街の便利屋魔術師少女、国中の有力者から依頼が舞い込む 作:便利屋アネちゃん
気がつけば異世界で少女に生まれ変わっていた私の人生は、前世のそれと比べてあまりにも激動だった。
最初の頃は、穏やかな生活を送れていたように思える。
生まれ育ったアガスタの街は、アイオニス王国の中でも田舎に位置する宿場町。
穏やかな気風と、平和な土地柄で私はのんびりと育った。
親はおらず、拾ってくれた婆さんには色々と迷惑をかけてしまったけど、魔術師としての才能もあって不自由無く暮らせていたと思う。
変化があったのは、婆さんが亡くなって独り立ちすることになった頃だ。
当時の私は十二歳、一人で生きていくには若輩である。
とはいえ魔術師としては既に十分優秀で、街の便利屋として生きていくなら既にある程度の信頼も築けているから問題ない。
ただそんな折、私にある依頼が舞い込んだのである。
アガスタの街を含めたオルディス領の領主、ヴァルター・フォン・オルディス男爵の後見を受けて魔術学校に入学してほしいというもの。
入学するのは、マギステール魔導学園。
大陸屈指の魔術学校で、通うのは大抵お貴族様とかお偉いさんだ。
平民にも特待生枠が存在するけれど、普通は入学なんてするものじゃない。
とはいえ、この時私はいろいろな事情もあって、オルディス男爵の依頼を受けることにした。
依頼料に目がくらんだというのもあるし、魔術研究が趣味だった私にとって学園の知識は興味深いものだったというのもある。
何より、病弱で学校に通えない娘の変わりに、という一言で断りづらくなってしまったのが大きい。
ただまぁ、やはり学園での生活は面倒がつきまとうことになった。
ただでさえ平民ということでバカにされガチなのに、成績優秀だったものだから嫉妬までついてくる。
こっちが我関せずと分かれば、そういうやっかみも減っていくものの、今度は何故か優秀な連中がわんさか絡んでくるのだ。
私はただ、学園の資料とかを読み漁って研究がしたいだけなのに。
んで、厄介なのがそういう連中が近くにいると、私まで優秀扱いされること。
いや実際に成績は良いし、特待生ではあるんだけど。
それはそれとして、普通の生徒に私の実力を見せた覚えは一度もない。
なのに慕ってくるって、彼らには何が見えてるんだ?
最終的に、アネット派閥なんてものが出来上がってしまうくらいには、私の人気は高まっていたらしい。
私は何もしてないし、派閥の人間が勝手に名乗ってただけなんだけど。
最終的には生徒会長に立候補する流れになってるから、何かおかしいぞ。
まぁ普通に負けましたけどね、相手は王女とか公爵の長子とかだし。
生徒会? 入らないって!
そもそもなんでそんな人気が出たのかって?
優秀なだけなら、派閥なんてできないでしょうと言われたら、まったく持ってそのとおり。
これがまぁ、降って湧いた面倒事を片付けてたからなんだよな。
放っておけないというのもあるし、片付ければ報酬が出るというのもある。
学園で起きる事件は、大抵魔術絡みだ。
悪魔を封印する壺、作るの楽しかったです。
普段は禁忌とされてる悪魔に関する資料も読み放題だったし。
ああ、あの時もう少し、知識欲を優先してればよかった。
なんて、そんな学生時代も終わりを告げて、私は今年で十六になる。
この世界では成人と認められる年齢にもなり、便利屋アネットは本格的に始まった。
時折厄介事を持ってくる客じゃない連中が来るけれど、私はそれなりに楽しく人生を送っている。
■
「よーし、動けよぉ」
「アネット姉ちゃん、これで本当に動くのかぁ?」
「しっ、黙ってみてなさいよ」
その日、私は『便利屋アネット』として街の問題を片付けていた。
今回の依頼は非常に単純、動かなくなった魔道具の修繕である。
魔道具はこの世界だと家電みたいなもので、中には長く使われていると使えなくなるものもあるのだ。
そういうのを修繕するのも、私の仕事。
「そら!」
勢いよく魔力を流し込み、魔道具を動かす。
本来なら一般人の少ない魔力でも動くように設計されているが、今回は修繕してから最初の試運転なので魔力も潤沢に注ぎ込む必要がある。
治しているのは、一見すると壺のような魔道具。
中に服を入れて生活魔術で水を注ぎ込み、魔力を流すと洗濯してくれる仕組みの洗濯機だ。
