼女達も納得した所で彼等は一旦王都へ戻る事にしたのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □<王都アルテア>

 

「そういう訳でこの【リソース・チャージャー】はミュウちゃんに使って貰います」

「兄様のアイデアは分かりましたけどいいんですか?」

「俺はレベルを上げるのだけは得意だしミカも現状で問題ないが、ミュウちゃんの場合はミメちゃんのスキルが使えるMPを確保出来れば戦力は大きく上がる。パーティー内の戦力向上の観点で見るならこの【リソース・チャージャー】を使うのはミュウちゃん一択だ」

 

 レントの案とは格上相手でも殴り合えるが現状MP不足が問題のミュウに【リソース・チャージャー】を使わせ、MP上昇に特化した下級職をカンストさせてMP不足を補うと言うものである。

 単純な案であるがイベントボスを相手にするにはミュウのスキルのある無しでは効率が違うので、王都に戻って準備を整えるだけの価値があると判断した様だ。

 

「それに“何となく”ミュウちゃんを強化しておくのは必要だと思うんだよね。この世界って強いモンスターとかがめっちゃいるし、純竜クラスと戦うなら今の私とお兄ちゃんじゃ戦力として弱い」

「流石に初心者<マスター>用イベントに亜竜以上のモンスターが配置されるとは思わんが、それでもミカが遭遇した【ブラッディ・ドラグタイガー】みたいに何処かから強力なボスが出ないとも限らん」

「分かりました、そう言った強敵が出たら任せて下さい。兄様達に置いていかれない様に頑張ってのです」

「うんうん、ジャイアントキリングこそがメイデンの花だからね」

 

 レアアイテムを自分だけが使うのに少し遠慮していたミュウだが、このままだと長期戦で足手纏いになりかねない危惧と2人の言葉もあって【リソース・チャージャー】を受け取った。

 

「さて、それではどんなジョブにコレを使いましょうか。一個で下級職をカンスト出来るならレベルが上がっているジョブではなく、新しく取ったレベル1のジョブに使うのが効率的ですよね」

「レベルが1上がるアイテムならなるべく経験値を蓄積してない時に使いたいよね。それでどんなジョブを取るつもりなの?」

「前提としてMP上昇に特化した魔法系ジョブになるでしょうが、司祭系統なら派生の【侍祭(アコライト)】【巡礼者(ピルグリム)】【祓魔師(エクソシスト)】などならMPが伸びるでしょうか」

「やっぱデンドロジョブの種類が多いね。ここはお兄ちゃ〜ん、ジョブの種類が多くて何に就けばいいか分からないよ〜」

「仕方ないなぁミカ太くんは……【適職診断カタログ】〜」

 

 そんな往年の人気作品の寸劇をしながらアイテムボックスから取り出したカタログ、以前に亜竜級モンスターを倒した時の【宝櫃】からドロップしてレントがその後持っていたそれを覗き込みながら彼等は思案する。

 

「【僧兵】バフの補助になら【付与術師】とかも良さそうですね。魔法系下級職なら大体MP特化でカンストすると3000ぐらい伸びますし」

「今の僕のMP補正はCで+100%前後だから6000は上がるね。そこまであれば亜竜相手なら安定して戦えるかな」

「MPが上がる下級職って検索するだけでもめっちゃ多いね。いっその事下級職で一番MPが上がるジョブとかで検索出来ない?」

「このカタログは質疑応答が出来るぐらいだから行けるな。どれどれ……【生贄(サクリファイス)】?」

 

 MPが伸びるジョブで検索してみたら思ったより物騒な名前のジョブが出て来たので彼等は詳しく説明を読んでみたが、MPが上がる代わりにメインジョブにしている間はそれ以外のステータスが下がり戦闘行動が取れなくなる文字通りMPタンク的な“生贄”に使うジョブである様だ。

 

「はえー、デンドロのジョブってこんなのもあるんだ。でも戦えないんじゃまともにレベルも上がらないから使えないかな?」

「いや【リソース・チャージャー】があれば【生贄】の仕様次第では使えるかジョブもしれん。少し試してみるか」

「何をするんですか兄様?」

「ジョブに就いて【生贄】の仕様の検証かな」

 

