苦情は受け付け外だー!
翌朝、メインストリートに差し掛かった時、一瞬…寒気のようなものを感じた、誰かに見られている…まるで値踏みでもされているように。
それは弟も感じたようで二人で視線の主を探すが見当たらない、気のせいだろうかと歩きだそうとしたその時、ベルの後ろから少女が声をかけてきた。
服装からしてどこかのウエイトレスの様だ。
「あの…これ落としましたよ?」
少女が手渡したのは魔石、昨日全て換金したはずだが服の袖にでも紛れたのだろうか?ベルが礼を行って魔石を受け取る。
「こんな早くからダンジョンに潜るんですか?」
えぇ、まぁと答えたベルの腹が盛大になる…そう言えば今日は昨日のゴタゴタで買い出しができず、朝飯を食べずに出てしまった。
育ち盛りのベルには辛かったようだ申し訳ないな。
ウエイトレスはちょっと待ってくださいと言って店の奥に消え、戻ってくる時には弁当を2つ持ってきた。
「これ、大した物じゃありませんが…私の方はお店が始まれば賄いが出ますからご遠慮なく」
「いや、悪いよ、これは君の朝食だろう?それに1つは君のだろうがもう1つの弁当は?一人で2つ食べるようには見えないが…」
「大丈夫です!きっとリューは許してくれます!その代わり、今夜の夕食は是非当店で!約束ですよ♡」
そう言ってウエイトレスは店内へ戻っていく。
商魂たくましい女性だ、今日はいつもより稼がなくては。
コボルトと戦い続けて半日、だいぶ魔石も溜まってきた、今回はベルがドロップアイテムを出したことでだいぶ稼げている。
ベルは想い人に近ずくために無我夢中でコボルトに突っ込んで行く。
「負けていられないな!」
剣を取り俺も新たに生まれたコボルトに突っ込む。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
1度ホームによってステータス更新をしたら俺もベルも熟練度トータル600オーバーをたたき出した。
夢じゃないかを確かめるベルにヘスティア様はプリプリ怒って知るもんか!バイトの打ち上げに行ってくる!君たちは寂しく豪華なディナーでもしてきたまえと走り去ってしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
豊穣の女主人、今朝のウエイトレスが働く酒場だいぶ賑わっているようだ。
「あ!冒険者さん、来てくださったんですね!お待ちしてました。自己紹介がまだでしたね、私はシル・フローヴァです」
お客様2名様ご来店でーすと俺たちは奥のカウンターに案内される。
席につくなり出されたのは山盛りのパスタ、
「アンタがシルの知り合いかい、冒険者の割に可愛い顔してるねぇ!もう1人はなかなかいい男じゃないか、アンタらアタシらが悲鳴あげるくらいの大食漢らしいじゃないか!どんどん食いな!」
どんどん積まれる頼んでいない料理の山、金に多少の余裕はあれど全て食べきれるだろうか?
「楽しんでますか?」
「圧倒されてます…」
今日のお給金は期待できそうですと微笑むシルの後ろからエルフの少女が顔を覗かせた。
「あなた方が今朝シルが言っていた今にも倒れそうなほどお腹を空かせた冒険者なのですか?あのお弁当が役にたったなら良かった」
では、仕事に戻ります。と言ってエルフの少女、おそらく今朝リューとシルが読んでいた人物だろう。
後で礼を言わなくては、と考えている内に新しく団体客が入店して、店ないが騒がしくなる。
「ご予約のお客様!ご来店ニャ!」
先頭を歩くのは赤髪のおそらく神、外後に入ってきたのは数日前世話になったフィン・ディムナとティオネ・ヒリュテだ、と言うことは彼らは…
「…ロキファミリア」
「フィルさんよくご存知で、ロキファミリアさんはウチのお得意様なんです。主神のロキ様がいたく気に入られて…遠征帰りなんかはほぼ毎回来て下さるんですよ?」
ベルは想い人アイズ・バレンシュタインに夢中で食事どころではないようだ…どうせ今頃はこの店に通えば彼女とお近ずきになれるかもとか考えていそうだ。
周りを見ろ弟よ、ライバルは思ったより多いようだぞ。
そんなこんなで料理を消費する作業にうつる。