勢いよく開店を始めた壺の中の水、どうやらいい感じに修繕できたみたいだな。
「こんなもんかな」
「おおー、すっげぇ!」
「流石アネットお姉ちゃん!」
――で、修繕を終え額の汗を拭う私の横で、二人の子どもが目を輝かせている。
「リロ、サティ、どうだった?」
「えーと、正直何してるのか半分も理解できなかったけど、アネット姉ちゃんは凄かった!」
「私も!」
「その年で半分も理解できてるだけですごいんだぞ?」
いいながら、二人の髪をわしゃわしゃと撫でる。
なんだか二人とも、気持ちよさそうだ。
私の仕事は、街のトラブル解決――主に魔道具の修繕――と、魔術の講師だ。
前者に関しては、今見た通り。
この街には私が作った魔道具も多くあり、そのメンテナンスは私の業務である。
他にも講師として、子供達に魔術を教えるというのも大事な役目。
魔術は使えるとそれだけで生活を豊かにする。
生活魔術は、一家に一人使えないと今の時代生活が成り立たないし、攻撃魔術を使えたら冒険者にだってなれるだろう。
アガスタの街を豊かにするという意味でも、これらの仕事は私にとって天職だ。
中でも優秀なのがこのリロとサティで、二人は同い年の幼馴染。
少年の方がリロで、少女の方がサティだ。
生まれた時からずっと一緒で、互いに魔術師を目指して日々切磋琢磨している。
「にしても、ドードの爺さんもお金ならあるんだし、言えばアネット姉ちゃんも新しいの作ってくれると思うんだけどな」
「私が小さい頃に作った魔道具だから、思い入れがあるんだよ。こっちとしちゃあ、少し恥ずかしくなるけどな。今となっちゃ完成度も低いし」
「アネットお姉ちゃんでも、そういうことってあるんだ」
なんて話をしながら、街を歩く。
私が魔道具の修繕をすると言うと、この二人がついてくることが多い。
自然と、仕事が終わったら三人でぶらぶらするのが定番になってしまった。
「あら、アネットちゃんにリロとサティじゃない、もうお仕事終わったの?」
「レダさん、こんにちは。まぁ、いつものドードさんのところだったんで、慣れてるからさ」
「あらそうなの? うちの魔道具も今度見てもらおうかしらぁ」
「この間、新しいのにしたばっかりでしょ。まだ全然壊れたりしないよ、アレは」
話しかけてきた住人に、軽く挨拶を返す。
リロとサティも、元気よく「こんにちは」と返していた。
人付き合いは面倒だが、見知った人物相手なら話は別だ。
十年以上アガスタで暮らしていると、流石に町の人と軽く雑談するくらいはなんてこともなくなってくる。
「なあなあアネット姉ちゃん! この後、姉ちゃんの工房にお邪魔してもいいか!? 新しい魔術を勉強したいんだ!」
「あ、ずるい! お姉ちゃん、アタシもいいかな!」
「ん? ああ構わないよ。私もこの後暇だから、適当に魔道具でもイジってようかと思ってたしな」
なんて言って、二人は元気に駆け出す。
声をかけてくれた人に手を振って、私もその後を追おうとすると――
「よーし、競争な!」
「あ、ちょっと! ずるいわよ!」
「へへ、お先……って、うわぁ!」
リロが足をすべらせた。
危ない、と思った瞬間には、自然と足が動いている。
魔力を込めて地を蹴ると、一瞬でリロの前に出た。
私はそっと、リロを受け止める。
「っと、大丈夫?」
「あ、うん……あ、ありがと。姉ちゃん」
「いいんだよ、リロが無事ならそれで」
少しだけ視線をそらしながら、リロがお礼を言ってくれた。
こういう感謝は、素直にうれしい。
だから自然と浮かべた笑顔で、リロの頭を撫でると――
「あれ、リロ……大丈夫? リロ?」
「……アネットお姉ちゃん、またやってるよ」
「またって何だよ!?」
「リロが羨ましいなぁ」
――リロがおかしくなってしまった。
うんまぁ、気持ちはわかる。
こちとら見てくれはそこそこいい年上の女なわけでね。
ちょっと遠慮もなかったかもしれない。
でも別にそこまで大事にしなくてもいいじゃないか!
ちょっとした事故、事故だよこれは!
「――な、何をしているんだ、アネット・リフェラール?」
しかも最悪なことに、そんな状況を魔術学校の同期――それも、あんまり仲がよろしくない相手に見られた。
うん、どうしよう。
厄介ごとの気配もするぞぉ?