 そうして彼等は見つけた【生贄】ジョブの検証目的で王都の教会に設置されたジョブクリスタルにやって来ていた。教会を管理する国教は『ジョブの力でみんなを助けよう』という穏やかな教義故にジョブクリスタルの仕様だけならマナーを守る範囲なら無料だ。

 

「と言うか生贄のジョブって教会のジョブクリスタルで就けるのか。なんか邪教感が出て来た」

「国教の人達はみんな善良な人ですよ姉様」

「多分魔法系補助ジョブ扱いで転職可能になってるんだろ。そういう話は施設の人に睨まれるからやめろ」

 

 ちなみに教会に来たのはミュウが来た事があって近かったから【生贄】に就けるか確認したら大当たりだっただけで、実際後で確かめてみたら魔術師ギルドのクリスタルなどでも【生贄】には転職出来た模様。

 

「それでどうするんですか兄様?」

「まずは【生贄】のジョブに就いてデメリットを確認、それから【生贄】をサブに置いてデメリットがあるかどうか。デメリットがなければ【生贄】に【リソース・チャージャー】を使ってカンストさせてからサブに置いてMPタンクとして使う。ダメならジョブを削除って感じか」

「ああ成る程、サブに置いたジョブはお兄ちゃんみたいな例外を除いてメインジョブに関連するスキルしか使えなくなるけど、得たステータスはそのままだから」

「それなら上手くいけばMPが確保出来ますね、やってみます」

 

 言われた通りにミュウはクリスタルに触れて【生贄】に転職を選択、特に転職条件はなかったので普通に【生贄】をメインジョブにする事が出来た。

 

「うわ、MP以外のステータスが下がって戦えなくなりました、MPは上がりましたが。次はメインジョブを【僧兵】に戻して、……あ、ステータスデバフも戻りましたし戦えるみたいです」

「大体予想通りか。それでミュウちゃんは【生贄】ジョブを本格的に取るか?」

「そうですね、MPが欲しいのは事実なので取ってみます。えーっと【生贄】をメインジョブに戻してから【リソース・チャージャー】を使って、……おお、【生贄】カンストしたらMPが一気に4万近くも伸びましたよ。これならミメのスキルも十分に扱えます」

「やったねミュウ!」

 

 後にこのカンスト【生贄】をサブにしてMPを大幅に増やすビルドを“生贄MP特化理論”と呼ばれる様にもなるが、そんな事は知り得ないミュウはMPが無事に上がった事を確認してから再び【生贄】をサブジョブに戻した。

 

「補正抜きだと【生贄】カンストでおよそMP2万か、魔法系上級職をレベル100まで上げてもMPは1万程度しか伸びない事を考えると破格のMPだな」

「すごいじゃん、これは【生贄】をサブジョブにするMP魔法特化ビルドが流行る予感。確か魔法って発動にMPを使うだけじゃなくて最大MPに比例して強くなるんでしょ?」

「まあ有用なビルドかもしれんが【生贄】のレベルをカンストまで持っていくのは難しいのが問題になるな。今回は【リソース・チャージャー】なんてイベントアイテムが有ったから出来た事だし」

「確かに【生贄】をメインにしてると戦闘出来なくなる以外にも汎用以外のサブジョブが殆ど使えなかったです。この【生贄】は文字通り儀式のコストだけやってろみたいなジョブだと思います」

「ガードナーか従魔かパーティーメンバーに戦闘を任せて経験値稼ぎするなら行けるんじゃない?」

 

 何だかんだで三人ともゲーマーなので自然と【生贄】と言うジョブの使い方を考察してその意見を交換していた。

 

「2万のMPの為だけに下級職一個使うって問題もあるしな。魔法系下級職を入れればMPも上がって使える魔法が増える訳で、ここで【生贄】を選べば当然有用な魔法を覚えられる枠は減る。少なくとも色々なスキルを覚える事が重要な俺とは相性が悪い」