残すのだけは論外だ、作った者に申し訳ないからな。
縁もたけなわ、冒険者達も酒を飲んで随分出来上がってきたようだが、その中で一際大きな声が響く。
「よっしゃー!アイズそろそろあの話、皆に披露してやろうぜ、遠征帰りに何匹か逃がしたミノタウロスお前が5階層で始末したろ?そんでほれ、その場にいたトマト野郎の話だよ!」
「……。」
「いかにも駆け出しのひょろくせぇガキが、逃げたミノタウロスに追い詰められてよぉ、そいつアイズが細切れにしたクッセェ牛の血浴びて真っ赤なトマト見てぇになってやんのしかもそいつ叫びながらどっか行っちまって!ウチのお姫様助けた相手に逃げられてやんの!アハハ!情けねぇったらねぇぜ!」
ベシベシと自身の足を叩くウェアウルフ、話の流れとベルの表情を見て、話題にされているのは弟だとわかる。
随分と酔っているようだが、言って許されることと許されない事の分別もつかんとわな。
「いい加減にしろベートそもそも17階層でミノタウロスを逃がしたのはこちらの落ち度だ、件の冒険者をそしる資格はない。恥を知れ」
「あ゛ぁ!!ゴミをゴミと言って何が悪い!」
あのウェアウルフ…もしかしなくとも彼女を好いているのか?ならあんな態度では心が離れていくのは目に見えているだろうに、彼女は見たところベルの件を悔いている。
それを酒の肴にするなんて、アホだたなぁ。
「アイズお前はどう思うよ…例えばだ、俺とあのトマト野郎ならどっちを選ぶってんだ?おい!」
「ベート君酔ってるね?」
「聞いてんのかアイズ!お前はもしもあのガキに言い寄られたら受け入れるのか?んなわけねぇよな!お前より弱くて軟弱な雑魚野郎に!お前の横に経つしかくなんかありゃしねぇ!他でもないお前がそれを認めね!雑魚じゃ釣り合わねぇんだよ!アイズ・バレンシュタインにはな!」
走り去るベル、シルと件の彼女は店の前までおって行ったがさすがに店を離れる訳にも行かずにとまる。
ベルの向かった先…方向的にダンジョンか。
「何?食い逃げ?」
「ミヤ母ちゃんの店で大胆なやっちゃなぁ!」
店がザワザワと騒がしくなる、食い逃げとは失敬な食事代はきちんと持っているし今しがた全て完食済みだ。
「ご馳走様でしたミヤさん…コレ、お勘定です」
「…ずいぶんと多いように見えるがね?」
「迷惑料です、あと水をジョッキで1杯お願いします」
ミヤさんから水をもらい件のウェアウルフの元に行く、大事なファミリアの一員…何より弟をここまでコケにされたのだから少しくらい意趣返ししてもバチは当たらないだろう。
バシャリと音を立てて水がウェアウルフの頭上に降り注ぐ、一瞬ポカンとした顔をしたウェアウルフはみるみる顔が赤く染まる。
「てめぇ…誰に何したかわかってやってんだろうな?」
「もちろん、酔った勢いで人様を貶さなければ好いた女すらまともに口説けない腰抜けな犬っころの酔いを覚ましてやろうと言う俺なりの優しさだありがたく受け取ってくれ」
周りからはあのヒューマン死んだなだのなんだと外野がうるさい。
「君はこの間の…もしかして件の冒険者は」
「お察しの通り俺の家族だ、家族を侮辱されて黙るほど俺は利口じゃないんでね」
フィン・ディムナは謝罪とともにウェアウルフの再教育で手を打とうと言ってくれたが丁重に断る。
「それより、ロキファミリアの訓練所を貸してほしいね、1発は殴らないと気が済まない。」
「しかし…君はLv1、ベートはLv5だ…無謀すぎる」
「ええやん!面白そうやし!ベートはこの兄ちゃんの攻撃をなんでも1発受ける、その後はそのとききめたらえぇ!」
主神ロキからの許可もあり俺たちはロキファミリアのホームへ向かう。
訓練所にはかなりの人数が集まっているようだ。
「神ロキ、なんでも1発には魔法を使っても?」
「なんや兄ちゃん魔法使えるんや、別にええで?なぁ?ベート」
「いいからさっさと始めろ…八つ裂きにしてやんよ」
それじゃ、初め〜と言う神ロキの合図で戦闘が始まる、しかし俺もウェアウルフも動かない。
俺は大きく息を吐くヘスティア様、実は隠してあったステータスを見てしまいました。
お叱りは後で受けるので今は目を瞑ってください!
