ダンジョンに鬼がいたらそうなる件   作:マイナーチョコ

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第9話 蹂躙vsザルド&幹部陣

 

 

たった一撃。

魔力も闘気も感じられない、ただの『木の棒』による手首への軽い一打ち。

それだけで、オラリオ最強の武力を誇る『暴食』のザルドが、大剣を取り落として地面をのたうち回っていた。

 

「が、ああっ、うぐぅぅぅッ!?」

「ザルド!? な、馬鹿な、一体何が起きた……ッ!」

ゼウス・ファミリアの団長であるマキシムは、自身の目を疑い、完全に思考を停止させていた。

ザルドの巨体は岩のように硬く、並の武器では傷一つつかない。それが、あんなその辺で拾ったような木の棒で叩かれただけで、まるで理不尽な力に支配されたかのように痙攣し、冷や汗を流して呻いているのだ。

 

どうする。どうすればいい。

歴戦の勇士であるマキシムの背筋を、かつてないほどの冷たい汗が伝う。

その時、後方で様子を窺っていたヘラ・ファミリアの女帝が、冷徹極まりない声で指示を飛ばした。

 

「マキシム。まずは貴方たち、ゼウスの男衆で押して実力を測りなさい。私たち女性陣は、後方から支援するわ」

「……は? お前ら、俺たちを生け贄にする気か!」

「女を死地に行かせたくないんでしょう、あの男は。なら、男同士で真っ向勝負してきなさい。それが『最強』のゼウス・ファミリアの役目よ」

女帝の言葉に、アルフィアをはじめとする女性陣も無言で頷く。

彼女たちの女性としての本能(直感)が、激しく警鐘を鳴らしていた。あそこに立っている赤髪の男と正面からぶつかってはならない。あれは、神の恩恵(システム)という土俵にすら上がっていない、純粋で絶対的な『捕食者』だ、と。

 

「くそっ、ヘラの女狐どもめ……!」

マキシムが毒づいたその時。

「……舐めるな。俺を、誰だと思っているッ!」

地面をのたうち回っていたザルドが、己の腕を無理やり掴み、凄まじい気迫と共に立ち上がった。激痛で顔面は蒼白だが、その瞳には第一級冒険者としての、決して折れないプライドが燃えたぎっている。

「マキシム! 奴は未知の技を使う! 挟み撃ちにして、一瞬で圧殺するぞ!」

「……ああ、分かった。俺たちの全力、見せてやるッ!」

 

ザルドが左手一本で大剣を構え直し、マキシムもまた自身の得物を構える。

オラリオ最強の二大巨頭のトップ、その『一対二』の真っ向勝負。

しかし、その布陣を見たマヤは、木の棒を肩にトントンと当てながら、ひどく歪んだ笑みを浮かべた。

 

「あら、1対2なのね、オッケー。じゃあ俺、こっちのナイフで行くね」

マヤは木の棒を左手に持ち替え、右手で無骨なサバイバルナイフを逆手に構えた。

「めっちゃ切り裂くぜ、半殺しだ! もし死んだらごめんね、先に謝っておくよ!」

軽い、あまりにも軽い口調。

だが、その言葉とは裏腹に、マヤの深紅の瞳の奥で、ドロドロとした黒い炎が渦を巻き始めていた。

 

(……たぎってきた)

マヤは、自身の内側から止めどなく湧き上がる破壊衝動を自覚していた。

周囲を取り囲むゼウスとヘラの団員たち。彼らの目は、先ほどまでの驕りに満ちたものから一転し、得体の知れない怪物を見るような『恐怖』と『絶望』、そして悲壮な涙の色に染まりつつあった。

それが、マヤの鬼としての闘争本能を激しく掻き乱す。

泣いた赤鬼を救う青鬼。笑顔を愛するマヤにとって、他者の放つ『恐怖』や『悲涙』は、自身を修羅の鬼へと引きずり下ろす猛毒でもある。

 

(あー……クソ。ロキを連れてくればよかったな、おい)

絶対的なストッパーであり、彼に唯一の『笑顔』という命綱を繋いでくれる正妻、ロキ。彼女が不在の今、この澱んだ空気の中で浴びる恐怖の視線は、マヤの心をすこぶる苛立たせた。

「……お前らのそのビビり散らした目、最高にイラつくんだよ」

 

マヤの声音から、先ほどまでの余裕と軽口が完全に消え失せた。

絶対零度の殺気。大気が凍りつき、重力が何十倍にも跳ね上がったかのような錯覚。

「——もうしらん」

 

その一言が、蹂躙の合図だった。

「おおおおおッ!!」

死の恐怖を振り払うかのように、ザルドとマキシムが左右から同時に襲い掛かる。

しかし。

 

『シュパンッッッ!!!』

 