「私の場合はミメのスキルにMPが必要だから相性は良かったですが、少なくとも下級職一個と引き換えにMPを得る事にメリットを見出せるか、増えたMPを有効に使える手段があるかどうかが重要だと思うのです」

「単にMP増やすだけなら装備品とかでも良い訳だしね。汎用スキルを覚えられるジョブ枠も減っちゃうか」

 

 最終的には“増えたMPをどう使えるか”次第では【生贄】は有用と締め括った彼等は準備も終わったので再びイベントへ参加、特に【リソース・チャージャー】の様なレアアイテム狙いでイベントボスを梯子する事にした。

 

「イベントボスを沢山倒して【リソース・チャージャー】をまたゲットすれば一気にスタートダッシュが出来ると分かったし頑張ろう!」

「多分このアイテムはそうポンポン出るアイテムでもない気がするが、まあ人類悪が跋扈する王都周辺で雑魚狩りするよりはマシか。一応作った【ジェム】とかも渡しておく。思ったよりボスが強かったら必要に応じて使え」

「ありがとうございます兄様。では今度は何処の狩場に行きましょうか。ボスがいそうな狩場は何処も王都から少し離れてるので、早くしないとイベントに参加出来る時間が減りますね」

「フィールドの移動手段に関しても今後は考える必要はあるか。デンドロ世界は広過ぎるからな」

 

 ちなみに彼等は以降もスキルを十全に使える様になったミュウを中心に複数体のイベントボスを撃破したが、レントの予想通り【リソース・チャージャー】はドロップ率が低いレアアイテムだった様で以降は一度もドロップしなかった。

 それでも幾つかの初心者が使えるレアアイテムや多くの【スタートダッシュメダル】を入手したので、今回のイベント自体は十分に満喫出来たと三人とも満足気だった様だ。




◯《オーバーライト・インパクト》

(@_@)<【ミメーシス】の第二スキルであり《オーバーライト・アビリティ》の派生カウンタースキル

(@_@)<イメージ的には上書き対象の攻撃力を記録、スキル使用と共に空いている両手武器枠に上書きして一度だけ素手攻撃力を引き上げている感じ

(@_@)<攻撃力記録の最大ストック数は第三形態現在では3つまでで1分経過毎にその間の自分への最大攻撃力を記録してストックする

(@_@)<記録したどのストックを消費してスキルを使うかは任意だがストックが全て埋まっている場合は1分経過しても攻撃力の記録は行われない

(@_@)<素手攻撃力強化は上書き対象への攻撃のみに発揮されるのでそれ以外に攻撃しても攻撃力は上がらないが効果が消える事もない

(@_@)<《アビリティ》発動中にのみ使用可能で《アビリティ》が解除されると攻撃力の記録ストックは全てリセットされる

(@_@)<素手条件かつ《アビリティ》の1分間維持した上で対象の攻撃を受けるか回避するなど条件が多い代わりにMPなどは消費しない

(@_@)<両手武器枠に上書きしている感じだがシステム的には素手のままなので素手スキルとも併用が可能


◯末妹

(@_@)<生贄MP特化理論によって《オーバーライト・アビリティ》のコストとなるMPを確保

(@_@)<これにより純竜級相手でもそれなりの時間戦闘が可能になり《インパクト》も使いやすくなった

(@_@)<ちなみに【リソース・チャージャー】はイベントボスの超低確率ドロップに設定されていたものなので殆ど出ない模様


◯妹

(@_@)<パワーイズジャスティスな物理アタッカー

(@_@)<<エンブリオ>の装備補正とステータス補正によって攻撃力だけなら亜竜級クラス

(@_@)<このままシンプルに物理ステータスを上げるのが一番強いタイプ


◯兄

(@_@)<三兄妹でパーティーを組むと妹さん2人が近接物理型なのでサポートに回る事が多い

(@_@)<ジャンル違いとの戦いで得たリアルスキルによって妹2人と敵の動きを先読みしながら魔法を準備して的確に使える

(@_@)<リアルでは魔法的な異能は敵か仲間が使うモノだったので自分で使えるデンドロ魔法職を割と楽しんでる
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