《永遠(トワ)ノ凍土ノ如ク氷結セヨ数多ノ刃(ヤイバ)》
「この魔法は!まさか」
緑髪のエルフが何か気づいたようだが詠唱を止める気はない。
《代行者タル我ガ名ハ水精霊(ウィンディーネ)水ノ化身(ケシン)水ノ女王(オウ)》
舐めてかかったせいか回避が遅れたのだろう、奴は冷気で足が固まり動けない。
大丈夫所詮俺はLv1、Lv5の奴が死にはしないさ。
《アイシクル・エッジ!》
あまたの氷の刃がウェアウルフを包み込む、そして訓練所を氷漬けにすると同時に俺の意識は遠のいていく…コレがマインドダウンか。
何とか意識を半ば無理やり剣を足に突き刺し戻したはいいがここからどうするか。
流石に素の戦闘力ではあのウェアウルフに勝てない。
「いやーええもん見してもろたわ!Lv1で長文の魔法やなんて!自分何もんや?」
「ただの駆け出し冒険者ですよ…それ以上でも以下でもない。」
ジッとこちらを見つめる神ロキ、しかしふと息を吐くと氷の壁の向こうに声をかける。
「まぁ今はええわ、ベート!頭冷えたやろ!部屋戻り!」
「んだとロキ!俺はまだ殺れんだよ!」
バキリと氷の壁を蹴り破りウェアウルフが姿を現す。
あぁ、さすがにこれでは終わらないよな、そう来なくては俺だってまだやれる。
頭が冴えていく…いつもよりも視野を広く持てている。
剣を構う直す、刃を研ぎ澄ませ…不屈の意志をもって敵を撃取れ。
ボソリ …「どうか力を貸してくれ■■■」
その瞳には青い水流の瞳を宿していた。
高揚感が全身を包む…今ならなんでもできる気さえする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さぁ…行こう《水よ》」
ロキファミリアの面々は瞠目する。
先程の凄まじい魔法もそうだが、剣と男の周りに水が纏う、あれではまるでアイズ・バレンシュタインの魔法の様な…
「…水のエンチャント?」
「あのやろう!本当にLv1かよ」
ベートは何度目かの蹴りを入れるが水流にいなされてまともに攻撃が入らない。
こんな雑魚にLv5の子の俺が!
「クソガアアアアアアア!!」
剣がベートの肩に突き刺さる。
刺さった位置からさらに水流が傷をえぐり取った。
「ぐぁぁぁ!…舐めんなぁー!」
ベートはえぐられた肩に残る剣をつかみ男の顎を蹴り砕くように動く…それを停めたのは彼らの主神ロキだった。
「そこまでや!ベート!さすがに殺したらあかん!」
「…ここまでか…」
ふらりと体が傾く、いつの間にかあの高揚感は薄れて消えてしまった
主神命令や!他の子らも散った散った!と全員を訓練所から出す神ロキ、残ったのは神ロキとフィン・ディムナと緑髪のエルフだけだ、アイズ・バレンシュタインも残りたそうだったが髭ずらドワーフが連れていった。
「率直に言うで?君、コンパージョンせぇへん?」
「しませんし、魔法やスキルの詮索はマナー違反のはずです」
そんな即答せんでもええやんか〜とコチラをちらちら見ながら泣いているが、おそらく嘘泣きだろう、わかりやすい。
「むしろこちらとしては、ウチのもんに何すんねんわれ〜くらいは言われるかと」
「あれはウチのアホ狼が全面的に悪いわ…ウチのアイズたんに悲しい顔させおってからにアホベートめ!」
ぶつぶつとウェアウルフへの恨み言をつぶやく神ロキを押し退け緑髪のエルフがコチラに話しかけようとしているが待ったをかける。
そろそろ弟を迎えに行かなくては、流石に言いつけを破って5階層以降には降りていないと願いたいが心配だ。
「申し訳ないがそろそろお暇させてもらう、こちらも少し酔っていたようだ申し訳なかった。」
何か言われる前に退散だ。
言うが早いか全速力で離脱する、こちとら逃げ足には自信があるんだ!路地を使って何とか巻いた。
ホームへ着くとヘスティア様がベルを引きずりながら階段を降りていたので変わる。
「2人とも!どうして夕飯を食べに行ったはずがこんなにボロボロなんだい!ベルくんはダンジョンに行くし!君はそれ!モンスターにやられた傷にみえないよ!」
2人してあまり僕を心配させないでおくれとヘスティア様に怒られてしまった。
今後はあまり無理はしないようにしなくては。