空間に、幾千もの銀色の閃光が走った。

「……え?」

ザルドの動きが、空中でピタリと停止する。

彼の全身から、一拍遅れて、ブワァァァッッッ!! と鮮血が噴き出した。

「が、はっ……!?」

急所を完璧に避け、しかし戦闘能力を完全に削ぎ落とす、数ミリ単位の精密すぎる無数の斬撃。マヤの振るうサバイバルナイフは、もはや刃の軌跡すら見えず、ザルドはたった一瞬のうちに血だるまとなって崩れ落ちた。

 

「邪魔だ」

ドゴォッ! と、マヤの蹴りがザルドの巨体を無造作に吹き飛ばす。

宙を舞ったザルドは、後方で震えていたヘラ・ファミリアのヒーラーたちの足元へと無残に転がった。

「ひぃぃっ!?」

「ほら、さっさと治してやれ。死ぬぞ」

 

「ザルドォォォッ!!」

マキシムが激昂し、マヤの死角から渾身の一撃を振り下ろす。

「取ったッ!」

マキシムの眼には、確かにマヤの身体を両断したように見えた。

しかし、彼が斬ったのはマヤが超高速移動によって残したただの『残像』だった。

 

「どこを見ている、マキなんとか」

「な——」

背後からの低い声。

振り返る暇さえ与えられず。

 

ドッッッッゴォォォォォン!!!

 

空気を叩き潰すような爆音と共に、マヤの左手に握られた『木の棒』が、マキシムの脇腹に深々とめり込んだ。

「ごぁ、は、ぁぁッ!?」

防具ごと肋骨が粉々に砕け散る感覚。マキシムの巨体が、くの字に折れ曲がりながら宙に浮く。

だが、マヤの蹂躙は終わらない。

「遅い。軽い。脆い。これが最強のファミリアか? 笑わせるな」

 

バキィッ! ドゴォッ! ガガァッ!

空中に浮いたマキシムに対し、マヤの木の棒による神速の連続打撃が叩き込まれる。

右腕をへし折り、左脚を砕き、鳩尾を的確に打ち抜く。

それは武術というよりも、ただの圧倒的な暴力による解体作業だった。

 

「あ、が、あぁ……っ」

数十発の打撃を受け、マキシムの意識が白濁し、その巨体が地面に崩れ落ちそうになる。

——だが。

「寝るな。まだ終わってないぞ」

マヤは空いている右手に、淡い緑色の光——医療忍術のチャクラ——を纏わせ、マキシムの胸ぐらを掴んで強引に引き寄せた。

強烈な治癒のエネルギーがマキシムの体内に流し込まれ、砕けた骨と断裂した筋肉が、強制的に『意識を保てるレベル』にまで修復されていく。

 

「が、はぁっ!? な、なんだ、傷が……」

「よし、起きたな。じゃあ続きだ」

マヤは胸ぐらを放すと、倒れかけたマキシムの顎下へ向けて、下から上へと木の棒を振り抜いた。

カァァァンッ!! という小気味良い音と共に、マキシムの顎が打ち上げられ、無理やり直立の姿勢に戻される。

 

「あぐっ、う、あ……」

「ほら、どうした! 防御しろ! 攻撃してこい! お前ら、女を死地に連れて行く覚悟があったんだろうが!!」

ドゴッ! バキィッ!

殴る、殴る、殴り続ける。

意識が途切れそうになれば、医療チャクラを流し込んで強制的に覚醒させ、膝から崩れ落ちそうになれば、顎を打ち上げて立たせる。

圧倒的、かつ徹底的な『力と絶望の刷り込み』。

プライドも、誇りも、何もかもが、ただの木の棒によって理不尽に粉砕されていく。

 

「や、やめ……」

オラリオ最強の男が、涙と鼻水と血に塗れながら、ついに命乞いのような声を漏らす。

「やめろ? お前らが黒龍に挑むっていうのは、これ以上の絶望を女たちに味わわせるってことだぞ。分かってんのか、マキなんとか」

 

ドサリ、と。

ついにマヤが手を止めると、マキシムは白目を剥いて地面に崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。(命に別状はないよう、完璧に計算された半殺しである)

 

静寂。

荒野に響くのは、血だるまになったザルドを治療するヒーラーたちの泣き声と、風の音だけだった。

 

「…………嘘、でしょ」

ヘラ・ファミリアの女帝が、震える唇から音をこぼした。

アルフィアに至っては、両膝がガクガクと震え、立っていることすら困難になっていた。

恐怖。絶望。しかし、それ以上に、彼女たちの本能に焼き付けられたのは、群れを統率する絶対的な『アルファ(最強の雄)』の姿だった。

 

「さて」

マヤは血に濡れた木の棒を肩に担ぎ直し、ゆっくりと、女性陣——女帝とアルフィアの方へと振り返った。

その深紅の瞳には、まだ暴れ足りない鬼の闘気が、メラメラと危険な光を放って揺らめいていた。

 

「男の掃除は終わった。……お嬢ちゃんたち、次は誰が俺の棒(これ)を味わう?

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